永夜抄:銀の槍、受ける
「ギャウッ!」
「そ~れ!」
戦いの始まりは、二人の狂人のぶつかり合いから始まった。
双方共に月の力を受けて金銀に輝いており、その中心で藍翠の光が煌めいている。
二人はパワー、スピード共に拮抗しており、一進一退の攻防を繰り広げていた。
銀月は父親の指示を守るために、ギルバートはその狂える本能の赴くままに破壊的な力を奮い続けていた。
「止まれぇ!」
そこに向かって、魔理沙は緑色のマジックミサイルを二人に向かって打ち込む。
しかし、暴走する二人の力によって触れる前にかき消され、攻撃が届かない。
彼らを覆う金銀の光は粒になり、そのまま密度の高い弾幕へと変貌を遂げているのであった。
「くそっ!」
それを確認すると、魔理沙は即座に反転して銀月達に背を向けた。
その先にいるのは、紫達と戦っている将志の主と姫の姿。
二人に向かって飛び始める魔理沙に、突然の行動の変化に驚いたアリスが慌てて声を掛けた。
「ちょっと、魔理沙!? 何を考えてるのよ!?」
「ギルが狂ってるのはあの月が原因なんだ! だから、さっさとこの術を仕掛けた奴を倒して異変を終わらせるんだ!」
「ふふっ、そうはさせないよ~♪」
永琳の元へ向かおうとする二人の前に、にこやかに笑いながら銀月が立ち塞がった。
彼は突進してくるギルバートの攻撃を受け流すと、目の前に居る二人に眼を向けた。
「確かに俺はギルバートの相手を任されたけど、あいつ勝手に俺のことを追いかけまわしてくれるんだもの。だから、君達の相手も一緒にすることにしたよ」
「つまり、どうしようと銀月の相手をしないといけないわけね、私達は」
「そゆこと♪ ふふ~ん、めいっぱい楽しませてあげるよ!」
銀月はそう言いながら、まるで巣に近づいた外敵を倒そうとするスズメバチのように札を撒いていく。
その札の一つ一つを銀色の風が取り巻いており、近くを通り過ぎただけでもその乱気流に飲み込まれてしまいそうであった。
「ちっ、面倒くさいことしてくれるわね」
「そうですね。この風じゃナイフも届きませんし」
レミリアと咲夜は弾幕を敷きながら銀月に近寄り、現状を確認する。
今の銀月の札は攻防を兼ねており、その身に纏う力の奔流で触れたものを削り取りながら飛んでいる。
つまり、遠距離から攻撃を仕掛けようにも札の力に打ち負けて攻撃が通らず、近づこうとしてもやはり札が邪魔になるうえに銀月自身も動き回っているために上手くいかないのだ。
「それそれそれそれぇ!」
戦闘ロボットのミサイルポッドのように札を打ち出していく銀月。
無邪気にばら撒かれるその攻撃は一つ一つが大砲並みの威力を有しており、一切の油断を許さない。
更に銀月はそれぞれの動きをよく観察しており、攻撃に移ろうとした者を的確に狙い撃ちにしていく。
「狙ってくるんなら……斬ります!」
そんな中、妖夢は血路を開くべく、刀を大きく振りかぶった。
刀には緑色の闘気がまとわり付いており、それは巨大な刃となして攻撃の態勢に移る。
「ふふん、させないぞ!」
その妖夢に、銀月は容赦なく砲弾と化した札を投げつける。
しかし妖夢は、避けることなくその札と真正面に向き合った。
「はあああああああ!」
気合一閃、妖夢は思いっきり振り上げた刀を札に叩きつける。
すると銀月の札は妖夢の刀の緑色の力を巻き込みながら、重たい手応えと共に真っ二つに両断された。
「っ! やあああああああ!」
鉄球を打ち返したかのような激しい衝撃を歯を食いしばって堪え、妖夢は目の前に出来た道を一息で駆け抜けた。
「あはっ、やっぱりやるなあ!」
銀月は一陣の風と化した妖夢を、鋼の槍で受け止める。
激しい火花と共に妖夢の斬撃は受け止められ、両者は鍔迫り合いの形になった。
その瞬間、妖夢は酷く驚いた表情を浮かべた。
「っ!? 銀月さん……?」
「そーれっ!」
「きゃあっ!」
動きの止まった妖夢に、銀月は青白いミスリル銀の槍を叩きつける。
その槍は軽いために妖夢にダメージを与えるものではなかったが、それでも攻撃を加える隙を得るには十分だった。
「そらっ!」
「ぎゃふっ!」
怯んだ妖夢に、銀月は蹴りを入れることで彼女を突き飛ばす。
すると間髪入れずに次の相手が銀月の前に滑り込んできた。
「こらぁ! 銀月! ふざけてないで、さっさと帰るわよ!」
霊夢はそう言って、銀月の服を掴もうとする。
銀月の『限界を超える程度の能力』を利用して、彼を押さえ込んでしまおうとしたのだ。
「別に、ふざけてるつもりはないんだけどなぁ? 俺は真面目だよ!」
しかし銀月もそれを分かっているのか、無理に迎撃せずに後ろに引くことで躱す。
