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 校庭でサッカーをやるはずが、誰が言い出したか「校舎の外壁を駆け上がろう! 第一回大会」に。

 助走を付けてがーっと壁を駆け上り、限界までいったところで、泥で汚した片手を壁に「ばんっ!」と叩きつけて手形をつけ、そのまま駆け下りる。ここで間違えてはいけないのは、あくまでも壁に対して垂直に体をおくこと。よじ登り禁止。手を使うの禁止。あくまでオノレの両足のみで駆け上がるのだっ。そんで、一番高い位置に手形を付けた奴が勝ち。

 そんなオレ達を見ていた連中も、我も我もとやり始め、あっというまに大会に。足音が響いて校舎内もさぞうるさかろう。さすがに事態に気づいた教師が外を覗き、目をひん剥いた。

「やべっ! 野郎ども、にげるぜっ」

 一応すぐに逃亡できるように(壁登りの場所も職員室から離れ、見えにくいところをチョイス)、ちらちらと職員室や周囲を警戒していたオレの目に、顔が怒りに真っ赤になっていく教師の顔がうつり、即、撤退命令。

「こらーっ!! お前らなにやっとるかーーーっ!!」

 生徒達は素早くバッと散り散りに逃げ去った。見事な逃げっぷり。

 うははは。やっぱりお馬鹿な遊びは止められまへんな。


 全力疾走で校庭を後にしたオレは手を洗って校舎内に入った。外では一応捕まった生徒はいないようだ。

 まだ休み時間の終わりまで少々の時間がある。余裕で教室に入ろうとしたところで網男がいた。外の騒動に気づいていたようで、オレの顔を見ると真面目な顔でいう。

「俺も参加できる時に、ああいう面白いことはやってくれ」

 なんだそりゃ。まるでオレが首謀者のようじゃねーか。人聞きの悪い。

 そういうと、

「ま、そういうことにしておいてもいい」

 失礼な奴だ。

 片瀬のことは放っておいて、オレは教室に入った(何故かついてきたが)。椅子に座り、次の授業の教科書を出していたら、志野田さんが話しかけてきた。

「あのさ、これ、何色に見える?」

「はぁ?」

 オレの鼻先に例の虫取り網をぐっとつきだした。

「柄はシルバー、網は七色、虹色、キラキラキラ。お前らの趣味ダロ」

「本当に七色? 単にキラキラしてるのがそういう風に見えるんじゃないの?」

 ああん? 光の反射で七色に光って見えるといいたいのか。

「な、な、しょ、く。綺麗にグラデーションになってるだろーが。その上で光ってるだろう。よくもまあ、こんなヘンな網を持つよなあ」

 今更何をいってんだ、コイツは。内心首をかしげていると、今度はさらにぐっと身を乗り出してきた。なんなんだよ。

「じゃあさっ。片瀬ッ。片瀬の手の上に何かある?」

 はあっ? と振り向くと片瀬がにゅっと握った右手をさしだし、ぱっと開いた。何があるのかと目を皿のようにして見たが、何もない。ミリ単位のものでもあるのかとも思ったが、無いものは無い。オレはキッパリと言った。

「生命線が長いっ」

「ほほう」

「うむ、かなりな長生きをするであろう」

「誰が手相みろっていったぁーーーっ!」

 網女が怒り出した。だって見ろっていったぢゃーん。とかいうと、殴られっか。

「だからぁ、手の上に何かいるかって言ってるの!!」

「だからぁ、手相しか見えんといっておろうが」

 察しの悪い女である。大体何か「居るか」ってなんだ。それを言うなら「有るか」だろうが。

 片瀬は右手をまた握りこむと、志野田さんの肩をぽん。

「だから意味ないって言っただろうが。資格がないも同然だ、認められるわけないだろ」

「だけどさーっ」

 お、なんだ、内輪もめか? いつも一緒で仲いいねえと思ってたら予鈴がなった。片瀬は左手に網を、右手は握ったまま手を振って教室を出て行く。

「じゃあまたな。サボるなよ」

「うーっ! サボってなんかないぁーいっ」

 しかし、今のは何だったんだろうねえ。そんで、なにゆえ網女はオレを恨めしげにみるのかっ。片瀬に素気無くされたのはオレのせいじゃないだろう。あ、サボリ魔と決め付けたのはオレか(笑)。いいや、知らん振りしよ、しーらーんーぷーりーっ。




