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本日二話更新していますので、一話前からどうぞ。

出てくるイキモノをリアルに想像すると気持ち悪いので注意w

 片瀬に続いて廊下を走り、階段を上った。片瀬は時折舌打ちしながら網を左右に振る。

 そしてその先に志野田さんが見えた。

「か、片瀬っくんっ。あみ。おっきい網ある!?」

 オレ達の足音に気づいて振り向いた志野田さんは、引きつった顔で言った。片瀬の方も同じような顔で志野田さんの指し示した先を見ている。

「嵐。どこかに穴がみえるか?」

「あるよ」

「どこだ」

「お前等が指差した所なんじゃねー?」

 志野田さんから一メートルほど離れた床に、どーんとまたもや直径30センチほどの黒い穴。自分で指差してんだから分かってるだろーが。ナニ動揺してんの?

 さっぱり訳がわからんまま、ここまで来たオレとしてはちょっと白ける。

 しかし片瀬は穴に向かって走り、手に持っていたチョークの粉をバッと穴にぶっ掛けた! 粉がもうもうと舞い、近くにいた志野田さんがげほげほと咳き込んだ。

「なにするの! あーっ制服が粉だらけ。馬鹿片瀬!」

 同感。せめて予告しろや。せっかくマスク持ってたって、身に付けてなきゃ意味ねーダロが。ナニがしたいんじゃい、お前は。

「嵐っ! これで見えるだろう。俺達が網で捕ってるのはこういうのだっ」

「はぁ?」

 片瀬が指差す先。チョークの粉が振り掛けられたのは穴のはずだ。が、穴があるはずの上にボールをひっくり返したようなドーム型がぽっこりと粉まみれ……。

「なんだ?」

 どういうことだ。見ている間にその粉ドームの位置がどんどん上に上昇していく。膝丈になり、腰丈になり……ついにはオレ達の身長を越して止まった。

 どういうことだ。なんなんだ。俺の目には粉まみれの逆さボールが浮いているように見える。そんでその下には黒い穴。

「あのな、嵐。お前には粉がついている所しか見えないと思う。だけど俺たちの目には、お前の言う穴からソレがにゅーっと棒みたいに出て来たと見えるんだ。ちなみにそれには目も腕もある」

「えーっとね、ムー○ンに出てくるニョ×ニョロみたいだって言えば分かりやすいかな?」

 にょっ……! 身長より大きい直径30センチ未満の筒型の物体。しかもイキモノ? うっそー(ボー読み)

「ちなみに俺たちはお前の言う黒い穴自身は見えなくて、多分穴から出てくるらしい生き物やらモノやらゴミは見えるわけだ。ソレを特殊な網で捕獲して処分するのが仕事」

「んなでかいのが、毎日ぼろぼろ校内闊歩しとんのか!」

「違う違う。今回は例外なのっ。いつもはホントに精々手のひらサイズのゴミとかが多いの。それより今はアレをなんとかしなきゃ!」

 話しながら目はアレに集中している。粉はまだその場を移動していないが、なんつーか、頭部分を不気味にふよふよ前後左右に動かしている。

「うううっ。気持ち悪」

「うえーん、なんかミミズをゼリーにしたみたいで気持ちわるいよぉ」

 どういう表現だ。俺には粉のかかった部分しか見えんからわからんが、とにかく外見がよくないらしい。片瀬は青い顔で口を手で覆い、志野田さんは網の柄を握り締めて半泣き顔だ。しかし睨めっこしても何の解決にもならん。

「おい、専門家。アレをどーすりゃいいんだ」

「とりあえず大きい網でがばっと簀巻きだろーな」

「その網は?」

 片瀬は目をアレに向けたまま、無言でポケットを探る。スラックスの後ろポケットからシャラリと静かな音を立てて七色の網が滑り落ちた。それから長い紐。

「これでなんとか捕獲できると思う。が、どうやって網をかけるか……」

 なにせ大きい。上から被せたいが、オレ達の身長より高いからなあ。三人でうなるが、特に良い案は浮かばない。片瀬がため息をついた。

「仕方ない、俺がジャンプしてなんとか引っ掛ける。アレの背後に回るから紐は渡しておく」

「わかった。気をつけてね」

 志野田さんに紐を預けた片瀬は教室に入っていった。二部屋分ある特別教室の後ろ側のドアから出れば丁度アレの背後に出るからだ。志野田さんは紐の端をもち、反対側の端を俺に差し出した。

「コレ持ってて。網を被せたら私アレに紐をぐるっと掛けるから」

「危なくないのか?」

「嵐山君は大丈夫だよ。このまま動かないでしっかり紐持ってくれればいいんだし」

 オレのことじゃないっての。アレの周囲をうろうろしなきゃならん、おーまーえーがっ大丈夫かって聞いてんだ! 

「……オレがやってやるから、志野田がここで紐持ってろ」

「え? でも嵐山君は粉のついている部分しか見えてないでしょ」

 大きな目をさらに大きくし、きょとんとした表情でオレを見上げた。その瞳にオレの苦虫を踏み潰したような顔がうつりこんでいる。確かにアレが見えないオレができることではないか。なんとなく悔しい思いを胸に抱え込んだ。

 がらり。

 片瀬が教室のドアを開けた。アレの背後に出て網を手にスタンバイオッケー。オレは仕方なく紐を手に二重に巻いてぐっと握りこむ。志野田さんも虫取り網を床において、代わりに紐を手にして準備する。

