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銀の槍、迷子になる


「……はっ」


 小さな掛け声と共に銀の槍がまな板に叩きつけられる。

 その衝撃で宙に浮いた食材を神速の槍捌きで切り刻む。


「……ふっ」


 その食材に将志は素早く串を打ち込む。

 調理台に置かれた皿には串刺しになった食材がいくつも並び、うず高い山を形作っていた。


「…………」


 その食材を火であぶる。

 表面に焦げ目がつくと火から下ろし、塩や香辛料、柑橘類などを使って調合した特製の塩ダレにつけて皿に盛る。

 串焼きの盛り合わせの完成である。

 将志はそれを酒と共に膳に載せて運ぶ。


「……出来たぞ」

「お、出来たんだ。んー、これまた旨そうだね! そんじゃ、冷めないうちに食べようか」


 その先にはなにやら眼が付いた帽子をかぶり、蛙が描かれている紫を基調とした服を着た少女が座っていた。

 少女は膳の上に置かれた串焼きを旨そうに食べ、酒を飲む。


「く~! 酒のつまみに最高だね、これ! 将志、お替り!」


 少女は気持ち良さそうに笑ってそういうと、空の杯を将志に差し出す。

 将志はそれを受け取ると、燗にしていた酒を杯に注いで返す。


「……しかし、本当に俺がここに居て良いのか?」

「ん~? いーんじゃない? 妖怪ってわかるほど妖力は出てないし、私達に危害を加えるつもりも無いんでしょ? それに、こんなに旨い料理が食べられるんならむしろいつまでも居て欲しいもんだよ」


 将志の問いに、少女は手にした串焼きを口に運びながらそう答えた。




 ところで、いったい将志が今どこに居て、何故こうなっているかを説明する必要があるだろう。

 それでは、しばし時間を巻き戻すことにしよう。



 *  *  *  *  *  *



 将志達は神奈子の先導により、一路東に向かって歩いていた。

 なお、空を飛ばない理由は途中で食材を採取するためである。


「あ、確かこの草は食べられるんだよね♪」

「ええ、それからこのキノコも食べられたはずですわ」


 愛梨と六花は木の実や食べられる野草を見つけては拾いに行く。

 食料の保存は全て愛梨の大玉の中で行っていて、食べられるかどうかの判断は六花が行っている。

 なお、知識の出所は全て将志が食べて倒れたかどうかである。


「お、こいつは甘くてうまいんだよな! どうせだからあるだけ採っちまえ!!」


 アグナは木になっている木の実を集める。

 体が小さいため、木の枝の奥にあるものも易々採ってくる。


「……はっ」


 将志は茂みに向かって、槍を投げる。

 すると、けたたましい鳴き声と共に木の葉が揺れる音が聞こえてきた。

 将志が確認に行くと、そこには立派なイノシシが倒れていた。


「……上出来だな」


 将志は仕留めたイノシシを肩に担ぐと愛梨のところへ向かう。

 愛梨は将志が獲物を担いでいる姿を確認すると、大玉を転がしながらそこに向かった。


「わぁ~、大きなイノシシだね♪」

「……頼む」

「おっけ、任されたよ♪」


 大きなイノシシを見て瑠璃色の眼を輝かせた愛梨は、そういうと大玉にイノシシをしまいこんだ。

 それを見て、六花は納得したように頷いた。


「今日の分はこれで十分ですわね。ところで、目的地まで後どれくらいかかりますの?」

「大体三日ってところね。途中で色々と困っている者がいないか見て回らないといけないからね」

「か~っ、神様ってのも楽じゃねえなぁ!!」


 腰まで伸びた銀色に輝く長い髪に付いた木の葉を払いながら、六花は神奈子に問いかける。

 それに神奈子が答えると、アグナが燃えるような赤い髪をかき乱してそう叫んだ。


「それじゃあ、次はどこに向かいますの?」

「ここから少し行ったところに村があるから、まずはそこまで言って様子を見るわよ。それで私達に解決できることがあれば解決するし、出来ないようならその様子を後で他の神に伝えないといけないわね」