 オレは特に部活には入っていない。帰宅部だ。

 だからといってすぐに帰るのは面白くない。居残って宿題をやっていくのもよし、図書室にいくのもよし。

 オレの放課後は、まず教室で宿題と復習をする。そのあとは校内ボランティアだ。もっとも毎日やるのではくて、気が向いたときだけだ。ボランティアとか言ってるが、オレが勝手に言っているだけのこと。学校側はそんなことはつゆ知らず、案外迷惑な話かもしれず。

 とりあえず今日は校舎内をぶらり一周だ。

 放課後の学校は部活動時間で、外からは暑苦しく熱血で青春な雄たけびが聞こえてくるし、内からはありとあらゆる青春と芸術?の騒音がして実にうるさい。騒々しい。

 それでも廊下というのはいつでも寒々とよそよそしく、ドア越しの騒音にも関わらず静寂が支配する。学校のもろもろから切り離されたような静けさと寂しさだが、オレはそれが嫌いではない。案外ほっとするものだ。

 ポケットに手を突っ込んで、階段のところまでやってきたとき、「カシャリ」とカメラのシャッター音。廊下をフラフラしている奴はオレ以外にもいるらしい。

 音の方を見れば写真部の塩見がいた。塩見は同学年だがクラスは別だ。しょっちゅう校舎内をうろついているから、文化部関係の顔見知りが同級・上級生問わず増えていく傾向にある。おかげで同じく学校内をくまなく徘徊する研究会と鉢合わせする機会もおおくなってしまったのだが……。

 さて。シャッター音は、いっちょ前にデジカメの一眼レフからだったようだ。撮ったばかりの写真を確認しているらしく、カメラに覆いかぶさるように画面を覗き込んでいる。オレも近寄っていって何を写したのか覗き込んだら、結局のところオレの後姿だった。

「うむ。被写体がわるい」

 勝手に撮っておいて、なんたる失礼なやつか。

「日常の一コマを撮るのであればベストにパーフェクトに平凡な被写体だろうがっ」

 ……ちょっと自分で言って虚しいかもしれん。

「いやいや、我輩は非凡な一枚を撮りたいのだよ。せめてないすばでーな女の子をば」

 それは男として同意したいことではあるが、女子に嫌がられ、その上せくはらなんじゃないでしょーかと問いたいところだ。それはともかく。

「ならヤローに向けてシャッター切ってんじゃねえ!」

「日々精進。練習してこそということを知らんのかね。平凡な嵐山くん」

 小ばかにしたように言う眼鏡塩見。蹴ってやる。ぜってー蹴ってやる。一蹴りすれば、コイツの薄い体は吹っ飛ぶに違いない。カメラだけはもったいないから救ってやろう。なんと慈悲深いオレ。

 無言で足を上げようとしたところで、上の階からバタバタと足音と「まってーっ!」という声。どっかで聞いた声だと思って階段を見上げると、網女!

 両手に持った網を振りかぶり、たんっと踊り場を踏み切り台にして飛んだ! 膝をまげ、両足を揃えて綺麗なフォーム。そして網を大きく上から振り下ろす。

 突然のことに、口を大きくぽっかり開けて見上げるオレ達。スカートをひるがえし、重力に従って頂点から落ちようとする志野田さんと目が合った。

「……あ、ぱんちら?」

「ぎゃっ!」

 可愛げも無い悲鳴を上げて顔を真っ赤にした網女は、動揺したか着地のためのバランスを崩した。飛んでいる状態から一気に落下へ。

 オレがいらんこと言ったせいか、やっぱ。

 ちらりと反省が頭をかすめ、とっさに彼女を受け止めようと体が動いた。虫取り網を抱え込んだまま落下する。オレは両手を広げ、衝撃に備えて身構えた。

 どさっ!