そしてその直後、銀月の姿はふっと掻き消えてしまった。
「えっ!?」
それを見て、態勢を立て直して再び攻め込もうとした妖夢が驚きの声を上げる。
先程レミリアと組み合った際にも用いたその術は、一切の予備動作もなく瞬間移動を可能にしていたのだ。
「そこよ!」
「うわっと!」
しかし霊夢は迷わず自分の頭上に向かって針を投げつけた。
そこには狙った相手が現れており、彼は少し慌てた様子でそれを躱す。
そして、楽しそうに笑い出した。
「あはははは! さっすが霊夢! もうこの術のからくりが分かったんだね!」
そう話す視線の先には、何かを握っている霊夢の手があった。
その手に握られているのは、青い札。どうやらそれが銀月の瞬間移動に関係があるようであった。
嬉しそうにはしゃぐ銀月に、霊夢は手にした青い札を強く握り締めた。
「あんたの考えそうなことなんてすぐ分かるわよ。これ、あんたの収納札の応用でしょ?」
霊夢は周囲に銀月の瞬間移動の正体を知らせるべく、少し大きな声で自分の推測を述べる。
それを聞いて、銀月は大きく拍手をした。
「エクセレント! その通りさ! こんなに早くばれるとは思わなかったなぁ」
相手の正解を喜ぶかのように、銀月は弾む口調でそう口にした。
銀月の収納札は、異空間を作り出し、その入り口となる札に吸い込ませて転移させることで物の収納を可能にする札である。
その効果の対象を銀月本人に変え、札の出口を同じ世界に存在する青い札に変えたもの。それが銀月の瞬間移動を可能にする術の正体であった。
「アオォン!」
「おおっと♪」
朗々と喋る銀月に、再び黄金の狼が行く手をさえぎる全てを粉々にする砲弾の様に襲い掛かる。
理性の欠片もないその突進を、銀月は易々と避ける。
「オオオオオオオオン!」
「うわっと」
しかしギルバートは突如として大気を震わせるような大きな遠吠えを放った。
耳は元より全身に濃密な空気の振動をぶつけられた銀月は、全身に痺れを覚えて動きが止まる。
「ガフゥ!」
「あいたぁ!?」
その銀月のわき腹に、ギルバートはその牙を突きたてる。
そして更にその後自分の体に回転を加え、目の前の悪魔の横腹を食いちぎって見せた。
銀月の左わき腹からは川のように血が流れ始め、白い袴を真紅に染めていく。
「なっ……」
幼い頃から一緒に居た少年のその凄惨な光景に、霊夢の顔から表情が抜け落ち、手にした御幣を取り落としそうになる。
通常であれば確実に死に至る怪我を負った幼馴染の姿は、言葉を失わせるに十分な破壊力があった。
「……あ、あか~い……」
そんな自分の惨状にもかかわらず、銀月は腹から流れ出る血を眺めながら、間延びしたのんきな声でそう口にする。
その様子は、まるで珍しいものを見つけた子供のような、異質なものであった。
その彼が見つめるその目の前で、彼の腹は見る見るうちに元の姿を取り戻していく。
コマ送りのように再生していくそれが完全に終わると、悪魔は目の前に居る人狼に目を向けた。
「はふっ、はふっ……」
人狼は口から滴る血を拭うこともせず、美味そうに口の中の肉を咀嚼する。
今の彼にとって、その肉が元は何であったのかなど些細なことのようであった。
「う……ぐっ……」
目の前で人が食われたことに対する生理的嫌悪に、妖夢は自分の口を押さえて吐き気を堪える。
普段共に修行していた好敵手を、何度も助けられて若干の憧れを抱いていた友人が喰らう。
その事実が、彼女の精神に更に追い討ちをかけていった。
「グルル……」
口の中の肉がなくなり、ギルバートは再び銀月に目を向ける。
どうやら彼はまだ目の前の悪魔の肉を狙っているようで、ゆっくりと歩き出していた。
「あはははは! そう来なくっちゃ!」
銀月が高笑いと共にそう言うと、また彼の体が掻き消える。
すると彼は金色の光に照らされている、彼の懐にある青い札のところへと現れた。
その突然の現象に、理性を失っているギルバートは思考が停止し、反応が遅れた。
「それっ!」
「ギャウン!?」
銀月の手刀が、ギルバートのみぞおちに深々と突き刺さる。
身に纏った銀色の気は鋭い刃と化しており、毛皮に覆われたギルバートの腹を切り裂き、その手を真っ赤な液体が流れ落ちていた。
「ギ、ギル!」
「そうらっ!」
「ガフッ……」
その光景を見て蒼褪める魔理沙の目の前で、銀月は札から即座に黒い神珍鉄の槍を取り出し、ギルバートに叩きつけた。
ただ倒れるだけで大地を揺るがすほどの重量を秘めた大槍の一撃を受け、ギルバートは大きく弾き飛ばされた。
それを確認すると、銀月は血に染まった自分の左手を眺めた。
「んっ……」