「うんうん、また人助けだね♪ 今度はどんな笑顔が見れるかな、将志くん♪」

「……(もぐもぐ、ごっくん)見てみないと分からないだろう」


 楽しそうに話す愛梨に、将志は何かを飲み込んでから答えた。

 その様子に、その場に居た一同は固まった。


「おうおうおう、兄ちゃん今何食った!?」

「……何のことはない。ただのキノコだ」


 大いに慌てた様子でアグナが将志に食いかかると、将志は平然とした様子でそう答えた。

 それを聞いて、六花は頭を抱えた。


「……お兄様、そのただのキノコで自分が何回倒れたか覚えていませんの?」

「……数えるのをやめて幾日経ったか……」


 六花の問いかけに将志はしれっとそう答えた。どうやら全く反省していないようである。

 そんな将志の態度に、とうとう神奈子の堪忍袋の緒が音を立てて切れた。


「貴方、少しは学習しなさい! 数え切れないほど拾い食いで倒れる人なんて聞いたことがないわよ!」

「……食の探求に犠牲は付き物!」

「だから限度があるわよ!!」


 神奈子の言葉に何故か誇らしげに答える将志。

 それを見て、愛梨は乾いた笑い声を上げた。


「きゃはは……将志くん、何ともない?」

「……そうだな……特に体に異常は無いな」


 将志は自分の体調を注意深く確認してそう言った。

 その一言を聞いて、一同は安堵の息をついた。


「そんなら別にいいか! そういや、次の村ってどこにあるんだ?」

「この先にある山を越えたところにあるわ。……そうね、人目も無いことだし、特に他の用がなければ飛んでいく方がいいわね」

「なら、そうしますわ。お兄様もそれで良いですわね?」

「……特に異論はないが……しいて言うなら一番後ろではなく、前を行かせて欲しいとしか……」

「将志くんは置いてっちゃうからダメだよ♪ それじゃ、次の村まで行ってみよー♪」


 そういうと、一行は空を飛んで移動を始めた。

 神奈子が飛んで先導をし、最後尾に将志が付く。


「……!?」


 しばらく飛んでいると、将志は急に全身に痺れを感じた。

 体の自由が利かなくなり、フラフラと横に滑りながら地面に落ちていく。

 どうやら、またしても毒キノコに当たったようだ。

 いいかげん学習能力と言うものが身に付かないのであろうか。


「……ぐあっ」


 将志はその先にあった大木に頭をぶつけ、大きく開いた木の洞に突っ込んだ。

 頭に湯飲みが落ちた程度で気絶する将志に耐え切れるはずもなく、将志はその場で意識を失った。




 しばらくして将志が眼を覚ますと、あたりはすっかり夜になっていた。


「……これはまずいな」


 将志は木の洞から出ると、方角を確認した。

 北極星を見つけることで方角を確認すると、将志は東に向かって猛スピードで飛び出した。


「……確か村に行くと言っていたな」


 将志は神奈子がそう言っていたのを思い出し、山を越えて先を急ぐ。

 ……不運なことに夜も遅く明かりが消えていたため、将志には山のすぐ裏側にある集落が眼に入らなかった。

 そんなことにも気付かず、将志はどんどん速度を上げて空を走る。

 そしていくつか山を越えたところに、明かりを見つけた。

 将志はその明かりを目指して飛び、開けた場所に着地した。


「……ここは……?」


 将志が周囲を見渡すと、そこは村などではなく神社の境内だった。

 将志はここが何なのかを尋ねるために、明かりの点いている建物に向かって歩き出した。


「……っ」


 突然背後に強い気配を感じて、将志は注意深くゆっくりと振り返った。

 すると、そこには少女が立っていた。


「こんな時間に客とは珍しいね……って違うや、こんな時間だからこそかな? ……何の用だ、妖怪」


 少女は将志をにらみながら問いかける。