「あっぶねー……」

 二人重ねて倒れこんだ。背中を打ったがなんとか大丈夫そうだ。上体を起こして見ると、彼女はオレの体に覆いかぶさるようにして倒れており、腕の中でぎゅっと目をつぶっていた。なんとか無事に受け止められたようだ。頭を打たなくて良かったが、胸にあたる虫取り網を握りこんだ彼女の拳が痛え。

 恐る恐る目を開き、オレの上にいるのに気づくとぱっと飛び離れた。そっぽを向いて開口一番。

「み、みた!?」

 真っ先にそれかよっ!! ありがとうの一言が最初じゃないんかいっ。または大丈夫? でも可!

 ムカッと来たので座り込んだまま、意地悪く塩見に顔を向けて聞いた。

「よー、写真部。撮れた?」

 塩見は実に哀しそうに顔を左右にふった。ぱんちらは撮れなかったらしい。そういえばカメラを構えた気配はなかったか。ダメじゃん。非凡な一枚はどーした。女の子写真はどーした。

 網女に睨まれたが知らん顔しておいた。正直逆光に近かったし、観賞する余裕はなかったわい。そもそもオマエら見せ用スパッツだろーが! その短いスカートで何の警戒も無く上からスカートひるがえして跳ぶのが悪い。

 オレはパンパンと制服の埃を叩きながら立ち上がった。

「解散、解散」

 網女とカメラ眼鏡野郎は放っておく。オレは再び校内放浪の旅に出ることにした。


 思わぬアクシデントでうっかり本題を忘れそうになったが、オレのボランティアは網女をナイスにキャッチすることではなく、校舎を見て歩くことだ。

 ナイスにキャッチ……。

 自分で言っててアホくさいというかなんというか。全然ナイスじゃないよな。一応受け止められたというのはナイスだが、床に転がっちまうあたりは全然カッコ悪。どうせならもちっとカッコ良く受け止めたいもんだ。中肉中背、しかも非体育系でがっちりとは無縁だもんな。すばしっこさには自信があるが、力は全然自信なし。今更ながらケツと腰が痛くなってきたかもしれん。

 網女が無事でよかったけどな。オレがうっかり「ぱんちら」などと言ったのが原因だろうし。しかしまあ、スパッツなんざ色気もなにもないよな。男のロマンを返せーとか言ったりして(笑)。だけどなぁ……。

 反芻してみる。

 水着姿のときもスタイルがイイと思ったが、意外と肉付きよかったよな。 ちょっと虫取り網が邪魔だったが、アレはかなり……。

「ちょっと嵐山ってば、まってよ!」

 不埒なことを考えたところに本人の声が後ろから追ってきて、油断しまくっていたオレの心臓は心底跳ね上がった。まぢで心臓に悪いっす。

 なんてことを本人に言えるはずもなく。きっとオレはものすごく複雑奇怪なヘンな顔を志野田さんにさらしていたと思われる。

「? なんかあった?」

「いんや。ないっ。何もないっ。オマエに関係するようなことはなにもないぞっ」

 ひょっとすると声まで裏返っていたかもしれん。

 オレはとにかくこの場を逃げようと、猛然と歩き出した。志野田さんはわざわざ追っかけてきてオレに声をかけた訳だから、早足程度では振り切れるはずもない。ついてくるに決まっている。しかしこのときのオレはかなり動揺していたらしい。走ることもせず(多分走ると余計不振がられてヤバイと思ったんだろうなぁ。アホだ、オレ)、ただひたすら歩いた。

 が、まあ歩いているうちに頭が冷えた。冷えると本来のボランティアを思い出し、さらに廊下の壁に小さな穴を見つけた。せいぜい5ミリあるかどうかの大きさだ。志野田さんはまだついてくる。

