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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
銀の霊峰と幻想郷
55/175

炎の精、暗闇を照らす

再びサブタイトルがいつもと違いますが、ちゃんと本編です。

「やあああ!」


 闇から伸びる暗黒の剣は、光を吸い込みながら大気を切り裂く。

 その剣は長大で、当たれば一撃で命を刈り取ってしまいそうである。


「へっへ~♪ 当たんねえよ、んなもん!!」


 燃えるような紅い髪の女性が、その長い髪を翻し踊るように迫り来る闇の剣を避ける。

 それと同時に、闇の中に橙と蒼白の炎を打ち込んでいく。


「そこだ!」

「うぉっと!? あっぶねえ、ちと油断しすぎたか」


 背後に回りこんできた闇色の弾丸を、アグナはスレスレで躱す。

 弾丸は髪をかすめ、真紅の髪がはらりと宙を舞った。


「にしても、あん中に居られちゃあ、こっちの攻撃が当たんねえんだよなあ……どうっすっかね?」


 アグナは目の前の球状の闇を見つめながら、腕を組んで考える。

 先程から炎の弾丸を闇に向かって撃ち込んでいるが、手ごたえは全くない。


「あきらめてさっさと倒れたら? そしたら私は貴女を取り込んで槍妖怪のところへ行けるから」


 闇の中から気だるげでなおざりな声が聞こえる。

 その声を聞いて、アグナは疑問を覚えた。


「ちょっと待て。あんた、いったい何がしたいんだ? 結界が張られるのを阻止したいんじゃねえのか?」


 三対三で戦っている現状を鑑みれば、普通であれば突破して博麗神社へ向かうのが当然である。

 しかし、目の前の闇の妖怪は自分を倒した後に次の相手を狙うという。

 結界の展開を阻止するというには、あまりに不自然であった。


「阻止するわけないじゃない。誰が好き好んで消えたがるもんですか。どちらかといえば私は賛成派よ」

「はあ? んじゃ、何で俺達戦ってんだよ?」

「ふふふっ、私の目的は貴方達の力。銀の霊峰を束ねる四人の力を手に入れられれば、きっともう怖いものはなくなるわ。だから、大人しく私の一部になってくれる?」


 闇の中から無邪気な少女の笑い声が聞こえてくる。

 それを聞いて、アグナは闇をにらみつけた。 


「お断りだ、バカヤロウ! テメェなんかに兄ちゃん達をやらせてたまるかってんだ!!」

「貴女の意思は関係ないわ。貴女が望もうが望むまいが、私は貴方達を取り込む。さ、まずは貴女の番よ。覚悟は良い?」


 ソプラノの声が歌うようにアグナに宣戦を布告する。

 それと同時に、球状の闇の周りに次々と闇色の剣が現れた。

 それらの剣はひたすらに黒く、そこだけ底なしの穴が開いているように見えた。


「寝ぼけたこと言ってんじゃねえぞ……テメェは俺がここでぶっ飛ばしてやる。そっちのほうこそ、覚悟を決めな!!」


 アグナがそう叫ぶと、その足元に荒れ狂うように二色の炎が渦を巻いた。

 橙と蒼白の炎は、それぞれアグナの右手と左手に集まった。

 集まった炎は二本の白い三叉矛に変化し、その刃にそれぞれの色の炎が灯る。


「やれるもんならやってみなさい」


 剣の切っ先が一斉にアグナに向かう。

 アグナはそれを見て、両手に携えた三叉矛を構えた。


「はっ、その程度で俺を捉えられると思うなよ!!」

「……言ったわね。それじゃあ、避けてごらんなさい!!」


 その瞬間、一斉に闇色の剣はアグナに向かって殺到した。

 アグナはその剣を最小限の動きで躱していく。


「……あくびが出るぜ、こんなん。そらよ!!」


 アグナは目の前に飛んできた剣を三叉矛で絡めとり、投げ返そうとする。