 帽子の眼も、将志をキッとにらみつけている。

 それに対し、将志は赤い布に巻かれた銀の槍に手をかけた。


「……いや、少し訊きたいことがあるだけだ……村を探しているのだが、知らないか?」

「得体の知れない妖怪に答えると思う? あんたが村を襲わないと言う保障がどこにある?」


 少女は将志を威圧するようにそう言い放った。

 将志は首筋に何やらチリチリとした不快な感触を覚え、それを振り払うために妖力を開放した。


「……確かにそのとおりだ。それを証明する術を俺は持っていない。だが、突然相手に危害を加えるのはどうかと思うが?」


 将志は小さくため息をつきながら、平然とした様子で少女を見やる。

 泰然とした将志の言葉に、少女は一瞬驚いた表情を浮かべた後、面白いものを見つけたと言わんばかりに笑った。


「へえ、耐えるんだ。結構力を込めて祟ったんだけどな? なるほどねぇ、そんじょそこらの雑魚妖怪とは違うみたいだね」


 そう言うと、少女はどこからともなく鉄の輪を取り出し、将志に向けて投擲した。

 鉄の輪は弧を描きながら将志に左右から襲い掛かる。

 それに対して、将志も槍に巻かれた布を取り払い、弾き返した。

 少女が帰ってきた鉄の輪を受け取ると同時に、将志は月明かりに輝く銀の槍を構えた。


「……やる気か?」

「もちろん。得体の知れない妖怪を放っておく訳には行かないよ。……それに、あんたとなら思う存分遊べそうだからね!」

「……っ」


 将志は下から殺気を感じて後ろに飛びのく。

 すると、将志が立っていた場所を大きな岩が貫いていた。


「……やると言うのなら相手になろう」


 将志は飛びのいた先から妖力で銀の槍を数本作り、少女に投擲する。

 少女はそれを岩を創り出して受け、その岩を投げて攻撃する。

 その間に将志は素早く移動して、少女の背後を取った。


「うわっ!? やるね!!」


 突然の背後からの銀の弾丸に驚きつつも、少女は反撃する。

 飛んでくる無数の弾幕と岩に対して、将志は槍を振るう。

 将志の前には無数の銀の線が走り、次々と少女の攻撃を叩き落して行った。

 その様子を、少女は不思議な表情で眺めていた。


「……ねえ、何で今避けなかったの? あんたなら避けて死角に回り込むくらい出来そうなのにな?」

「……後ろに建物があったからな。防げそうだったから防がせてもらった。無駄に被害を広げることは避けるべきだろう?」


 見ると、将志の後ろには神社の拝殿があった。

 将志のその一言に、少女はぽかーんとした表情を浮かべた後、腹を抱えて笑い出した。


「あははははは! まさかそんな心配されるとは思わなかったよ! あんた、名前は?」


 少女はそう言いながら将志を見る。

 その少女の眼に浮かんでいるのは、強い興味と警戒心、そして小さな怒り。

 相手が何者かは分からないが強い力を持っていて、もし敵ならば強大な敵になりえるであろうことは分かる。

 しかし、だからと言って自分との勝負よりも建物の被害を気にされるのは気に食わなかったようである。

 少女が油断なく見つめる中、将志は少女の質問に答える。


「……槍ヶ岳 将志だ」


 将志が名前を答えると、少女は首をかしげた。


「あれ、どっかで聞いたねその名前……ああ、あんたが巷で有名な神にも妖怪にも人間にも旨い料理を出す料理妖怪か!」


 ぽんっ、と手を叩いてそう言う少女。その眼からはそれまでの警戒心や怒りは消え去っており、代わりに噂の有名人を見つけた喜びに溢れていた。

 そんな彼女に今度は将志が首をかしげた。


「……そこまで名の知れているものなのか、俺は?」

「里の人間が言ってたよ。「森の中で幸運にも銀の槍を見かけたらそばで待っていろ。この世のものとは思えぬ至高の品が出てくる」ってね。名前はこの間絞めあげた妖怪から聞いたよ」