 三人の目が合った。片瀬が助走をつけてジャンプ。その手から七色の網が大きく広がり、窓からの光を浴びてキラキラとアレの頭上に舞った。

 ふわり。

 片瀬が着地したと同時に網は無事にアレの上へすっぽりとかかった。ぷよよんしていたアレは動かない。志野田さんは紐を手にアレへと向かって駆け出した。そのまま紐でぐるぐるにするつもりだろう。オレの手元から延びる七色の紐は志野田さんにしたがって、ふわりとアレの周囲を弧を描くように一周。

 二週目に入ろうとしたときだった。今まで微動だにしなかったアレがふるふると震えだした。志野田さんに警告をしようとしたその瞬間、突然粉まみれの頭部が志野田さんに迫っていったのだ。

 オレはダッシュした。志野田さんはアレを見てはいなかった。手元の紐が引っ張られて初めて異変を感じ、アレを振り返った時にはその頭が目前だったろう。オレは志野田さんの腕をぐいと掴んで力任せに引き寄せ、体を、頭をオレの全身で守るように抱いた。間一髪、アレの頭部は志野田さんのいた空間をなでた。

 片瀬がオレが放り出した紐を手にして、アレの束縛に動いている。オレは呆然としている志野田さんの少し力を入れて両腕を抱き、アレとは距離を取った所にしゃんと立たせた。

「このまま紐持ってじっとしてろよ」

 オレは足元に転がる志野田さんの虫取り網を手に取った。くるりと回して上下を逆に、つまり網の方を下にして持つとアレに向かって突っ込んでいく。確かに粉のかかった部分しか見えなかったが、今は網がかかっている。網の部分は見えるわけで、タコ殴りするには何の問題もない。考えてみれば紐を掛けるにしてもアレに掛けるのではなく、網に掛けると考えていれば、志野田さんにやらせる必要はなかった。彼女から危険を遠ざけることは可能だったのだと今頃気づいた。

 そんで。オレは八つ当たり気味にアレをぼこぼこにぶん殴った。最後になんとも情け無さそうな「きゅぅ」という音が聞こえたが、無視してやった。にょろ×ょろだかミミズの化け物だかにやる情けはないっ。

「ま、死んでないからいっか」

 とは最後には傍観していた片瀬の一言だった。


 半そでだから腕まくりする必要はない。胡坐をかくようにいい加減に座っていたが、なんとなく居ずまいを正して正座。おもむろに網をぺろっと外した。

 黒い。あれ? ちょっと色がうすくなってるか? まあいいかと、それっと手を突っ込もうとした。

「まったぁーーーっ!!」

 オレの鼻先にふんわりフローラルな香りと髪の毛が。

「何考えてるの、嵐ーっ!!」

 志野田さんがオレの右腕を抱え込んでいた。

「何って、ちょっと触ってみようかと」

「しんじられない。なんかあったらどうしするのっ」

 志野田さんは涙目になっていたが、キッとオレを睨みつけた。

 そんな顔も可愛かったりする。抱き返したい衝動に駆られるのを抑えようとする自分に気づいてうろたえる自分にまた愕然としたり。動揺したり。いやでもアレは網女だから、ありえんオレ。オレは穴に触りたいだけだから。だから触れ。右手がダメなら。

「左手があるし」

「あーっ!!」

 慌てた志野田さんがオレの左腕も確保しようと両手を伸ばしたけど、もう遅いし。

 オレは手のひらをぺたりと黒い穴についた。

 しーん。

 志野田さんがオレにしがみついて身を硬くしていたが何もないし。穴の深さはやっぱり一センチ程度でしかないし。当たり前の結果に少しばかりがっかりして手を離した。

「あっ」

「あ。しか言えんのか」

 オレの鼻先にふよふよする彼女の髪の毛が悩ましい。志野田さんはオレに抱きついたままだ。お前夏服で薄着ってこと分かってないダロ! なんでもいいから離れてくれえっ。内心の悲鳴に気づかない志野田さんは、こんどはオレの左手を掴むとぐいと掴んで穴に押し付けた。

 ちょっとまて! 矛盾してるだろ、それは!

「見て! ひょっとして手の形に黒色が消えてるんじゃない?」

 いいからっ、離れろ志野田! フローラルな香りがっ。そのやわらかさがっ! 試してんのか、拷問かっ、くそーーーっ!

 オレは肩を掴んで志野田さんの体をぐいと離したっ。はぁーっ!

「どういうことだよ」

 へたり込みそうになりながら、オレはひくーい声で聞いた。志野田さんはオレの様子には気づいてないっぽ。

「だから、嵐の言う穴を見てってば」

 見る。あれ。色が変わってる部分があるぞ。丁度オレの手形?

「私には穴は見えないっていったよね。普通に床があるように見えるんだけど、今嵐がさわった所だけ、普通に床に、普通の穴が開いているように見えるの。一センチくらい深さの。意味がわかる?」

 わかった。多分。

「つまりオレが触ったところだけが、正常な床に戻ったってことか」

「多分、そういうことだと思う」

 おそらく妙な空間とつながっているだろうと思われる黒い穴が、オレが触ったことでその空間が閉じ、正常に戻ったってことか? 

「そんなことってあるのか」

「結果がすべてだよね」

 二人とも呆然として黙り込んだ。頭がついていかない。オレは今までアレは普通の穴だと思っていた。だけど今日、ただの穴ではないと気づかされた。その上オレにしか見えない穴だと。そんな馬鹿なと思うが、研究会全員がオレを騙す理由はない。本人達はいたって真面目にやってるのはわかってる。何故オレだけが。

 しかし今はとにかく穴を塞がなくては。オレが触ることでふさがるならば、安いものだと言えなくもない。

 オレはぺたぺたと穴を叩き、触って黒い穴を普通のコンクリに戻したのだった。



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