銀の槍、取り合われる
竹林の中の古屋敷に止まった翌日。
さわやかな朝の風が畳張りの居間に吹き込み、卓袱台の上の朝食の香りを運んでいく。
「「「「…………」」」」
しかし、そんな穏やかなはずの食卓ではギスギスとした空気が漂っていた。
テーブルを挟んだ二人一組が向かい合い、異様な威圧感が居間を包み込んでいる。
「……どうしてこうなった……」
そんな食卓を見て、将志は頭を抱えた。
さて、何故こんな事態に陥ったのか、少し時間を遡って見てみるとしよう。
* * * * *
まだ日も昇らぬ夜明け前、沈みかけの月明かりの下で将志は日課となっている槍の練習を行う。
その横には、いつかと同じように永琳が立っていた。
「……はっ」
将志が最後の一振りをして残心を取ると、永琳は将志に近寄っていく。
「お疲れ様。久しぶりに良い物を見せてもらったわ」
「……おはよう、主……主が俺の槍を見るのも久々だな……」
将志は槍を納めながら永琳にそう答える。
ずっと待ち望んでいたやり取りに、永琳は思わず笑みを浮かべた。
「……何だか将志、顔つきが変わったわね」
「……そうか?」
「ええ。前はどことなく幼い感じがしてたんだけど、今はそれが無くなってすごく大人っぽくなっているわよ」
「……そうか」
将志は永琳の言葉にそういって頷くと、屋敷の中へ永琳と肩を並べて入っていく。
屋敷に入ると将志は朝食の準備をするべく台所に向かうが、そこであることに気が付いた。
「……しまった、食材が全く無いな……」
将志は材料が全く無いことに気づき、取りに行くことにした。
周辺にどんなものがあるのか分からないため、取りに行くのは自分の社の台所まで取りに行くことにした。
「……主、朝食の材料を取ってくる」
「ああ、了解。どれくらい掛かりそう?」
「……そう時間は掛からん。あるところから持ってくるだけだからな」
「そう。それじゃあ、気をつけていってらっしゃい」
「……行ってくる」
居間でお茶をすする永琳に一言言い残してから将志は屋敷を出る。
将志にとってはそこまで遠い場所でもないため、全力で走れば五分と掛からない。
朝霧が立ち込める境内に降り立つと、将志はまっすぐに台所に向かう。
「あら、お兄様。帰ってらしたの?」
そこでは、今から食事の準備をしようとしていた六花が居た。
六花は将志が不在の間の食事当番を任されているため、今朝の朝食は六花の当番であった。
赤い長襦袢に割烹着という格好で、自らの本体である三徳包丁を手にしている。
その姿は、新婚の若い奥方のようにも見えた。
ちなみに味は将志の妹だけあって、かなりのものである。
「……ああ、主達に朝食を作ろうと思ったら食材がなくてな。ここから少し持って行く」
それを聞いて、六花は動きを止めた。
その表情はなにやら焦燥が感じられるものだった。
「……お兄様、主って彼女のことですか?」
「……ああ、昨日再会した。今日からは主と」
「こ、これは一大事ですわ! 愛梨! アグナ! 大変ですわよ!!」
兄の捜し人が見つかったと知って、六花は大慌てで愛梨とアグナを呼びにいった。
「……幾らなんでも、大げさすぎではないか……?」
取り残された将志は、訳が分からずその場に立ち尽くした。
するとすぐに奥から慌ただしい足音が三つ聞こえてきた。
「主様が見つかったって本当、将志くん!?」
飛びつかんばかりの勢いで将志を問い詰める愛梨。
その瑠璃色の視線と鈴のような声にはいつもの愛梨らしからぬ焦りが含まれていた。
「何だ何だ、みんな大騒ぎして何が起きたんだ兄ちゃん!?」
一方、事情が良く分かっていないアグナは困惑した様子で将志に問いかける。
しかし、その質問をさえぎって六花が声を荒げる。
