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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
銀の霊峰と幻想郷
53/175

銀の槍、未来を賭ける

「くぅ……! 流石に多いでござるな!」


 波のように押し寄せてくる妖怪達を、涼は十字槍や霊力弾で撃退していく。

 涼の攻撃は全体にばら撒くようになっており、妖怪達を引きつけている。


「頑張って、涼ちゃん♪ 僕達が崩れたら将志くんが大変だよ♪」


 その涼が撃ち漏らした妖怪を虹色の弾丸で撃墜しながら、愛梨は援護する。

 愛梨の弾幕は苛烈で、一匹たりとも逃しはしない。


「何のこれしき! お師さんの全力や鬼の四天王を相手にする方が余程きついでござるよ!」

「うん、その意気だよ♪」


 愛梨は涼に対してそう言って笑いかける。

 涼はそれを受け取ると、敵の群れに向き直った。


「下がれ! ここから先には誰一人して通さんぞ!」


 涼が気合と共に槍を薙ぎ払うと、近くに居た妖怪達が一気に墜落していく。


「やるね~♪ でもまだ先は長いよ♪ もっと落ち着いて♪」


 愛梨はそれを確認すると、涼に向かってそう言いながら弾幕を張り続けた。





「ああもう! 次から次へとしつこいですわよ!」


 敵の群れの中を銀の線が無数に駆け巡っていく。

 その線が走るたびに、妖怪は地に墜ちて行く。

 六花は半ばうんざりしながらも、ひたすらに妖怪達の中を駆け巡っていた。


「六花! 私もいるのだからそんなに突っ込むこともないだろう!」


 そんな六花に、藍は援護射撃を加えながら声をかける。

 藍は激しく動き回る六花の邪魔にならないように藍色の弾丸を撃ち込んでいく。


「違いますわよ! 貴女がいるから突っ込むんですわよ! 漏らした分は任せましたわ!」

「そういう問題じゃないだろう! お前に怪我させたら将志に何を言われるか!」

「心配には及びませんわ! 私、この程度の相手に負けるほど柔ではありませんもの!」

「だから、それじゃあ持たないというのに!」


 六花と藍はそんな言い争いを続けながら、次々と相手を落としていくのだった。





 一方、こちらは博麗神社の真正面の道。

 そこでは銀の槍を振るう青年と、灼熱の炎で敵を倒していく小さな少女の姿があった。


「……はあああ!」


 銀と黒の弾丸が戦場を飛び交い、次々と撃墜していく。


「さっすが兄ちゃん♪ 余裕そうだな!!」


 橙の炎の玉が、迫り来る敵を焼いていく。


「……アグナもまだ平気そうだな」

「にしても、何か思ったよりも敵が少ねえな。兄ちゃんを怖がって送らなかったのかな?」


 まだらにしか現れない敵を見て、アグナはそう呟いた。

 それに対して、将志は状況を分析して答えた。


「……いや、違うな。俺達は自分達の配置をそれぞれの攻撃で明確に示している。相手はここに俺とアグナが揃っているのを知っているはずだから、このようにアグナ一人で抑えられるような戦力しか送ってこないというのは考えられない。と言う事は、俺かアグナのどちらかを一人で縫い付けられるような相手が出てくるということだ」

「ああ。そのとおりだ」


 正面からかけられた声に、将志とアグナは顔を上げる。

 そこには見上げるような大きな人影があった。

 その人影は銀の毛並みを持っており、鋭い爪と牙を持っていた。


「……その身体……人狼か。お前も結界を阻止しに来たのか?」

「如何にも。その為にも、貴様を倒させてもらう」

「……説明は聞いていたのか? この結界を張る意義は伝えたはず。妖怪の末永い繁栄のためには、この結界は必要なのだ」

「ああ、知っている。妖怪が消え去らないように、外の世界からこの幻想郷を隔離するのだろう?」

「……では、何故結界を阻止しようとする?」

「知れたこと。人間を襲うことこそ、我々の生きる意義であり、最大の誇りなのだ。それを失ってなお生きるのは、少なくとも俺には生き恥をさらすだけとしか思えん。そうまでして生きるくらいなら、俺は誇りを抱いて消え去ることを選ぶ!」


