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山暮らし  作者: のきした
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鬼の娘と鬼のような男

 源一郎と輝彦がその丘につくと、1人の女性が佇んでいました。源一郎はあいつが鬼か、と呟きました。

 しかし、輝彦には普通の年若い娘にしか見えません。

「福助を救うには鬼を退治するしか方法がないのでしょうか。娘も助けると約束したのです」

 輝彦は源一郎に尋ねました。源一郎は否と答えました。

「人間に戻ることは出来ないが、怨みを忘れられれば退治する必要はない。しかしそれはなかなか難しいことだ」

 輝彦はそれならば私に任せて下さいませんか、といいました。好いた男に裏切られ、なお退治されなければいけない娘を哀れに思ったのです。

「お前の優しい心ならば、出来るかもしれん。お前の言葉が心に響けば、矢を付けず、弓を娘の胸に向かって引け。そうすれば、怨みも浄化するだろう」

 源一郎はそう言うと、どかりとその場に座り、輝彦を見守る姿勢を取りました。

 輝彦は源一郎の言葉を胸に娘に近づいていきました。

「そこの娘さんはお花さんという方ですか」

 輝彦は話しかけました。

「お花という娘は死にました」

 娘は静かに言いました。

「何故、お花さんは死んだのですか」

 輝彦はなお尋ねます。

「ある男に裏切られ、悲しみの余り、首を切りました」

 娘は答えます。

「それは悲しいいことですね。では、貴女のお名前はなんと仰るのですか」

 輝彦は優しく話しかけます。

「私に名などございません。ある男を怨み鬼となりました」

 娘は語ります。

「怨みたくはございません。ですが心が闇のように暗く、苦しいのです。あんなに愛したのに、憎くて憎くて仕方がないのです。私は自分が恐ろしい」

 輝彦は屈み、側に咲いていた、白くて小さな花を摘みました。

「貴女はとても優しい方なのですね。この白く小さな花のように可愛く、心が美しい」

 輝彦のその言葉を聞くと、娘はバッと輝彦の方を振り替えりました。

「私がかわいい。心が美しい。そんな陳腐な嘘をつくな! 男はみな嘘つきだ!」

 娘の顔は般若のようでした。しかし、輝彦には可愛らしい娘が精一杯、怖い顔をしているようにしか見えませんでした。

「見ろ! 私の醜い姿を! 私の醜い心を!」

 娘は吼えるようにそう言うと、輝彦の腕に鋭い牙で噛みつき、鋭い爪で掴みかかりました。

「お前なんぞ喰い殺してやる!」

 輝彦は腕を噛まれながらも、娘を抱きしめました。

「貴女は醜くはない。醜いふりをしているだけだ。現に貴女を裏切ったという男は病に伏せてはいるが、死んではない。鬼となってもなお貴女の優しい心が殺すことを拒んでいるんでしょう」

 娘の噛む力が少し、緩みました。そうして、涙を一筋流しました。

「どうか、助けて下さい。私にそんなことを言う資格はないかもしれませんが……私を成仏させて下さい」

腕から完全に牙を離した、娘の顔は可愛らしい娘の顔になっていました。

 輝彦は娘を離し、少し距離を取りました。そして、源一郎の言った通りに矢をつけず、弓を娘の胸に向かって放ちました。

 娘は見えない矢に討たれように、うつ伏せに倒れ、その瞬間白い花が舞った。

 輝彦は慌てて娘の側に駆け寄り、抱き起こした。娘は鋭い牙が口元から見えてはいたが、穏やかな顔をしていた。

「娘さん、大丈夫ですか」

 輝彦は娘の頬軽く叩きました。娘は眉を少し歪め、目を開きました。娘の目は星が瞬いているように美しく、頬は桃の色のように愛らしく色づいていました。

「……私はいったいどうしたのでしょうか」

 娘は不思議そうに輝彦を見ました。

「貴女は鬼ですが、もう人を怨むことはないでしょう。貴女は生まれ変わったのです」

 輝彦はそう言いました。

「そんな……。もう生きている意味もないのに。人間にもなれずどう生きればいいのか」

 娘は俯きながら、そう言いました。

「そんなことは言わないで下さい。もし貴女さえ良ければ私達と共に生きませんか。私の母も娘が出来ると喜ぶでしょう」

 輝彦は優しい眼差しで言いました。

「こんな醜い鬼の娘、喜ぶはずがありません」

 娘は悲しみを滲ませながら言います。

「そんなことはありません。私は貴女を可愛らしいと思います。醜いというのは私のことを言うのです」

 輝彦は笠を外し、素顔を晒しました。娘は驚いたように、目を見開きましたが、優しい手つきで輝彦の二つのコブをなてました。小さいころかつての母が撫でてくれたように、その手つきは慈愛に満ちていました。

「……私に優しい言葉をくれた方の何が醜いのでしょう」

 輝彦は娘を抱え起こしながら、自分の心が温かくなり、心の臓がドクドクと激しく打つのを感じました。

「私の名は輝彦と申します。あそこにいるのが私の父の源一郎です。共に参りましょう」

 輝彦は娘を横抱きし、今まで成り行きを見守っていた、源一郎の下へ向かいました。

「よくやったな、輝彦。そして初めまして可愛らしい娘さん。よろしかったら名を教えて下さらんか」

 源一郎は温かく輝彦と娘を迎えました。

「申し訳ありませんが、私には名乗る名がございません。お花という娘は死にましたので」

 娘は申し訳なさげに源一郎を見ました。しかし源一郎はそれを聞くと、大きく笑い声を上げました。

「お前達はなんだか、よく似ているな。よし、輝彦、娘さんに似合いの名を送ってあげなさい」

 輝彦は戸惑いましたが、娘の期待している眼差しに背を押され言いました。

「真白というのはどうでしょう。白い花の咲いている場所で出逢い、白く穢れのない心を持っていますから」

 輝彦のその言葉を聞き、娘は可憐な花が咲いたように笑いました。それを見た輝彦も、恥ずかしげに笑い返します。

「似合いの二人だ」

 源一郎も満足気に笑いました。そうして三人は椿が待っている屋敷へと帰って行きました。きっと椿は美味しい料理を作って待っているでしょう。そして、新しく出来る娘を喜んで迎えいれるでしょう。


 季節は何度も巡り、山に沢山の色を運んできます。そね中で源一郎と椿、輝彦そして真白は幸せにくるまれて過ごします。

 鬼の娘と鬼のような男が結婚するのはまた別のお話し。それでもきっとそのお話しは輝きに満ちていることでしょう。


連載を初完結させることが出来ました。そして、期限に間に合うことも。

ここまでお付き合いしてくださった方々、誠にありがとうございます。

タグやあらすじと微妙に違うことになってしまい申し訳ないです。

でも読んでいただけて、本当に嬉しいです。

ありがとうございます。

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