そして、彼はその手に舌を這わせ、血を舐め取り始めた。
「んっ……んっ……ちゅぱっ……」
銀月が自分の指に吸い付くたびにちゅるちゅると音をたて、吐息が漏れる。
血に濡れた指は瑞々しい唇の上にその赤い色を落としていき、まるで色鮮やかな口紅を塗ったように染め上げていた。
そして、最後に熱のこもった息を吐き出すと、不満げな表情を浮かべた。
「……ん~……何だかあんまり美味しくないや。やっぱり、妖怪によって違うのかな?」
銀月は少し苦い表情でそう言うと、その場にいるもう一人の妖怪……レミリアに眼を向けた。
自分のほうを向いた翠の眼を見て、レミリアは小さく鼻を鳴らした。
「ふん、私を食べようなんて、執事のくせに思い上がりも良いところね。これはしつけが必要ね」
「あはははははは♪ それじゃあ、いっくよー♪」
そう言うと、銀月はレミリアのほうへ飛び出し、レミリアもそれを迎え撃つ態勢をとった。
――――やれやれ。ちょっと落ち着こうか、銀月――――
「っ!? 誰!?」
そんな中、銀月は突如聞き覚えのない声を聞いて、周囲を見回す。
その声は銀月の頭の中に直接響くような声であり、彼を酷く不安にさせるものであった。
「……何?」
突然の銀月の変化を見て、迎撃しようとしていたレミリアも眉をひそめる。
しばらく見ていると、銀月は頭を抱え始めた。
――――悪いけど、少し身体を借りるよ――――
「あっ……あっ……」
「っ!」
頭を抱えて震える銀月に嫌なものを感じて、レミリアは攻撃を仕掛けた。
手にした槍を腰だめに構え、一気に突撃していく。
「……ふぅ、全く手が焼けるよ」
そんな中、銀月はそう言いながら小さく首を横に振る。
その声は妙に冷静であり、先程までの狂気は見られなかった。
「はあっ!」
レミリアはそんな彼に突撃し、突っ込む寸前に軌道を上に逸らして槍を大きく振りかぶった。
そして、大上段から銀月に向けて思い切り叩きつけた。
「おっと」
「くぅっ!?」
レミリアの一撃を、銀月は青白い槍を流れるような動きで軽く振るって受け止める。
するとその瞬間、レミリアの体が大きく後ろに弾き飛ばされた。
レミリアはその衝撃を全身を上手く使って逃がし、ふわりと体勢を立て直して銀月を見た。
「……弾かれた? ただ受けられただけなのに……」
「ふふっ、そういう技もあるってことさ」
軽いはずの槍にただ受け止められただけで弾かれたことに驚くレミリアに、銀月は涼しげな笑みを浮かべながらそう言った。
その様子からはやはり先程までの狂気は鳴りを潜めており、普段と変わらぬ様子の銀月の姿がそこにあった。
「……銀月?」
「はぁい、霊夢ちゃん。怪我がなくて何よりだよ」
元に戻ったのではないかと言う淡い期待と気を抜けないという緊張感の混じった様子で、霊夢は声を掛ける。
すると銀月は、にこやかに微笑みながらそう言って手を振った。
その声を聞いて、霊夢は手にした御幣を強く握り締めた。
「……違う、あんたは銀月じゃない。あんた、何者?」
「そうだね、何て言おうか……翠眼の悪魔としての二つ目の人格、と言うべきかな? 名前は銀月の名前をもじって、「月影」とでもしておくよ」
「銀月は一体どうなってるの?」
「ちょっと代わってもらったよ。有体に言えば、僕は今銀月の身体を借りているって訳さ」
親の敵を睨むような眼をして質問を投げかける霊夢に、月影と名乗る青年はそう答えを返す。
つまり、銀月の身体をこの月影と言う人格が乗っ取っていると言うことである。
その事実に、レミリアは真紅の槍を彼に向けて睨みを利かせる。
「ふん、そんなことして、何が目的なのよ。場合によっては、殺すわ」
「怖い事言うなぁ。そんなことしたら銀月まで死んじゃうぞ? だいたい、僕は銀月の身体を乗っ取ろうなんて思ってないし」
「銀月さんの命を盾にするつもりですか?」
刀を脇構えに構え、すぐにでも相手を斬れる状態で妖夢がそう口にする。
狂った銀月が消費した力を考えれば、月影が銀月の命を盾にして何かを企んでいるかもしれないからだ。
それを聞いて、月影は困った笑みを浮かべて頭をかいた。
「どうしてそうなるのかなぁ……だからさ、僕が出てきてるのは銀月が狂ってるからなんだって」
「それと一体何の関係があるんだ?」
「だって、今の銀月は全然手加減できないもの。狂った状態でこんな力をぶつけられたら、人間なら死ぬよ。だから、銀月が大人しくなるまでは僕が彼の代わりって訳さ」
魔理沙の疑問に、月影は理由を述べる。その様子は銀月の身に何が起きているかを全て把握しているように見えた。
そんな彼の言葉に、今度はアリスが口を開いた。
