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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
永い夜と銀の槍
159/175

唐突な番外編:銀槍版白雪姫

注意


 この話は本編のキャラクターを使った作者のやりたい放題の話です。

 以下の点にお気をつけください。


 ・著しいキャラ崩壊

 ・カオス空間

 ・超展開

 ・一部メタ発言


 なお、この話は本編とは一切関係ありません。

 以上の点をご了承しかねると言う方は、ブラウザバックを推奨いたします。


 では、お楽しみください。

























「はいは~い♪ 突然だけど、ここで演劇の時間だよ~♪」

「ちょっと待ちなさい……」


 突然の底抜けに明るいピエロの少女の声に、輝夜は頭を抱えるようにして彼女のほうを見る。

 彼女達は大きな舞台の前に立っており、その上には先程の声の主であるピエロが立っていた。


「何かな?」

「ねえ、今私達戦闘中だったわよね、本編で」

「うん、そうだね♪」

「じゃあ何でいきなり演劇話なんて挟むのよ!」

「キャハハ☆ それはどこかの誰かさんがシリアスに疲れたからだよ♪」


 愛梨はころころと笑いながら輝夜の質問に答え、赤いリボンのついたシルクハットを手にした黒いステッキで軽く叩く。

 そんな彼女の様子に、妹紅は疲れた表情で口を開いた。


「シリアスに疲れたって、どういうことなのよ……」

「……ちょっと妹紅。なんか喋り方がいつもと違うわよ?」


 呆れ顔でそう口にする妹紅に、輝夜が違和感を感じてそう問いかける。

 それを聞いて、妹紅はなおいっそう呆れたという表情で大きくため息をついた。


「それもどっかの誰かの意向よ。どうにも、原作通りじゃないのが我慢ならなくなったみたい」

「え、じゃあ今までの話はどうなるのよ?」

「それも修正するんだとさ。まあ、話が大きく変わるわけじゃないんだから良いんじゃない?」

「お前らメタ話も大概にしておけ。で、演劇を本当にまたやるのか?」


 輝夜と妹紅の話を、銀縁眼鏡の黒髪の青年がそう言ってさえぎる。

 その彼の言葉を聞いて、愛梨はにっこり笑ってその質問に答えた。


「そうだよ♪ 今日のお話は白雪姫だよ♪」

「うわ~ん、もう声が枯れるまで叫ぶのは嫌ぁ……」

「キャハハ☆ 大丈夫だよ、輝夜ちゃん♪ 今日は君が監督をするわけじゃないから♪」


 泣き出す輝夜に、愛梨はそう言って彼女の肩を叩く。

 その瞬間、輝夜の表情が一気に明るいものに変わっていった。


「え、そうなの?」

「うん♪ 今日の監督は善治くんだよ♪」


 愛梨がそういった瞬間、善治の顔に深い絶望の影が差し、輝夜の表情に希望の光が差し込んだ。


「……どうせ、碌なことにならねえんだろうな」

「強く生きなさい、善治……今日は、ちょっと休ませて貰うわ」


 輝夜は満面の笑みで涙をほろほろとこぼしながらそう言うと、全力疾走でその場から走り去っていった。

 弾丸のように走っていくそんな彼女の姿を、妹紅は唖然とした表情で見送った。


「はや……よっぽど嫌だったのね。まあ、無理もないけど」

「あ、そうそう、この前から居たんだけど、音響さんが入ってるからみんな宜しくね♪」

「音響?」

「私たちのことよ」


 愛梨たちの会話を聞いて、それぞれ黒・白・赤の服を着た三人の楽器を持った少女が間に入ってきた。

 そのうちの一人の、白い服を着たメルランが愛梨に駆け寄って抱きついた。


「やっほー、愛梨! 今回も任せてね!」

「キャハハ♪ こっちこそお願いするよ♪」

「さてと、この仕事はきっちりとこなさないとね。給金も良いし」

「リリカ。言いたいことは分かるけど、あまり余計なことは言わないほうが良いよ」

「視覚効果と演出は俺の役割だぜ! みんな宜しくな!」


 お互いの手を取り合ってくるくると踊る愛梨とメルランの横で、ルナサとリリカが話をしながら準備をする。

 その横では同じく裏方に回っている燃えるような紅い髪の幼い少女、アグナが挨拶をして回る。


「む~……銀の霊峰がこんな愉快なことをしてるって知ってたら、もっと早く取材に来れたのに……悔しいです」


 そんな彼女達を見て、悔しげに唸り声を上げる少女の姿が一つあった。

 その烏天狗の少女、射命丸文の肩を、やや大人びた同じ烏天狗の天魔と呼ばれている女性が軽く叩いた。


「私は最初期から居たぞ? ある程度の好き放題は出来るから、ストレス発散にはちょうど良い」

「……その代わり、監督の胃がストレスでマッハだがな」


 椿の言葉に、監督を任された善治がげんなりとした表情で胃を押さえながらそう言い返した。

 その言葉を聞いて、椿に付き添っていた白狼天狗の椛が彼のほうを向いて声を掛けた。


「あ、善治さん。こんにちは」

「はい、こんにちはっと……」


 気軽に声をかける椛に、適当に返事を返す善治。

 実は二人とも将棋を通した知り合いであり、割とよく話をしたりする仲だったりする。

 なお、勝率に関しては善治が十割をキープし続けているのだが、そもそも善治は大天狗なども相手にさせられる一種の有名人なので特に気にしていないようである。

 始まる前から疲れ果てている善治に、椛は首を傾げた。


「貴方が監督なんですか?」

「ああ。もっとも、これを劇といえるかどうかは分からんがね」

「どういうことです?」

「……見てりゃ分かる」

「キャハハ☆ それじゃあ、はっじまるよ~♪」


 愛梨の楽しげな声と共に、舞台の幕が上がった。




 * * * * *




『昔、あるところに一人のお姫様が居ました。お姫様は黒絹のように美しい髪と、薔薇のように赤い唇、そして雪のように白い肌でした。その美しさから、白雪姫(演者:輝夜)と呼ばれていました』




