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第十話

 翌日、午後四時半過ぎ。優が帰ってくると、啓輔は、菜々の通う青港(せいこう)高校へと車を走らせた。


 啓輔はハンドルを操作しながら、これから行う事を整理する。


 まずは、関係者――松浦秀樹と、塚本琴音、そして菱本舞花に対する聞き込みだ。


 いきなり車内に誘い込むのも何なので、近くの小洒落た喫茶店にでも入って事情を聞くのが良いだろう。


 ……塚本琴音と松浦秀樹の二人はともかく、菜々と敵対関係にある菱本舞花が真面目に話を聞いてくれるかどうかは微妙だが。


 そんな父親の心情を察したのか、助手席に座る優が、啓輔ににこっと微笑みかける。


「大丈夫だよ。いざという時は、この優様に任せなさい! この得意な話術で――」


「あーはいはい。そりゃどーも」


「もう! ちゃんと聞いてよね!」


「はいはい」


 啓輔は小さく頬を膨らませる優の頭を、左手でぽんぽんと撫でる。


 子供扱いするな~やら、片手運転は危ない、なんて声が聞こえてきたが、華麗(かれい)にスルーする。


 その内、啓輔に真面目に取り合う気が無い事を察し、優は何も言わなくなる。


 小さく苦笑を浮かべ、啓輔はようやく左手を離した。


「あ……ねぇ、パパ。あれじゃない? 菜々さんの通う学校」


「ん? ……ああ。そうみたいだな」


 優が遠くに見える、大きな白い建物を指差す。


 カーナビを確認すると、確かにそこには、“都立青港高等学校”と刻まれている。


 どうやら、目的地は近いようだ。


 啓輔は、カーナビを見つめたまま、近くに車が停められそうな場所は無いか――と思案する。


流石に、校内に停めるのはまずいだろう。


 高校付近にコンビニの表示を見つけたので、そこに駐車する事にする。


 距離から推定して、高校から歩いて五分――まあ、丁度良い距離だろう。


 まもなく、啓輔はコンビニを見つけた。




 青港高校までの道中、買ったばかりの菓子パンを頬張りながら、優が問いかける。


「ねえ、パパ。いざ高校へ行くのは良いんだけどさ。……いきなり関係者でもないおじさんが潜入して、大丈夫なの? 大ごとになって、教師とか呼ばれたら面倒だよ」


「おじ……まあ、確かにな」


「どうするの? まさかとは思うけど、無計画とか?」


「――」


 啓輔の沈黙を、()と受け取ったようだ。


 優が困ったように眉根を寄せる。


「ただでさえ子供連れのおじさんなんて怪しさ満載なのに、その上“ねえ君、よかったら僕の車に来ない?”……なんて、犯罪者だよ? もしそんなおじさんがいたら、優だったら警察呼ぶよ。いやマジで」


「流石に、そんな(さそ)い方をする気はないんだが。まあ、ある程度は考えてあるから安心しろ」


「……ふーん」


「あ、あれっぽいぞ。青港高校」


 冷たい娘の視線をかわし、啓輔は白い校舎を指差す。


 車で遠目から見たものより、少し古く見える。


 啓輔の記憶が正しければ、確か彼の学生時代には既に名門と言われていた筈だ。


 単純計算で、創立十年以上。


 学校としては比較的新しい方なのだろうが、校舎が古くなってきているのにも(うなず)ける。


 腕時計を確認すると、五時四十分を指している。


 辺りは既に暗くなりかけているが、校舎から漏れる光のお陰で、足元は明るい。


 二人は、校門の前で生徒達が出てくるのを待つ事にする。


 しばらくそうしていると、やがて、校舎から一人の女子生徒が現れた――。




「ねえ、君。ちょっと時間良いかな?」


「……はあ。貴方、一体――」


 少女は、啓輔に(いぶか)しげな瞳を向ける。かなり怪しまれているようだ。


 勿論それは当然の反応なのだろうが……少し傷つく。


「二年の、松浦秀樹って知ってる? 俺の弟なんだけどさ。今日、急用ができたから、迎えに来たんだ。まだ、校内にいる?」


「秀樹に、お兄さんなんていない(はず)ですけど」


「長い間海外にいてね。久しぶりに戻って来たんだ。知らないのも無理はないよ」


 “秀樹”という呼び名から察するに、どうやら彼とは顔見知りのようだ。


 家族構成も知っているようなので、ある程度親しい仲なのかもしれない。


 まだ怪しんではいるようだが、その説明で一応納得したらしい。


 少女は校舎を指差した。


「秀樹なら、もうすぐ来ると思いますよ。部活も終わったし、今は着替え中だと思います……あ、ほら」


 その時、校舎から少年達の集団が見える。


 重そうな(かばん)を背負い、和気あいあいと話しているのが見て取れた。


「秀樹。あんたにお客さんが来てるわよ。お兄さん、だって」


「お兄さん? 俺、一人っ子なんだけど――」


 少女が集団に声を掛けると、リーダーらしき一人の少年が振り向く。


 成程。確かに、菜々の話通り、なかなか整った顔つきをしていた。


 しかし、彼女のいう(さわ)やかな笑顔は浮かべておらず、疲れたように弱々しく微笑んでいた。

 

 心なしか、少しやつれている。


 やはり、菜々が来ていない事に影響されているのだ――と、啓輔は思った。


「こんにちは。……えっと、秀樹ですけど」


「ああ、突然ごめんね。速水菜々さんについて、話があるんだけど。時間、良いかな?」


 後半部は、周りに聞こえないように、少し声を顰める。


 思った通り、“速水菜々”という単語に、秀樹はピクリと反応した。


「……ちょっと、待ってて下さい」


 先程とは違う、恐ろしい程冷静な声音で、秀樹は啓輔に(ささや)き返す。


 一緒に校門を出てきた少年達に適当に言い訳をした後、彼は戻ってくる。


「お待たせしました。話って、一体?」


「ここじゃあ何だから。近くのファミレスにでも」


「……分かりました」


 秀樹は、しっかりと頷いた。

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