「こうしちゃ居られませんわ! 今すぐあの女のところに乗り込むべきですわ!」
「賛成! 将志くん、今すぐ案内頼むよ!」
「……あ、ああ……」
やたらと息をまく二人の剣幕に将志は思わずたじろいだ。
とりあえず、将志は六人分の朝食の材料をそろえて準備をする。
「なあ兄ちゃん、姉ちゃん達どうしたんだ?」
「……知らん。むしろ俺が訊きたい……」
アグナの問いに、将志は少々疲れた声でそう答えた。
そういうわけで全員揃って竹林の屋敷へ。
将志に先導されて着いた先では、輝夜が縁側に座ってボーっとしていた。
「あれ、将志? その後ろの人たちは誰?」
輝夜は将志についてきた三人を見てそういうと、その内二人の出す異常な雰囲気に気が付いた。
にこやかに威圧感を放つ橙色のジャケットとトランプの柄の入った黄色いスカートを着た道化師のような少女と、将志と同じ黒曜石のような眼で射抜くような視線を送ってくる銀髪の少女。
将志はその二人の様子を見て、思わず俯いて額を押さえた。
「……紹介は後でする。まずは主を呼んできてくれ」
「う、うん。……ねえ将志、あの人たち、何であんなに殺気立ってるの?」
「……それは俺が訊きたい……」
小さくため息をついて将志は居間に愛梨達を案内する。
居間に着くと、真ん中に置かれた卓袱台の前に全員を座らせる。
が、そこから逃げるようにして燃えるような赤髪の幼い外見の少女が将志の元へやってきた。
「……どうした、アグナ?」
「い、いやな、今の姉ちゃんたちがおっかなくってな……つーわけで、俺は兄ちゃんの手伝いに回ろうかと……」
「……ならば湯を沸かしてくれ。まずは茶でも飲んで落ち着いてもらおう」
「合点だ!」
アグナの能力で、一瞬にしてやかんの水が沸騰する。
将志はそれを使って丁寧に熊笹茶を淹れると、お盆の上に載せた。
「……これを持って行ってくれ。それから、すぐに朝食を作るから戻ってきてくれ」
「合点だ、兄ちゃん!」
将志に元気良く返事をすると、アグナはお茶を今に運んでいった。
それを見届けると、将志は料理を始めた。
……何故話より先に料理を始めたかというと、単なる現実逃避である。
しばらく料理を作っていると、いよいよ居間からは強烈な圧力が感じられるようになった。
その直前の足音と気配から、永琳と輝夜が居間にやってきたのだと知れた。
「なあ兄ちゃん、すんげえ出て行きづらいんだけどよ……」
アグナは途方にくれた表情を浮かべ、炎のような橙色の瞳で縋るように将志を見る。
「……行くしか、あるまい……」
「……とほほ……仕方ねえなぁ……」
それに対して将志は覚悟を決めた声でアグナに返し、朝食を持って居間に向かう。
アグナもがっくりと肩を落としてそう呟くと、同じく朝食を持って居間に向かった。
* * * * *
そうして話は冒頭に戻る。
大きな長方形の卓袱台の短辺に座る将志は、向かい合う二組を眺めた。
右側には、笑顔でプレッシャーを掛ける愛梨と、親の敵を見るような眼で相手を見る六花。
左側には、怖いくらいの無表情で向かい合う相手を見つめる永琳と、状況の説明を受けて面白くなさそうな表情を浮かべた輝夜の姿があった。
そして、隣にはこの空気に耐えられなくて避難して来たアグナが居る。
「……朝食が冷めてしまうぞ?」
睨みあっていても埒が明かないので、将志は食事を開始する。
両者とも無言で箸を取り、食事を始める。
「……あなたが、喜嶋 愛梨ね?」
「……うん、そうだよ♪ 会うのは初めてなのに、良く分かったね? そういう君は、八意 永琳であってるかな?」
「ええ……あっているわよ」
永琳は愛梨に対して名前を確認すると、スッと眼を細めた。
一方の愛梨は、永琳の名前を聞いて笑みを深めた。