 * * * * *




「……ちょっと待ちなさい……」


 舞台の上で、白雪姫の衣装に身を包んだ輝夜が握りこぶしを震わせながらそう口にする。

 それを聞いて、主催である愛梨はこてんと首を傾げた。


「何かな?」

「監督じゃないって、主演ってこと……?」

「キャハハ☆ その通りだよ♪」

「ふざけんじゃないわよ!! 何で私がこんなことしなきゃいけないのよ!?」


 愛梨の返答に、あらん限りの大声で輝夜はそう怒鳴り散らした。

 せっかく監督から逃れられたと思いきや実際は更に過酷な主演の立場をつかまされたのだから、彼女の怒りもごもっともである。

 そんな彼の肩を何やら色々諦めた表情の善治がぽんと叩いた。


「……輝夜。逆に考えるんだ。自分がまともに振舞えば、もしかしたら上手くいくかもしれないと」


 善治がそう言うと、輝夜は大きく深呼吸をして息を整える。

 そしてある程度気分が落ち着いたのを確認すると、気になったことを周囲に問いかけた。


「……そうね。で、今回の脚本家は?」

「私ですわ」

「私よ」


 輝夜の問いかけに、桔梗が描かれた紅い長襦袢を来た銀の髪の女性と、たれ耳が特徴的なウサギの少女が応える。

 その面子を見て、再び輝夜の導火線に火がついた。


「ちょっと! 最悪の二人じゃない!」

「貴女が主演と聞いたら、書かずにはいられなかったんですの。楽しみにしてくださいませ、ほほほほほ」

「六花ノリノリだったものね。私も思う存分に仕事が出来てよかったわ」

「……ダメだ、悪意しか感じねえ……」


 意地の悪い笑みを浮かべる二人を見て、善治はがっくりとその場に膝を折るのであった。


 しばらくして、色々と諦めた監督の声によって劇は再開された。




 * * * * *




『お姫様は意地悪な継母の女王(演者:椿)にいつも雑用にこき使われて、いろんな仕事に借り出されます』


「白雪。これからベーリング海に行って来い。いつも通りな」


『今日はどうやら海に出かけて仕事をしなければいけないようです』




 * * * * *




「ちょっと待ちなさい……」


 劇の最中、輝夜は震える声でそう言うと、椿の元に向かう。

 どうやら、我慢できなかったようであった。


「ベーリング海って何よ? あといつから白雪姫は海の住人になったのよ?」

「うん? 白雪と言えば公試排水量1,980トンの特型駆逐艦の二番艦のことだろう?」

「……おい、流石にそれはわざとだよな?」

「ああ、もちろんわざとだ。でないと、このような脈絡のないことなど口にするわけないだろう」


 流石に突拍子もないことを言われて渋い表情を浮かべる善治の問いかけに、椿はしれっとそう答える。

 それを聞いた瞬間、早くも輝夜の堪忍袋が破滅の音を奏で始めた。


「そんな意味の分からないボケなんていらないわよ! そんなくだらないことで私を叫ばせないでくれる!?」

「いや、お前が吠えないとここの演劇じゃない気がしてな。所謂様式美と言う奴だ」

「そんな様式美はさっさと投げ捨てろおおおおおおおおおおおおお!」


 椿の襟首を掴みながら、輝夜はそう言って大声で吠える。


「……何と言うか、これじゃあ監督とあんまり変わらないな」


 そんな彼女を見て、善治は疲れた表情でそう口にするのであった。


 輝夜がコップの水を一気に飲み干して気分を落ち着けると、舞台が再開された。




 * * * * *




『女王様には、一つ自慢の品物がありました。それは、何でも知っている魔法の鏡(演者:椛)でした』


「おい鏡。北方戦線の戦況はどうだ?」

「指揮官数名が負傷。しかしながら我が方の優勢は続いており、士気は非常に高まっております。地形的にも有利であり、まず負けはないと思われます」

「ふむ。市井の様子は?」

「戦争による特需で鍛冶屋や鉱山がにぎわっています。反面、働き手を戦争に取られた農村部が活気を失い、飢饉を招きかねない状況が続いております」

「……難しい状況だな。宜しい、下がれ」


『女王様は魔法の鏡に国の様々なことを聞き、その辣腕を振るっていました。そんな女王様のところに、すっごく怒った表情の白雪姫がやってきました』


「……ちょっと……何やってるのよ、お母様?」

「何って、こんな便利なものがあるんだ、国のことを調べるにはうってつけじゃないか。自分の美しさのようなどうでも良いことを調べるなどと言うことに使うなんぞ阿呆の所業だ。これがこの鏡の正しい使い方だろう?」

「そんなことしてたらお話が進まないでしょうが! さっさと自分の美しさについて聞きなさいよ!」

「やれやれ……おい鏡、今世界で一番美しいのは誰だ?」

「魔法少女シルバームーンです!」


『え、えっと……女王様の問いかけに、ちょっとおかしくなった鏡が勢いよくそう答えました』




 * * * * *




「カット……おい、誰かあのアホ天狗をつまみ出せ」

「……さて、来てもらおうか」

「ああ~!」


 善治が舞台を中断させると同時に、将志が舞台に割り込んできた不届き者をお仕置き部屋へと連行していく。

 そんな身内の恥は流石に見過ごせなかったのか、椿は額に手を当てて椛に話しかけた。


「……椛、あれはどこの部隊の白狼天狗だ?」

「ええっと……彼は確か第六哨戒部隊じゃ……ひっ!?」

「よしわかった。後で少しばかり話をしに行こう」


 後に椛は語る。そう口にする椿の口調は、第六天魔王そのものであったと。

 お仕置き部屋から愚者の断末魔が響くそんな中、突然のイレギュラーの乱入に少し動揺していたのか、愛梨が青い三日月のペイントが施された右の頬をぽりぽりと掻きながら苦笑いを浮かべていた。


「にしても、びっくりしたなぁ……このままじゃ、銀月くんが白雪姫をやらなきゃだったね♪」

「むしろ代わりなさい。私は帰って寝てるから」

「あはははは、やだ」


 輝夜の言葉に、銀月はそう言って笑いながらきっぱりと断った。

 その言葉に、輝夜は不服そうに銀月をにらむ。


「何でよ。いつもなら演劇の練習になるって喜んでやるくせに」

「……だってさぁ、これ演劇と言うより、コントだし」

「また身も蓋もない発言だね!?」


 銀月の指摘に電撃が走った愛梨なのであった。


 お仕置き部屋からの悲鳴が聞こえなくなって赤毛になった将志が戻ると、劇は再開された。




 * * * * *




「おい鏡。世界で一番美しいのは誰だ?」

「それは女王様でございます」

「よし」


『女王様は自分が一番美しいというのが自慢であり、それを魔法の鏡に何度も聞いて確認していました。ある日、女王様はいつもの様に鏡に向かって誰が一番美しいかを聞きました』