「ちょっと待ちなさい。その言い方だと、銀月はまた人間に戻るって事?」
「人間に戻るというか、そもそもこの体はまだ人間のままだぞ? 完全に悪魔になったわけじゃない」
アリスの質問にも月影は朗々と答える。
相手の眼をしっかり見て話しているところから嘘をついている様子はない。
銀月がまだ人間であると言う希望を含んだ彼の言葉に、霊夢が食いついた。
「それ、どういうこと?」
「今の銀月はまだ翠眼の悪魔になりかけの状態さ。力が増幅されたせいで眼が光ったもんだからばれたけど、銀月はまだ人間に戻れるよ。そもそも、本当に悪魔に堕ちたのならこれくらいで狂ったりなんかしないし、銀月だって本当ならこの程度で狂うほど弱くもない」
「でも、お前の言い方だといずれは悪魔に堕ちるって聞こえるわよ。それに、他に銀月が狂う原因があったってこと?」
「ああ、その通りだよ。僕が出ているってことは、色々訳あって銀月の力が暴走をしているってこと。つまり、僕がこうやって話すためには銀月の力を暴走させ続けないといけないわけだ。すると色々あって、銀月は本当に悪魔になってしまう」
レミリアの言葉に、月影は呆れ顔でため息をつきながらそう口にした。それはまるで手間のかかる弟の愚痴を言う兄のような言い草であった。
しかし、その内容は霊夢の逆鱗を刺激するのに十分であった。
「っ! さっさと銀月を返しなさい!」
「それがそういうわけにも行かない。さっきも言ったとおり、今の銀月に身体を返すと、さっきの状態になるわけだ。と言うことは暴走状態なのは変わらないし、見境無しに攻撃してる分余計に力を放出することになるね。これを補うために、銀月の『限界を超える程度の能力』が更に暴走してしまうのさ。だから、今は僕が出ていたほうが消費は少ないのさ」
月影が表に出ている原因は銀月の力の暴走であり、その人格を維持しようとすると力を暴走させ続けないといけない。しかし、今の銀月はただでさえ暴走状態となっている体で、それを助長してしまう激しい戦いを繰り返してしまうのだ。そして、それが銀月の悪魔化を促進させてしまう。
それが月影の言い分であった。
その説明を聞いて、咲夜が少し考えて月影に問いかけた。
「……だとしたら、貴方はどうするつもり?」
「そうだね、君達には悪いけど、少し僕と戦ってもらうよ」
「どうして?」
「そうしないと銀月が収まってくれないんだよ。正直、僕はあいつの手伝いなんてする気はないけど、あんまり銀月に嫌われると後が面倒だ」
月影は気が進まなさそうにそう言うと、手にした槍を収納札にしまい、手に翠色の気を纏わせた。
それは銀月の手から長く伸び、まるでエメラルドのような刀身を持つ日本刀を作り出した。
それを見て、咲夜が怪訝な表情で月影を見やった。
「翠色の刀? 槍は使わないのかしら?」
「それでも良いんだけど、それよりもこっちの方が手加減が効くからね」
そう言うと、月影は手にした刀をだらりと下に下げる。その切っ先は完全に相手から外れており、相手を牽制する能力を失っている。それどころか、戦闘する意思すら失っているようにも見えた。
そんな彼の様子を見て、妖夢は相手の動きを警戒しながら声を掛けた。
「戦うって言うのに、構えないんですか」
「何でわざわざ構えないといけないのさ?」
心底不思議そうな表情で月影は妖夢にそう問いかける。
挑発とも取れるそれを聞いて、妖夢は怒りを堪えるように小さく歯を食いしばった。
「っ……行きます!」
妖夢はそう言うと、脇構えの状態で疾駆して間合いを詰め、八相の形から全力の袈裟斬りを仕掛けた。
その動きを表すなら、疾風怒濤。気迫も速度も十分な、相手の刀ごと叩き斬ってしまいそうな一太刀であった。
その一撃を見て、月影は小さく息を吐いた。
「……一つ教えておいてあげるよ、妖夢ちゃん。構えないって事は、自由に動けるってことさ」
「ぎゃふっ!?」
次の瞬間、妖夢は腹に一撃を受けてその場にうずくまる。
月影は妖夢の刀が自分の左肩に振り下ろされる直前、少ししゃがむようにして刀の起動をくぐるように左前に踏み込み、その場でくるりと回るようにして逆袈裟に斬り上げたのだ。
その柔らかな動きからの痛烈な一撃は、海の波に打ち付けられたような衝撃を妖夢に与えたのだ。
妖夢は腹を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫かい? 今度はこっちから行くよ」
そんな妖夢に、今度は月影から攻め込み始めた。
月影は相変わらずの無構えで、その状態から妖夢に斬りつけていく。
「うっ!?」
その攻撃に、妖夢は思わず身を後ろに引いた。