二人とも一見穏やかに話しているように見えるが、その実水面下では腹の探り合いが始まっていた。
「で、隣の貴女はどなたですの?」
「名を名乗るときは、自分から名乗るのが礼儀じゃないかしら?」
「……それもそうですわね。私は槍ヶ岳 六花、そこに居る槍ヶ岳 将志の妹ですわ」
「そう。私は蓬莱山 輝夜。八意 永琳の主人よ」
六花は敵意を隠すことなく輝夜に名前を尋ね、輝夜も不機嫌さを隠すことなくそれに答える。
両者の間には、もはや見るまでもなく壁が出来ていた。
「……それで、あなたたちは何の用でここに来たのかしら?」
「そうだね……しいて言うなら、決着をつけに来た、かな?」
永琳の問いに愛梨が答える。
永琳はその返答に、首をかしげた。
「あら、決着をつけるような出来事なんてなかったと思うのだけれど?」
「ならば単刀直入に言わせてもらいますわ。お兄様は返していただきますわよ」
永琳の言葉に、六花が横からそう言って割り込んだ。
「……む?」
突然自分の名前が挙がって、今度は将志が首をかしげた。
全く持って訳が分からない、そんな表情で将志は両者を見渡した。
「返してって、別に将志は貴女の所有物じゃないでしょ? それに、所有権云々を言うんなら元々の親権その他は永琳にあると思うわよ?」
「だったら二億年以上も放置してるんじゃないですわ。そんな人に親権があるとは思えませんわよ? それに、それを証明するものがあるのかしら?」
「それを言うなら貴女の方こそ将志との関係を証明できるの? 今この場で証明して見なさいよ」
「それならば、お兄様に訊いてみればいいですわ。何万回尋ねようが、帰ってくる答えは同じですわよ?」
六花と輝夜は火花を散らしながら睨みあい、激しい舌戦を繰り広げる。
言葉を返すたびに口調は強くなり、どんどんエスカレートしていく。
その横で、永琳と愛梨は静かに視線を交わし続ける。
「……建前を言っても仕方がないから、素直に言わせてもらうよ。僕は君に将志くんを渡したくない」
「……そう……でも私だってもう将志を失いたくはないわよ。やっと逢えたのに、またお別れなんてご免被るわ。あなたが将志を連れて行くというのなら、私は全力でそれを阻止させてもらうわよ」
「そんなの僕だって同じだよ。君が僕から将志くんを奪っていくんなら、僕は全力で奪い返してみせる」
「……なるほどね。どうやらあなたとはいくら話しても無駄のようね」
静かにそう言い合うと、二人はスッと立ち上がった。
「それじゃあ、力ずくででも奪い返させてもらうよ」
「そうはさせないわよ」
静かに闘志を燃やしながら愛梨と永琳はそう言葉を交わす。
お互いに譲る気は無いらしく、二人の間には激しい火花が散っていた。
「きぃぃぃ! 表に出なさい! 格の違いを思い知らせてあげますわ!」
「上等じゃない! 貴女ごとき、けちょんけちょんにしてあげるわよ!」
その奥でも、今にも飛び掛らんばかりの勢いで六花と輝夜が立ち上がる。
その場には一触即発の空気が漂う。
「うわっ!?」
「きゃあ!?」
「あうっ!?」
「いたっ!?」
そんな四人の額に唸りを上げて飛んでくる箸置き。
四人はその直撃を受けて、一斉に額を押さえて飛んできた方向を見た。
「……全員、そこに並んで正座」
「に、兄ちゃん?」
その方角には、箸置きを投げた状態で眼を瞑って静かに怒気を放つ将志が居た。
その横には、将志の怒気に当てられて涙目になっているアグナが居る。
「「「「…………」」」」
ただならぬ様子の渦中の人物に、四人は黙って言われたとおりに並んで正座する。
将志はその前に立ち、四人を見下ろした。
「……全く、様子がおかしいと思えば……そんなくだらないことで喧嘩を始めるとは……」
「く、くだらなくなんてないよ!」