「……っとぉ!?」


 しかし突如感じた虚脱感に、アグナは慌ててその剣を三叉矛から振りほどいた。

 三叉矛の先に灯っていた炎は、剣に吸い取られて消え失せていた。


「ちっ……面倒くせえことしやがんな、全く」


 アグナがそう呟く間に、振りほどかれた剣は球状の闇へと戻っていく。

 すると、その闇はわずかながら大きくなった。


「ふふふっ……凄い力ね。あんな切れ端だけなのに、こんなに強い力が手に入るなんて……貴女自身を手に入れたら、どれだけの力が手に入るのかしら?」


 闇の中から無邪気な笑い声と共にそんな声が聞こえてくる。

 ルーミアは剣に触れたものの力を吸い取り、自らの力に変換していたのだ。

 アグナの力を具現化したものである三叉矛に触れた剣は、その力を吸収して本体に持ち帰っていたのだった。


「出来ねえことを言うんじゃねえよ。逆に身体に刺さる前で良かったぜ。もうテメェの剣は俺には触れねえよ」

「あら、そっちこそそんなことできるの? 私の剣、そんなに甘いもんじゃないわよ?」


 再びアグナの前に大量の剣が現れる。

 夥しい数の暗黒の剣軍は、まるで一つの軍隊のように整列していた。

 それを見てなお、アグナは不敵に笑う。


「バーカ、俺が出来ると言ったからには出来んだよ。つべこべ言ってねえで、さっさと来いよ!!」

「……大した自信ね。いくら力が強くても、避けられるかどうかは別問題なのに。良いわ、避けられるもんなら、避けてみなさい!!」


 ルーミアの号令と共に、暗黒の剣軍は一斉にアグナに向かって飛び掛った。

 剣軍は狙い違わずアグナの元へ疾駆する。

 そして、次々とアグナの身体を貫通していった。


「……な~んだ、大口叩いといて避けられてないじゃない」

「ぐ……あ……」


 ルーミアは宙にフラフラと浮いているアグナに向けてそう言い放つ。

 しかし、突如として闇の中から焦りを含んだ声が聞こえてきた。


「……っ!? 力を吸収できてない!?」

「……へっへ~♪ ぬか喜びさせちまって悪いな!!」


 慌てるルーミアに対して、アグナはしたり顔でそう言った。

 剣が貫通したかに思われたアグナの身体には、怪我一つ確認できなかった。


「ま、まぐれよ!!」

「おおっと、がむしゃらに撃っても効かねえぞ?」


 ルーミアは再び剣軍をアグナに飛ばす。

 しかし、アグナはその場から一歩も動かず、その場で迫り来る剣軍を受け止める。

 アグナは身体を数百本もの剣が貫通したが、不敵に笑い続けていた。


「くっ、どうなってるの!?」


 ルーミアは訳が分からず剣軍を止める。

 剣軍は空間全体に広がっており、その切っ先は全てアグナに向けられている。


「しっかし、どうしたもんかね?」


 一方のアグナも、闇に守られている敵に対して攻めあぐねていた。

 迂闊に攻撃をすれば、ルーミアの周りの闇はその攻撃を吸収してどんどん大きくなってしまう。

 それ故に、アグナもまたルーミアに攻撃できないでいた。


「こうなったら……!」


 ルーミアは剣軍を呼び戻し、再び整列させる。

 さらに自分を取り囲んでいる闇を削って新たに剣を呼び出し、数に加える。

 アグナの前には、ざっと千を越える数の剣が一面に並んでいた。


「行けえええええ!!」


 ルーミアは今度はがむしゃらに剣を一斉に放った。

 剣はアグナに向かって空を埋め尽くすような数で迫り、広範囲を覆っていた。


「あ、やばっ!!」


 すると、当たっても効かないはずのアグナが慌てて避け始めた。

 それも飛んでくる剣の位置とはちぐはぐな方向に避けている。


「ふふっ……そっか……そういうことなんだ……」


 闇の中から少女の笑い声が聞こえる。

