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山暮らし  作者: のきした
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醜い鬼の子

暗い出だしで、申し訳ないです。

 ある里のある若夫婦に男の赤子が産まれました。しかし、その赤子にはちょうど両瞼の上のおでこに、小さなコブのようなものが二つ出来ていました。

 赤子の父親は二つあるコブを見て、鬼のようで気味が悪い、と言いました。それを聞いた母親は、きっとそのうちになくなるわ、と答えました。 若夫婦にとっては初めて出来た子供だったので、母親には赤子がどんな姿でも可愛く思えたのです。父親もせっかく産まれた男の赤子を捨ててしまうのは忍びないと思い、育てることを決めました。しかし父親は赤子に名を与えはしませんでした。

 男の赤子はすくすくと育っていきました。けれども、身体が成長するに従って、二つのコブも大きく先が尖ってきました。男の子は大きなコブの重さのせいで目が半分しか開けられなくなりました。

 里の大人達は鬼の子だと陰で言い、子供達なんて男の子に、気味が悪いと言って石を投げつけます。そのため男の子の身体はいつも傷だらけの痣だらけでした。それは、よりいっそう男の子を醜くしました。男の子はいつも一人で遊んでいました。

 それでも男の子は幸せでした。家に帰れば優しい母親がいて、コブが無くなるようにと撫でてくれるからです。

 しかし男の子が八つになったとき、その優しい母親も変わりました。また男の赤子が産まれたのです。今度の赤子はフクフクとして大変可愛らしい姿です。

 それを見た母親は一気に、最初の男の子を気味悪く思うようになりました。男の子がいつものようにコブを撫でて貰おうと来ても、冷たく追い払うようになりました。

 男の子は自分は何か悪い事をしただろうか、と悩みました。そして初めて悲しい気持ちが溢れました。半分しか開かない目からは大粒の涙がボロボロと零れ落ちました。泣いた男の子のくしゃくしゃの顔はますます醜くく見えます。

 父親は醜い我が子を見て言いました。

「一緒に山に行って、狩りをしないか?」

 男の子は驚いて、涙が止まりました。父親に話し掛けて貰ったのは、今まで一緒に生活していて、初めてに近かったからです。それに今回は狩りにも誘われました。

 男の子は嬉しくて嬉しくてたまりません。

「行くよ! 嬉しいなぁ。父ちゃんと狩りに行けるなんて、こんな嬉しい日はないよ!」

 父親は狩りには準備が必要だから、明日にしようと言いました。男の子は明日が待ち遠しくてたまりませんでした。

 次の日、父親と男の子は弓矢を持ち山を登りました。里からどんどん離れていきます。男の子に帰り道は分かりません。それでも、父親と一緒だからと男の子は安心していました。

 父親は山に登っているとき、食べられる木の実や傷によく聞く薬草など沢山のことを話してくれました。男の子は教えて貰えるのが嬉しくて、絶対に忘れないようにしようと、頭の中で何度も教えて貰ったことを繰り返しながら、歩きました。

 父親と男の子が山の奥のそのまた奥に来たとき、父親は振り返りました。

「これから二手に分かれて狩りをしよう」

 父親はそう言うと、弓矢の引き方を簡単に男の子に教えました。最後に小刀を男の子に渡すと、さっさと木々の向こうへ行ってしまいました。父親は男の子を振り返ることはありませんでした。

 男の子は父親を追おうとしましたが、父親の歩く速さは一緒に歩いていた時よりも何倍も早く、追いつけませんでした。

 男の子は思いました。

(日が暮れたらきっと迎えに来てくれる)

 日が暮れるまで男の子は出来もしない弓矢を持って辺りをうろうろしました。

 男の子は自分が捨てられたのだとは微塵も思っていません。それでも、日が暮れても、朝が来ても、また日が暮れても父親は迎えに来てはくれませんでした。

 男の子は弱った身体で、ようやく自分は捨てられたのだと知りました。山に登る最中に父親が色々教えてくれたこと、そして弓矢と小刀をくれたのは彼の精一杯の愛情だったのだと理解しました。

 男の子は泣きました。醜い自分の二つのコブを恨みました。これさえなかったら幸せだったかもしれないのに、と悲しみました。

 男の子は泣いて泣いて泣いて、疲れはてて眠ってしまいました。

 山の木々達のざわめきは、醜い男の子を哀れんでいるようでした。

 山にはもう直ぐ、冬が来ます。この山で男の子が生き残ることはきっとないでしょう。

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