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入学から三ヶ月。朝のホームルームまでの時間、窓に寄りかかって空を見上げるオレ達。ずらっとヤローばかりが並ぶその光景は傍から見ればかなり間抜けだ。そのうちの一人がいう。
「いいーてんきだなぁ……」
かなり遠くに雨雲みえっけどな。とは口には出さない。どーせ降るのはずっと後。
でもまあ確かに真上を見れば雲ひとつないスカイブルー。思わず眠くなる。
そんな風に教室内のまったりざわざわした空気のなかで、野郎ばかりでぼーっとしていたところにバタバタと虫取り網女=志野田サンが駆け込んできやがるし。ちょうど窓側の席だからな。
「おっ、おはよっ!」
「……あー、おはよーさん」
重い頭を持ち上げて、おざなりに挨拶してみる。只今オレの席は彼女の隣。一応近所づきあいという奴か。
このクラスには虫取り網女=網女は一人だけだ。網男もいない。平均して一クラスにつき一人位はいるようだが、もちろん居ないクラスも、二人いるクラスもある。
彼らは「研究会」という名称の部活として活動している。前に何もつかない、ただ単に「研究会」。入学早々のオリエンテーションでそんな部活の紹介はなかったと思うし、配られた部活紹介小冊子にも載ってなかった。が、生徒会所有の組織図にはちゃんと載っているそうだ。れっきとした部室も存在するし(実際見て確かめたし)。
この研究会は他の部との兼部が唯一認められていて、また、現部員からの推薦、または学校からの推薦がなければ入れず、さらに入部資格が厳しいとかいう話だ。
(どんな資格なんだか。虫取り網持ち歩いて能天気でいられれるヤツとか?)
研究会とかいって、ナニを研究しているのやら。いや、コレが生物部とかで昆虫とかイキモノの研究をしているとかいうならオレも気にしなかったかもしれない。んが、違うという。じゃあ網を振り回してナニやってんだと思うだろう。……何か捕獲したのかと思いきや、網の中には何も入っていなかったし。
また分からないのは周りの反応だ。初めて志野田サンが虫取り網を持って登校してきたとき、クラスの誰もヘンに思わなかった。いや、最初は確かに戸惑った彼女の友人が「何故虫取り網を持っているのか」と聞いたはずだ。が、
「部活で使うの~。えへっ?」
の一言で、その場で聞き耳立ててたやつ含めて「ああ、そう」と何の疑問もなく、それ以上の追求もなく受け入れてしまったのだ。それは他のクラスでも同様だったらしい。むしろ疑問に思って問い詰めるオレの方が変わっていると見られる始末だ。何故注目されない。学校側公認しているようだし。
5月に入り、席替えで志野田サンの隣になったのを機に、オレは質問攻めしてやったが、分かったのは以上のことで、何かといえば「えへっ?」だ。ちくしょうめ!