彼女は分からなかったのだ。月影の無構えからの、彼の太刀筋が。
その様子を見て、月影は兄弟と話すかのような柔らかい笑みを浮かべて口を開いた。
「分からないでしょ? これが自由に動けるってことさ」
月影はそう言いながら、次々と妖夢に斬りかかっていく。
余分な力の抜けたその腕はしなやかに動き、上下左右全ての方向からの攻撃を可能にしていた。
更に全ての行動に無理がないため、相手の動きを先読みしてすぐに対処できるのであった。
まさに変幻自在。炎の構えとも言われる上段の構えを剛の攻めとするならば、まさに柔の攻めと言えるものであった。
「くっ、ぐっ!」
妖夢はその攻撃を何とか捌いていく。
どこから来るのか分からないと言う脅威と同時に、先程レミリアの攻撃を受けた際に見せた相手の獲物を弾く技術を用いているようであり、切り結んでも打ち負けてしまうのであった。
「お前の相手は妖夢だけじゃないぜ!」
「今度は仕掛けさせてもらうわ!」
その二人の横から、魔理沙とアリスが弾幕で攻撃を仕掛けていく。
色とりどりの弾丸と白い星が、月影に向かって降ってくる。
「よっと」
自分に向かって放たれた弾幕に対して、月影は空中に素早く左手の指を滑らせ、陣を描く。
銀色の線で描かれたその魔法陣は強固な結界を展開し、二人の攻撃を受け止めた。
二人掛りの弾幕をいとも容易く防がれ、アリスは若干の驚きをもって月影を見つめた。
「……防がれた?」
「僕は銀月みたいに結界が苦手って訳じゃない。あれくらいなら、片手で防げるさ」
月影はそう言うと、後ろを振り向きながら飛んできた何かを掴んだ。
それは銀のナイフであった。
自分の背後から突如飛んできたそれの持ち主を見つけると、月影はにこやかに微笑んだ。
「不意打ちなら効かないよ。随分上手く背後を取ったみたいだけどね」
「……気付かれてたのね」
「戦場で背後に気が回らない奴はそうは居ないよ」
「そこですっ!」
月影が涼しい表情で咲夜に答えたその瞬間、妖夢は自分から眼を放して結界を展開する彼に向かって斬りかかった。
だらりと下げた相手の刀の切っ先から刀身を滑らせるような、刀を持った右手と反対方向からの非常に受けづらい斬り上げであった。
「ふっ!」
そんな彼女に、月影は即座に結界を解除して翠の刀を妖夢と切り結ぶように振るいながら横に避ける。
そして、お互いの刀が触れ合うその瞬間であった。
「あうっ!?」
妖夢の腹に翠色の刀が打ち込まれた。彼女は強い衝撃と共に弾き飛ばされ、腹を押さえてその場にうずくまる。
そしてしばらくして、妖夢は痛みを堪えながら、先程の光景を思い返す。
先程切り結んだ時、彼女の手には手応えはなかった。翠色の刀は、まるで楼観剣を幽霊が壁を抜けるようにすり抜けて自分に届いたのだ。
その技に、妖夢は見覚えがあった。
「ぐぅ……この技、あの時の……」
「そう。あの時、銀月が無意識のうちに繰り出した技さ。あれ、本当は僕の技なんだけどね」
妖夢の言葉を、月影は静かに肯定する。
かつて白玉楼で銀月と一騎打ちをした際の、自分が負ける決まり手になった技。
その技を再び身に受け、妖夢はこの月影と名乗る青年は銀月よりも遥かに技量が上の相手であると悟った。
「やあああああっ!」
「おっと」
その月影に、レミリアが果敢に攻め込んでいく。
レミリアの攻撃は、相手の技を徹底的に潰す速度を重視した連続攻撃。一本の槍の穂先が幾重にも分かれて見えるほどの速度で攻撃を繰り返していく。
一方で、月影は翠の刀と指に挟んだ銀色に光る札を巧みに操ってその攻撃を捌いていく。彼は前から飛んでくる連撃を、体捌きを変えながら後ろへと逃がしていく。
そのせめぎ合いは、まるで真紅の川の激流を銀と翠の岩が割っているかのようにもみえた。
「くっ、ふわふわしてやりづらいわね」
レミリアは戦いながら、そう言って毒づいた。
受け流されるために繰り出した槍の手応えが無い上に、前後左右に体が振られるために体勢の維持が難しいのだ。
「君もよくついてこれるね。やっぱり、伊達に五百年間生きていないね」
そんな彼女に、月影は相も変わらずの涼しい表情でそう口にする。
レミリアとて、将志が認めるほどの使い手なのである。その腕前は、彼を唸らせるには十分だったようである。
彼の言葉に、レミリアは戦いの手を止めて月影を睨んだ。
「……お前、一体何者? 少なくとも、ただの人間とは思えないのだけど」
「まあ、そうだね。君たちの言う、翠眼の悪魔と思ってもらっても間違いじゃない。僕は銀月の中の、本当の反則技使いさ」
「その反則がその強さの、銀月が持ち得るはずの無い技量の理由かしら?」
レミリアはそう言って月影の言葉を待つ。