 人狼の訴えを聞いて、将志は頷いた。

 考えなしの反対ではない故に、少々感心したのである。


「……成程……自らの命と誇りを天秤にかけ、その上で出した結論か……」

「その通りだ。貴様とて妖怪だ、分かるだろう! 自分の存在意義を貫くことが、どれほどのものか!!」


 人狼は将志に叫ぶように主張した。

 将志は眼を閉じ、それを聞き入れる。


「……ああ。妖怪として、それに拘るのは正しいことだ……俺も、そう信じて生きてきた」

「ならば、何故このようなことをする! 何故我々の邪魔をするのだ!」

「……それだけでは不完全だからだ。かつて俺は自らの主を守ることを存在意義とした妖怪だった。他の事を考えず、ただがむしゃらに主を守るためだけに生きてきた。だが、それでは駄目だったのだ。ただ己の存在意義のためだけに生きるということは無意味だと知らされたのだ」


 将志は静かに、それでいて自嘲するような声でそう言った。

 それを聞いた瞬間、人狼の眼が憤怒に染まった。 


「貴様……我が存在を無意味と言うか!」

「……ああ。ただそれだけのために生きると言うのであればな。お前は何の為に生き、人を襲う?」

「決まっている! 我等が人狼の誇りのためだ! その誇りこそ、我等が生きた証なのだ! それを残すことこそ、俺が生きる意味だ!」


 人狼はどこまでもまっすぐな眼で将志に訴える。

 それを聞いて、将志はそっと眼を開けた。


「……そうか……だが、俺とて生き続けなければならない身だ。お前が誇りに全てを賭けるように、俺は妖怪の未来に全てを賭ける。故に、お前の言うことは聞いてはやれん」

「……やはり言葉では分からぬようだな」

「……当然だ。お互いに譲れないものがある以上、言葉を交わすのは無意味だ。となれば、やることは一つしかあるまい?」


 お互いに構える。

 人狼は己の牙と爪を、将志は手にした槍、『鏡月』の刃を向ける。


「良いだろう……俺の人狼の誇りと、貴様の未来への想い、どちらが上か確かめよう……我が名はアルバート・ヴォルフガング。俺は人狼の長として、人狼の誇りを賭けて貴様を倒す!」