「みっけ」

 オレは穴の前にしゃがみこんだ。ポケットからラップで包んだ紙粘土を取り出す。

「……何してんの?」

「穴ふさぎ」

 紙粘土を適当にちぎり、穴の中に埋め込み均す。壁に同化させて完了。これがオレの”ボランティア”。

 志野田さんは目を丸くして一連の作業を見ていた。そんでふさいだ穴をさわっている。

「何で紙粘土なの」

「手っ取り早くて安いっ」

 シンプルな理由だろう。

 オレは校舎内でよく見かける、シャープペンか何かでほじくったような穴が大嫌いだ。見ると埋めたくなる。だからよくこうやって校舎内を巡回して穴を埋めて回っているのだ。

 だがそんなことをやり始めたのはこの高校に入ってからだ。それまでもたまに穴は見かけはしたが、この学校のように酷くなかった。この学校はこのテの穴が多い。多すぎる! しかも埋めても埋めても新たに穴が増殖していて終わりが見えない。ゆえに定期的に巡回するようになったのだ。

 そうやって巡回するがゆえに、彼女らの研究会の連中ともよく遭遇する。何故なら連中も学校敷地内をくまなく徘徊しているからだ。オレと違って、校舎以外にも体育館や校庭やら、とにかく敷地内を巡っているらしいことは、目撃者談から判ったことだ。朝も結構早いうちから、放課後までフラフラしているらしい。

 そんでオレは彼ら彼女らの虫取り網を振り回して歩く姿を目撃する羽目になる。だから余計研究会の存在や活動というのが気になってしまうのだが。

 紙粘土を再び包んでポケットへ入れると、次の穴を求めてオレは歩き出した。まだ志野田さんがついてくる。

「ナニか用デスカ」

「ああっつめたいっ。隣の席になったときはあんなに熱心だったのに!」

 たしかに質問攻めにしたともさ。さっぱり無駄だったけどな。けっ。「えへっ」しか言わなかった奴が何を言う。

 業を煮やしたか、志野田さんは小走りでオレを追い抜いて目の前に回りこみ、さらに網を目の前に突き出した。慌てて足に急ブレーキをかけて止まる。あぶねーだろうがっ!

「何色ですかっ?」

 だから七色グラデーションと答えただろうがっ。しつこいな! 以前の質問攻めの意趣返しかっ。オレへの挑戦状かっ!

「中身は?」

「だから空の網がなんだってんだっ」

「これだもんねー。だから片瀬に意味ないっていわれちゃうんだよ。でも絶対おかしいって! この網を見て七色とか言う人っていないんだよ。みんな白っていうんだよ。私にだって光沢ある白にしか見えないし、今までそんなこと言った人はいないよ。なんで嵐山サマには七色なの」

「なんだそれは」

「しかも必殺のえへっも通用しないしさっ。なのに網の中に何も見えないってどーゆうことっ! 本当は見えてるのに知らんぷりして私のことからかってるんじゃないの?」

 しーるーかーよー。何を言ってんだ、こいつは。言いがかりだ。それにしてもヘンだな。さっき階段から落ちたときには頭は守ったと思ったんだけどな。どっかミスって打ったかな?

 オレの足を止めさせて、あとは畳み掛けるように喋りまくる。意味不明だ。扱いにもてあましたオレは、小柄な志野田さんを見下ろしていたが、視線をさり気なくそらしてちょっと先の壁を見る。