「おい鏡。今世界で一番美しいのは誰だ?」

「あの、確かに女王様は美しいんですが……今は白雪姫の方が美しいかと……」

「……ほう。もうそんなところまで来たか……よし、ではあの大国の王に手紙を書くとしよう。あの姫なら、きっとあの国の王子も気に居るだろう」


『女王様は早速政略結婚のための準備として、近くの大国の王様に手紙を書き始めました』




 * * * * *




「はい、ちょっと待とうか」


 善治は疲れた様子でそう口にすると、席を立って既に飛び出してきた輝夜に説教を受けている椿の元へと向かう。

 その姿はもう諦めモードであり、つっこむのも面倒だといわんばかりであった。


「もう一度聞くわ。ねえ、何で白雪姫を殺さないの?」

「だから、何でそんな勿体ないことをしなければならんのだ。世界一美しい姫君ともなれば、色々な国の王子に売り込める。政略結婚に使うにはもってこいじゃないか」

「いつも言うけどこの劇童話ぁ! 童話の劇にそんな現実的な問題持ちこんじゃダメでしょうが!」

「何を馬鹿な。女王が無能では美しさを保っていられるような生活など出来はせんよ。少し知恵が回るならば、その程度のことは考えるだろう。そもそも、美しさなどと言ういずれは衰えるしかないものに執着するなど愚の骨頂。そうだろう、善治?」

「……そりゃそうだがな、一応は劇のシナリオ通りに進んでもらわないと困る」


 いつもの通り喚き散らす輝夜に悪びれることなく椿が答えを返し、善治は疲れた表情で椿に指示を出した。

 それを聞いて、椿はつまらなさそうに大きなため息をついた。


「やれやれ、童話の役作りも楽ではないな……」

「あんたのハチャメチャな思考に付き合わされる私の方がよっぽどしんどいわあああああああああああああ!」


 椿の言葉を聞いて、舞台装置を奮わせるほどの大声で輝夜はそう叫ぶのであった。


 輝夜が精神安定剤を飲んできたところで、舞台は再開された。




 * * * * *




『白雪姫の美しさに嫉妬した女王様は、狩人に白雪姫を狩りに連れだして殺すように命じました』


「あれ、狩人さんどこに行ったのかしら?」


『白雪姫は途中でいなくなった狩人を捜して辺りを歩き回ります』


「あら、何かしらこの音?」


『しばらくすると、何やら聞き慣れない音が聞こえてきました』



 BGM:ワルキューレの騎行



『すると、狩人(演者:鈴仙)は戦闘ヘリに乗ってやってきて、白雪姫に機関銃を撃ち始めました』


「……え゛」

「いいか、逃げる奴は白雪姫で、逃げない奴は良く訓練された白雪姫だ! 全く戦場は地獄だぜ! フゥーハハハハハ!!」

「きゃあああああああああああああ!?」


『白雪姫は機関銃の掃射を必死で避けながら逃げていきます』




 * * * * *




「カットカット!」

「はぁ……はぁ……助かったわ、善治……死ぬかと思った……」


 暴れまわる戦闘ヘリを見て、善治はやや興奮気味にそう言って舞台を止めた。

 その合図を聞いて、機銃掃射から逃げ回っていた輝夜は善治の目の前で座り込んだ。


「おい、どこのどいつだ、アパッチなんて用意した奴は!」

「そうよ! どこの世界に童話に戦闘ヘリなんて……」

「どうせやるんならA-10のアヴェンジャーで一斉掃射をかけろよ!」

「あんたがボケるなああああああああ!」

「たわばっ!」


 まさかの善治のボケに、輝夜は自分が疲れていることも忘れて彼に全身の力を最大限に利用したアッパーカットをお見舞いする。

 善治はそれを受けて数メートル飛ばされた後、完全にノックアウトされた状態になった。

 そんな彼を、輝夜は肩で息をしながらにらみつけた。


「ぜー、ぜー……全く、どいつもこいつも……善治もたまにボケるから油断ならないわ……」

「え、えっと……大丈夫ですか、姫様?」

「……イナバ。あんた私を撃つとき随分ノリノリだったじゃない?」


 横からかかった声に、輝夜はジロリと鈴仙に目を向ける。

 その鋭い視線を受けて、鈴仙はビクリと肩を振るわせた。


「ひっ、それは台本にそう書いてあったから……」

「……貸してみなさい」


 輝夜は鈴仙の持っていた台本を奪い取ると、その中を覗く。

 すると、やたらと念入りに、執拗に白雪姫を追い回すように指示を出している赤文字を発見することが出来た。

 そして輝夜には、その文字に見覚えがあった。


「……六花……これ、あんたの字よね?」

「それ以外に見えまして?」

「……おのれ……」


 これ以上ないほどの笑顔で、六花は輝夜にそう答える。

 それを聞いて、輝夜はギリギリと歯を軋ませるのであった。


 雷禍が善治の頭に水をかぶせてたたき起こすと同時に、舞台は再開される。



 * * * * *




『狩人は白雪姫を殺そうとしましたが、白雪姫のことをどうしても不憫に思った狩人は結局殺せませんでした』


「……ダメです、やっぱり私には殺せない!」

「あんだけ機関銃乱射しといて何を今更……」

「さあ、早くお行きなさい! ここは私が何とかしますから!」

「はいはい、分かったわよ」


『白雪姫は狩人の言うとおり、森の奥へと逃げていきました。そしてしばらく行くと、何やら小さな家が見つかりました』


「ああ、これが例の家ね。流石に走り回って疲れたし、少し休みましょう」


『すっかり疲れていた白雪姫は白雪姫は、家の中へと入っていきます。すると、中には小さな椅子や机、そしてベッドが並んでいました』


「……随分小さいわね。小人の家だったのね……ふぁ~……眠い……」


『白雪姫はそう言うと、小人のベッドの上ですっかり眠りこけてしまいました。一方その頃、その家の持ち主である小人たちは仕事をしていました』


 BGM:レマゲン鉄橋


「……捕ったぞ」


『小人は食料自給自足の生活を送っており、そのうちの一人(演者:将志)は海に潜って魚を捕っていました』




 * * * * *




「ヘイ! BGM、スタァーップ!」


 童話に似つかわしくない音楽が流れると同時に、善治はそう言って劇を停止させると音響係の元へと向かった。

 何故なら、この状況で流されるその曲はどうあがいても特定の人物の姿を克明に映し出すものであったからだ。


「おい、そのBGMは元々何の曲だか知ってんだろうな? これ元は戦争映画の曲だぞ?」

「そうなの? これは銛を使って漁をするときの曲だって聞いたけど?」


 善治の言葉を聞いて、ルナサはそう言って怪訝な表情で首を傾げた。

 それを聞いて、善治はそんなネタを吹き込む存在に思い当たってその人物を見やった。


「……おい、雷禍?」

「んあ? 何か用か?」


 ニヤニヤと笑う雷禍を、善治はジッと眺める。

 そしてしばらくすると、善治はにやりと笑みを浮かべた。


「……ほほう、今度は床板の下の基礎石の裏か。また無駄に手の込んだところに」


 善治は余裕を含ませた、完全に自分が上位に立っている様子でそう口にした。

 その瞬間、雷禍の顔から血の気がサッと引いていった。


「あ、テメエ何するつもりだ!?」

「いや、ちょっとお前が姉御と慕う人物に提出しようと」

「やめて~!! プライバシーの侵害よ~!!」

「ほう、そうか。ではその内容をこの場で俺が」

「あ、もう俺キレたぞ。テメエ俺がキレたらどうするか分かってんだろうな?」

「どうでも良いが、俺が居なくなったら困るのはお前のほうだぞ?」

「……あぁ?」

「さて……どこかの誰かに貢いだせいで自分の食い扶持すらままならなくなって、折半だった家賃を全額持ってもらった挙句日々の食費まで出してもらってるのはどこのどいつだったかな?」

