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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
貫く誓いと忠誠
26/175

銀の槍、八つ当たりを受ける

 妖怪の山の上空を、素早く動き回りながら交錯する影が二つ。

 その影が交わるたびに、金属がぶつかり合う甲高い音が周囲に響く。

 少し距離が開いたかと思えば、嵐のように弾幕が飛び交う。


「はああああ!」


 天魔は弾幕で将志の移動を制限し、動きが止まったところに高速で飛び込んで大剣で切りつける。


「……ふっ」


 一方将志は大気を震わせて迫ってくる大剣をギリギリまで引きつけてから銀の槍で受け流す。

 将志は反撃しようとするが、反撃する前に天魔は飛び込む勢いを利用して一気に離脱している。


「……疾」


 そう見るや否や将志は銀の足場を作り出し、それを蹴って素早く間合いを詰めて攻撃に移る。

 その強靭な脚力で生みだされる推進力は、間合いを切ろうとする天魔との距離を即座に詰められるほどであった。


「させるか!」


 しかし天魔はそれに気付くと体をひねるようにして方向転換をしながら弾幕をばらまいた。

 後を真っすぐに追いかけていた将志は、その壁の様に迫ってくる弾幕に突っ込む形になった。


「……ちっ」


 将志はそれを槍で薙ぎ払いながら強引に天魔との間合いを詰める。

 銀の槍は円を描くような軌道で、間合いに入った弾幕を次々と叩き落としていく。


「なっ、やああああ!」


 強引に突っ込んでくる将志を見て天魔は一瞬驚きの声をあげるが、すぐに立ち直って大剣を振りぬく。

 しかし剣が当たる瞬間、将志は一瞬にして幻のようにその場から消え失せた。


「……ッ、そこか!」

「……くっ」


 しかし天魔は冷静に死角に入っていた将志を見つけだし、弾幕で攻撃する。

 撹乱に失敗した将志は追撃を諦めて後ろに下がった。

 両者は距離を取り、お互いを睨む。


「……やるな。並の相手なら先ほど死角を突かれた時点でとれていたのだがな」


 将志は自分の攻撃を躱し切った天魔を素直に賞賛した。


「ふん、お褒めに預かり至極光栄とでも言わせたいのか? 並みの相手と比べている時点で私にとっては相当な侮辱なんだがね」

「……それは失礼した」


 その賛辞を、天魔は憮然とした表情で受け取りながらそう言い返す。

 その反応に、将志は非礼を詫びる。


「……それで、気は済んだか?」

「まさか。一撃も加えられないのに鬱憤が晴れる訳が無い。早く終わらせたくば大人しく的に徹していろ」


 高圧的な態度で天魔は将志にそう言って剣を向ける。

 しかし、そんなことをされては一撃で気絶してしまう将志は首をゆっくりと横に振った。


「……生憎とその要望だけは聞けん」

「ならば無理矢理にでも的になってもらおう!」


 天魔はそういうと将志を取り囲むように弾幕を展開した。

 四方八方から迫ってくる弾幕の隙間を縫って将志は回避する。

 将志はまるでざるをすり抜ける水の様に回避に成功すると、天魔に対して銀の弾丸を打ち出した。


「はあっ!」


 天魔はその銀の弾丸を弾き返しながら更に弾幕を追加する。

 将志は密集してくるその弾幕の間隔が広がっているうちに高速移動ですり抜けた。

 そしてその勢いのまま天魔に向かって槍を繰り出した。


「くっ!」


 天魔はその槍を大剣の腹で受け止める。

 体重の乗った重い一撃に、天魔は強烈な衝撃を受けて後ろに下がる。


「ちっ、流石に戦の神を名乗るだけはあるな……ならばこれならどうだ!」


 天魔は黒い翼を大きく広げ、距離の離れた将志に対して弾速の速い紅いレーザーのような弾を放った。

 しかし将志は飛んでくる気配を察知して難なく回避する。


「……苛立っていては当たるものも当たらんぞ?」

「別に苛立っているわけではない。ただこうも当たらないと癪ではあるがね。まあ、これまでの戦いで貴様に思うことが無いわけではないが」


 将志が天魔に対して話しかけると、天魔はつまらなさそうにそう答えた。

 そして、天魔は将志に対して僅かに怒りのこもった視線をぶつけた。


「……貴様、私を侮辱するのもいい加減にしてもらおうか? さっきから見ていれば避ける一方、攻撃の手は数えるほどである上に弾幕も散発的だ。これは一体どういうことだ?」