席に戻ってぶつくさ言っていたのを、隣でかばんの中のものを机にしまいながら聞き咎めた志野田サンは
「だぁーって、それがキソクなんだもん」
「……男もかよ」
「そーだよ? えへっ?」
わざとらしく人差し指を頬にそえて、特別にっこりの作り笑い。それが可愛かったりするから余計頭に来るんだコンチクショーッ! そんで目線がオレの後ろに流れていくから、何だと振り向くと虫取り網を持ったヤローがうしろに。思わず目が合っちまった。
「……エヘっ?」
無表情な野太い声で言いやがった。げんなりだぜ、コンチクショーッ! 誰が哀しゅうてヤローに言われなきゃならんのじゃ(しかもオレより背が高くて女子好みの男前っ。二重にむかっ)。
そいつはつかつかとオレの所にやってきて、肩をぽん。志野田サンも反対側をぽん。
「大丈夫だ。コレが効かなくても、ソンはしても得はしない」
「そうだよ~。百害あって一利なしだから♪」
「なんじゃそりゃーっ!!」
前後から意味不明な駄目押し二連発。悶絶してカオを真っ赤にしたオレが机に突っ伏していると、頭上で奴らは業務連絡しやがるし。そんでカラコロ予鈴が鳴る。
「昼休みに部室な。ちゃんと連絡したからな。忘れるなよ」
「了解了解。ちゃんといきまーす」
オレが顔を上げるとヤロー -片瀬冬馬が網を担いで去っていくとこだった。目が合うと嫌味のごとく、ことさらに無表情で
「エヘッ?」
「こーのーっ。アミ男ーっ!!」
きらきら光る網を面白そうに揺らしながら自分の教室に去っていった。 その様子を見ていた志野田サンは半眼でぼそり。あたしなんか「網女」よばわりなのにーっとぶつくさ。……なんだソレは。同じ扱いしてやってるだろーがっ。
「なぁーんか、片瀬に気に入られてるよね。仲良しじゃん」
「どこがだっ!?」
どこをどう見たら仲良しかっ。
「だってさー、なんか楽しそうだもん。案外気が合うんじゃない?」
「かーっ! あんなキラキラ七色網を恥ずかしげもなく持ち歩くヤロウと気が合うわけあるかぁーっ!!」
「え!? 七色って、……ちょっと!」
ちょうどキンコンという本鈴の音とともに担任が入ってきた。志野田サンは何か言いたたそうにしていたが、諦めておとなしく席に着いた。
三時限目は体育だった。本日の水泳には丁度良い天気なのは幸いだが、水温がまだ低いのが難点だ。
体育は隣のクラスと合同で、男女別れての授業だ。
野郎の方が着替えは早い。ゆえにオレが真っ先に目にするのはヤロウのスクール水着軍団だったりする。華のないことこの上ない。ああむさい。
「そりゃこっちの台詞だ。ムサイ代表!」
「なにおうっ! このひょろい体をみろっ。あのけむけむ(毛深い)髭男よりマシじゃあ!」
「それはたしかにっ! ラグビー部の暑苦しさより数段上という、けむけむに勝てるものはなしっ」
……ちなみにけむけむ男とは、これから登場する我が校の体育教師(独身)のことである。どうみてもラグビー部とか柔道部とかマッチョな体育会系にしか見えない、顎鬚、口髭、グラサンな教師(しかも毛深い)。なのに何故か華道部顧問……。ゆえにそのミョーに可愛らしいあだ名は、代々の華道部部員(女子多数)によって「けむけむ(ひらがな限定!)先生」と命名され、みょーに愛されている。今ひとつ可憐な花を生けている姿が想像できんっ。
ま、くだらんこと言い合うのは、青い春な男子高校生のたしなみというモノである。この掛け合いを堪能しないのは大いなる損失である。そのヘンを今ひとつ女子高生というのが理解しないのは、まったくもって嘆かわしいことである。「箸が転がってもオモシロイ」年頃で、同じように下らんことで笑い転げている人種だというのに、まったくオノレをわかっとらんのである。
それはともかく。そういえば片瀬なるあみ男は隣のクラスであって、ふと見れば我がクラスのあみ女とともに虫取り網を担いで登場なわけで、こんなところにまで……とげんなりする。
「えへっ?」
目が合えば毎度おなじみごまかし笑い。不覚にも意外とスタイルのいい志野田のスクール水着に、うっかりちょっぴり胸キュン(死語)してしまったが、片瀬のソレは何とかならんのか。野郎のエヘッは不気味に寒いわっ。
「そう言われてもねーえ?」
「俺も好きでやってるわけじゃない」
「「キソクなんだから仕方ない」」
ふたり声をそろえていいやがりましたとさ。
志野田はそのまま女子組みの方に去っていく。片瀬はプールを囲むフェンスに虫取り網を立てかけながら言う。
「コレだって常に持ち歩けって言われているから持ってるだけだからな。学校も推奨中」