 その声色には、どこか楽しそうで、嗜虐的なものが含まれていた。


「何のことだ?」

「貴女、蜃気楼を使ったわね?」

「……さあ、どうだろうな……」


 ルーミアの問いにアグナは無表情でそう言って答えた。

 それに対して、ルーミアはくすくすと笑う。


「まあいいや。とにかく、これで貴女が慌てるってことはこれで攻めていけばいい訳だし、じっくりと攻めさせてもらうわよ!!」


 そういうと、ルーミアは闇色の剣軍で何度も何度も攻撃を仕掛け始めた。

 広い範囲を覆う攻撃に、アグナは何度となく回避行動を取らされる。

 髪を、服を、暗黒の剣は掠めてはまた襲い掛かってくる。


「……まずいなぁ……」


 アグナは内心焦っていた。

 あんなやけっぱちな攻撃から、自分の防御のからくりを悟られるとは思っていなかったからである。


 アグナが取っていた行動は、自らの能力である『熱と光を操る程度の能力』を使って光を屈折させ、相手から自分が見える位置をずらすという技を使っていた。

 つまり、相手が一点集中で攻撃してくるときは問題はないのだが、先程のように全体にばら撒くように攻撃されては効果がなくなってしまうのだった。

 更に言えば、声などに関しては一切操作できないため、使いこなすには相当な技術が必要とされるものでもあるのだ。


 それを偶然とはいえ破られてしまった。

 これにより、アグナは再び攻撃を避けながら相手への反撃の策を練らなくてはならなくなったのだ。


「あはははは、いつまで避けていられるかしら?」


 ルーミアは無邪気に笑いながらアグナに攻撃を仕掛けてくる。

 それは小さな子供がアリの巣に水を流し込んだりする時のような声色であった。


「チクショー、調子に乗りやがって……」


 アグナは悔しそうにルーミアが籠もっている闇を眺めた。

 剣を大量に放ったことでいくらか縮小しているが、相変わらず本人の姿は確認できない。

 このままでは遠くに浮かんでいる相手に対して攻撃の手段がないのだ。


「うわっと!?」


 アグナは横を掠めるように飛んできた剣をスレスレで避ける。

 剣は三叉矛のすぐ横を通ってまた別の場所へ飛んでいく。


「ん? そういや、何で……」


 ふと、アグナは何かが引っかかって考え込む。

 アグナの視線は、手元の三叉矛と遠くに浮かんでいる闇の球体に向けられている。

 これまで、ルーミアは闇の球体の中からずっと自分から離れて攻撃している。

 そして、自分の攻撃は相手の闇に触れると吸収され、相手の力になってしまう。

 アグナはこのことに妙な違和感を感じ始めていた。

 しばらくすると、アグナは何かに気がついたように顔を上げた。


「ひょっとして!!」


 アグナは顔を上げると、辺りを飛び交う闇色の剣を見据えた。


「よっ!!」


 そのうちの一つに光を圧縮したレーザーを当てる。

 すると剣はしばらくの間光を吸収していたが、突如としてパリンとガラスが割れるような音を立てて砕け散った。


「なっ!?」


 それを受けて、ルーミアに明らかな動揺が見られた。

 アグナはそれを見て、頷いた。


「ははぁ~……そういうことか! そりゃあ!!」


 アグナはそういうと、闇の玉に向けて一気に突っ込んでいった。

 突然の行動に、ルーミアは何も出来ずにその場に固まった。

 闇の中に入るとアグナは目の前が真っ黒に染まり、全身にまとわり付くような気配を感じた。


「ひっ……な、何を……!?」

「……なあ、俺って炎の妖精って名乗ってっけどさ、『熱と光を操る程度の能力』っていう能力的にはどっちかっつーと光の妖精っぽいわけよ。んでさ、一応光を扱っているから、闇についてもそれなりには分かるんだよね、俺」


