第2話 出会った少女は…
「うーん…。やっぱこの場面スリーじゃなくてペネトレイトしてから外にいる味方にパス出せばよかったかな…。」
メシを食べて、風呂から上がった奈緒ねぇは今日の試合を見ながらストレッチや足のアイシングなどと言った試合のアフターケアをしていた。
だけど、スラリと伸びた足やシャツの胸元から見えるラインが気になってしょうがないなんて口が裂けても言えねぇ。
「ケンちゃんはどう思う?」
いやオレに振るなよ。
いくらスポーツが大好きとはいえ専門にやっていたスポーツ以外は戦術とかあまり詳しくはない。
「うーん…。下手にパスを出すよりから奈緒ねぇの言ったことの方がいいだろうけど、チームのみんなもアイソレーションで寄ってくれてるからケースバイケースじゃない?」
「あ。ホントだ。そう言われてみればみんな寄ってくれてる…。」
ブツブツ言いながら修正すべきポイントを押さえるルーズリーフにボールペンで書き込んでいた。
バスケに関しては誰よりも真摯に取り組む姿は小さい頃から知ってるし、その積み重ねがあったからこそ大学でも2年生ながらチームのエースに上り詰めることができたとオレは思っている。
………だけどさ、
「奈緒ねぇ…。」
「ん?」
前屈みになりながらオレの方を向く。
男の本能で程よく実った奈緒ねぇの胸元に目を行かせないように奈緒ねぇの目を見据えながらオレは呟く。
「明日オレも奈緒ねぇも休日だからってさ、何もこんな時間までやらんでもいいんじゃないかなーって…。」
奈緒ねぇの悪い癖の1つ、『没頭し始めたら時間を忘れる』が発動していた。
現在の時刻。午前1時45分。
日付変わっちゃってんじゃねえか。
…いや、さっさと寝なかったオレにも非があるから何とも言えねぇんだけどさ。
「ねぇ!これすっごくかわいいと思わない!?」
次の日っつーか、その日の昼っつーか…。
まぁ一旦寝て起きてしばらくたった時間帯って言えば分かるかな…?
オレと奈緒ねぇは隣街のショッピングモールに来ていた。
朝メシの時に、何でも買いたいものがあるって言うもんだから荷物持ちがてら奈緒ねぇの後について来てみたけど…、
「奈緒ねぇ。」
「ん?今度はなぁに?」
「確かにかわいいのは認めるけどさ、………何でオレここまでついて来ないとアカンの!?」
声を荒げて奈緒ねぇに抗議したいことが2つある。
まず1つ目は、カップルみたいにオレの右腕をつかんで身体を押し付けていることだ。
親戚という贔屓目で見ても奈緒ねぇはかわいいし、右腕から伝わる2つの柔らかい山が当たっているからこっぱずかしいけどけっこうというかかなり嬉しい。
けど、今はそんな嬉しさよりももっと大事なことがある。
それは何かって?
それが2つ目の理由だ。
オレと奈緒ねぇがいるこの場所は男子禁制の1つとされている聖域である女性用ランジェリーショップ。
レジ係の店員さんや奈緒ねぇと同じ目的のおそらくオレとさほど歳が変わらない人から突き刺さる冷たい視線にオレのSAN値はゴリュゴリュと音を立てて削られていくのが分かる。
「だって下着姿見せたりするのケンちゃんかチームメイトくらいしかいないし、下着を洗濯するのケンちゃんかあたしくらいだし?」
冷たい視線がもはや鋭い刃物のように鋭く、氷から液体窒素のように冷たい視線に変わる。
「だからってオレを連れてくる必要ないでしょ!?チームの人連れてきてもよかったでしょ!?」
「だってあたしより胸大きい人いないし…。」
カチンっとオレの頭んなかのどこかが切れるような感じがした。
「だったら店員さんに直接聞けぇぇぇぇえ!!!!!」
奈緒ねぇは服も選びに行き、付き合いきれんと言うことで1時間後にフードコートに落ち合うと言うことで束の間の自由時間を貰った。
「………て………さ………!」
さてと、これからどうしようかと思いフラついていたら何処かから声が聞こえてきた。
………こっちか?
「や……めて……く…ださいっ…!!」
ビンゴだ。
遠目に見てもチャラい男に絡まれていて、女性にしてはかなり長身の女の子が困り果てていた。
しかも断られたからって無理矢理女の子の腕を掴むなんて、感心しねぇな。
「あ!みーくん!!」
オレの姿を見た女の子は、あたかもその女の子の彼氏のように名前を呼びながらオレの右腕に抱きついた。
みーくん!?
オレの名前に『み』っていう文字はあるけどみーくんなんて言われたことすらねぇぞ!?
あっ…。それにしてもこの子の胸の柔らかさ、奈緒ねぇといい勝負かも………じゃねぇよ!!!
変態オヤジかオレは!!!
「ちっ!ツレがいたのかよ…。」
チャラい男はオレを見て舌打ち1発したあと、タバコに火をつけながら肩を揺らして何処か行ってしまった。
「あの…!!ありがとうございました!」
「いやいや、オレは別に何も。」
マジでなんだったんだと思いつつ、チャラ男の後ろをぼけっと眺めていたら隣の女の子がお礼を言ってきたので変なことを考えていたことが悟られないように首を横に振る。
「あたし隣街に住んでて清峰高校に通っている神谷 菜々(かみや なな)って言います。」
女の子の自己紹介のときになんだか、聞き覚えのある学校名が聞こえてきた。
「………ごめん。聞き間違いじゃなかったらさ清峰高校に通っているっておっしゃいましたよね?」
「そうですけど…?」
「オレも清峰高校の生徒なんですよ………。」
この瞬間、止まっていた歯車がガチリと噛み合い錆びた金属音を擦り合わせた時の特有の音ともに動き出したような気がした。