「……くだらないことだ。そもそも、何故俺がどちらか片方にしかつけない事になっている? まず前提からしておかしいと思うのだが?」
くだらないと言い放つ将志に愛梨が喰らい付くが、将志はそれを一笑に付した。
将志は小さくため息をつきながら話を続ける。
「……まず、輝夜。お前は何故怒っているのだ? 正直、理由に見当が付かないのだが」
「……そ、それは……」
将志の問いに、輝夜はそっぽを向いて言いよどんだ。
その様子を見届けると、今度は六花に眼を向ける。
「……六花は、俺が家族を放り出すような薄情者に見えるのか?」
「っ!? そ、そんなつもりじゃ……」
六花は将志の言葉に、悔いるような表情を見せて俯いた。
「……愛梨も、何故俺が主に構うとお前に構わなくなる等と決め付ける? 友人としては悲しいものがあるのだがな?」
「うっ……ごめんよ……」
「……それに、俺は愛梨には感謝しても返しきれない恩がある。あの日、愛梨が俺を連れ出していなければ、俺はあの町と共に朽ち果てていたことだろう。今の俺が居るのは愛梨のおかげなのだ、そんな恩人を見捨てておけるほど俺は恩知らずではない。……今さらだが言わせてもらう、感謝しているぞ、愛梨」
将志が感謝の言葉を述べると、愛梨は頬を染め、照れくさそうに笑った。
「う、うん……えへへ、これからも宜しくね♪」
「……ああ、よろしく頼む」
将志はその言葉に頷くと、今度は永琳のほうを向いた。
「それから、主。前にも言ったと思うが、何故一度忠を誓った主を見捨てると思う?」
「でも、そう言ったあなたは私の前から姿を消したじゃない!」
将志の発言に永琳は思わずそう叫んで立ち上がった。
将志は眼を伏せ、その言葉を真摯に受け止める。
「……確かに、俺は一度主の下から離れた。だが昨日話したとおり、俺は主のことを忘れたことは一度もない。主が望むだけ、可能な限り俺は主の側に居たいと思っている」
将志は淡々と、それで居て力強い声でそう言い切った。
しかし、その直後に将志は小さくため息をついて首を横に振った。
「……と言ったところで所詮は前科持ちの言葉、これでは信用してもらえる訳もないか」
将志はそういうと、槍に巻いた赤い布を取り払い、永琳の前に掲げた。
「……再び誓おう。俺はこの槍にかけて、主の命ある限り主を守ろう。……信じてもらえるか、主」
「……嫌よ。そんな誓いなんて聞きたくないわ」
永琳は将志の誓いを俯いたまま首を横に振って拒絶した。
将志は少し困った表情を浮かべて槍を引っ込めた。
「……では、俺はどうすればいい?」
将志は困惑した表情で永琳を見た。
永琳は一つ深呼吸をすると、顔を上げた。
その視線には、有無を言わせない力強さがあった。
「誓いなさい。私を守るより何よりも、生きて私のそばに居ると、私に誓いなさい」
「……主……」
強い念の篭った永琳の言葉は、将志の心に深く突き刺さった。
その言葉を受け、将志は眼を閉じ、首をたれた。
「……主がそう望むのならば」
将志は永琳の言葉と、自分の誓いの言葉を深く胸に刻み込んだ。
そして、それが終わると将志は手を叩いた。
「……さて、説教はこの程度にしておこう。せっかく朝食を作ったのだ、冷めてしまっては台無しになる。全員くれぐれも、喧嘩の無いようにな」
「そうね。久しぶりの将志のご飯ですものね」
「そうだね♪」
「……色々と言いたいことはありますけど、この場は引きますわ」
「……そうね、将志の朝ごはんに免じて引いてあげるわ」
喧嘩を始めそうになっていた面々も、将志の一言に自分の席に戻っていく。
「ふぃ~、ようやく落ち着いて飯が食えるぜ……なあ兄ちゃん! いつものあれ頼む!!」
アグナはホッとした表情を浮かべた後、笑顔で将志に箸を手渡した。
