第1話 野球をやる資格なんて…
と言うわけで2作目も野球を題材とした小説にしました。
通学路に植えられている桜が花を咲かせ、殺風景な学校の回りの通学路が桜並木で彩られていた。
ここ秋田県の中央地区に位置する秋田県立清峰高校。
オレの名前は松宮 健太。2週間前にここ清峰高校に入学したばかりの1年生だ。
放課後になりグラウンドやテニスコートに体育館…さらには音楽室やダンススタジオなどから活気ある掛け声や楽器を奏でる音、リズムをとる手拍子なども聞こえてくる。
仮入部期間もあと今日で終わりいよいよ運動部はすぐ先に待っている春期大会や2ヶ月後にはインターハイ予選がある。
冬の部活であるスキー部やスケート部は他の部活と入れ替わるようにオフシーズンに突入し、シーズンの疲労を癒しているらしい。
そんなグラウンドを駆け回る運動部の選手たちを横目に、クラスの座席から頬杖をつきながらオレの近くにいる体格のよい一人の男子学生に絡まれていた。
「だからさ、俺と一緒に甲子園目指さないか!?」
耳元で騒ぐなやかましい。
ただでさえ暑苦しいっていうのに騒ぐからオレらの周りだけ室内の温度が上がっている気がしてならない。
このゴリラみたいなゴツい男の名前は石川 一起。
昨年オレが野球を離れるきっかけとなった大会でベスト8になっていて、そのチームのキャプテンだったらしい。
………今となってはどうでもいいことなんだが。
「嫌だ。オレは野球を辞めたって言っているだろう?何でそこまでオレの事を買うんだよ?こんな何も取り柄の無い一般人に。」
「何言ってんだよ。俺からしてみれば何でお前がこの高校にいたのかが不思議でしょうがねぇんだよ。全国ベスト4の浦話シニアのエースであるお前が。」
全国ベスト4という言葉に数少なく残っていたクラスメートが一斉にオレたちに集まる。
投球障害だけじゃなく、人の目線も気になり過ぎて体調を大きく崩しがちになってしまうオレにとっては今この空間はハッキリ言って居心地が悪いってもんじゃない。
この空間から走って逃げたくなってしまうくらい気持ちが悪いし、現に冷や汗と鳥肌で身体の不快指数は急激に上昇している。
「お前、次オレの前でその事言ったら許さねぇぞ?」
「何でだよ?むしろそれは誇るべきことなんじゃないのか?」
……もしかしてあの試合の事オレが何をしでかしたか分かってねぇんじゃねぇのか?
あの後オレがどんな状況に合ったのか分かりもしないくせに………。
ギリッ…と音を立てて歯を食い縛っても、ここはまだ学校内だし教室にもまだ何人か人が残っている。騒ぎを起こしたら入学早々停学になってしまうかもしれない。
オレは出来るだけ怒りを沈め、椅子の下に置いてある鞄を引っ張り出し右肩にかける。
「話は終わりだ。さ、今日のところはとっとと帰れ。」
「おい!!待てよ!まだ俺の話は終わってねぇぞ!!今しか甲子園を狙える機会なんてねぇんだぞ!?」
教室を出る直前に肩を捕みながら声を荒げる石川の手を払いのけ………、
「お前がどれだけ真剣にオレを誘っても、オレは野球をやる資格なんて………もうねぇんだよ。じゃあな。」
後ろを振り返らず、教室を後にした。
オレは財布のチェーンにつけている家の玄関の鍵を引っ張り出し、家の鍵を開ける。
両親の実家に帰ってきた何て言ったけど、オレはここに居候させてもらっている身だ。家主は一人しかいないし家具も調理器具とテーブルなど最低限のものしか置いていない。
親父も母さんも共働きで給料のいい仕事についているので、毎月オレの口座にお金を振り込んでくれるおかげで生活費には困っていないが別に豪遊するつもりも更々無いのでお金は貯まる一方だ。
(石川も大概しつこいな…。一体何を持ってあそこまでオレを勧誘したがるのか…。さっぱり分からん。)
オレは首を傾げながら制服からジャージに着替え、弁当箱を洗ったり学校に行く前に回していった洗濯物を干したり掃除したりしているうちに早いもので夕方だ。
そろそろ家主も帰ってくるし、夜メシの買い物に行ってこなきゃ…。
「ただいまー…。はー…疲れた。」
メシを作っている途中、帰ってきてそうそう情けない声を出しながら歩いてくる女性の姿が目に止まった。
「おかえり、奈緒ねぇ。」
居候させて貰っている家の家主である山形 奈緒が帰ってきた。
オレの4つ年上でここからそんなに近くはないけど遠くもない大学に通っている大学2年生て、スポーツ推薦を使って大学に行った。
この家に住んでいるのは奈緒ねぇだけで、それ以外は何らかの理由で亡くなってしまったらしい。だけど、親戚とはいえ不幸事に首を突っ込むようなことはしないので深くは聞いていない。
今日は春季リーグの開幕戦だったと聞いている。確かポジションは3番って言ってたから恐らくSFで合っていると思う。
「どうだったの?試合は。」
「聞いてよケンちゃん!試合フルで出たかったんだけど1試合60得点になった途端監督が『山形、はしゃぎすぎだ』って言って試合終了5分前で交代させられたんだよ!?」
「どうせまた試合中にテンション上がりすぎてダンクや3Pシュート連続とかで相手泣かせたんじゃないの?あとケンちゃんはやめぃ。」
「泣かせてないもん!!涙目にさせただけだよ!!」
頬をぷくーっと膨らせながら、ジト目で抗議してきた。
泣かせても涙目にさせたその時点でもうアウトだと思うんだけど…?っつか1試合60得点てどんだけ点取ってんだよ…。
「ところでさ、ケンちゃんは部活決めたの?部活の決定って今日までじゃなかったっけ?」
すると奈緒ねぇが話を変え、オレ自身のことについて話してきた。
「決めてねぇし部活に入るつもりもねぇ。」
「でもボールも投げられるようになったし、野球部に入ったらよかったのに…。」
オレが野球を離れた理由を知っているだけあって物凄く心配した顔でオレを見詰めてくる。
あぁもう!奈緒ねぇにそんな顔は似合わねぇっつーの!!
オレは奈緒ねぇを安心させるために、無理に笑顔を作る。
「いいんだよ。その野球で人を再起不能にさせてしまったから野球をやる資格なんて無いんだよ。ホラ、メシができたんだからいつまでもチームジャージ着てないで汗かいたモン洗濯カゴに入れてきなよ。」
更新は不定期になりますが、失踪はするつもりはありませんのであしからず…。