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とある○○の主人に対する見解

作者: 戸崎 涼

 私の一日は、主人を起こすことから始まる。


 毎日決まった時間に声をあげて、主人を眠りの深淵から引っ張り出す。ただそれだけのことなのに、これがなかなか難しい。

 私の主人は、朝にめっぽう弱いのだ。どれほどかと言うと、ウェイクアップからゲットアップまでに優に1時間はかかるほど、寝汚い。

 今日もまた、枕元で歌う私を主人は目を開けることすらせずに手探りで黙らせた。

 ……とはいえ、これくらいは想定内。すぐ2分後にまた起こしにかかるように決められているので、この間に少しでも主人の頭が覚醒することを祈ろうと思う。


 私の主人は、少々ガサツというかおおざっぱなところがある。例えば、少し時間にルーズだったり、忘れ物が多かったり、メールの返信を滞ったり、寝癖を気にしなかったり。

 あと、私を連れ歩かないこともしばしばあった。年頃の女の子としてどうなのだろうと思わないこともないのだが、所詮私には助言も出来ない。


 そんな主人が、最近少し変わった。


 上の空になることが増え、よく鏡を見るようになった。身だしなみにも気をつけるようになったし、そしてなにより、私をいつも傍に置くようになった。

 少し前までは考えられなかった程に私を気にするようになった原因は、どうやら主人の所属するサークルの先輩にあるらしい。

 傍にいる時は無意識に目線が彼を追うくせに、面と向かって話す時なんかは目を合わすことさえ出来ない。そして別れたら別れたで、彼からのメールがないかそわそわと私に確認する。

 つまりは、恋だ。

 人は恋をすると変わると言うが、それは本当だった。

 主人も例に漏れず、日々自身を磨くのに必死である。なまじ以前がおおざっぱだったせいで慣れないことばかりなので、なかなか苦戦はしているようだが。


 そうこうしているうちに、何度目かのスヌーズ機能でやっと目を覚ました主人がのそりと布団から起き出した。

 今日は日曜日だ。普段ならこんな時間から主人が起きることはありえないことだが、今日は特別。なんと、件の先輩と会う約束をしているのだ。

 大きなあくびと伸びを一つ。眠気覚ましを兼ねて冷水で顔を洗って、昨日1時間かけて選んだ服に着替え、そこから入念に時間をかけてブローとメイク。

 流行りのJ‐POPを口ずさむ主人のその口元は緩く持ち上がっている。そういえば、気がつけば今まではあまり聞かなかった恋愛の曲も、私と主人のレパートリーに増えていた。


 身支度を終えて家を出て、少し早足に待ち合わせの駅に向かいながら、主人は私を確認する。

 最近新しく作られたフォルダに届いていた新着メールにふわりと笑って、返信。絵文字もろくに使わなかった主人が少しためらってハートマークを打つ、その指先がくすぐったい。

 駅に向かうにつれて、少しの緊張から鞄と私とを掴むその手には力が入ったのがわかる。しかし、何よりも好きな人に会えるという期待からか主人の足取りは軽い。

 そして、ついに見慣れた背中が視界に入ると、一度ぎゅっと私を握りしめた。


「先輩!」


 主人の声に、彼が振り返って緩く片手を挙げる。主人はそれに破顔して、私を鞄の奥にすべり込ませて彼に駆け寄った。


 ……どうやら、今日の私の仕事は、鞄の底から彼女の恋路を応援することらしい。


登録記念に以前書いたSSを載せてみました。

何目線か、わかりましたでしょうか。

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