 穴みっけ。

「ちょっと聞いてる?」

 はいはい、聞いてません(きっぱり)。イカレタ話はスルーさせていただきます。

 まくし立てる網女をほっといて、穴のところまで移動。また紙粘土を取り出して埋める。背後で文句を言っているが知らん。

 窓の外を見ると朝遠くに見えた雨雲が迫って来ているようだ。傘は持ってないし、そろそろ引き上げた方がいいかもな。

「帰るか」

「ええっ! もう帰っちゃうの?」

 あまりの驚きように、こっちがびっくりする。

「オレが帰ると、ナニか問題ありか」

「え、だって完全下校時間までまだかなりあるよ? 勝手に帰っていいの?」

 あ~、勘違いをしておるな。

「オレは部活入って活動しているわけではないんデスガ。好きな時間に帰りますヨ」

「あ。あ、そっか。ボランティア……だっけ。なんかよく放課後に見かけるからなんとなく部活動やってるような気がしちゃってた。そうかー、もう帰っちゃうのか。寂しいなあ」

 本気でがっかりしたような、少し寂しげな表情を見せた。それを見るとなんだか帰るのが悪いような、惜しいようなそんな気がしてしまう。 オレは手を志野田さんの肩に置こうと右手を上げかけ・・・・。

 待て。相手は網女だぞ!? 

 オレは手を引っ込めた。

 超絶ヘンな女代表だぞ。正気かオレっ。さっき頭打ったのは志野田さんじゃなくてオレか!? オレなのか!? でもタンコブできてねーぞっ。

 志野田さんと無言で向かい合い、立っているオレ。想定外なことに頭の中は混乱だ。そこへ志野田さんの背後の向こうから片瀬が虫取り網を担いでぶらぶらと歩いてくる。

 そうだ、片瀬。網女と網男はセット商品だっ。わけのわからんものは、分かる者に押し付けてしまえっ!

「おう、彼氏のお出ましだぞ」

 オノレの混乱をひた隠し、さっきは引っ込めた手で志野田さんの肩を軽く掴むと、片瀬のいる方へくるりと回し押し出した。彼女は目をぱちくりさせている。

「な、なんで彼氏!? すんごく違うんだけどっ。っていうか、勝手にカレカノにしないでよっ」

「よく一緒にいるように見えるし、仲良さそうだからてっきりそうだと思ってたけど、違うのか」

 クラス内では片瀬、志野田カップルと密かに言われて定説になっているのだが。おや?

「ちっがっうっ!! ああーっ、シンジラレナイッ。くそう、だから片瀬が来るとニヤニヤ突かれるのか。あの疫病神っ」

 なんだか地団駄ふんでるよ。あいつ背が高いし顔もいいし、普通喜びそうなもんだが。

 志野田さんはキッと顔を上げると、さらにまくし立てた。

「クラスが隣だから、研究会でよく組まされるんだよ。うちのクラスによく来るのはあっちが3組、こっちが四組で、連絡網的には順番だからなのっ。私だって片瀬から伝達がくれば五組の研究会の子に伝えに行ってるんだからね。ああもう、大誤解だよう」

「へー、そうなのか」

「そうだよう。大体片瀬がうちのクラスに長居するのはアンタのせいだからねっ。アンタがよくオカシナ遊びをしてるから、面白がって便乗して遊びに来てるんだから」

 そういえば昼休みの終わりに網男も似た事言ってたような。まったく人聞きの悪い。

 このままいると、際限なく網女に食って掛かられそうだから、相手は今度こそ片瀬にバトンタッチして退散しよう。

「じゃあな~っ!!」

「あっ待ちなさいよっ」

 今度は走って去ることにする。すれ違いざま片瀬に「よっ」と挨拶をして駆け抜ける。走るオレの背に志野田さんの声が届いた。

「さっきは助けてくれてありがとう!」

 ホントはそれが一番言いたかったと声が届いたから、オレも振り向いて言っておいた。

「パンツは見えなかったから安心しろよーっ!」

「ばかーっ!!」

 見なかったと教えてやったのに、馬鹿とは何事か。

 昇降口を出るとやはり雨雲がゆっくりと近づいてきている。あとは寄り道しないで帰るとしよう。

 でもまあ、カレカノじゃなかったのか。そーか、そーなんだ……。

 オレは空を眺めながら、のんびり歩いて校門を出て行った。


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