「それも謎だ。授業中振り回すのも可か」
「なるべく休み時間にやるようにはしてるが、仕方ない場合もあるさ。……わけわかんないだろ?」
「さっぱりだ」
「だけど俺にしても志野田にしても他の連中にしても言えるのはそこまでさ」
「あとは『えへっ』か」
「えへだ」
オレを見下ろしてにやっと笑った。くそっ、ほんと背が高いな、こいつ。
実際ここまで聞くやつもいないだろうが、答えてくれることもあまりないようだ。ぎりぎりの所まで二人には答えてもらっているらしいことは察している。研究会について突きまわしたところで何がどうなるわけでもない。他に興味を持っている奴もいないし、利益も何もない。ただオレとしては感覚に引っかかった、不確かなものに名前をつけて落ち着かせたいというか、まあ、落ち着かない気分をなんとかしたいだけの問題だった。
よって、結果を周囲に触れ回る気もさらさらない。ゆえに最大限の情報を教えてくれるのだろう。
が、うさんくさいこと、この上ないという認識に変更点なしっ。
「お、けむけむ先生登場」
「あ~、行くかぁ」
「男子集合!」
これから一時間、ひたすら泳がされる耐久レース。た、たまらん。
「うぉら~っ! 野郎どもおよげぇっ!」
救いなのは25mの一方通行であって、ゴールまで行ったら一旦水から上がり、スタートまでプールサイドを歩いて戻れることだ。少しは休息がとれるってもんだ。
それでも最初は「誰が一番多く本数が泳げるかレース」をやるのはお約束。無駄にがむしゃらに泳いで後は力尽きてぷかぷか……ぢゃなくて、だらだら泳ぐ。結局誰が一番かわからない。基本だ。毎度のことで賭けにすらならん。
授業終了五分前の女子担当教師のタイマー音が救いの手。女子は着替えに時間がかかるため、五分前にプールを上がれるのだ。男子はその音でけむけむ男に無言の「おわれや~」圧力をかけ、圧力に屈っしてんのか、してないのかわからんタイミングで引き上げ命令。女子の姿がプールサイドから消えた頃合に、オレ達は陸に上がる。屍状態。疲れた体にムチ打って、いそいそタオルを巻いて退場退場。
しかし素直に退場しないのは片瀬で。どー見てもへとへとなのだが(しっかりレースに参加して玉砕しとった)、虫とり網を手にとると、それをヤケクソのように振り回しながらプールサイドを歩いていた。一周するらしい。そういえば志野田サンも一周していた気がする。オレはまだ泳いでいたから確証はないのだが。
振り回して何になるのか。なんとなく眺めてしまったが、馬鹿馬鹿しくなってプールを後にする。
ふと足元をみると小さな穴。まったくボロイ設備だよな。
四時限目のこと。水泳で疲れて眠くなって意識朦朧。目が覚めたのは網女のせい。
かたんと音をたてて立ち上がると、挙手。当然といえば当然。オレのように半ボケしたヤツも教師も志野田サンに注目することになる。
「授業中失礼します。授業続けてください」
いつものことではあるのだが、その一言でみんなの注意は志野田サンから完全に離れ、本当に何事もなかったかのように授業が再開される。
(オレ以外は。)
網女は虫取り網を片手に前方へ行くと、くるりと回れ右。丁度教室中央の上の空間へと網を一薙ぎした。にっこり笑った志野田サンはそのまま柄を滑らせて網を手繰り寄せようとしたところで。
ごいんっっ
柄頭がクラスメイト男子の後頭部へ直撃した。
「げっ!」
といったのはオレだけ。
完全に無警戒の無防備だったところへ勢いよく小突かれ、哀れ鈴木は机に突っ伏すハメになった。
「ごっ、ごめっ!」
慌てた志野田サンは振り向いて謝りかけたのだが、すぐに被害者・鈴木が起き上がったのを見てその後のコトバを飲み込んだ。小走りに自分の席に戻ると、
「じゅ、授業中失礼しましたっ!」
と挙手していうと、冷や汗だらだらで席についてしまった。
おいおい、謝らんでいいんかいな。と、思ったが、肝心の鈴木が一つも騒がず平然と授業を受けているので拍子抜けした。脅威の石頭! と思ったが、少しは痛覚があるらしく、後頭部に何度か手をやっていた。
思わず志野田に非難の目を向けたが、ちょっと引きつった顔で「えへっ?」、だ。何か言ってやろーかと思ったのだが、なんというタイミングかっ。オレの腹の虫が「きゅ~」とかかなり情けなくもカワユラシイ音を立ててしまい、それに気づいた網女にニヤニヤ笑いされるハメになった。がーっ! ちくしょーっ! そうだ、オレは実は腹が減ってたんだ(眠くて忘れていた)。授業終わったら購買ダッシュだっ。腹減った!