彼女は月影と打ち合っていて、一つの疑問を覚えていた。
月影は単純な力の強さは元より、一つ一つの技の錬度が恐ろしいほどに高いのだ。しかも、そのそれぞれに執念と呼べるほどの何かを感じることさえ出来たのだ。
その一つの業とも言うべき技術は、高々十数年しか生きていない銀月では繰り出せるはずの無いものであった。
その秘密が月影の言う反則にあるというレミリアの言葉に、月影はゆっくりと頷いた。
「そういうこと。もっとも、その反則に付いてこられる君たちもどっこいだと思うけど」
「ふん、人間ごときに負けるほど落ちぶれちゃいないわ!」
レミリアはそう言うと、再び月影に攻撃を仕掛けようとする。
「ギャウン!」
「うっ!?」
しかし、真下から迫る黄金の輝きを見つけて急いで退避した。
凶暴化したギルバートは、味方が居ることもお構いなしに全力で月影にぶつかっていく。
「よっと!」
「グッ!?」
そのギルバートの横をすり抜けるように、月影は音も無く移動する。
月影の耳に風を切る轟音が入り、その横顔が一瞬金色に照らし出される。
するとギルバートの黄金の毛皮にいくつもの赤い線が走り、血が流れ出す。
月影は左手に持った銀色の札で、相手の体から溢れ出す黄金の力ごと相手の身体を切り裂いて見せたのだ。
「ガァア!」
しかしギルバートは即座に回復して再び月影に挑みかかっていく。
そんな彼の様子を見て、月影は大きくため息をついた。
「はぁ……やっぱり人狼は頑丈だねっと」
ギルバートの突撃を、くるりと一回転するように躱して受け流す。
すると黄金の彗星は長い尾を引きながら目標目掛けて再度疾駆し始める。
そんな彼を見て、月影は手に持った翠色の刀を消し、黒い神珍鉄の重厚な槍を取り出した。
「君を相手にすると疲れるからね。少し、痛いぞ!」
月影はそう言うと突っ込んでくるギルバートに横薙ぎに槍を振った。
その槍は野球のピッチャーの剛速球を捕らえる強打者のバットのように、重たい手応えを彼の手に伝えた。
「ガッ……」
鈍い打撃音と共にギルバートの脳が揺れ、意識が混濁する。
そして、打ち返されたボールと同じ運命を辿るように遠くへと弾き飛ばされていくのであった。
「たあっ!」
「うわっと」
重低音の直後、振りぬかれた槍の方角から霊夢が突っ込んでくる。
月影は少し慌てた様子で槍を引き戻し、霊夢の攻撃を受け止めた。
「……あっぶないな~……霊夢ちゃん、あの槍に当たってたらただじゃ済まないんだぞ?」
「それがどうしたって言うのよ。その前に、私があんたらをただじゃ済まさないんだから!」
「っ!?」
霊夢はそう言うと手にした札を月影に押し当て、結界を作り出した。
その閉じた世界の中を、霊夢の力が奔流となって中の異物を押し流していく。
しかし、霊夢の表情は苦々しいものに変わっていった。
「……やられたわね」
「あぶないあぶない。銀月の札が無かったら直撃だったよ。やっぱり、慢心は良くないね」
霊夢の後方から、安堵のため息と共に涼やかな少年の声が聞こえてくる。
霊夢が振り向くと、そこには袖で冷や汗を拭う月影の姿があった。どうやら銀月の青い札を使って結界から抜け出したようであった。
そして、月影は大きく深呼吸をした。
「ふぅ……力を抑えながら全員相手って言うのは流石に疲れるな」
「なら、早く降参したら?」
「それは出来ないな。降参したら、それこそ銀月がへそを曲げる。本当に困ったものだよ」
霊夢の言葉に、月影はそう言って肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
それと同時に、月影の体が銀色の光を帯び始めた。どうやら、抑えていた力を少し解放し始めたようである。
その姿を見て、霊夢達に緊張が走った。
「それじゃあ、ギアを上げるよ。少し本気を出さないと、ちょっときつそうだ」
身構える霊夢達にそう言うと、月影はゆったりと迎え撃つ体勢を整えた。
月影が現れたのとちょうど同じ頃、暗い宇宙に色鮮やかな光の海が広がっていた。
その波は二つの方向からぶつかり合うように流れていき、中心でぶつかり合い更に鮮やかさを増していた。
「流石はあの将志の主ね。なかなかにやるわね」
「ええ。久々の実戦だけど、肩慣らしにはちょうど良いわ」
「その割には、戦いに集中できていないみたいだけど? さっきから視線が別の方向に向いているわよ?」
「それくらい余裕があるってことよ」
白いドレスに紫の垂をつけた女性と、紺と赤に別れた色合いの服を着た銀の髪の女性がそう言い合う。
実際、永琳は紫と戦いながらも将志と藍が戦っている方角をしきりに気にしており、紫との戦闘に身が入っていないようであった。
