第9話 部活初日
石川の手によりバン!!と勢いよく開けられたドアの中にいた練習用のユニフォームを着た3人の男たちは完全に固まっていた。
腕を捕まれ、勢いよく入ってきたのはいいがなんなんだこの空気………?
これはあれか?先に喋った奴が負けるみたいな感じなのか?
………いいや、限界だッ!喋らせてもらうッ!!
「えっと…、今日から入部させて貰った松宮です。よろしく。」
右手を挙げて挨拶したものの、誰もしゃべらん…。
マジでダレカタスケテー。
「キミが松宮か。思ったより背が高くてイケメンだったんだな…。俺の名前は武田 翔。右投げのスイッチヒッターで、ポジションはセカンドだ。改めてよろしく。」
オレから見て左側にいたオレと同じくらいの背丈の男が自己紹介してきた。
武田はスイッチヒッターか…。こりゃ頼もしいやつだ。
「ボクは結城 隼人。ポジションはショート。これからよろしくね。」
次に目の前の男の娘?みたいな顔立ちの奴が結城か…。
こういっては可哀想な気がするが、薄幸な感じが漂う気がするのは決して気のせいでは無いことを信じたい。
最後は随分と背がでかい男だ…。
「………東條 大悟。ポジション………センター。よろしく…。」
「こいつ野球やってるときは饒舌なんだけど、それ以外だと恥ずかしいからっていってあまり喋りたがらないんだ。東條自身悪いやつじゃないから仲良くしてやってくれ。」
「そうか…。よろしくな。」
東條はシャイっと…。
結論、こいつら全員濃ゆい。
全体練習が終わり、個人練習のため何人かグラウンドに残った。
武田と結城はそれぞれがノッカーを交代しながら自分のポジションで守備練習をし始め、東條はと言うとマネージャーに手伝って貰いバックネットに向かってティーバッティングをしている。
オレはと言うとランニングシューズからスパイクに履き替え、ボールを受け貰いたくて石川を探していた。
あ、いた。
石川はちょうど水を飲んでいるところだったので、水飲み塲まで行こうとした。が、
「あだっ…。」
余所見していた柄の悪い先輩の左肩とオレの左肩がぶつかってしまった。
「すいません…。」
「ってぇな!!気ぃつけろやクソが!!オレ様の黄金の左腕にヒビ入ったらどう落とし前つけるんじゃワレ!………ったく
。」
と吠えながら部室へと戻っていった。
何だあの人…。
「おーおー…。お前あの人に目ぇ付けられたか。」
いつの間にかオレの横には石川がいた。
「あの人は………?」
「うちの現時点でのエースで、新川 京介って言ってうちの高校の女子を取っ替え引っ替えしたりするなど素行は清峰高校1の問題児だ。関わるだけ無駄だからあんま気にすんな。」
新川か…。
何だろう………何時になるか分かんないけど、何だかあの人とんでもないことをやらかしそうな…。
そんな気がするのは気のせいなのだろうか…?
「ところで何だ?ボールを受ければいいのか?」
手に持ったキャッチャーミットをオレに見せながらブルペンの場所を指差していた。
「話が早くて助かる。ブルペンまで案内してくれ。」
さっきの新川のことを頭の片隅に追いやり、オレと石川はブルペンに向かった。
マウンドが3つのうち真ん中のマウンドを取ったオレは、肩の稼動域や指先から伝わるボールの感触を確かめながら徐々に距離を伸ばしていきマウンド迄到達したところで………、
「行くぞ!!!」
オレは約18メートル先のところにいる石川に向かって叫び、しゃがませた。
Side K.Ishikawa
「行くぞ!!!」
とうとう全国ベスト4のエースのピッチングが見られるんだな…。
ちょこっと目を向けると休憩中の東條や、ノッカー交代のタイミングだったらしいうちの二遊間コンビがこちらを見ていた。
キャッチボールの時に話していたこいつの持ち球はスライダーとシュートの2つだけだ。
よくこの2つだけで全国ベスト4まで登り詰めたものだ…。
「ストレート!!」
右腕を高く上げながら高らかに球種を宣言する。
ピッチングの基本であるストレート。
どれだけ変化球がよくてもストレートの威力が悪ければあまり恐怖はない。
ノーワインドアップから脚を高く上げ、ゆったりと降ろしながら軸足に体重を乗せながら左足を前に静かにスライドさせる。
グラブを使いギリギリまで身体の開きを抑えながら、一気にボールがリリースされた。
球持ちのいいフォームから、スピンが効いたキレのいいストレートがオレのミットに吸い込まれた。
体重と松宮の気持ちが乗ったいいボールだ…。
オレは右手に走る痺れを堪え、ボールを松宮に投げ返した。
Side out
あの後ブルペンでのピッチングはスライダーとシュートを交えて合計40球投げて終了し、ダウンを取って制服に着替えた。
まともに硬式ボールを投げたので、思ったより疲れたので早く帰ろう…。
「まっつみーやくんっ!!」
「ごばっ!?」
何者かが後ろからオレの疲れた身体にタックルされ、オレはその衝撃に耐えきれず大きくよろめいてしまった。
誰だ!?後ろから猛チャージしてきたやつは!?
眉間にシワを寄せ、後ろを振り向いた。
「やっ!一緒に帰ろ?」
そこには部活帰りなのかスポーツドリンク片手にした神谷が立っていた。