「全面的に俺が悪うござんした。お代官様ごめんなせえ」


 しばらく言い争いをするも、善治の言葉を聞いて雷禍はこれ以上ないほどに深々と土下座を敢行した。

 一方、善治の口から語られた雷禍の惨憺たる経済状況に、妹紅が心配そうに雷禍に話しかけた。


「ちょっと、あんたそんなに悲惨な懐事情だったの?」

「……まあ、ちょっと事情があってな」

「と言うより、プライバシーの侵害を考えるほど怒るようなものなの?」

「いや、時折機会を見つけて上下関係を叩き込んでおかないとな。なあに社会的信用は俺の方が上なんだ、たとえ嘘でも疑惑を吹き込みさえすれば、こいつの信用など簡単に崩れ落ちる」

「うう……みんな貧乏が悪いんや……」


 妹紅の問いかけに善治は悪い笑みを浮かべながらドス黒い言葉を並べ立て、雷禍は悲哀の涙を流しながらハンカチを噛み締める。

 どうやら腕っ節はともかく、日常生活のヒエラルキーにおいては完全に善治が上位に立っているようであった。


「……人間社会の闇を垣間見た気がするわ」

「というか、実は善治って人間にとっては妖怪よりもよっぽど怖いんじゃ……」


 そんな二人のやり取りにドン引きする輝夜と妹紅なのであった。


 しばらくして雷禍が立ち直ると、舞台が再開された。




 * * * * *




「……今日は形のいいマグロが取れたぞ」

「こっちはイノシシの燻製が出来上がったぜ」

「畑のほうは異常なしだ。イノシシを引っ掛けたくらいだな」

「私らのほうはまあまあだな。少しパンが売れ残ったくらいだ」

「私は良いハーブが取れたわ。香料にはもってこいね」


『小人達(演者:霊夢・魔理沙・永琳・銀月・ギルバート・雷禍)は仕事から戻ってくると、それぞれの仕事の成果を提示します。そんな中、一人が家の中の異変に気が付きました』


「ねえ、ベッドに誰か居ない?」

「え……あ、本当だ……」

「……主達は下がっていろ。俺達が様子を見てくる」

「自白剤を用意しておくわ。くれぐれも慎重にね」


『小人達は用心深く白雪姫が寝ているベッドに近づいていきます。そして、そのうちの一人がナイフを手に持って白雪姫の身体を揺らしました』


「おい、起きろ」

「うん……?」


『白雪姫が目を覚ますと、目の前には二本の槍と一本の刀、そして首筋にひたひたと当てられるナイフの冷たい感触を覚えました。白雪姫はびっくりしてすくみあがってしまいました』


