第11話 荷が重すぎます
Side Y.Torii
早いものでもう秋季大会の季節だ。
堪えても堪えても頬のニヤケが止まらない。
理由は簡単だ。待望のピッチャーがマウンドへカムバックしたのだから。
「どうよ大塚さん?彼、なかなかいいピッチャーでしょ?」
「また清峰高校の松宮くんのことですか?確かにいいピッチャーですけど…。」
「けどなんですか?キレのいいスライダーとシュートによる左右の揺さぶりとそれを際立たせているMAX143km/hのストレート。高1にしては十分逸材でしょ?何が不満なんです?」
「何て言うか…。ピンチの時とそうでないときの差が激しいっていうか、何で打たれたから本気を出すのか私には理解できないです。それに1試合平均125球ってのも多すぎる気がします。」
まったくこれだから大塚さんは…。
ピンチ時の凄まじき集中力や球数が嵩んでもフォームが崩れないってのも松宮くんの魅力の1つだっていうのに。
でも、松宮くんと同じピッチャーの新川くんっつったかな…。
ありゃダメだ。まったく使い物にならない。
走り込み不足にくるスタミナ不足に加え、フォームのアンバランスが原因で球離れが早くなり痛打を打たれるケースが非常に目立っている。
いったい秋山は何を考えているんだ………?
Side out
「ラスト!」
「ッラ!!!」
準決勝前日のピッチング練習。
球数こそ少ないが、少し強めに投げたオレのボールは右バッターのアウトコース低めに構えた石川のミットに乾いた音を響かせながら吸い込まれた。
「よし!状態は大分いいみたいだな!」
「そりゃ夏の間、口んなかから何も出てこなくなるまで走り込んだからな。」
オレは夏休みの間の練習を遠くを見つめながら思い返す。
基本的にオレのフォームは脚を高くあげるので、試合後半になるとバランスを崩してしまうことがある。
秋山先生もピッチャー出身だと言うこともあって夏の間ひたすらポール間ダッシュやアメリカンノックなど走り込みメニューで足腰を作った。
おかげで練習試合や地区リーグ戦を通して、鈍っていたスタミナを取り戻せたし、試合後半になってもボールのスピードが落ちにくくなるといった目に見えて変化が生まれていた。
「確かにお前練習終わる度にゲーゲー吐いてたもんな。」
思い出させんな…。マジでキツかったんだから。
「ところでよ、得点圏にランナー背負ったときいきなりボールの威力とスピード上がるなら最初から投げれねぇのか?」
「わりぃ。オレクラッチピッチャーなんだ。だからたぶんそれ無理。」
「次の相手は最初からある程度飛ばさないとスタンドに持っていく力があるんだからしっかりしてくれよ?」
確か相手は秋田県のNo.1スラッガーの七瀬 剛がいる花輪高校だったっけ…?
あいつのスイングは確かに驚異的だからなぁ…。
「分かってるよ。っていうか、そもそもまだ先発するって分かってる訳じゃねぇんだからそうプレッシャーかけんなや。」
まだ先発とは決まってないけど、与えられた役目をしっかり抑えるだけだ。
Side S.Akiyama
「あ?何だって?もう1回言ってみろ。」
煙草の火を消し、来訪者がほざいたことに対し苛立ちを覚えていた。
俺は明日の対戦相手である花輪高校のデータが書かれたノートに目を通していたところ、暫定的に背番号1を背負わせている新川がやってきた。
「ですから、明日の試合俺のことを先発させてください。」
「何故だ?」
「明日の試合松宮じゃ荷が重すぎます。それに入部してまだ3ヶ月も経ってないのになんで監督は松宮を贔屓したがるんです!?」
俺は正直に言わせてもらうと常々新川のことを馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、このアタマの悪い発言を聞いて心底呆れ返った。
「まずお前と松宮の新チームになってからの防御率言えるか?」
「そ………それは…。」
そりゃ答えられるわけないわな。
スコアブックの付け方どころか、コイツがスコアブックを見ているところなんて見たことも聞いたこともないのだからな。
「まずお前は8月の地区リーグ戦から数えて15イニングを投げて18失点。防御率に直すと10.8だ。それに引き換え松宮は66イニングを投げて10失点。防御率は1.36だ。チームの勝利を優先するならどちらを投げさせるかなど一目瞭然だろ?」
「ですが、俺は2年生ですよ!?ここは年長者の俺がエースのはずじゃ!?」
「スポーツは実力至上主義の世界だ。年長者だから試合に出るという時代は存在しないぞ?それにお前松宮に比べて練習量はおろか部活動に出る日数も少ないのにどうしてエースって語ってるんだ?」
「監督が背番号1を渡したからじゃ…。」
「いつオレがエースナンバーは背番号1だと言った?エースっつうのは自分からなるんじゃなくて回りから認められて初めてエースと呼ばれるんだ。さ、話はもう終わりだ。さっさと帰れ。」
俺は少し大人げないと思ったが、しつこく食い下がる新川に正論を貫き通し強引に話を打ち切った。
恨み口を叩きながら、新川は出ていった。
試合は明日だ。
新川が暴走しなければいいのだけれど…。
Side out