そんな彼女に、長く美しい黒髪の少女がため息混じりに話しかけた。
「強がり言っちゃって。将志のことが気になるんなら、そう言っちゃえば良いのに」
「……そうね。それじゃあ、さっさと終わらせて将志のところに行くわよ。輝夜も、銀月のことが気になっているんでしょう?」
「ええ、正直もの凄く心配よ。だから、早く終わらせないと」
輝夜と永琳はそれぞれにそう言い合って目の前の敵に目を向ける。
二人とも自分の仲間にそれぞれ思うところがあって、戦いに集中できていないのだ。
そんな彼女達に、紫が話しかける。
「それよりも、どうしてこんな異変を起こしたのかしら?」
「理由なら、さっき話したじゃない」
「そうじゃないわよ。その理由の理由よ」
「それを知ってどうするつもりかしら?」
「ちょっと思うところがあるのよ。まあ、今の貴女は聞くどころじゃないでしょうけど。特に、将志の主様のほうはね」
「そうね。今の永琳、将志のことしか頭にないもの」
聞く耳を持たない永琳に、紫は胡散臭い笑みを浮かべながらそう口にし、輝夜がそれに同意する。
どうやら永琳は誰の眼から見ても将志のことしか考えていないように見えるようだ。
その彼女の様子に、幽々子が呆れ顔でため息をついた。
「恋は盲目とはよく言うわね。重たい女は嫌われるわよ?」
「最近の貴女はそこまで人のことは言えないわよ。ことあるたびに雷禍のところに顔出してるくせに」
「だって彼、私の質問に答える前にご飯奢るだけ奢って逃げるんですもの。よっぽど私に知られたくないことがあるんじゃないかしら?」
「……それが、最近雷禍が奉公漬けになっている理由ね」
逆に呆れ顔で紫に言葉を返され、幽々子はふて腐れた表情でそう口にした。
どうやら彼女の想像以上に雷禍の口は堅かったらしく、なかなか目的の情報を喋ってくれないようである。
もっとも、雷禍の懐にも深刻なダメージが加わっているようではあるが。
「それにしても、随分余裕じゃない。私だって弱いわけじゃないのに、そうやって話せるなんて」
戦闘中にのんきに会話する二人に、輝夜はそう言って割って入る。
実際、輝夜も将志に鍛えられており、最近では実力者である妹紅と互角の勝負を繰り広げるまでに成長しているのだ。
そんな自分と自分以上の力を持っている永琳を同時に相手しているのに、目の前の二人は少しも苦しそうな表情を浮かべていないのだ。
それに疑問を持つ輝夜に対して、紫は浮かべた笑みを深めた。
「そりゃそうよ。だって、貴女達には焦りがあるもの」
「……焦り?」
「そう、焦り。だって、将志がこれ程てこずるなんて思ってなかったんじゃないかしら? だからこそ、向こうに気を取られてるわけだし。それに、銀月の暴走も予想外だったでしょう? 今の貴女達は気になることばかり。この状態の相手なら、隙だって見えてくるものよ」
思わず攻撃の手を止めた永琳に、紫も攻撃の手を止めてそう口にする。
その言葉を聞いて、永琳は苦い表情を浮かべて手にした弓に矢を番える。
「……正直、藍の力を甘く見ていたのは認めるわ。銀月がここまで狂うのも計算外よ。けど、夜が明けてしまえばもうこちらの勝ち。要は、負けなければ良いのよ私達は」
「でも……それも難しくなるくらい、貴女は焦っているんじゃなくって? ほら、貴女も気づいてるのでしょう? 将志の違和感に」
「……っ、黙りなさい!」
紫の言葉を聞いて、永琳はその言葉を断ち切るように番えた矢を次々に放った。
しかし心に動揺が広がった今、その矢を避けることは紫には容易いことであった。
そして何より、紫は自分の感じていたものに確信を得ることが出来たのだ。
その最大の収穫に、紫は小さく笑い声を上げた。
「ふふっ……成程ね……やるじゃない、藍。この勝負、まだまだこれからね。むしろ、天秤はもう傾きかかってるんじゃないかしら?」
紫はそう言って、更に永琳の心を締め上げていく。
その言葉を聞いて、永琳は一度攻撃の手を止め、大きく深呼吸をした。
「……大丈夫。将志は絶対に大丈夫。私が信じなくて、どうするのよ」
永琳はそう言って、再び大きく深呼吸をして紫に向けて矢を番えて放つ。
その矢は唸りを上げて飛んでいき、紫の持つ扇子を弾き飛ばした。
それに対して、紫も表情を引き締めた。
「まあ、ただ勝敗を待つのも退屈だし、少し遊んでもらおうかしら? ちょっと、お気に入りの扇子の御礼もしないといけないし」
「来るなら来なさい。今日の遊びは、ちょっと過激に行くわよ?」
二人の戦いは、どんどん激化していく。
「……はあっ!」