「ひ、ひぃ!?」

「さあて、話して貰うぜ。テメエ、何者だ?」


『小人の中でも飛びぬけて柄の悪い一人が、日本刀の刃をちらつかせながら話しかけました』


「おい、柄の悪いっつーのは余計だ!」


『私語は慎む!』


「……うぃ」


『怖い小人の質問を聞いて、白雪姫は顔を青くして質問に答えます』


「わ、私は白雪姫……あ、あんたら誰?」


『白雪姫は勇気を振り絞って小人達に問いかけました。それを聞いて、小人達は一斉に自己紹介をしました』


「……赤レンジャーだ」

「赤レンジャーさ」

「黄レンジャーだ」

「赤レンジャーよ」

「黄レンジャーだぜ」

「おりゃ黄レンジャーだな」

「私は赤レンジャーね」


「「「「「「「七人揃ってナナレンジャー!!」」」」」」」


「ちょ、ちょい待ちちょい待ち!」


『息のピッタリあった小人達の名乗りを聞いて、白雪姫は起きてベッドから立ち上がると、大きく深呼吸をしてから小人達に話しかけました』


「……もう一度名前を聞くわ。貴方は?」

「……赤レンジャーだ」

「……そう。貴方は?」

「赤レンジャーさ」

「……貴方は?」

「黄レンジャーだ」

「……そうね。貴女は?」

「赤レンジャーよ」

「ふむ。貴女は?」

「黄レンジャーだぜ」

「そう。貴方は?」

「黄レンジャーだな」

「……で、貴女は?」

「赤レンジャーね」


「「「「「「「七人揃ってナナレンジャー!!」」」」」」」


「おかしいでしょう! 何で赤と黄色しか居ないのよ! て言うか、何なのよこの流れはぁ!?」


『小人達の自己紹介を聞いて、白雪姫は勢いよく怒り始めました。そんな白雪姫の様子に、小人達は困ってしまいました』


「え、台本どおりの流れになるからってこうしたんだけど……」

「ちくしょう、だからあの二人の台本は嫌なのよ!!」

「……ネタにノリノリで乗っときながらその言い草はねえんじゃねえの?」

「だぁまらっしゃい!!」


『白雪姫は小人達のやり取りに地団太を踏みながらそう言いました。それからと言うものの、色々あって白雪姫はこの小人達の家にかくまわれることになりました』


「お~い、ギル~! ちょっと手伝ってくれ!」

「あ~? 踏み台もってくりゃ良いのか?」

「それじゃあちっと不安定すぎるんだ。だから肩車してくれないか?」

「ああ、良いぜ」

「ちゃんとしっかり掴んでてくれよ?」

「ちゃんと持っててやるから締め上げんな」


『小人のうちの二人は、いつも一緒に仕事の準備や買い物をしています』


「ちょっと銀月。お茶が飲みたいんだけど」

「ん。今すぐ淹れるよ」

「それからちょっとここに座りなさい」

「ん? どうしたの……ってどうして俺の上に座るのさ?」

「あんたこうでもしないと休まないじゃない。観念して少し休みなさい」

「やれやれ……分かったよ」


『掃除担当の二人は、仕事がない日はまったりと過ごします』


「将志」

「……む、どうした、主?」

「呼んでみただけよ」

「……そうか。それにしては、随分と機嫌がよさそうだが?」

「ええ。あなたの声が聞けたから」

「……それは重畳だな」


『料理担当の二人は、仲良く話をしながら料理の下ごしらえをします』



「……リア充共め……隕石でも落ちてこねえかな……」

「……横失礼するわよ」

「……なんだ?」

「……あの甘ったるい空気に耐えられないのよ」

「…………」

「…………」

「「同士よ」」


『そんな仲の良い二人組み三組に、淋しい独り身の二人はお互いの傷を舐め合うのでした』




 * * * * *




「……ちょっと良いかしら……」


 劇を止め、輝夜はわなわなと肩を震わせながら愛梨に詰め寄る。

 そんな彼女に、愛梨は可愛らしく小首を傾げた。


「何かな♪」

「ナレーションに悪意を感じるんだけど?」

「キャハハ☆ それはきっと気のせいだよ♪」

「じゃあ何で淋しい独り身なんつー単語が出てくんだ! つーか何だこの明らかに悪意のこもった配役は!? 泣くぞ、泣いちゃうぞ、俺!」


 輝夜の横から、淋しい独り身の男がそう言ってまくし立てる。

 何故なら、他の配役はちょうどいつもつるんでいる異性の二人組みと言う、雷禍にとっては当て付けのような配役だったからであった。


「だったら、早く私を落とせば良いのではなくて?」


 そんな彼に、六花はそう言いながら詰め寄った。

 その想定外の出来事に、雷禍は不意を打たれて動揺した表情を浮かべた。


「あ、姉御?」

「あれだけ熱く愛をぶつけておきながら、それ以来貴方からのアプローチは全然足りませんわよ?」

「あ、いや、それは仕事が忙しくてだな……」

「……まあ、大体の事情は知ってますし、あの亡霊姫に貢いでるのも仕方なくという話も聞いてますわ。でも、それを言い訳に出来るほど私は軽いんですの?」

「う……」


 意地の悪い表情でそう言いながら、六花はしどろもどろになっている雷禍の襟首を掴んで頬をじっくりと撫で付ける。

 その様子は惚れた弱みに付け込んだ、どこか含みのあるからかい方であった。

 一方の雷禍は、そんな六花に反論できずに六花から目を逸らす。

 からかわれているのは分かっているのだが、今まで全て力で押し通ってきたせいで力量でも技量でも勝てない相手には何も出来ないのだ。

 まさに蛇に睨まれた蛙といった様子の二人に、アグナが少し呆れた様子で声をかけた。


「包丁の姉ちゃん、弄るのもそれくらいにしといてやれよ。雷獣の兄ちゃん、結構頑張ってるんだぜ?」

「知ってますわよ。だからこそ弄り甲斐があるというものですわ」


 アグナの言葉に、六花は楽しそうに笑いながらそう口にする。

 それを聞いて、輝夜はとある確信を持って六花に声をかけた。


「この配役、ひょっとして六花が決めたの?」

「ええ。雷禍が独り身になるように狙ったんですの」

「……あんた、ほんっっっっとうに良い性格してるわね……」

「お褒めに与り光栄ですわ」


 輝夜の言葉に、六花は満面の笑みでそう答えるのであった。


 小休憩の後、舞台は再開された。




 * * * * *




『ある日のこと、女王様はふとした拍子にまだ白雪姫が生きていることを知ってしまいます』


「ふむ……仕方が無い。おい鏡。白雪姫はどこに居る」

「森の奥の小人の家です」

「成程……ふむ、では調合に入るとしよう」


『女王様は秘密の部屋に入ると、何やら薬を混ぜ合わせました』


「え~と、肉と野菜と各種香辛料、オートミール、フルーツの種と……」


『女王様はそれらの食材を混ぜ合わせると、丁寧に器に盛り付け、蓋を閉じました』


「……よし出来た。この手榴弾なら炎で逃げ場を封じながら確実に焼き払える。一件は火事と言うことで済ませれば良い話だな」


『そうして出来上がった手榴弾をみて、女王様は満足げに笑うのでした』




 * * * * *




「はいはい、カットカット」


 頭を抱えて俯きながら、善治はそう言って椿の元へと向かう。

 そして椿の持つ手榴弾だという神聖っぽい何物かを指差して、彼は口を開いた。


「おい、あんたそれは何だ?」

「『毒林檎』というコードネームの手榴弾だ。これなら毒林檎には変わりないだろう? まあ、別名『アンティオキアの聖なる手榴弾』とも言うが」

「大違いよ! というか、そんなアホくさい手榴弾があってたまるかぁ!」


 二人の横から、我慢できなかった輝夜が割り込んできて椿に掴みかかる。

 そりゃあ童話の中に手榴弾、おまけに中身が爆発性なんてこれっぽっちもないもので作られたものなんて持ち出されたら、お話など一発でぶち壊しであろう。

 それに対して、椿は相も変わらず涼しい表情で切り返した。


「何を言うか。これはかのアーサー王も用いた由緒正しき代物でな」

「それはどこぞの由緒正しきコントの話でしょうが! 何でいつもそんなことばかりするのよ!?」

「いや~、監督がいつもと違うからもっと自由に出来ると思ってついな」

「誰が監督でもカットが入るに決まってんでしょうがああああああああああああああああああああああああああ!!」

「はっはっは、それは気付かなんだ」


 輝夜は自分の喉もろとも相手の鼓膜を破壊せしめんといわんばかりの大声で椿の耳元で叫ぶ。

 しかし当の椿は全く反省する様子もなくけらけらと笑うのであった。


「天魔様、生き生きとしてますね~」

「これ、大天狗様たちが見たら胃に穴が開きますね……」


 そんな二人の姿を見て、部下である天狗二人は苦笑いを浮かべるのであった。


 高血圧でぶっ倒れた輝夜が医務室から帰ってくると、舞台が再開された。




 * * * * *





『あれこれ考えた末に、結局女王様は物語どおり白雪姫に毒りんごを食べさせることにしました』


「ふむ、毒りんごが完成したな。では、食わせてくるとしよう」


『女王様は変装すると、毒りんごを持って白雪姫がいる小人達の家に向かいました。小人達はみんな仕事に行っていて、家には白雪姫しかいません。女王様はそれを確認すると、静かに家のドアをノックしました』


