第28話 蠢めき出す影
Side D.Amamiya
各地で夏の甲子園の予選が繰り広げられているなか、僕こと天宮 大輝は試合はおろか部活もない今日と言う日をどう過ごそうか悩んでいた。
さて、どうしようか…。
悩んでいても仕方なかったので、愛用しているバットのヘッドの部分に鉛が入ったバットを持って寮の敷地から室内練習場へと足を運んだ。
室内練習場へやって来た僕は、汗を飛ばしながらバットを振り込み少し休憩をとった。
自販機で買ったスポーツドリンクを飲みながら、スマホを弄りながら秋田県の甲子園予選の速報を見つめる。
今日は秋田県は準々決勝で、僕が目当てとする学校は『清峰高校』。
そう。あの『松宮 健太』が在籍している学校だ。
彼が投げる本気のボールに全く歯が立たなかった僕は、次第に彼のボールに魅了された。試合中にも関わらずだ。
最終打席も彼の熱いハートが乗った威力あるストレートが雨で滑って頭目掛けて一直線に伸びてきても反応できなかった。
それくらい彼のボールには何かが詰まっている。
………早く彼と対戦したい。
その願いが通じたのかどうか微妙だが、ようやく繋がった速報を見てみた。
清峰高校が1点ビハインド…?
Side out
試合は8回まで進み、未だに点が取れずいる。
ーーーバシャァッ!!!
そして試合途中から雨が降ってきて、雨による水気ですっぽぬけたストレートがベースの手前でワンバウンドした。
「ボール!フォア!!」
やっべー…。
今日の試合だけで4つ目の四球を出してしまったところで、石川が間を取るためのタイムを取ってマウンドまでやって来た。
「なーんで昨日まで晴れてたのに今日に限って雨がこんなに降りやがるんだ?」
オレは空を見上げる。
空はどんよりと暗い灰色の雲に覆われ、ザーザーと雨が降り続いている。
「一時的な雨なんじゃねぇの?」
残念だが、オレにはそうには思えねぇんだけど…?
「次は4番なんだから、ワンバウンドしてもいいからしっかり低めに投げ切れよ?」
「大丈夫だ。あいつインサイドに全くタイミング合ってねぇから。」
返事を聞いた石川がホームベースに戻ったところで、プレーが再開される。
アウトコースのストレートと低めのボールゾーンへ逃げていくカーブの2球で追い込み、一旦外へはずして1ー2。
追い込んでから石川から出されたサインはインコースからさらに懐を抉っていくシュート。
しっかり投げ込め。と言わんばかりにミットを叩いてからグッと力強くインコースに構えた。
さっきの四球で出したランナーを目で牽制したあと、ストレートを投げるときよりも少しだけ強く腕を振って投げ込んだ。
「あぁ~もう、疲れだぁぁあ…。」
試合は9回に一挙7得点を挙げて逆転勝ちを収め、ベスト4に進出できた。
だけどその後の取材が非常に長かったため、こうして我ながら情けない声を出しているところだ。
「やっと戻ってきたか。とりあえずよく1失点でしのいでくれた。」
「秋山先生?まだ待っててくれたんですか?」
「なに、さっきそこでたまたま鳥井と合ってな。」
あぁ、そういえば秋山先生と鳥井さんって確か高校の時バッテリー組んでたんだっけ…。個人的にどんな話をしていたのかすげぇ気になる。
オレはそんな些細な事を気にしつつ秋山先生の車に乗り込んだ。
………その近くの柱の影でうちの野球部員の1人とこれから試合を行う高校のエースが何やら話し込んでいたのを気付かずに。
「はぁ!?名桜高校が負けたぁ!?」
次の日健康管理日として試合が無く、学校で優勝候補の一角であった名桜高校が負けを喫した事を聞いたオレは教室にいるにも関わらず大きな声を上げてしまった。
「らしい。何でも名桜のエースが顔にデッドボールを受けて頬骨を骨折。んでその直後にバッテリーを組んでいたキャッチャー…俺の知り合いなんだけどそいつがクロスプレーによる脳震盪によるドクターストップで退場。名桜の柱となった2人を欠いた名桜は試合終盤間際で逆転弾を許して負けたそうだ。」
スコアブックと次の対戦相手のデータをまとめたノートに目をやる石川がノートとスコアブックに視線を外さないまま答えてくれた。
故意ではないとは思いたいが、もし誰かの意図でこんなことになったらと考えるだけでも非常に腹立たしい。
「んで次の対戦相手はどこだ?」
「秋田一高。」
Side R.Torii
昨日の試合で起きた事故。
あれはどう考えても故意だ。
顔へのデッドボールに過剰なまでのクロスプレー。
………何やら戦っている選手たちには知らない陰謀が蠢いてる気がする。
明日の試合は事故を起こした秋田一高と清峰高校の試合だ。
何事もなく終わってくれればいいのだが…。
Side out




