第26話 火傷しないようにな?
「38度8分…。おそらくだけど疲労による発熱ね。」
倒れた菜々を自分の部屋のベッドに運び、割れたコップのガラス片を片付けて部屋に戻るとその間に奈緒ねぇが熱を測りピタ冷えシートをデコのところに貼りつけてくれていた。
思っていたよりも高熱で魘されている菜々は倒れたときよりかは気持ち楽になったとは思うけど、相変わらず苦しそうだ。
「とりあえずわたしは明日出席日数とかで授業とかゼミの研究室とかに出なきゃいけないから頼んだわよ?」
「ってことはつまりあれか?明日学校休んでオレが看病してやれと?」
「そうするしかないでしょうね。菜々ちゃん家の両親も共働きで家に滅多に帰ってこないってくらい多忙だって言うし。」
マジですか…。
明日中に熱が下がればいいんだけど、もし足を熱が下がらなければ面倒なことになりかねん。
「分かった。明日だけは面倒見るけど、もし明日中に熱が下がらなければ奈緒ねぇが面倒見てくれよ?」
「分かったわ。1日経てば熱は下がると思うから大丈夫だと思うけど…。」
ホントにそうだといいんだがな…。
ヤバい、マジで眠い。
朝の自主練をするためにいつもは6時には起きるオレだけど、今日は朝の自主練だけじゃなく奈緒ねぇのお弁当のおかずと奈緒ねぇの朝御飯を作ったりしたのでいつもより少し早い5時に起きたから結構眠い。
え?昨晩はどこに寝たのかって?
リビングのソファーに枕と布団を引っ張り出して来て寝ましたけど何かご不満でも?
とりあえず学校の先生には連絡したからあとは菜々の体調がよくなるだけだ。
「菜々ー…。入るぞー…。」
眠っているであろう菜々の様子を見るため出来るだけ音を立てずに自分の部屋に入った。
うん。相変わらず眠っている。
でも、近くのテーブルに置いておいたペットボトルの水が減っており風邪薬が小さく折り畳んでいるのを見て一度起きて薬が置いてあるのに気付いて薬を飲んだって感じか?
「それにしてもよくよく見たらカワイイってよりキレイなんだなこいつ…。」
薄明かりでオレの部屋のベッドで眠る菜々は、人懐っこい明るい笑顔をする可愛いお人形さんではなく何処かの国のお姫さまみたいに見えた。
これがいわゆるギャップ萌えってやつなのか………って何を考えてんだオレは。
「んっ…?」
あ。起きた。しかも今ガッツリ目が合った。
「よっ。気分はどうだ?」
「…何してたの?」
布団で目以外を隠してジト目で見られた。
「何してたのってお前の看病以外何してるように見えたんだよ?」
「えっちぃ薄い本みたいに弱ってるわたしをメチャクチャに襲おうと………。」
酷い言われようだ。
確かに年頃の男子高校生だからそりゃ性欲とか性欲とか性欲とか抑えきれなくなるときはあるけど、まだ付き合ってもいない女の子…、しかもまだ華の女子高生相手に半端に手を出して責任を取らざるを得ない状況になったらそれこそ社会的に抹殺されること間違いないだろう。
「そんなことしません。それより何か食べるか?」
「いらない…。」
「んなこと言ったって食べなきゃ治んないぞ?」
もそもそと寝返りをうって背を向けた。
「んじゃ、腹減ったらケータイとかで呼んでくれ。ちょっと下に降りてるから。」
「わっ、わっ…。待って待って…。」
いつもより元気がなくしおらしい菜々の白い腕がオレが着ている上着の裾を掴まれた。
「どした?」
「おうどん食べたい…。」
「ほい、うどん。熱いから火傷しないようにな?」
小さいとき風邪やインフルエンザで寝込んでしまった時、親に駄々をこねてまで作ってもらった鍋焼きうどん。
そのときのうどんがあまりにも美味しかったので親にレシピを聞き出し、自分でその味を再現するまで何度も何度も作った鍋焼きうどんだ。
ネギや鶏肉を卵で閉じて、麺をちょっとだけ固くゆでたうどんがポイントだ。
余ってしまった卵で玉子焼きとキンッキンに冷えた桃の缶詰もあったので、それも食べさせようと思ったので一緒に持ってきた。
菜々は弱々しくもハフハフと美味しそうに鍋焼きうどんを食べている。
「熱いけど…美味しい。」
「気に入って貰えて何よりだ。」
やっぱ自分で作った料理を美味しいって言いながら食べてくれるのは何時でも嬉しいものだ。
それが親しい人物なら余計に…だ。
「健太くん…。」
「なんだ?」
呼ばれたので見てみると、口をあんぐり開けている。
どうしたんだ?