「はい、どちらさ……」

「ふん!」

「もがぁ!?」

「そら、そのまま喰らい尽くせ」

「もごごごごご……きゅ~……」

「ふむ、目を回すほど美味いか。それは重畳だ」


『女王様は白雪姫の口の中に無理やり毒りんごをねじ込むと、満足そうに帰っていきました。可愛そうに、白雪姫は死んでしまったのです』




 * * * * *




「ヘイ、カット! やると思ったよ!」


 突如として、善治は大きな声でそう叫んで椿の元へと向かう。

 その様子はもう我慢ならんといった様子で、肩を怒らせた格好でつかつかと椿に詰め寄っていった。

 そんな彼に、当の本人はキョトンとした表情を浮かべた。


「ん、何をだ?」

「あんた、絶対に分かってやってるだろ!」

「ああ、この方が面白いと思ってな」

「とっとと終わらせて帰りたいんだから真面目にやってくれ! こんな下らんことで時間を使わせんな!」


 善治はふざけて回る椿に、口にりんごを丸々一個詰め込まれて目を回した輝夜を指差してそう言って腹の内をぶちまけた。

 しかし、その言葉の刃は思わぬ方向へと飛んでいってしまった。


「くだらないなんて、酷いなぁ……」


 愛梨は善治の言葉を聞いて、しゅんとした様子で肩を落とす。

 善治にこの演劇がくだらないと言われたような気がして、それが悲しくてならないのだ。

 そんな彼女の様子を見て、善治は大慌てで彼女の元へと向かった。


「いや、ちょっと待て。別に劇がくだらないなんて一言も……」

「ひっく、ひっく……」


 善治は宥めるが、愛梨の眼からはほろりと一粒の涙が零れ落ちた。

 それを見て、椿は責めるような冷たい視線を善治に向ける。


「あ~あ、可愛い女の子を泣かせるなんて、最低だな、お前は。これはお前に一つ償ってもらわないとな」

「……一応聞いておくが、何をさせるつもりだ?」

「いや、今度の賭博麻雀の代打ちを頼もうかと思ってな。高いレートを吹っかけて一儲けをと」

「私欲しかねえじゃねーか!」

「別に報酬なら払う。なんだったら、体で払ってやっても良いんだぞ? 文の体で」


 ブチギレ寸前の善治に椿はそう言って条件を提示する。

 それを聞いて、いきなり自分がとんでもないことになっている文が大慌てですっ飛んできた。


「ちょっ!? 天魔様いきなりなんてことを言うんですか!?」

「大丈夫だ、私がお前の感覚を弄ってだな、色のことしか考えられないように」

「誰もこの場にそんな薄い本的なことを望んでねえよ!」

「あら、私は将志さんとなら、」

「天然色情狂は帰れええええええええええええええ!!」


 善治は的外れな椿の回答につっこむと、ひょっこり現れた鬼の頭領を舞台からたたき出すのであった。

 そんな彼の様子を見て、普段椿に振り回されている将志は感心した様子で頷いた。


「……ふむ、善治はやはりツッコミキャラか。天魔の暴走を止めなくてすむから助かる」

「あはははは……輝夜さんが気絶しててもこうなるんだね……それにしても、薄い本って何のこと?」

「さあな。だが、何となく俺は知らないほうがいい気がするぜ」


 銀月の質問に、ギルバートは何か嫌な予感を感じてそう答える。


「(……自分が女性上位系で格好の標的になっていると知ったら、将志はどう思うだろうか?)」

「(……自分が女性化している本が出てるって知ったら、銀月さんどう思うんでしょう?)」

「(……自分が本の中で夢見る少女の相手をさせられまくってるって知ったら、ギルバートさんはどう思うんでしょうかね?)」


 そんな彼らの話を聞いて、天狗達三人は無言でそれぞれの境遇を胸にしまいこむのであった。


 善治が一通り落ち着くと、舞台は再開される。




 * * * * *




『小人たちが仕事から帰ってくると、白雪姫が倒れているのが目に入りました。小人達は慌てて白雪姫に駆け寄ります』


「ひ、姫!?」

「ど、どうしてこんなことに!?」

「……俺に任せろ」

「将志!? 貴方何をするつもり!?」

「……失礼するぞ」


『すると、小人の一人が白雪姫の後ろから両脇に腕を通し、そのまま抱きかかえました』


「……ふっ!」

「くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」


『そして、白雪姫の胸を締め上げるように思いっきり力を込め始めました』


「……まだ駄目か。ふっ!」

「あzsxdcfvgbhんjmk、l。;・:¥」


『目を覚まさない白雪姫に、小人は何度も何度も同じことを繰り返します』




 * * * * *




「……カット」


 善治は震える手で眼鏡をそっと机の上に置くと、将志のところへと歩き出す。

 そして、暗くドスの利いた低い声で将志に話しかけた。


「……おい。何をしてる」

「……原作では、喉につまっていた毒りんごが転げ落ちて息を吹き返す展開がある。つまり、ここで胸部を圧迫して吐き出させれば息を吹き返すというわけだ」

「誰もそんな処置求めてねえよ! 大体、あんたの馬鹿力じゃ逆効果だっつの! どうすんだよ、気絶してんじゃねえか!」

「……む?」

「ぶくぶくぶく……」


 メガホンを床に叩きつけてキレる善治の言葉に将志が腕の中を確認すると、彼の指摘どおり輝夜は将志の怪力で締め上げられたことによって泡を吹いて気絶していた。

 輝夜の顔は真っ青になっており、その症状から生命の危機に瀕しているであろうことが見て取れた。

 その輝夜に、霊夢達が近づいて様子を見る。


「……ねえ、瞳孔開いてない?」

「というか、親父さん肋骨の上からやってなかったか?」

「あ~、だとすりゃあばら逝ってるな。へたすりゃ内臓に突き刺さってっかもな」

「……人間なら確実に死んでるぜ……」

「……相手が輝夜さんでよかった」


 被害者が輝夜だったことにホッと胸を撫で下ろす銀月達。

 もし処置を受けたのが他の人物であれば、肋骨を複雑骨折した挙句に内臓破裂で死んでも不思議ではないからなのであった。

 その横で、将志は何物かに後ろからそっと抱きつかれる感覚を覚えた。

 彼はその行動の主に心当たりがあった。


「……む、どうした主?」

「いえ、貴方のやり方はハイムリック法って言うのだけれど、そのやり方を少し教えてあげようと思って」

「……輝夜は放っておいても良いのか?」

「ええ、もう大丈夫よ。ほら」


 永琳は将志に抱きついたままそう言いながら、輝夜のほうを指差した。


「あ~……死ぬかと思ったわ……と言うか、あれ私じゃなかったら確実に死んでたわ……」


 するとそこには何とか完治して息を吹き返した輝夜の姿があった。

 輝夜は粉砕された肋骨の辺りを押さえながら、体の調子を確認するようにひねったりしている。

 そんな彼女に、六花が含みのある笑みを浮かべながら話しかけた。


「あら、生きてましたのね、貴女」

「……生憎と、あんたがほえ面かくのを見ないと死ねないのよ」

「それなら、永遠に死ねませんわね。おほほほほほ」

「いつか殺すわ……」


 高笑いをあげる六花に、輝夜は沸き立つ殺意を胸に刻み込むのであった。


 輝夜が無事だったことを全員が確認すると、劇は再開された。




 * * * * *




『白雪姫の死を悲しんだ小人達は、ガラスの棺を作ってその中に白雪姫を寝かせました。すると、安らかに眠るその美しい姿が噂を聞いてやってきた王子(演者:妹紅)の眼に留まりました』




