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第十八話

 七月某日(ぼうじつ)。夏休みが始まってすぐ、委員達は招集された。


 部活動がある者も、基本はこちら優先だ。


 部活動に所属していない琴音と比較的活動の緩い文化部に属する菜々はともかく、陸上部の主将も兼任している秀樹にとって、それはかなり厳しい物だろう。


 しかし、当の本人は笑いながら“何とかなるだろ”の一点張りだった。


 それがどんなに大変な事か――中学生時代から運動部の経験など皆無(かいむ)の琴音に、理解出来る筈も無かった。




 全委員達の集まりの後、四人は、主に二年が活動を行う場所となる、第一図書室に集まった。


 少し余所余所(よそよそ)しい空気の中、秀樹が(なご)やかな笑みを浮かべたまま、口を開いた。


「――じゃあ、まずは自己紹介といきますか。……といっても、大体お互いの事は知ってると思うけど。俺、一組の実行委員、松浦秀樹です。これからよろしくな」


「に、二組実行委員の速水菜々です。足引っ張っちゃうかもだけど、これからよろしくお願いします」


「三組の塚本琴音です。よろしく」


「四組の白川登です。……その、よろしく」


 菜々も、白川とはあまり縁が無いようだ。きょとんとした顔をしている。


 秀樹は同じ男子だからか、流石に知っているようだ。


 おどおどとした態度の彼とも、親しげに接している。


「それじゃ、まずは装飾用の花作りといきますか。皆作り方、大丈夫?」


「私は平気。菜々も出来るよね?」


「うん。一応は」


 そんな中、白川だけは困ったように眉根を寄せていた。


 それにいち早く気付いた菜々は、彼に小さく微笑みかける。


 こういう細かい気配りの出来る所は、彼女の長所だろう。


「あ、よかったら、私教えようか? こういうの、結構得意なんだよね」


「え……あ――助かる」


 白川は少し緊張しているようだったが、菜々の(まと)うふわふわとした空気で、それも解けつつあるようだった。


 そんな和やかな雰囲気の二人を見つめ――秀樹は、どこか複雑そうな表情をしていた。


 そして、それを見つめる琴音もまた、複雑な心境だった。


「――でね、ここをこうして……」


「あ、さんきゅ」


 菜々の丁寧(ていねい)な指導に、白川はたじたじとなっている。


 あまり女子慣れしていないのも原因の一つだろう。


 そんな彼が、可愛らしい顔立ちをしており、思いやり(あふ)れる少女の菜々に惚れていくのは、時間の問題だった――。




 夏休みも半ばにさしかかると、運動部では大会や合宿などが増えていく。


 そしてそれは、陸上部も決して例外ではなかった。


 流石に大切な大会などを主将が抜けるわけにもいかず、必然的に秀樹が委員会に現れる時間は減っていった。


 それが、徐々に四人の関係をこじらせていく……。




 その日は珍しく、秀樹も活動に参加していた。


 彼曰く、今日は珍しく通常練習だから、少し早目に終わらせてきた――との事だ。


 その割には、(ほとんど)ど息は乱れていないのだが。


 相変わらず秀樹は、思い人の姿を、目で追っていた。


 しかし彼は、少女の隣に居る少年が視界に入ると、不快気に眉根を寄せた。


「ねえ、白川君。この書類の整理、手伝ってくれないかな?」


「分かった」


「――」


 この頃、秀樹があまり活動に現れなかったせいか、白川と菜々の仲は急速に発展していた。


 白川が菜々に好意を持っているのは、(はた)目から見ても明らかだ。


 適当に人付き合いをこなす琴音とは対照的に、生来面倒見の良い菜々。


 例え彼女にその気がなくても、周りに誤解を与えてしまうのは、仕方のない事なのかもしれない……。


「――もと、塚本」


「……え?」


 考え事をしていた琴音は、呼びかけられている事に気が付かなかった。


 顔を上げ、声がした方を向くと、無理に微笑みを浮かべた秀樹が琴音を見やっていた。


「書類整理は白川達に任せて、俺達は荷物運びに行こうぜ。ここにずっと立ってても、邪魔なだけだろ?」


「……うん、そだね。行こっか」


「ああ。白川、速水。後は宜しく」


 そんな二人のやり取りを見やり、今度は菜々が切なげに眉根を寄せる番だった。




 想いはどんどんすれ違い……二人の(みぞ)は、どんどん深まっていく――。

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