「……そもそも、戦う必要が無かったからな。どうにも今までの言葉を聞いていると八つ当たりの相手を務めれば良いだけと判断も出来たからだ」


 将志は天魔の問いに眼を伏せ淡々と答える。

 そこまで言い切ると将志は顔を上げた。


「……だが、それは間違いだったな。お前が求めているのは闘いの相手のようだ。……良いだろう。そういうことならばこちらも思う存分やらせてもらおう」


 将志はそういうと、周囲に七本の槍を妖力で編み出した。

 それを見て、天魔も広げた翼に妖力を溜め込む。


「ふん、ようやくやる気を出したか。それでは行かせてもらおう!」


 天魔は先程よりも速い速度で風を切り、飛び回りながら将志に対して弾幕を放つ。

 雨のような弾幕で動きを封じたところにレーザーを打ち込むような戦い方で将志を攻めたてていく。


「……まだだ」


 将志はその弾幕の中の安全地帯を見出し、冷静に躱していく。

 その合間に、将志は作り出した槍を投げて天魔を狙う。

 投げられた槍は銀の軌道を残しながら天魔に迫る。


「それが当たると……ちっ!」


 天魔はそれを躱すが、その銀の軌道が崩れて弾幕に変わっていくのを見て舌打ちをする。

 銀の弾幕は不規則な弾道を描き、天魔の行動を制限した。

 その身動きが取れない天魔に、将志は近づいて槍で攻撃を仕掛ける。


「……せいっ」

「くっ!」


 天魔は突き出される槍を身体をひねる事によってギリギリで躱す。

 そして腕が伸びている将志に、ひねった体勢から勢い良く大剣を振り下ろした。


「はあああっ!」

「……甘い」


 その大剣を、将志は剣の腹を蹴ることで太刀筋を逸らした。

 将志はそのまま回転を利用して槍を天魔に叩きつける。


「ぐっ!?」


 天魔は左腕につけた籠手でそれを受け、下に落とされながらも耐え忍ぶ。

 その天魔に、将志は容赦なく銀と黒の弾幕を浴びせてくる。


「っ……出し惜しみしていては勝てないか……」


 天魔は左腕の痛みをこらえながらそう呟く。


「……ぐっ!?」


 次の瞬間、将志の左肩に何かに貫かれたような激痛が走った。

 将志は左肩を見てみたが、見た目には全く異常が見られない。

 天魔はその隙に体勢を立て直した。

 その天魔を、将志は怪訝な表情で見やる。


「……何をした?」

「卑怯な様ですまないが、少し能力を使わせてもらった」

「……能力だと?」

「ああ、『幻覚を操る程度の能力』だ。実際は貴様の身体には何の異常もない。悪いが貴様はどうにも出し惜しみをして勝てる相手ではなさそうだから使わせてもらった」

「……本気の闘いに卑怯も何もない。それを使うことで勝利の目が見えるのであれば使うべきだ。それが戦術と言うものだろう。ならば、俺はその戦術を潰さねばなるまい」


 将志は痛む肩を押さえながらも、淡々とそう答える。

 しかしその眼は勝利を諦めておらず、静かに闘志を燃やしていた。

 それを見て、天魔は笑みを浮かべた。


「くっくっく……上等だ。破れるものならば、破ってみるがいい!」


 そういうと天魔は先ほどとは比べ物にならない量の弾幕を放った。

 その気配から、将志は幾つかが自分の見せられている幻覚であることを察知し、避ける必要のあるものだけ避ける。


「……むっ?」


 しかし、将志は突如危険な気配を感じて槍を薙ぎ払った。

 高い金属音と共に槍に衝撃が走る。

 避けたはずの弾の後ろに、見えない弾丸が存在していたのだ。

 そのことから、将志は増やされた弾丸があるのと同時に、幻覚で消された弾丸があることを悟った。


「……なるほど……これはなかなかに厄介だな」