 * * * * *




「……ちょっと待った……」


 突然役を振られ、わなわなと震える妹紅。

 その横には、同じく目の前の王子の配役に異議を唱える輝夜が立っていた。


「何で私が王子役なの? よりにもよって何でこいつと口付けをしないといけないの?」

「そうよ、どうしてこいつなんかと!」

「ああ、それはその場のノリで決まったんですの」

「そうそう、仲直りの良い機会でしょ?」

「……あんたら……」


 二人の脚本家に、輝夜と妹紅は揃って鋭い殺気を送る。

 しかし六花はそんな二人の怒りをもろともせずに、優雅な表情で二人に近づいていった。


「そんなに嫌なら……私がして差し上げても宜しくてよ?」


 六花は輝夜を抱き寄せ、色香を纏った笑みを浮かべて白く透き通った指先でそっと輝夜の唇をなぞる。

 その声色はとても甘ったるく、まるで恋人に話しかけるようなものであった。

 艶やかな赤い唇から発せられるその声を聞いて、輝夜は顔が真っ赤になるのと同時に背中に強烈な悪寒が走った。


「っ~~~~! 誰があんたなんかと! とっとと始めるわよ、妹紅!」


 輝夜はそう言うと六花の腕から力尽くで抜け出し、妹紅の腕を掴んで逃げるように舞台へと登っていく。

 突然の彼女の行動についていけず、妹紅は頬を紅く染めながら輝夜に声をかけた。


「ちょっと、輝夜!?」

「あいつよりはあんたの方がマシよ! ふんっ!」

「あ、ちょっと……」


 妹紅が何かを言おうとするも、輝夜はさっさとガラスの棺の中に入って眠ってしまった。

 彼女の手はやるせない様子で宙を彷徨い、途方にくれている。


「キャハハ☆ じゃあ、続きに行ってみようか♪」


 それを一切気にしない愛梨の言葉によって、劇は再開された。




 * * * * *





「……ちっ」

「っ! んんんんんんんんん!?」


『王子様がキスをした瞬間、白雪姫は息を吹き返して勢いよく飛び上がりました』


「あああああああああああああああああああああああああ!」


『白雪姫は口から黒い煙を吐き出しながら水場に一直線に駆けていきます』





 * * * * * 




「カット」


 善治は頭を抱えながら、輝夜が暴れまくって劇の進行がストップしている舞台の上へと上がった。

 そして、何か仕出かしたであろう妹紅に声をかけた。


「おい妹紅。今そこの姫に何をした?」

「別に何もしてないわよ?」

「ふざっけんじゃないわよ! 今私の口の中に、思いっきり火を吹き込んでくれたじゃない!」

「ああ、そんなこともしたっけ?」

「あんた……!」


 口から黒い煙をもくもくと上げながら喚き散らす輝夜に対して、妹紅は彼女にそっぽを向いたままそう言ってとぼける。

 そして輝夜の怒りが頂点に達したとき、二人の間に銀色の槍が差し込まれた。


「……喧嘩も結構だが、お前達の喧嘩は少々危険だ。この場は矛を収めてもらおうか」

「だってよ、輝夜?」

「ぐぬぬぬぬぬ……」


 将志の静止の言葉を聞いて、妹紅はしたり顔でそう言って輝夜は恨めしげに将志の顔を睨む。

 そんな二人の様子に小さくため息をつくと、将志は懐から何かを取り出した。


「……それからだ」

「ぐぬっ!?」


 手にした何物かの包みを開くと、将志はそれを妹紅の口に無理やり押し込んだ。

 妹紅がしばらくそれを噛んでいると、口の中がいきなり煉獄へと変化していった。


「っっっっっ!?!? はぁ~~~~~~~~っ!!」


 口の中を焼き尽くすような強烈な辛さに、妹紅は炎を絶え間なく吐き出しながら水場へと走っていく。

 その様子を見て、輝夜は妹紅の口に何物かを押し込んだ将志に声をかけた。


「将志、あいつに何をしたの?」

「……なに、世界一辛い唐辛子の成分を数千倍に濃縮したものを詰めた饅頭を食わせただけだ。直接手が下せなくて不服かも知れんが、これで我慢してくれ」

「いえ、これで十分よ。むしろスッキリしたわ」


 将志の言葉に、輝夜は満足げに笑ってそう告げるのであった。


 あまりの辛さに妹紅がドラム缶いっぱいの水を飲み干した後に、舞台は再開された。




 * * * * *




『王子のキスで目を覚ました白雪姫は、心強い味方と共に城に帰り、結婚式を挙げることになりました。その式場の真ん中には、兵士に囲まれた女王様の姿がありました。女王様が罰を受けるときがきたのです』


「さあ、お母様。分かってるんでしょうね?」

「やれやれ、劇の都合とはいえ、妬いたのが私の罪。だから焼けた靴で死ぬまで踊れ、か」


『女王は観念して真っ赤に焼けた鉄の靴を履くと、その場で踊り始めました』


「はっ!」


『それは靴の赤い光が華麗に宙を舞う、見事なまでのブレイクダンスでした』


「Yo! Yo! そういうことなら黙っちゃ居ないぜ!」

「俺達も混ぜてもらうぜ!」

「ふふっ、楽しいことには混ざらないとね!」


『そんな女王様の踊りに触発されて、小人達もいっせいに競うように自分の踊りを披露し始めました。こうして白雪姫の結婚式は女王と小人達によるブレイクダンス大会になり、場内はとても盛り上がりましたとさ。めでたしめでたし♪』




 * * * * *




「魂魄ノ華 爛ト枯レ、杯ノ蜜ハ腐乱ト成熟ヲ謳イ例外ナク全テニ配給、嗚呼、是即無価値ニ候…………なぁにがめでたしじゃああああああああ!」

「おっと」


 舞台の幕が下りると同時に、怒り狂った様子の輝夜が助走をつけて全力で椿に殴りかかる。

 椿がそれを躱すと、輝夜はその襟首を掴んで一気に締め上げ始めた。


「どこの世界にブレイクダンスで締めくくる童話があるって言うのよ、ええ!?」

「ここにあるが?」

「あるわけないでしょうが! 最後くらいまともに終われんのか、おお!?」

「なに、昔からこういう言葉があるだろう。『終わりよければ全て良し』と」

「こんな斜め上の展開に客がついていける訳ないでしょうがぁ! あんたのひねくれた脳みそに一般人はついていけないの、お分かり!?」


 真顔で反論してくる椿に、切れた堪忍袋の緒が実はダイナマイトの導火線で爆発しそれが原因でエイジャの赤石っぽいなにかでエネルギーが増幅されて怒りの火山が宇宙最強の存在が考えるのをやめるほど大爆発した輝夜は、何を言っているのか聞き取れないほどの勢いでまくし立てる。