「……建御守人、槍ヶ岳 将志。俺が賭けるのは妖怪の未来だ……覚悟は良いな?」

「上等だ……行くぞ!」

「……来い」


 その言葉と共に、二つの影が交差する。

 将志はスピードでアルバートを翻弄するが、アルバートは攻撃を受けながらも将志に迫っていく。

 横では、アグナが激しくぶつかり合うその姿を眺めていた。


「兄ちゃん、強い奴に当たったなあ……」


 アグナは将志とアルバートの戦いをジッと眺める。

 しばらくすると、新たに妖怪がやってくる気配を感じ、その方を向いた。


「……お~い、お前ら。兄ちゃんの戦いを邪魔すっと火傷するぜ?」


 アグナはそういうと炎の弾丸をばら撒いた。

 妖怪の群れはアグナの炎に焼かれて次々と墜ちて行く。


「……ん?」


 そんな中、アグナは強烈な気配を感じてその方向を見た。

 そこには、何やら大きな黒い球状のものが浮かんでいた。

 周囲の光を吸い込んでいるそれは、アグナに強い力を感じさせた。


「……強いのが居るなあ……う~ん、封印されたまま勝てっかな~……」


 アグナはその闇の塊を見てそう呟く。

 球状の闇はゆっくりとアグナに近づいてきていた。

 アグナは戦っている将志をチラリと見ると、困ったようにため息をついた。


「あ~……兄ちゃんの邪魔はしたくねえんだけどなあ……っとぉ!?」


 攻撃の気配を感じてアグナは飛び退く。

 すると、アグナが居たところを太い光線が通り過ぎていった。


「あら、可愛い見た目の割りに良い勘してるわね」


 アグナの頭上から大人の女性のアルトの声が響く。

 その方向に眼をやると、女性はゆっくりとアグナの目の前に降りてきた。

 女性は緑色の髪で、白いブラウスに赤いチェック柄のベストとスカートといった姿で、手には白い日傘を持っていた。


「いきなり何すんだ!?」

「何すんだ、ってここは戦場よ? いつどこから攻撃が飛んできてもおかしくないでしょう?」


 アグナの言葉に、女性はにこやかに笑いながらそう答えた。

 それを聞いて、アグナは身構えた。


「……てことは、俺とやる気なんだな?」

「ええ。ちょうど退屈してたとこだし、貴女には暇つぶしに付き合ってもらうわよ?」


 女性はそういうとアグナに日傘の先を向ける。

 その横に、球状の闇が降りてきた。


「ふふふ……思わぬ援軍が現れたわね……」


 闇の中からソプラノの声が聞こえてくる。

 女性は近づいてくる闇に対して眼を向けた。


「何? 邪魔をするつもりかしら?」

「……いいえ、私は一切手出しをする気はないわ。私は貴女が負けたときのための保険と思ってくれればいいわ」


 闇の中からの声に、女性の顔が不機嫌そうに歪む。


「……気に入らないわね。私が負けるとでも言いたいのかしら?」

「さあ? 私はただ思ったことを言っただけ。貴女の勝ち負けなんて関係ないわ」

「……あの子を手折ったら、次は貴女を相手してあげる。精々首を洗って待ってなさい」


 女性はそういうと、再びアグナのほうを向いた。


「ちっ……やるっきゃねえか」


 アグナは目の前の二人の強敵を前にして、そう呟いた。

 その言葉には、全力を出せないもどかしさが含まれていた。


「燃えろぉ!!」


 アグナは女性に向かって前方上下左右から炎の弾丸を飛ばした。


「おっと、なかなかやるわね」


 女性は日傘を開いてそれを受け止めながら躱す。

 その女性に、アグナは炎を操って前後左右上下から揺さぶりを掛けるが、全て日傘に阻まれる。


「ちっ……今一つ押し込めねえな……全力ならあの日傘ぶち抜けるかも知れねえのになあ……」

「そらそら、避けてみなさい!」

「だぁ~! 無いものねだりしてもしゃあねえ! やってやらぁ!!」


 アグナの戦いはどんどん激化していく。


「ふふふ……」


 その横に、暗闇が不気味に浮かんでいた。






「……あれは……!? くっ、アグナ!!」


 将志はアグナの横に浮かんでいる闇を見て、表情を変えた。

 そこから感じられる力は強大で、今のアグナよりも大きいものだったからである。


「余所見をしている場合か!」

「……ちっ!」


 繰り出される爪を、将志は紙一重で避ける。

 そしてそのまま相手の背後へと回りこんだ。


「……うおおおおおお!!」


 がら空きの背中を将志は連続で突く。


「ぐううううっ!」


 しかしアルバートは呻るだけであり、即座に振り向いて攻撃を仕掛けた。


「……ちっ……なんと言う耐久力だ……」

「……まだだ……我が誇り、この程度のことでは倒れはせん!」


 アルバートは一心不乱に将志に攻撃を仕掛けてくる。

 その身体は傷だらけであり、身体には銀の槍が数本突き刺さっている。

 しかしその速度や力は全く変わっていない。


「……くっ」


 将志はアグナのほうに時折眼をやりながら攻撃を仕掛ける。

 しかし、その隙を逃さずアルバートは反撃する。


「どうした! 仲間を気にかけている場合か!」

「なら、気にならなくさせてやるよ」

「……!?」

「ぐあああっ!?」


 突如として、アルバートに向かって朱色の炎が踊りかかった。

 その炎に焼かれて、アルバートは下に落ちていく。

 それを見送る将志の隣に、炎の翼を生やした少女が降りてきた。


「よう、将志。大変そうだな」


 妹紅はそう言って片手を挙げて挨拶をする。

 目の前に現れた援軍に、将志は首をかしげた。


「……妹紅か? どうしてここに?」

「どうしても何もあんたを手伝いに来たんだけど?」

「……何故だ? 人間にはあまり関係のない話なんだが……」

「妖怪が消えるってことはあんたも消えるってことだろ? そんなことで勝手に消えられて勝ち逃げなんてされたら困るんだよ。あんたが消える時は、私の炎で消えてもらわなきゃならないんだからな」