「食べさせて。おうどんを。」
いつもなら軽くあしらうのだけど、相手は病人なので仕方ないからご希望に沿うように鍋焼きうどんの麺と卵とじを蓮花ですくう。
「ほら、あーん。」
「あーん…♪」
ホントに病人なのか疑いたくなるけど、菜々自身がすっごく幸せそうにしているから文句を言いたくても言えない状況だ。
けど、素面で健康体のオレからしてみれば恥ずかしいことこの上無い。
「ほら、冷たい桃があるんだから。ぬるくならないうちにさっさと残りのうどんも食え。」
「もう食べたよ?」
はえぇなおい。
「んじゃ食器片してくるから、眠たくなったら寝ろよ?」
「ねぇ、眠くなるまでこっちに来て…?」
眠くなるまで?話し相手になってくれって言うのか?
んな別に気ぃ使わなくてもいいのによ…。
「いいぞ………んがっ!?」
菜々の傍まで近寄り、イスに座ろうとしたらいきなり首に腕を巻かれ引き寄せられるようにベッドにダイビング。
普段オレが使っているベッドの筈なのに、そこには熱いうどんを食べて顔が火照った菜々の顔と汗で貼り付いたスタイルのいいラインがハッキリと浮かび上がっている菜々の身体。さらには女の子特有の甘い匂いなどとオレの理性がゴリュゴリュと削られていっている。
「ちょっ!?菜々!?」
「えへへ…。健太くんゲットだぜ~。もっぎゅ~っ…。」
オレの頭を抱き抱えると、菜々の胸元に埋められた。
「おい…!!離せよっ!」
「ダ~メ。健太くんは…、わたしの物なんだからっ。」
いきなり所有物発言っ!?
あ…。女の子の胸って以外と張りがあって柔らかいもんなんだな。
って違うっ!!!
このままじゃあかん!!
「このっ…、いい加減にっ…。」
何を言っても無駄だと悟ったオレは無理矢理、力ずくで引き剥がしにかかった。
すると、オレの耳元で甘美な悪魔が小さく囁いた。
「健太くんは、もしも健太くんがわたしのことメチャクチャにしていいよって言ったら………どうする?」
何を言ってんだこいつはぁぁぁあッ!!!!
今自分がとんでもないことを平然と言ってのけたってこと分かってんのか!?
「女の子がそんなこと言うんじゃありません。ほら、分かったなら離してくれ…。」
「ねぇ…、本気で答えてよ。」
「なぁ、いったいどうしちまったんだよ。」
「………。」
答えたくない………か。
答えたくないのなら無理に聞き出しはしないけど、正直言ってこの状況は主にオレの精神面上よろしくない。
「なぁ、そろそろ離してくれよ。別にお前のことは嫌いじゃないんだけど流石にこれ以上はまずい…。」
「スー…。スー…。」
「って寝てるし…。」
胸元に埋められるという拘束は解放されても、菜々の腕はオレの腹回りにしっかりと回されている。
逃れようにもオレの左足を挟み込むようにしているため、身動きすら取れない。
それに朝早くから動きっぱなしだったからこうして横になっていると眠たくなってくる。
少しだけオレも寝るか…。
Side N.Kamiya
「ん…んーっ!!」
何だか健太くんを抱き枕にして眠っている夢を見たおかげで、かなりフレッシュな状態で目覚めることができた。
ってホントに抱きついている!?!?
え?え!?なんで!?
何でこんなことになったのかサッパリ分からない。
確かお昼ご飯?の時間帯に健太くんお手製の鍋焼きのおうどんを食べたところまでは覚えているんだけど…。
「んがっ…。スー…。スー…。」
今日学校を休んでまでわたしの看病をしてくれた健太くんは、わたしの隣でよだれを垂らして眠っていた。
それにしても、仮にも女の子が眠っているって言うのに平然とぐーすか眠ってるなんてどういうつもりなのかな?なのかなっ?
つんつんと頬っぺたを突っつく。
「むぅ…。」
わたしが健太くんの頬っぺたをつんつんと突っついていたら、嫌そうに身をよじらせる。
その様子は普段の健太くんとは違い、弱々しい。
「ホントにありがとう。健太くんっ」
わたしは眠っている健太くんを優しく包み込むように抱きついた。
Side out