かくて気恥ずかしさも手伝って「鈴木の石頭事件(なんか違うダロ)」は、つかの間忘却の彼方へといっちまい、うやむやになり、オレの頭はそれ以後「腹減った」「売り切れ必至!(富士宮)焼きそばパンゲット作戦」がぐるぐる回っているのだった。
授業終了まであと一分。さり気なく椅子を後ろにひいて、すぐに飛び出せるように用意。
一番人気は焼きそばパンだが、侮ってはいけないのは焼きそばパンにも二種類あるってことだ。一つは普通の焼きそばが入っているやつ。もう一つは富士宮焼きそばが入っているやつで、そっちは数が少ないから高倍率。
普通の焼きそばパンをゲットするにしても、終了と同時にダッシュ、ダッシュ、ダッシュのひたすらダッシュだ。ま、今日はコロッケパンでも可だが、できれはダントツ一位が欲しい。
じりじりしているオレに網女の視線がなんだかな。思えば朝からで、さぐるような妙な視線はなんなのか。いつも探るのはオレのはずで、なんかおかしい。どたまでも打ったか、さてはオレに惚れた~(爆笑)。なんてありえんっ(断言)。片瀬いるし。うん。
そういえば今日の午前中は授業が始まってみると慌しかった。
二時限目は英語で、予習をしてなかったらしい志野田サンは友人を捕まえて、和訳されたノートの中身を必死に写していた。
隣のオレに頼まないのは、オレの字が汚くて読めないのではなく、ノートにはオレがわからん単語と連語、ちょっとややこしい和訳がメモ程度にしか書かれてないせいだ。なんでそーなるかといえば、単語さえわかっていれば長文でも別にその場で訳せるから問題ないから。コツってあるし。そんなもんで時間と手の疲労をさせるのはモッタイナイ。
かくして世間一般の英語予習ノートの役には立たんオレのノートを借りようとするヤツはいない。
三時限目は体育=水泳だったため、前後の休み時間はその移動と着替えで費やされたわけで、結果としてまともに会話をする余裕がなかったといえる。そんでようやく昼休みで45分間の時間がある。
で、志野田サンのなんか言いたげな視線となると、キケンかもしれず。授業終了と同時につかまれば焼きそばパンゲット作戦完遂が危うくなるかもしれん。……ん? まてよ。昼は部室に連行だっけか? なら大丈夫か?
あと少し。授業終了までのカウンドダウン。オレはポケットの財布を確認する。机に両手をかけて、準備おっけー。志野田サンがヘンな顔してるがかまわんっ。邪魔してくれるなよ!
のんびりした教師の声がスタートの合図。
「今日はここまで」
「ありがとうございましたっ」
いくぜっ!