 妹紅はそう言って笑う。

 絶対に逃がさない。その眼は将志に対してそう訴えていた。


「……ふふっ、俺なら大丈夫だ。それよりもアグナをここに連れてきてくれ」


 妹紅の言葉に、将志は楽しそうに笑った。

 しかしその視線は下で燃えている人狼の王から眼を離していない。


「アグナ……ああ、あいつか。よし、少し待ってろ」


 妹紅は上で戦っている炎の精を視認すると、そこに向かって飛んでいった。




「っとぉ!」


 日傘から放たれる太い光線を、アグナはスレスレで避ける。

 その反撃として、炎の矢を雨のように降らせた。


「あはは、なかなかやるじゃない。さあ、避けてごらんなさい!」


 その炎の雨を女性は楽しそうに潜り抜けながらアグナに対して弾幕を張る。


「ちっ……このままじゃヤベェな……もう一人いるっつーのに……」


 アグナは弾幕を避けながら、そう言って苛立ちを露にした。

 そんな中、下のほうから火の鳥が女性に向かって突っ込んできた。


「邪魔だ退けええええええ!!」

「くっ!」


 女性は身を翻してそれを躱す。

 すると火の鳥は、アグナを守るように前に下りてきた。


「……誰かしら、私の邪魔をしてくれたのは?」


 女性は突然の乱入者に笑顔を向ける。

 しかしその眼は笑っておらず、怒りが灯っていた。

 それに構わず、妹紅は相手をジッと見つめる。


「その格好、誰かと思えばあんたか。噂は聞いているよ、風見 幽香」


 妹紅は妖怪退治屋をしていた時、この妖怪の噂を耳にしていた。

 その相手を、妹紅は油断なく見ながらアグナに近寄る。


「なあ、姉ちゃんはどうして……」

「将志が呼んでる。さっさと行って来い」

「お、おう」


 アグナは妹紅にそう答えると、将志のところに飛んでいく。

 すると、それを見送った幽香から声が掛かった。


「さてと……まさか邪魔をしておいてタダで帰れるとは思ってないわよね?」

「もちろん。私もついでに腕試しをしようと思っていたところだったから、むしろちょうど良いさ」


 幽香の言葉に妹紅は微笑を浮かべて答える。

 それを受けて、幽香は面白そうに笑った。


「ふうん……私で腕試しとは、良い度胸ね」

「はっ、あんたぐらい超えられないと目指す背中には追いつけそうもないからな。あんたにゃ悪いが、勝たせてもらうぞ!」

「……上等!」


 その直後、炎と花がぶつかった。





「兄ちゃん!!」

「……アグナ、無事でよかった」


 飛んでくるアグナを、将志は抱きしめる。

 それに対して、アグナはくすぐったそうに笑う。


「んにゅ……抱きしめてくれるのは嬉しいけど、今はそれどころじゃねえだろ?」

「……分かっている。アグナ、今からお前の封印を解く」

「おう! 頼んだぜ、兄ちゃん!!」


 将志はそういうとアグナの髪を結っている青いリボンに手を伸ばした。

 将志が手をかざすと、リボンは独りでに解け、将志の手に収まった。

 するとアグナの足元から炎が噴出し、大きな火柱を上げた。


「……へへっ、久しぶりだぜ、この感覚……いや、前より調子がいいな」


 火柱が収まると、中からくるぶしまで伸びる燃えるような紅い髪の女性が現れた。

 その姿は幼いものではなく、成熟した女性の姿だった。


「……そのようだな。見た目からして既に違う」

「は? ……ってうおおおおおおお!? なんか色々でっかくなってやがる!? これじゃあ足元見えねえぞ!?」


 将志に指摘されてアグナは自らの全身像を見回し、驚きの声を上げる。

 アグナの成長は、十歳児が突然二十台半ばの女性に変わった様なものなのだから当然であろう。