「「「「「「それで終わりだと思うなよ? このまま封殺させてもらう!」」」」」」


 将志の呟きに、四方八方から天魔の声がする。

 見てみると、天魔が何人も周囲を飛んでいた。

 将志は気配をたどって本物を探そうとするが、すべての天魔に気配を感じてどれが本物か分からない。


「……どういうことだ?」

「「「「「「これが幻覚を操るということだ。気配と言っても所詮は感覚に過ぎん。そんなものは幻覚で幾らでも作り出せる」」」」」」


 弾幕を避けながらの将志の言葉に、天魔が答えた。

 それを聞いて、将志は眼を閉じた。


「……なるほど、気配を隠すのならば気配の中か……確かに気配を消すよりもはるかに効果的だな」


 そう言いながら、将志は眼を瞑ったまま次々に弾幕を避けながら弾幕を飛ばしていく。

 しかし、将志の弾丸は天魔の幻影を突き抜けるだけだった。

 天魔はそんな将志に一方的に攻撃を仕掛けていく。


「「「「「「幻覚に攻撃しても意味はないぞ? 消せるわけでもないのだからな」」」」」」

「……そうか……ならばこちらにも考えがある。……その準備も整ったことだしな、はあっ!」


 将志はそういうと、二人が戦っている空間全体にちりばめるように銀の球体を浮かべた。

 そのうちの一つに将志は着地をし、大きく息を吐いた。


「「「「「「何の真似だ?」」」」」」

「……天魔。お前のその能力、今から俺が打ち破ってやる。……刮目して見るが良い」


 将志はそういうと銀の球体を足場にして、空間全体を強靭な脚力を使って超高速で駆け巡った。

 その通り道にある弾丸はすべてかき消され、天魔の幻影に次々と突っ込んでいく。

 将志は一度攻撃を仕掛けた幻影に二度目を仕掛けることなく、縦横無尽に駆け巡りながら次を狙う。

 天魔は何とか将志を撹乱しようと幻覚を増やすが、眼で追うことすら難しい将志の速度についていけない。

 そして、とうとう将志は本物に牙をむいた。


「くっ!」


 天魔は将志の攻撃をとっさに大剣で弾いた。

 その感触に、将志は薄く笑みを浮かべた。


「……見つけたぞ、天魔。お前の能力は気配を作り出すことは出来るが消すことは出来ない。それがその能力の弱点だ」


 つまり将志の思いついた方法とは、片っ端から攻撃を仕掛けていけばそのうち本物に当たるという、単純な方法であった。

 もっとも、実際にそれが可能かと問われれば首を傾げざるを得ないのだが、将志はそれを無理矢理敢行したのだった。

 将志の言う準備とは、天魔の気配がどこにどうあるかと言うものを探るためのものであったのだ。


「ちっ……まさかこんな力ずくの方法で打ち破ってくるとはな……」


 天魔は忌々しそうに眼を瞑ったまま笑みを浮かべる将志を睨む。

 将志はそんな天魔を槍で弾き、追撃を加える。

 能力を破られた天魔は力の消耗を抑えるために幻影を消し、将志に大剣で攻撃する。


「……むっ?」


 その攻撃に、将志は思わず後ろに下がった。

 将志の眼には、七つの相手の太刀筋が同時に迫ってくるように見えたのだ。

 その行動に、天魔はニヤリと笑みを浮かべる。


「くくっ、やはりこういうけん制にはまだ効果はあるみたいだな。たとえあの幻覚を破られてもまだ終わったわけではない。決めさせてもらうぞ!」


 天魔は幻覚で相手に見える太刀筋を増やしながら将志に切りかかる。

 その気配を持った幻覚に、将志はどれが本物か分からずに回避するしかなかった。

 更に言えば、本来槍の持ち味である間合いの長さも相手が同じような長さの大剣とあっては有効には働かず、将志は遠距離で勝負せざるを得ないかのように思われた。