勢いよく立ち上がり、ドアの方へ体を向けたとたん、つんのめった。なんじゃいっ。
「ちょっとまって!」
くそっ、ベルトを掴まれた! オレの目の隅をザ石頭・鈴木や佐藤やら、野郎どもが駆け去っていく。
うわっ出遅れるっ! 昼のパン争奪戦参加者の行く手を遮ってはならんという鉄のオキテを知らんのか。この女はっ。
「はなせ、網女! オレの(富士宮)焼きそばパンがっ」
「話があるんだってば」
「オレの予定にはないっ。お前は部会だろうが。後にしろ!」
そこへ網男・片瀬がやってきた。渡りに舟といえば舟だろう。いつもサボリ気味なのか、忘れ気味らしい志野田サンを強制連行しに来たらしい。もういい。このまま引きずって引き渡してやるっ。
オレは志野田サンのベルトを持つ腕をぐいと掴んで引っ張った。少々強引だがかまうもんかいっ。
「おらおら、迎えだぞっ。サボるなよっ。逃亡は無駄だぜっ。モッテケ片瀬」
「痛っ! ひどっ!?」
「なに? サボるだと? しーのーだーっ! 朝あれだけ言っただろうが。どういう了見だ」
目を白黒させる網女を無視して、掴んだ腕を片瀬にぐいと押し付けた。オレと目を合わせた片瀬は「うむ。」とうなずいて鷹揚に網女の腕をがっちり。意思の疎通が微妙にズレたアイコンタクト完了。
「ち、ちがうってっ。ちょっ、嵐っ、待ちなさいよ、この馬鹿ぁーーーっ!」
しめしめ。完全に片瀬に捕まった。誰が待つもんかい。オレは網女の手を振り払って廊下に飛び出していった。
教室に戻ってくると志野田サンも片瀬もすでにいなかった。そらそーだ。まだいたらヘンだ。
室内は女子の幾つかのグループと、弁当組みの男子、それから一番に飛び出していった鈴木達が戻っていて、焼きそばパンにぱくついてやがった。
やはりあのタイミングで行けばゲットできたのだと思うと、網女が恨めしい。
オレに気づいて鈴木達がにやーっとこれ見よがしにパンを見せびらかした、ちくしょーめ。
あの女のおかげで一番人気の焼きそばパンはゲットできなかった。どっちの焼きそばもだ。富士宮やきそばはコシがあって歯ごたえ十分でうまいんだがなあ。でもまあ、コロッケパンと新製品の鶏カラパンがゲット出来たからよしとするか。ついでに案外レア品のプリンもあったし。
「それでもオレには鶏カラパンがあるのさっ! それとプリン」
「なんだそれ。鶏カラ? そんなんあったか?」
「見よっ、新製品! ホットドックパンに鶏のから揚げ4つとちびっとサラダ菜でどーだっ!」
「おっ、ほんとだ。気づかなかったなあ。サラダ菜ちびっとってところがなんともいえん魅力だなっ」
とかなんとか。鈴木達のグループに混じってみる。
「しかし今日は災難だったなあ。志野田につかまってたじゃん。いつもはお前が質問攻めしてんのに、逆だろ。なにやったの」
「知らんっ。網女の考えることぞんざ知るかっ」
「でもさー、嵐山もなんでそんなに志野田にちょっかいかけてんだ? ホレた?」
「なにをいうっ。お前らあの虫取り網が気にならんのか」
「別に普通の網だろー。特に害はないしさ」
思わず鈴木の顔をまじまじとみた。害がないってさ。うっそー(ボー読み)。
「……授業中に狭い教室で振り回して危なくねーか? あれはどーよ」
「そうだっけ? おぼえてねーなぁ」
覚えてねーって、オマエの痛覚どーなってんの? さっきの後頭部直撃はどーした。あれはいいんか。痛くないのか。そうかオマエはゴーレムか。
ますます凝視してると、あれ? 違和感が。さっきから鈴木はやたらに後頭部に手をやっている。なでている。
「鈴木、お前、さっきから頭に手をやってるけど、どーした?」
「お? あれ? なんでだ?」
無意識だったらしい。オレに言われて気づいたようだ。そのまま頭に手をやっていたが、顔をしかめていった。
「なんかタンコブ出来てるなぁ。なんだ、これ。いつやったんだ??」
それはばっちり志野田サンのせいだろうよ。それ、わかってないんかい。
「4時間目に心当たりは」
一応聞いてみたが。
「ないっ」
きっぱりと男らしく断言しておった。そーですか、心当たりないデスカ。タンコブまで作らされても心当たりありませんか。まったくわけわからん。
ため息ついて壁をみる。毎度おなじみ小さな黒い穴。シャープペンか何かで暇つぶしに彫ったんだろ。しょーもない。
「うしっ、食った。サッカー行くぜぇぇぇぇっ」
「おーっ!」
エネルギー補給したオレたちはゴーレム鈴木(改名)とともにグラウンドへ飛び出した。