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幕間girl

志野田さん視点。短いです

 部室でミーティングをしていたときだった。誰が最初に気づいたのかわからないけど部長達が最後だったのは確か。ホワイトボードの後ろの壁に突如大きな目玉が一つ、出現したのだ。

 ぎょろり、ぎょろり。目玉は私たちを見ている。

 あんな目を持つ生き物ってどんなの!? 私たちは戦慄した。総毛だった。だけど部長は冷静だった。

「黙って。いい? 口を塞いで廊下に出なさい。ドアに近い人から順番に」

 部長の言葉に従ってみんな口を塞いだ。だけど動揺は収まるものではなく、どたばたと廊下へ逃げ出したカッコウだった。

 私たちはこの空間に出現する、この空間に属さないものが見える。それは小さなものが多く、ゴミだったり用途の分からない物だったり生物だったりする。この世界に属さないものの為か、ごく一部の人にしかアレらは見えることはない。だけど見えなくても躓いたり、ぶつかったりと良いことはないから、見える私たちのような人間が回収して処分したりしている。そのための研究会で、虫取り網だ。

 だけどアレらがどこから、この空間に出て来るのかわかっていない。出現する瞬間を見たという話も聞いた事がなかった。どこかでこの世界と別の世界の空間が偶発的につながって出てくるのだろうと推測されているだけだ。

 だからこんなことは初めてだった。何の変哲もない壁から目玉が見えるなんて!

 半開きにしたドアから中を覗き込む。目玉がすと動いたかと思ったら、そのまま円形に茶色い毛皮が見えた。それからまた目玉が戻ってくる。せり出してくる気配はない。

「つなぐ空間が狭いってことかしら」

 部長のつぶやく声が聞こえた。たまたまあそこに空間と空間をつなぐ場が開いてしまったということだろうか。毛皮の見え具合からして、まるで円形に穴が開いているかのよう。

 そこへ背後から聞き覚えのある声が聞こえた。ちょっと変わったクラスメイト。どうしても気になってしまう人の飄々とした面白がるような声。

「よう、片瀬。穴が開いてるらしいじゃん。セメントもってきてやったぜ。埋めさせろ~」

 穴って、あっさりと言う。でも彼にはアレが見えないはず。何度もしつこいほど聞いたりしたけど、全然見えてないと思う。なのに何故今見えるの? っていうか、穴ってはっきり言った。私たちはアレの体が視認出来る範囲から、どうも円形に空間に穴があるようだと推測しているに過ぎない。穴そのものが見えているわけではないのだ。だけど彼は穴を強調する。

 部長は戸惑っていたけど決断した。彼は喜んで部室に入り、無造作に穴を触ろうとしたのだ。触ろうとした手の先には、アレの大きな目玉がぎょろりと彼を見上げ、私たちは悲鳴を上げた。やはりアレ自身が見えていないのだと確信する。

「絶対に直接触らない!」

 さすがに部長の声は悲鳴じみて震えていた。それでも平気な様子で彼はとっととセメントを塗っていく。不思議なことに、セメントが被せられるとアレの威圧感や存在感が綺麗に消えていた。

 実は前から気になっていたことの答えが今出た気がする。いつもいつも紙粘土をぽけっとに突っ込んでフラフラとしている彼。昨日知ったのは壁に出来た小さな小さな穴を埋める作業。彼は「あ、穴だ」と言って紙粘土で埋めていたけど、私の目には穴そのものが見えなかった。紙粘土の跡をみると本当にミリ単位の大きさだったから、シャープペンの芯のように細く小さい穴だから、ちょこっと離れて後ろから見ていた私には穴が見えないのだと思っていたけど、多分違うのだと思う。だってそもそも私の視力はかなり良いから、正直言って見逃すとは思えなかった。だけど現に見えなかったから穴が小さすぎたのだと、内心首をかしげながら自分を納得させていたのだ。だけど、そうではないね、きっと。……階段の上から落ちたのを抱きとめて助けてくれたっていう動揺もあったけど。す、すかーとの下も見えてなかったって言ってたし。思ってたよりがっちりしていて男の子なんだと、頼りになるんだと思ったりしてドキドキしちゃったりも、したけど、ねっ。あー、思い出すと、赤面。

 って、そうじゃなくて。

 不思議だ。彼は変わっていると思う。

 強力な忘却暗示である「えへっ」が効かない。誰の目にも光沢ある白色にしか見えない網が七色に光って見える。そしておそらくは、アレは見えないのにアレが出てくる空間を繋ぐ穴が見える。多分さらにその穴を塞ぐことが出来る。

 ヘンだ。

 だけどヘンだと言う事を今まで誰一人として気づいていなかった。本人すら。

 

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