第10話 名前で呼んでよ…。
「へぇー…松宮くんってピッチャーだったんだ。」
オレの背中やら肩回りをペタペタと触りながら帰り道を歩くオレと神谷。
そんなにオレの身体珍しいのか?
「っていうか神谷ってバスケ部だったのな。今まで知らんかったわ。」
「むー…。キミは私のこと知らなさすぎだよ!!」
ぷくーっと頬を膨らませ、ペタペタと触っていた神谷の手はオレの背中をバシバシと叩く。
「ごめんごめん…って痛い痛い!地味に痛ぇから!!」
急いで謝り、何とか背中への攻撃をやめてもらう。
何だろう…。居候させてもらっているうちのぽやぽやしている姉ちゃんに似てるような気がするのはきっと妖怪のせいなんだろう。うん、そうに違いない。
んで、何だかんだ話し込んでいるがいっこうに別れる気配がしない。
「なぁ神谷?お前家どこだ?この辺オレが住んでいるところ何だけど………。」
「わたしの家?この道を真っ直ぐ行って左手の方向にあるよ?」
言ってる場所があまりにもアバウトすぎて何処にあるのかさっぱり分からん。
頭を悩ませること1分経つか経たないかで、いきなり神谷が立ち止まってふと建っている家を指さした。
「ここ!ここがわたしが住んでいる家だよ!」
あ?ここって…居候させてもらっている家の………隣?
「なぁ神谷?」
「なぁに?家に上がりたいの?」
「いやそうじゃなくてさ、神谷の家の…オレが住んでいる家なんだけど………。」
「奈緒お姉ちゃん!!」
「わっ!?菜々ちゃん!?どうしたの!?」
「実は松宮くんと同じクラスで奈緒お姉ちゃんの家に住んでいるって聞いたから来ちゃいました!!」
オレはテスト勉強で頭から煙が出そうだった奈緒ねぇのために甘いものを出そうとしたところで、神谷は奈緒ねぇのところに向かって飛び込んだ。
「ホント久しぶりね…。いつの間にか大きくなって。」
「奈緒お姉ちゃん後で1ON1やろーよ!!」
神谷の頭と腰の部分に犬の尻尾と犬ミミが見れてしまうって言う幻覚が見える辺りオレはもうダメかも知れんね…。
「ところで奈緒ねぇ、メシは食べた?」
「まだよー。」
「分かった。すぐ作るな…神谷、メシ食ってくか?」
「え!?いいの!?いただきまーす!!」
はいはい今日のメシは3人分ね…。
久々に………オレの包丁が真っ赤に燃えるぜぇぇぇえ!!
「ふぇぇ…。おいしいよぉ…。」
オレの隣に座った神谷が泣きながらメシをもきゅもきゅと食べている。
何故だか分からんが今の神谷から猛烈なあざとさが感じ取れる…。
何で泣いてるのかって聞いてみたら『何だか女の子としてのプライドがズッタズタに傷付いた』って言ってたけど女の子としてのプライドって何だ?
オレにゃさっぱり分からん…。
「そう言えばケンちゃん?部活の初日はどうだったの?」
「基本的にいい人ばっかだったけど、1人だけ何だかヤバイ人はいたけど…。」
「そう。ならよかった。菜々ちゃんゆっくりしていってね?」
奈緒ねぇは手早くメシを食べ終え、さっさと部屋に戻っていった。
どうやらテスト勉強や期末のレポートの課題に追われているみたいだ。
あとでコンビニ行ってアイスでも買ってきてあげようかな?
「今日はご馳走さま。とってもおいしかったよ!!」
オレは神谷を送って、神谷家の玄関の前にいる。
っつっても家から数歩しか離れていないんだけどな?
「あんなんだったら何時でも作れるから何時でも来てもいいんだぞ?」
「そうさせてもらうね?」
「じゃあな、神谷「ちょっと待って?」ん?どうした?」
オレは家に戻ろうとしたが、呼び止められたので振り返った。
するとそこにはいつもの神谷ではなく、何故かもじもじとしている神谷がいた。
「あのさ………、わたしのことこれから名前で呼んでよ…。」
なんだそう言うことか…。
それならお安いご用だ。
「じゃあな、お休み。『菜々』。」
「うん!!おやすみ!『健太くん』!」