「……慌てるのは後だ。お前にはあの闇を相手してもらわなければならない。頼めるか?」

「おう! 今の俺なら、あんな奴楽勝だぜ! んじゃ行ってくる!!」


 アグナはそういうと、先程から傍観していた闇の塊のところまで飛んでいく。

 その一連の様子を、闇の主がため息混じりに眺めていた。


「やれやれ、思わぬ援軍が来たのは向こうも一緒か。あの槍妖怪を抑え込めれば楽勝だと思ったんだけどな」

「へえ……俺を見てもまだそんなことが言えるか?」


 アグナの周囲には、橙と蒼白の炎が取り巻いている。

 それはアグナを覆い隠すほどの強さで、封印を解く前とは段違いの力を見せていた。

 すると、闇の中から気だるげな声が聞こえてきた。


「はあ……めんどくさいことになったわね。本当は貴女を速攻で倒して槍妖怪のところに行きたかったけど……」

「兄ちゃんのところには行かせねえよ?」

「……これだものね。ちょっと激しい運動になりそう」

「ちょっとねえ……ま、どうでも良いや。舐めて掛かってくるなら勝手に燃え尽きるだろうし」

「言ってくれるじゃない。まあ、確かに手を抜いて勝てるような相手じゃなさそうだけどね」


 闇の中からの声は相変わらず気だるげである。

 その声に、アグナは不敵に笑った。


「へへっ、せっかく封印まで解いたんだ、あっさり終わってくれんなよ? そうだ、一応名前聞いとこう。俺はアグナだ。あんた、なんて言うんだ?」

「ルーミアよ。貴女のほうこそ、つまらない戦いはしないでね?」


 アグナの名乗りに、闇の主、ルーミアは少し楽しげにそう名乗った。

 それを聞いて、アグナは声を上げて笑った。


「ははは、そいつに関しちゃ心配ねえよ。魂まで熱く焦がしてやるぜ!!」


 アグナはそういうと、目の前の深淵の闇を照らし出すべく炎を放った。




 妹紅とアグナの戦いを、将志は下から見上げる。

 二人の炎使いは白熱した攻防を繰り広げていた。


「……やはり、あれで終わってはくれんか」

「当たり前だ。我等人狼の誇り、あの程度の炎で燃え尽きはせん」


 将志の呟きに背後から声が聞こえる。

 振り向くと、そこには無傷の銀の人狼が居た。


「……一つ訊いても良いか?」

「……何だ?」

「何故貴様はあの娘に任せて自分で仲間のところへ行かなかった?」


 アルバートは将志にそう質問をする。

 効率だけを取るのならば、自分を妹紅に任せ、将志がアグナの元に行くほうが上策であった。

 しかし、実際には将志が自分を監視し、わざわざ戦っているアグナをこちらに呼び寄せるという無駄の多い策だったのだから、当然の疑問であろう。


「……その必要がなかったからだ。妹紅もアグナも、そう簡単にやられるような隙を見せたりはしない。それに、お前は自らの誇りに全てを賭けて俺に挑み、俺は妖怪の未来を賭けてそれを迎え撃った。だというのに、俺が退くようでは妖怪の未来を投げ出すことになるし、お前にとっても侮辱になる。生憎と、俺はもう合理性を求めるだけの機械ではないのでな」


 その質問に将志は淡々と答えた。 

 将志のとった行為は、アルバートの持つ人狼の誇りを貶めぬようにするためのものだったのだ。

 その回答を聴くと、アルバートは将志に深々と礼をした。


「……感謝する。ならば、そんなお前に敬意を表して全力を尽くすことを約束しよう……できることならば、もっと違う形で出会いたかったものだ」

「……全くだ」


 将志とアルバートはそう言ってお互いに感傷に浸る。

 二人の場を沈黙が支配する。


「……行くぞ!」

「……行くぞ!」


 そして、沈黙を破って二つの銀が交差した。

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