第12話 ここから出ていけ
Side K.Ishikawa
試合当日。
清峰高校のベンチは騒然としていた。
「監督!!オーダーの提出ミスってどういうことですか!?」
この試合マスクを被る俺は監督に問い詰めていた。
何故なら、オーダー用紙には先発ピッチャーの名前は松宮ではなく新川さんの名前が書かれていた。
んで新川さんはというと他の2年の先輩といっしょに試合前のキャッチボールをしている。
「やられた…。新川が俺の筆跡を真似てオーダー提出する直前にすり替えたとしか言いようがない。みんなホントにすまない。」
監督は苦虫を噛み潰したような顔をして、俺たちに頭を下げた。
ハッキリ言って今日の相手は新川さんが抑えられるような相手じゃないっていうのに………!!
頭をガシガシと掻きむしった後、どのようにしてリードしていくかを必死に組み立てることにした。
Side out
「ちっ…!ちっとも使えねぇキャッチャーだなてめぇはよぉ!!!」
ようやく長い長い初回の守りが終わり、先発の新川さんがバッテリーを組む石川に理不尽な八つ当たりをしながらベンチに戻ってくる。
ベンチに戻るとグラブと帽子を投げつけベンチを蹴り飛ばした後、乱暴にベンチに座った。
いやこれはひどい。ひどすぎるってレベルじゃないくらいひどい。
初回の攻防で俺たちの数字は0に対し、相手の得点は何と6。
七瀬の三点本塁打と相手の連打で一気に取られた点数だ。
しかも全てキャッチャーである石川のサインを無視し、独断で投げた結果だと言うことは守っているバックはおろか監督やベンチに入っているメンバー全員が分かっていることだから誰も新川さんを労おうとする事はない。
「オラ1年!松宮ァ!!さっさとドリンク用意しやがれクソが!!!」
へーへー。分かりましたから八つ当たりするのは止めていただきたいもんですわ。
新川さんが理不尽に怒鳴り飛ばすからチーム内の雰囲気は最悪だよ。
「………どうぞ。」
「おっせぇんだよボケ!!ったく使えねぇ1年共だなァオイ!!」
ジャグのなかのドリンクを注いだコップを新川さんに持っていくが、引ったくるように取ったこともあってこぼれたドリンクがオレのユニフォームとアンダーシャツを濡らした。
「………新川。」
あまりにも傲慢な態度を見せる新川さんの目の前に、顔を真っ赤にしこめかみに青筋を浮かべた秋山先生が立ち塞がった。
「今すぐ荷物を纏めてベンチから出ろ。」
「………は?」
新川さんは秋山先生が言ったことが理解できずポカンと口を開けて、先輩に失礼だがアホ面を見せている。
「キャッチャーのリードを無視して好き勝手に投げて、自分で打たれたのをさも当たり前のように味方の守備やキャッチャーのせいにして喚き散らす。ベンチに戻ってきてからは王様のようにふんぞり返って後輩を顎で使ってドリンクを用意して貰ってさぞいい気持ちだろうな。」
監督の言葉がドンドン棘のある言い方になってきている。
さらに監督の風貌もあって下手すりゃ因縁つけに来ている極道と堅気のやり取りに見えてきている。
「そんなんで後輩に示しがつくとでも思うか?打線も『コイツのために何とか点取ってやろう』って思えるのか?守備でも『コイツが頑張ってるから何とか助けてやろう』って思えるのか?」
「………………。」
「もういい、お前はもう使わねぇ。交代だ。さっさとここから出ていけ。」
「………………チッ!!!」
最後は盛大に舌打ちをした後、ふてくされた顔をしながらグラブと帽子を持ってベンチとロッカールームを繋いでいる道を歩いていった。
「………先生?あんな言い方して大丈夫なんですか?」
「大丈夫だろ。ああ言ったやつほどいざ1人になったらなにもできねぇタイプだ。それより次の回からお前が投げるのにベンチに居てもいいのか?さっきからチラチラと主将がこっち見てるぞ?」
オレはそれを聞いた瞬間急いでベンチを飛び出し、キャプテンの協力の元急いで肩を作り始めた。
「あぁもう!くーやーしーいー!あとちょっとのとこだったのにぃ!!!」
現地で解散してからの帰り道、1年生の選手5人と1年女子のマネージャーでスコアラーとしてベンチに入っていた夢野 卯月の合わせて6人で球場近くのラーメン屋でメシを食べていた。
試合は6―5でオレたちが負けた。
ちなみに今のは炒飯の皿をレンゲで叩く結城の声だ。
「静かにしろ結城。それにあれはしゃーなしだろ。初回に新川さんが暴走したのと俺らが打てなかったのが悪いんだし。」
「石川の言う通りだ。いくら新川が横暴だったとはいえその後いくらでもチャンスがあったのにそれをものにできなかった俺たちに問題があるだろう。」
今日のスコアブックを見てリードの反省をしながらお冷を飲みつつラーメンをすする石川に、餃子用の小鉢にラー油と醤油を混ぜる武田。
「でもあのまま新川先輩が投げ続けていれば、きっと今頃あたしたちコールドゲームだったんだよ?松宮くんが2回からずっと抑え続けてたから終盤追い詰められたんじゃない?」
「………卯月の…言う通り。」
「そうだけどさぁ…。」
夢野の正論に東條も肯定したことにより、ぐうの音も出せない結城。
「松宮くんも何か言いなよ?」
オレ自身も2回から投げたけど、球数も130球も投げてしまったし投げるテンポもバラバラだったので一概にもオレのせいじゃないなんて言い切れねぇ。
見せ球として使っているカーブも試合後秋山先生の指摘で、腕の振りが緩いっても言われた。
オレ自身もまだまだなんだと痛感させられた試合だった。
自分一人で反省しているところに夢野がなんか行ってきた。
「そうだな。とりあえず食べ終わったんならそろそろ店出ようか?」
ここに大分長居させてもらったから、そろそろ帰らんといけないような気がしたから自分が食べた分の代金を払ってそれぞれ自分の家に向かった。




