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第七話

※しばらく更新できず、申し訳ありませんでしたm(__)m


 お暇なときにでも、お読みいただけると嬉しいです!

二人がやってきたのは、人目のつかない校舎裏だった。


 薄暗く、じめじめとしたここは、人っ子一人いない。


 皆、食事をとるなら、もっと明るい食堂や、屋上、中庭などに向かうからであろう。


「ここでいい? ……あんま、話聞かれたくないんだろ?」


「うん。気遣ってくれて、ありがと」


「いや。気にしてない」


 彼の瞳は、いつもより真剣だった。


 普段は明るい人がこの表情を浮かべると、なかなか怖いものだ、と菜々は思った。


「で、どうしたんだ? 昨日の事で、また何かあった?」


 秀樹の問いに、少し口籠(くちごも)る。


 彼の幼馴染でもある、という舞花の名を出すのは、少し怖かった。


 今更、後にはひけない――そう思いなおし、菜々は口を開く。


「――私、犯人、分かったかもしれない……」


「本当かよ!? い、一体誰が?」


「菱本さん、じゃないかなって思ってる」


「菱本……って、舞花が!?」


 予想以上に驚かれ、菜々はびくりと肩を震わせる。


 いつもの彼ならそこで謝るのだろうが、菜々の告白はかなり衝撃的だったらしい。


 かなり表情が強張っている。




「――ありえない。まさか、あいつが……」


 しばしの沈黙の後、彼が呟いた言葉は“ありえない”だった。


 その後も、まるで狂った機械のように、ありえない……と連呼する。


 しかし、菜々は確信していた。彼女が犯人である、と――。


 確たる証拠が無くても、あの時感じた視線が、菜々に真実を告げていた。


「菜々。お前、多分勘違いしてると思う」


「え?」


 気が付くと、彼は同じ言葉を繰り返すのをやめていた。


 ただ、悲しげな瞳で菜々を見つめている。


「俺、あいつの幼馴染だから、よく知ってるんだ。……あいつ、舞花さ、そういう曲がった事が大嫌いなんだよ。弱い者(いじ)めとか、嫌がらせとか。昔からそういう事があると、真っ先に止めさせてたんだ。悪いけど、俺には、舞花が犯人だとは思えない」


「……そう、なんだ」


 その言葉に、菜々は、ズキン――と胸の奥が痛むのを感じる。

 

 秀樹の口調からは、彼女を大切に思っている、という事がよく伝わってきて……。


 不意に菜々は、休み時間の少女達の会話を思い出す。


“マジで!? 舞花と松浦君って、付き合ってたんじゃなかったの?”


 周りから見れば、菜々と秀樹なんかより、舞花と秀樹の方がお似合いに見えるのだろう。


 小学校からの幼馴染――という言葉が、急に菜々の頭の中を駆け巡る。


「……やっぱり、秀樹君には、菱本さんの方がお似合いなのかな?」


「菜々、何言ってんの?」


「ごめんね、折角呼びだしたのに、嫌な気持ちにさせちゃって」


「いや。別に、そういうわけじゃ……」


 そこで、ようやく秀樹はハッとした表情を浮かべる。


菜々に嫌な思いをさせてしまった、というのが、直感で分かったようだ。


「悪い。お前の気持ち考えないで、自分の事ばっか(しゃべ)っちゃって」


「ううん。私こそ、ゴメン」


 口でこそそう言うが、菜々の口調は(しず)んでいた。


 秀樹にもそれが分かるらしい。困ったように眉根を寄せている。


「ご、ごちそうさま。変な事言っちゃって、ゴメンね?」


「え。でも菜々、全然食べてな――」


「ごめんなさい!」


 菜々は、まだ半分以上残っている弁当を手早く包み、立ち上がる。


 そして、駆け足でその場から立ち去った――。




 秀樹君が悪いわけじゃない。……分かってる、そんな事。


 これは、ただの我儘(わがまま)で、逃げ出しちゃいけなかった、って、分かってる。


 分かっていたのに――どうしても、その場にはいられなかった。




 どれくらいの時間が経過したのだろう。


 気が付くと、菜々は校舎裏のトイレにいた。


 あまり人の訪れないここには、菜々以外誰もいない。


 そこで菜々は――声を押し殺して、泣いていた。


 人がいないのだから、嗚咽(おえつ)をこらえる必要は全くないのだが、無意識にもし誰か来たら――という恐怖が脳内を支配しているのか、大声で泣く事は出来なかった。


「菜々!」


 その時、菜々の耳に聞き慣れた声が飛び込む。


 普通なら、わざわざ暗い旧校舎まで足を運ぶ筈がない。


 菜々を探しに来た――と頭で理解する前に、菜々は、彼女が今、もっとも会いたくて、会いたくない者の名を呟いた。


「……秀樹、君?」


「残念でした。悪かったわね、松浦君じゃなくって」


「その声……こと、ちゃん?」


 そこには、呆れたような苦笑を浮かべる、親友の姿があった。


 琴音は小さく肩を(すく)め、ポケットからハンカチを取り出し、そっと手渡す。


「なんて顔してんのよ。折角の可愛い顔が、台無しじゃない」


「……んで、ここに?」


「松浦君に言われたのよ。“菜々と喧嘩した。謝りたいから、探すのを手伝ってほしい”ってね。もう、大変だったんだから……。多分松浦君、今も走り回って、あんたの事探してる」


 琴音の口調は、厳しかった。


 暗に、早く秀樹の元へ戻れ――と言わんとしているのが、菜々にも伝わってくる。


「……今、会いたくない」


「あんた、何言ってるの? 何があったわけ? 朝は、あんなに元気だったくせに」


「……っく――」


「な、菜々?」


 嗚咽混じりに、菜々は事の顛末(てんまつ)を話し始めた――。

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