永琳達が言い合っているころ、将志は再び藍の式神達を相手していた。
段々と技量が追いつき始めてきた式神達が、白銀の槍が煌めくたびに次々と沈んでいく。
彼の周りにはもう沢山の紙くずが散乱しており、倒した式神の数の多さを物語っていた。
「すごいなぁ。これだけ相手しても汗一つかかないなんて、流石は将志だ」
そんな彼の様子に、藍はそう言って賛辞を送る。
式神の数も無限ではない。まだまだ控えは大勢居るのだが、このままいけば自分が敗北を喫することは明らかである。
しかし、藍はもう勝敗などどうでも良いといわんばかりにただ成長していく式神をばら撒き、将志の戦いを楽しんでいるのだ。
そんな彼女に、将志は厳かな口調で口を開いた。
「……藍。どんなからくりを使っている?」
「ん?」
「……俺の見立てでは、もう力尽きていても不思議ではない。だと言うのに、何故まだ式が強くなる? 何故まだそれを制御することが出来る?」
将志はそう言いながら、藍の顔を見やった。
藍の表情は笑顔こそ浮かべているものの、その額には沢山の冷や汗が玉の様に浮かんでいた。
戦神の力を持ち、それを行使する能力のある式神を制御するのは並大抵のことではない。人間が走り回る大型犬を止めるのに苦労するように、一介の妖怪が神の力を制御するのはかなりの前準備と苦労があるはずなのだ。
そして、その負担は段々と藍の身体にも表れ始めていたのだ。それは、藍自身の力の限界が近づいていた証であった。
それなのに、藍の式神は更に力を増し、数も増えて出てくるのだ。将志には、どこにそんな力があるのかが分からなかったのだ。
その彼の言葉に、藍は納得して頷いた。
「ああ……そういうこと……成程な……確かに、お前なら分からなくても不思議じゃないか……」
「……何?」
「感情の力を甘く見てはいけないなぁ、将志。私は、お前を想うだけで力が湧いて来るんだ……」
藍は将志に向かって、笑いながらそう口にする。
その息はやや荒く、式を使い続けたことによる疲労が見え始めていた。
「……だが、身体にかかる負担も並ではあるまい。それでもなお、戦うのか?」
その彼女に、将志は無表情で藍にそう問いかける。
それを聞いて、藍は両手で顔を覆って俯いた。
「……優しいなぁ……お前は……優しすぎるくらい優しいよ、本当に……こんな狂った私にも、そんなことが言えるんだ……」
藍は自分の手の中に、小さな声でそう呟いた。
彼女の手の中に、小さく光る水の粒が落ちる。
そしてその雫を握り締めると、藍は勢いよく顔を上げた。
「だからこそ、私はお前が欲しいんだ! 私の全てを引き換えにしたって良い! そうしてでもお前を奪ってしまいたいんだ、私は! それだけお前を愛してるんだ、将志!!」
大きく手を広げ、戦場全体に響き渡るような大きな声で藍はそう叫んだ。
その言葉に、狂気は関係ない。そこにあったものは、ただの純粋で深い恋心であった。
「……そうか」
藍の言葉を聞いて、将志は自分の本体である銀の槍を正面に立てる。
その瞬間、檻中の夜天と呼ばれたそのけら首にある銀の蔦に巻かれた真球の黒耀石から光があふれ出し、将志の体を覆っていく。
身体の中に槍の力が巡ったことを確認すると、将志は静かに藍に槍を向けた。
その先には、七体の式神を繰り出した藍の姿。
彼女は自分に刃を向ける将志を愛おしそうに見つめ、将志の唇の感覚を思い出しながら自分の唇を指でなぞっていた。
「……ならばもう止めはせん。死に物狂いでかかって来い。今のお前では、正直温い」
「ああ……お前が望むのなら、私はいくらでも応えてやるさ!」
愛してるんだ、君たちを!!
ども、お待たせしました。
最近日常が描きたくなって筆が止まることもあったF1チェイサーです。
その副産物があの変態提督である。
今回のお話の大きなところは、
・銀月の別人格「月影」の発生
・紫や永琳が感じ取った将志の違和感
の二つですね。
月影さんに関しては妖々夢のときに一つだけ伏線を張らせて頂きましたね。
で、色々と謎の多い彼ですが、話を見ればわかるとおりかなりのチートです。
ただし、銀月が暴走したときでないと出て来れないので、普段は表に出ることはありません。
まあ、チートの内容もこの時点では明かしてないので、皆さんにはまたやきもきしてもらうことにします。
それから、将志の違和感について。
これについては私からは深く言及いたしません。
この物語を一から読んでる人には、何となくですが気づけるはずのものですから。
そして、最後に藍しゃまの言葉でACVの主任を思い出した人は大人しく挙手。
安心してください、私もですから。
では、ご意見ご感想お待ちしております。