「……いいだろう」
将志はアグナから箸を受け取ると、自家製の魚の一夜干しをほぐしてアグナの口に持っていく。
「……あ~……」
「ぶっ!?」
「…………(ふるふるふるふる)」
将志がいつもどおりアグナに食べさせようとする時の声を聞いて、輝夜は思わず噴き出した。
その横では噴き出しこそしなかったものの、永琳も俯いて笑いをこらえていた。
「……どうした?」
「あ、貴方がそれやる!? あ、ダメ、ツボに入った、あはははははは!」
「ご、ごめんなさい、将志がそういうことをするのが意外で……」
「あ~むっ♪ か~っ! やっぱ兄ちゃんの飯はうめえな!!」
首を傾げる将志に、輝夜は腹を抱えて笑い転げ、永琳も笑いをこらえながら将志に答えを返した。
それを気にせず、アグナは満面の笑みを浮かべて食事を続ける。
「……六花のときはこういうものだと言っていたが?」
その言葉を聞いて、輝夜は固まった。
そしてゆっくりと六花の方へ振り向いた。
「……ちょっと、貴女ひょっとして将志にああやって食べさせてもらったことあるの?」
輝夜はまるで信じられないものを見るような眼で六花を見る。
それを受けて、六花はむっとした表情を浮かべた。
「……だったら何ですの?」
六花は輝夜を睨みながら、低い声でそう言った。
それを聞いて、輝夜は養豚場の豚を見るような眼で六花を見た。
「うわ~、引くわ~ 実の兄にそんなことさせるなんて信じらんないわ~」
輝夜がそう言った瞬間、六花の中で何かが切れた。
「……その喧嘩、買いましたわ!」
「上等よ!」
「……黙って食え」
「「はい……」」
喧嘩を始めそうな六花と輝夜を、将志は威圧感のある声で抑止する。
しばらくすると、今度は愛梨が話しかけた。
「ねえ、輝夜ちゃん♪ さっき将志くんも言ってたけど、どうしてあんなに不機嫌だったのかな?」
「うっ……そ、それは……」
「……たしかに、それは俺も聞いておきたい。それによっては、今後の俺の身の振り方を考えることになるからな」
将志と愛梨の二人に問いかけられ、輝夜は言いづらそうに口ごもる。
そしてしばらくすると、輝夜は俯いて小さな声で話し始めた。
「……ったからよ」
「……ん?」
「せっかく出来た友達が居なくなると思ったからよ! 何度も言わせないでくれる!?」
将志が聞き取れなくて訊き返すと、輝夜は自棄になってそう叫んだ。
その顔は真っ赤で、叫んだ後は肩で息をしていた。
その発言を聞いて、将志は小さくため息をついた。
「……なるほどな。そういうことならば特に問題は無い、俺がこまめに顔を出すだけで事足りる」
「あら、大問題ですわよ。どうせ友達なんてお兄様くらいしか居ないんでしょうし、いっその事トドメをさしてあげた方が良いのではなくて?」
将志の言葉に、六花が横から軽い口調で茶々を入れる。
その瞬間、輝夜の堪忍袋の緒が音を立てて切れた。
「……おい、そこの腐れアマ。表出ろ」
「やれるもんならやってみてくださいまし!」
「……箸置きをくれてやろうか?」
「「……済みませんでした……」」
再び喧嘩を始めようと立ち上がる六花と輝夜を、将志は箸置きを投擲する姿勢を見せることで抑止する。
その様子を見て、愛梨は笑みを浮かべた。
「うんうん、六花ちゃん、もう輝夜ちゃんとあんなに仲良くなったね♪」
「ええ、本当にね」
「なにをどう解釈したらその結論になるのよ!?」
「なにをどう解釈したらその結論になるんですの!?」
六花と輝夜が喧嘩しそうな雰囲気である一方で、愛梨と永琳は割りと和やかに食事を勧めていた。
どうやら、こちらは双方共に将志を失うことがなくなったために一定の相互理解を得られたようだった。
こうして、朝は騒がしく過ぎていった。