 少女は将志に関する噂を伝える。

 その場に居るものを種族関係なく公平に扱う将志は、道に迷った人間や近くを通りかかった妖怪などにも料理を振舞っているのだ。

 それ故に将志に関する噂は様々な形で広がり、少女の耳にも入ることになったのだった。

 その話を聞いて、将志は小さくため息をついた。


「……そうか……ところで、一つ訊きたいことがある。村はどこだ?」

「村って言われても……どんな村?」


 将志に害意が無いことが分かった少女は、一転して協力的な態度を取る。

 そんな少女の問いに、将志はあごに手を当てて天を仰ぎ考える。


「…………分からん」

「……噂どおり抜けてるね、あんた……」


 真顔で言い放つ将志に、少女はがくっと脱力する。

 少女は気を取り直して将志に質問を返す。


「そんじゃ、何でその村に行きたいわけ?」

「……連れがそこに居る」

「なるほどねぇ、それでそこに行きたいのか。それで、連れってどんなの?」

「……妖怪が二人、妖精が一人、神が一柱だ」

「神様ねぇ……なんて神?」

「……八坂 神奈子。何でも、東の神に戦を仕掛けるらしい」


 少女はそれを聞くと眉をひそめた。

 かぶっている帽子の眼もすっと細まっている。


「ああ、そーゆーこと……それなら多分ここに来るね」

「……そう言えば、まだお前の名前を聞いてなかったな」


 将志がそう呟くと、少女はあっと小さく声を上げた。


「おおっと、そういえばそうだったね。私の名前は洩矢 諏訪子。ここに住んでる神だよ」

「……そうか。それで洩矢の神」

「諏訪子でいーよ。こっちも将志って呼ぶから。ところでさ、あんたの連れなんだけど、たぶんここに来ると思うよ? だからしばらくここで待ってみない?」

「……良いのか?」

「いーのいーの、その代わり食事を作ってもらうけどね。下手に動き回るよりここで待っていたほうが確実だよ?」

「……そういう事なら、しばらくここで待たせてもらおう。宜しく頼む、諏訪子」

「こっちこそ宜しくね、将志」


 こうして、将志は神奈子達が来るまで諏訪子の食事当番をすることになったのだった。



  *  *  *  *  *  *



 そして話は現在に戻る。

 将志は空になった串焼きの皿を片付け、代わりに野菜のおひたしと焼きハマグリを出す。

 もちろん、おひたしに使った出汁醤油は将志特製である。


「……酒のつまみになりそうなものを作ってきたが、いるか?」

「あ、いるいる! ていうか、あんたも少しは飲みなよ。一人で飲むより二人のほうが楽しいからさ」

「……そういう事なら頂こう」


 将志はそういうと、厨房から二つ目の杯を取り出して酒を注ぎ、杯をあおった。

 米酒の甘味と芳醇な香りが口の中に広がる。

 その余韻の中に、少し塩辛く味付けをしたおひたしを放り込む。

 甘い酒の後味とおひたしの塩気が絶妙に交じり合い、口の中に爽快感をもたらす。


「……まあまあだな」

「えー、私的にはこれで満足なんだけどなー?」


 将志の問いに諏訪子が意外そうな表情でそう呟く。

 それを聞いて、将志はゆっくりと首を横に振った。


「……俺の連れが居ればもっと旨いものが色々作れるのだが……」

「それホント? こりゃ連れが来たときが楽しみだね」

「……ああ、その時はもっと旨いものを振舞おう」


 二人で話しながら酒を飲み、料理に箸を伸ばす。

 どんどん食が進み、終いには料理も酒も空になった。


「ありゃりゃ、もうお終いかぁ~」

「……存外に飲んだな……」


 顔を赤らめてほろ酔い気分の諏訪子にそう言いながら、将志は食器を片付ける。

 片付け終わると、将志は槍を持って外に出ることにした。


「あ~、ちょっと待った!!」


 その時、諏訪子から待ったの声が上がった。

 突然かけられた声に、将志は振り返る。


「……どうした?」

「将志はあんまり外に出たらまずいよ」

「……何故だ?」