 その横から、文が何か気になって仕方がないといった様子で話に割り込んできた。


「ところで天魔様、その靴って熱くないんですか?」

「これか? これはアグナが温度を操っててな。見た目は焼けた鉄の色としているが実際のところは足湯程度の物だぞ?」

「そうなんですか?」

「おうよ。光と熱のことなら任せておけってんだ! ここの照明も俺の担当だぜ!」


 文の言葉に、アグナはそう言って得意げに胸を張る。

 しかしそんな彼女の言葉を聞かせる暇も与えまいと、輝夜は襟首を掴んで椿の顔を自分の前に引き寄せた。


「話をそらすなぁ! 今日と言う今日はもう我慢ならないわ!」

「やれやれ……そんなにやかましくしていると、本当にこのお話の中盤みたいに永遠に一人身だぞ?」

「大きなお世話よ! というか、あんたも一人身でしょうがあああああああああああああああああああああああ!」


 輝夜はのどが切れそうなほどの勢いでそう叫ぶと、止められなくなった怒りによって床を転げまわる奇行に走り出した。

 もはや色々なものがキレまくっている彼女を見て、銀月は苦笑いを浮かべた。


「ああ、輝夜さんが大変なことに……」

「あんなのは放っておけば良いのよ。そんなことより、帰ってお茶にしましょう」

「あ、ちょっと、引っ張らないでってば!」


 輝夜を気にかける銀月の袖を掴んで、霊夢は彼を引っ張って帰ろうとする。

 銀月はそれに引っ張られながら、大急ぎで帰宅することになったのだった。


「……銀月君、本当に使われちゃって……」


 そんな彼を見て、鈴仙は憂い顔で小さくため息をついた。彼女の眼からは、銀月が霊夢に良いように使われているようにしか見えなかったのだ。

 そうして銀月を心配する彼女の肩を、将志は後ろからぽんと軽く叩いた。


「……そう思うのなら、ぜひとも連れ出してくれ。その方が、あいつにとっても気分転換になるだろう」

「あ、はい。それじゃあ呼んできますね!」


 鈴仙はそういい残すと銀月の後を追って大急ぎで飛んでいった。

 将志がそれを見送っていると、彼は横に並び立つ気配に気が付いてその方を向く。


「それじゃあ、私達も帰ってお茶にしましょう」


 その気配の主である永琳は、将志の腕を抱きながらそう口にする。

 その言葉を聞いて、将志は小さく首を傾げた。


「……主、鈴仙は待たなくて良いのか?」

「帰って待っていれば大丈夫よ。それに、先に帰っていれば他が帰ってくるまで二人きりでしょう?」

「……ふむ、主が望むのならばそうするとしよう」


 永琳の言葉を聞いて、将志は納得して頷く。

 そして二人はゆっくりと散歩しながら帰ることにしたのであった。


「六花……ちょっと話があるんだけど、いい?」


 一方で、妹紅は六花にドスの利いた低い声で話しかける。

 それに対して、六花は特にひるむことなく彼女に目を向けた。


「あら、妹紅さん。何ですの?」

「あの配役は、あんたが考えたの?」


 右の拳に小さく炎を纏わせながら妹紅はそう問いかける。

 どうやら先程輝夜とキスさせられたのがよっぽど気に障ったようであった。

 そんな彼女の言葉に、六花はゆっくりと首を横に振った。


「違いますわよ? あれを考えたのはてゐですわ」

「……で、そいつは今どこにいる?」


 六花の返答を聞いて、妹紅の背中に不死鳥の翼が現れる。もはや完全にやる気満々であり、六花の言葉次第で飛び出していきそうであった。

 そんな彼女の様子に、六花は苦笑いを浮かべて口を開いた。


「もうとっくのとうに逃げていきましたわ」

「……分かった」


 妹紅はそういい残すと、ものすごい勢いで空へと飛び立っていった。

 そんな彼女をみて、六花は大きく伸びをすると小さく笑みを浮かべた。


「さてと、私も輝夜を弄りに行きましょう。うふふ、これだからこの劇は愉快ですわ」


 六花はそういうと、発狂している輝夜の怒りに油を注ぎに行くのであった。

 一行が馬鹿騒ぎをしているその横では、魔理沙とギルバートが飲み物を飲みながら話をしていた。


「なあ、ギル。今回の出番、少なかったと思わないか?」

「仕方ないさ。だってこの手のお話はたいていヒロイン一人にスポットが当たるだろ? 後は悪役か王子しかいないんだから、どうしても出番は少なくなるさ」


 不満げな魔理沙の言葉に、ギルバートは苦笑いを浮かべながらそう答える。

 どうやら魔理沙は自分が暴れられなかったのが不満だったようであり、それをギルバートに愚痴っているようであった。

 その返答を聞いて、魔理沙は小さく鼻を鳴らした。


「ちぇ。じゃあ、次の舞台まで我慢するか」

「我慢するだけ無駄だぜ? お前にこの手のお姫様は壊滅的に合わないからな。むしろ、お前に回ってくるのは王子役じゃないか?」

「なぁ!? 言ったな! 良いぜ、そんなこと言うならお前をヒロインにしてシンデレラでもやってやる! お~い、みんな~!」

「あ、おいコラ待て! そんなことに俺を巻き込むんじゃねえ!」


 魔理沙はそう言いながら大騒ぎをしている渦中に飛び込んでいき、ギルバートはそんな彼女の目論見を阻止するために追いかけていった。

 そして監督席では、善治がぐったりとした様子で椅子にのけぞって座っていた。


「……あー、疲れた。どうしてこんなに面倒くさいんだか」

「キャハハ☆ お疲れ様、善治くん♪」


 疲れている善治に、愛梨は楽しそうにそう言って声をかける。

 すると善治は気だるそうに体を起こし、愛梨に目を向けた。


「……一つだけ言わせてくれ。次からはせめてあの天魔を主役級に持ってくるのはやめてくれ。話がまともに進みやしない」

「それは約束できないな♪」

「……何でだよ」

「その方が面白そうだから♪」

「……さいですか」


 楽しそうに話す愛梨のその言葉を聞いて、再び善治は崩れ落ちるのであった。

 どうも皆様たいへん申しわけございませんでした。

 永夜抄も大詰めといったこのタイミングで、どうしても我慢できなくてカオスを放り込んでみたのです。


 まあ、今回の話を一言でまとめますと……


 椿自重しろ。


 いや~、やっぱりこの人が動くとこういう話が非常に作りやすいですね。

 こういう場では情け容赦なくボケをかましてもらいます。


 もっとも、そのせいでいまだかつてないほどに輝夜の怒りが天元突破していきましたがね。

 劇中に高血圧で倒れるとか、滅多になかろう。


 他にも色々あるけど、並べていくときりが無いので、今日はここまでです。


 では、ご意見ご感想お待ちしております。

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