「……その程度で俺を止められると思うな」


 将志は一瞬の隙を突いて天魔の背後を突く。


「背後をとっても無駄だ!」


 天魔はそれに対して振り向きざまに幻覚を見せながら剣で薙ぎ払う。

 しかし、今度は将志はあえてその剣劇の群れに突っ込んで行った。


「……気は済んだか?」

「……ちっ、私の負けか……」


 将志は天魔の肩に腕を回し、喉元に槍を突きつける。

 それを受けて、天魔は負けを認めて剣をおろした。

 その顔には、苦々しい表情が浮かんでいた。


「やれやれ、流石に一妖怪と神の差は大きかったか。全力を出して負けたのは鬼神に負けたとき以来だな」

「……俺としては、一妖怪のままで居たかったがな」


 将志はそう言いながら槍を納めた。

 その将志の言葉に、天魔は首をかしげる。


「何故だ? 神であれば更に強い力を得ることも可能だろうに」

「……その代償として人間に尽くすのが神だ。……神でなければ、俺は常に主ただ一人に尽くせたものを……」


 将志はため息をつきながら天魔の問いに答えた。

 それを聞いて、天魔は笑い出した。


「くっくっく、ただ一人に尽くす妖怪とはとんだ妖怪もあったものだな。貴様のような大妖怪を従える奴とは、どんな奴だ?」

「……主のためにも、それは秘匿させてもらおう」

「くくっ、忠犬ここに極まれりだな。まあそれは他者の意向だ、私が口を出すことではあるまい」


 天魔はそう言うと表情を引き締めて将志に向き直った。


「さて、今後のために貴様には質問がある。貴様は妖怪の山に敵意があるか?」

「……無いな。敵対したところで何の得にもならんし、その理由も無い」


 将志は天魔の質問に考えることすらなく即座にそう答えた。

 元々ここに来たのも道楽のようなものなので、敵意などあるはずも無い。

 それを聞いて、天魔は質問を重ねる。


「それは霊峰の総意か?」

「……そこまでは知らんが、恐らくはそう取ってもらっても大丈夫だろう。何しろうちの連中は俺を慕ってくれているものだ、話せばある程度の理解は得られるだろう。……もっとも今日の俺のように、血の気の多い奴が腕試しを考えるかも知れんがな」

「出来ればそれもするなとは言わんが、程々にしてもらいたいものだな。また書類仕事が増えるのは御免だ」


 将志のその言葉を聞いて、天魔は大きくため息をついた。


「まあいい、だというのなら私から特に言うことはない。うちの連中には後でお前の正体については明かしておこう」

「……それに関しては任せた。さて、俺はそろそろ鬼のところへ行くとしよう」

「……あまり鬼と問題を起こすなよ? 尻拭いをさせられるのは私達天狗なのだからな」

「……覚えておこう」

「は、たった今騒動を起こした奴の言葉を信用していいものかね」


 天魔はそう言いながら将志にジト眼をくれる。

 将志はそれを全く意に介さず天魔の次の言葉を待つ。


「……話は終わりか?」

「他に話すことなど無いな。折角今日は休みだったんだ、さっさと帰って惰眠をむさぼることにするさ」


 天魔はそういうと将志に背を向ける。

 その天魔に向かって将志は声をかけた。


「……機会があれば、また戦おう」

「ふん、私は鬼とは違うのだがな……まあ、頭の片隅にはとどめておく。ではな」


 天魔はそういうと黒く大きな翼をはためかせて飛び去って行った。

 将志はそれを見送る。


「……さて、すっかり遅くなってしまったが、そろそろ鬼の元へ行くとしよう」


 将志はそう呟くと、今度こそ鬼のもとへ向かうことにした。



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