「下手に場所が知られると、人も妖怪も将志に殺到して大変なことになりそうだし」

「……そうなのか?」

「って、自分のことでしょ!? さっき噂になってるって言ったじゃん! 少しくらい気にしなよ!」


 将志の自身の評価に関するあまりの無頓着さに、諏訪子は頭を抱える。見ると、帽子の眼も困り顔だ。

 それに対して、将志は小さくため息をついて諏訪子に話しかけた。


「……そう心配することはない。すぐそこで槍の鍛錬をするだけだ」

「ならいいけど……あんまり目立ちすぎない様にね?」

「……了解した」


 将志はそういうと槍に巻かれた布を解きながら境内に下りる。

 将志は槍を構えると眼を閉じ、その場で黙想を行った。


「……ふっ」


 将志は眼を開くと、いつもの型稽古を開始した。

 踊るような足捌きと、柔らかい手首の返しによって銀の槍は様々な軌道を描く。

 青い月に照らされて儚げに光るそれは、一瞬しか映らない芸術のようだった。


「……うわ~」


 諏訪子はその様子をぼーっと見ていた。

 今まで槍を持った者は数多く居たが、将志ほどの技量を持った者は誰一人としていない。

 億を数えた将志の鍛錬を重ねた年数は、彼の槍を幻想的とも言える美しさと強さを持ったものに変えていた。

 静かな境内に、風を切る音だけが響く。


「……はっ」


 最後の一振りを終え、将志は残心を取る。

 そして一息つくと、槍を収めた。


「……見ていたのか、諏訪子」

「うん」


 将志の問いに、諏訪子はまだぽーっとした状態で答えを返した。

 帽子の眼も夢見心地で、トロンとしている。

 そして、次の瞬間とんでもない一言を言い放った。


「将志、あんた鍛錬禁止」

「……は?」


 流石の将志もこれには絶句した。

 いつもの日課を禁止されるとは思っていなかったからである。


「……どういうことだ」

「だって、想像以上に目立つよ? 幾ら夜に鍛錬をするって言っても、あんなに月明かりで光るんじゃすぐに見つかるって。それに、あんな芸術的な槍捌きをするようなのがそこらにごろごろ居るわけないじゃん。そんなんじゃあっという間に妖怪たちに見つかっちゃうよ」


 訳が分からないと言った表情で将志は諏訪子に問いかけると、諏訪子はそれに対して答える。

 しかし、将志はそれに対して首をひねる。


「……いや、俺は見つけてもらわねばならんのでは?」

「あーうー、あんた少しは私の苦労も考えろー!」


 手で床をバンバンと叩きながら主張をする諏訪子。

 将志の意見ももっともであるが、諏訪子の意見にも理がある。

 何しろ人も妖怪も神もまんべんなく寄ってくるのだ。

 一堂に会したとき、面倒ごとが起きるのは間違いない。


「……ならば、屋内で出来る場所はあるか?」

「ん~、それならどっか広い部屋を見つけて使うといいよ。その代わり、壊さないでね」

「……心得た」


 将志はそう答えると、周囲を見回した。


「どうかした?」

「……いや、どこで眠ろうかと思っただけだ」

「ここでいいじゃん」


 諏訪子はそう言いながら本殿を指差した。

 それを聞いて、将志は首をかしげた。


「……ここは本殿では?」

「そうだよ? ここなら私以外は入ってこないから見つからないよ?」


 一応遠慮しているのか、将志は諏訪子にそう尋ねる。

 しかし、諏訪子は全く気にする様子がない。


「……そうか」


 一連のやり取りの後、将志はすぐ近くの壁に寄りかかるようにして座り、槍を抱きかかえる。

 諏訪子は将志の行動の意味が分からず首をかしげる。


「……どうしたの?」

「……眠い、寝る」

「寝るって、その体勢で?」

「……ああ、いつもこの体勢だ」

「……あんたやっぱり変だよ……」


 将志の変人ぶりに、諏訪子は呆れかえってため息をついた。

 こうして、将志の居候生活一日目が終了した。


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