 アグナは声のする方向へゆっくりと進んでいく。

 体からは段々と力が抜け始めているが、それも微々たる量であった。

 相手の方向を確認するために、言葉を発しながら闇の中に浮かぶ。


「な、何が言いたいのよ……!?」


 闇の中の声はおびえたような声でそう言う。

 アグナはその震える声を聞いて、その方向へと向かう。


「闇ってさ……確かに何でも吸い込むし、何でも溶かしちまう。けどさ、それでいて凄く繊細なんだよな」

「い、いや、来ないで!!」


 ルーミアは泣き叫ぶような声を上げて闇の中を逃げ惑う。

 その声と気配にアグナは更に声をかける。


「お~お~、俺が怖いか。ま、分からなくもないわな。闇っつーのは光がなければどこにでもあっけど、少しでも光があるとそれだけで薄れちまうもんな。ましてや、俺みたいに強烈な光を放てるような奴が来たら、なおさらなあ?」


 これがルーミアが力を欲した理由。

 ルーミアは、自分自身が闇のような妖怪である。

 彼女はその闇を照らし出してかき消してしまう光が怖かった。

 何故なら、いつかそのまま自分も一緒に消えてしまいそうだったから。

 だからルーミアは、光を気にすることが無くなるほどの力を求めたのだ。


「来ないでって言ってるでしょ!?」

「限界まで薄れた闇はもう闇と呼ばれねえ。だからテメェは俺を一気に取り込まなかった。いや、取り込めなかった。だから、お前は俺に近づかなかったんだ」


 少しずつ変えていかないと、駄目だったから。

 一気に光を取り込んだら耐えられないかもしれないから。

 だから、炎を纏う光の妖精を一気に取り込むことが出来なかった。

 アグナはそう言うと、不敵に笑った。


「ま、御託はこの程度にしてとっとと終わらせようぜ。お前が纏った闇、全部まとめて照らしつくしてやるよ!!」

「いやあああああああああああああああああああああああ!!!」


 そういうと、アグナは全身からまばゆい光を放った。

 その烈光はルーミアの纏う闇を一気にかき消していった。


「やっと、見つけたぁ!!」


 アグナは自らが作り出した光の世界の中に金色の髪の少女を見つけた。


「あああああああああああああああああああ!!!」


 ルーミアは錯乱した様子で黒い大剣をアグナに向かって振り下ろす。

 その太刀筋は荒く、目に付くものを薙ぎ払うべく猛威を振るう。


「甘ぇ、そこだぁ!!」


 アグナはその剣を左手に持った三叉矛で受け止め、右手の三叉矛でルーミアの頭部を強打した。


「あっ……」


 アグナの一撃を喰らい、ルーミアは気を失って地面に落ちて行く。

 アグナはその身体を下に回りこんで受け止めた。


「最初に俺に当たったのが運の尽きだったな。もしこれが兄ちゃん達だったらどうなってたやら……」


 ルーミアの人格を考えるとまだ幼いのだろうが、その力はアグナを持ってしても脅威となりえるものだったのだ。

 もしルーミアが将志や愛梨に先に当たっていたら、こうはならなかったかもしれない。

 そう思うと、アグナの背中に冷たいものが走る。


「そもそも闇であるあんたが、光を怖がること自体間違ってるんだぜ? 光と闇は別物のようで表裏一体、切っても切り離せねえものなんだからよ」


 アグナは腕の中で気を失っているルーミアにそう語りかける。

 ルーミアはそれに答えることなく、ぐったりとした様子である。


「……にしても……どうすっかなぁ、こいつ……」


 アグナは腕の中の住人に眼を落とす。

 ルーミアは余程打ち所が悪かったのか、未だに目を覚ます気配が無い。


「……あんなことはしたけど、悪い奴じゃなさそうなんだよなぁ……」


 アグナはとりあえず近くの野原に降り、足を投げ出して座ってルーミアの頭を自分の膝に乗せた。

 そして解決策を求めて将志達の方を見た。

 そこでは未だに銀が飛び交い、花と炎が百花繚乱に咲いていた。


「兄ちゃんも姉ちゃんも戦ってるし、かと言ってこいつを放り出すわけにはいかねえし……」


 アグナは座ったままどうするべきか考える。

 そのうち、アグナの頭からは黒い煙が上がりだした。


「だぁ~! 考えたってしゃあねえや! 寝る!!」


 そういうと、アグナはルーミアに膝枕をした状態でその場で大の字に寝転がった。

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