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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
萃まる力と夢現
135/175

銀の槍、立会人となる


 とある平原にて、緑と白の羽織袴を着た一人の老人が静かに佇んでいた。

 彼の腰には長い刀と短い刀が刺さっており、それぞれ楼鳴剣と銀楼剣と銘打たれている。


「お待たせいたしました、妖忌様」


 そんな彼の元に、濃紫色の執事服を着た老紳士がやってきた。

 その彼の腰には、使い込まれた細長いサーベルが下げられていた。

 その執事を見て、妖忌は笑みを浮かべて手を上げた。


「なに、気にすることはない。儂と違って、お前さんにはまだ仕事があるんじゃからな。それに、立会人もまだ来ておらん」

「そう仰るということは、貴方は引退なさったのですか?」

「ああ、儂もとある方の従者をしていた。お前さんと一緒じゃよ」


 妖忌はバーンズの質問にそう言って答える。

 すると、バーンズはにこやかに微笑みながら頷いた。


「左様でしたか。いやはや、貴方とは何かと共通点が多いですな、妖忌様」

「そうじゃな。それ故に、儂はお前さんだけには負けたくないんじゃ」

「ほっほっほ、それはお互い様でしょう。私も、貴方には負けたくありません」


 二人はそう言って笑いあう。

 しかし、そう話す二人の間には少しずつピリピリとした空気が漂い始めていた。

 どうやら二人とも、早く手合わせがしたくて仕方がないようである。


「……そうじゃ。一つ、将志様が来るまで何か演武でも競ってみんか?」

「演武、でございますか?」

「そうじゃ。例えば、こういうことじゃ!」


 妖忌はそう言うと、音も無く腰に刺した楼鳴剣を振りぬいた。

 すると、傍らにおいてあった岩が真っ二つに斬られた。

 鏡のように磨かれたその断面から、楼鳴剣の切れ味と妖忌の腕前を知ることが出来る。

 それを見て、バーンズの眼が鋭く光った。


「……成程、そういうことでございますか。では、私めも僭越ながら……」


 バーンズはそう言うと、ポケットからコインを五枚取り出し、宙に放り投げた。


「ふっ!」


 そして、眼にも留まらぬ速さで手に持った細長い剣を繰り出す。

 それと同時に、金属が触れ合う甲高い音が聞こえてきた。


「……いかがですかな?」


 バーンズはそう言いながら、手にした剣を顔の前に掲げる。

 その剣には先程投げた五枚のコインが串刺しになっており、彼の高い技量を窺い知ることが出来た。

 それを見て、妖忌は楼鳴剣を納めながら楽しげに笑った。


「ふっ、やるのう。やはり、お前さんは儂が見込んだとおりの腕じゃったよ」

「貴方こそ、かなりのお手前ですぞ。いやはや、これは試合が楽しみと言うものですな」


 二人がそう言って話していると、空から五つの人影が降りてきた。


「……待たせたな。立会人を迎えに行っていたら遅くなった」


 そのうちの一人、小豆色の胴着に紺色の袴を着た銀髪の青年が二人にそう言った。

 その青年こと将志が連れてきた立会人を見て、二人は少し驚いた表情を浮かべた。


「幽々子様に妖夢?」

「久しぶりねぇ、妖忌。元気にしてたかしら?」

「師匠の本気が見られると聞いて、駆けつけました。今日は見学させてもらいます」

「アルバート様、ジニ様、予定では今日は抜けられない仕事があったのではございませんか?」

「ああ、あったとも。久々に騎士団団長の剣が見られるのならば、見逃すわけには行くまい?」

「応援するから頑張ってね、バーンズ」


 立会人として呼ばれた四人は、自分と関係のあるほうに声をかける。

 そんな彼らに、妖忌とバーンズの表情が引き締まった。


「ふむ……こうこられてはみっともない所は見せられんのう」

「いやはや……これは是が非でも恥ずかしくない戦いをしなければなりませんな」


 二人の老兵はそう言って小さくため息をついた。

 そして、二人同時に顔を上げてお互いに向き合った。


「我が名は魂魄 妖忌。お前さんに勝負を申し込ませてもらうぞ、バーンズ」

「私めはバーンズ・ムーンレイズ。その勝負受けましょう、妖忌様……いえ、妖忌」


 そう言いあうと同時に、妖忌は楼鳴剣の鯉口を切り、バーンズは手にしたサーベルを顔の前に掲げた。

 ただそれだけの行為でスイッチが切り替わり、両名から凪のように静かな、それでいて熱い闘争心が流れ始める。

 そんな二人の気迫を感じた将志は、両名が向き合う戦場に近づいていく。


「……両名共に準備が整ったようだな。では……始め!!」

「「っ!」」


 将志が号令を掛けた瞬間、二人は弾かれたように走り出した。


「ふっ!」


 先手を取ったのは妖忌。

 相手よりも長いリーチを生かして、相手の間合いの外から居合いの技で斬り込んでいく。

 その太刀筋に乱れは無く、当たれば間違いなく両断されてしまうような一太刀である。


「はっ!」


 一方で、バーンズはその一太刀を恐れずに突っ込んでいく。

 こちらは相手よりも得物が軽いことを十分に生かし、相手の剣が届く前に最速の突きを放つ。

 その突きは風切りの音が聞こえないほどブレが無く、何でも突き通してしまいそうな洗練されたものであった。


「くっ!」

「ちっ!」


 そんなそれぞれの攻撃を、妖忌は体の軸をずらすことで躱し、バーンズは前に飛び込むことで回避した。


「そりゃっ!」


 妖忌は振り向きざまに刀を横に振るう。

 するとその斬撃が空気の刃となり、唸りを上げてバーンズに襲い掛かった。


「てりゃっ!」


 一方のバーンズは振り向くと同時に飛び込んできたそれに対して、眼に見えないほど素早く連続で突きを放った。

 すると飛んできた空気の刃が切り刻まれ、ちぎれて消えた。

 そして息を吐く間もなく妖忌に向かって斬り込んでいき、妖忌はそれを鎬で軸をずらしながら受け止める。

 激突の瞬間に火花が散り、両者は鍔迫り合いの状態になった。


「その細い剣で、凄い度胸じゃのう。儂の一振りで叩き折られてしまいそうなものじゃが」

「そちらこそ、そんな軽く短い両手剣でよくそこまでの威圧感が出せるものですな」


 二人はお互いの得物について、そう言及する。

 妖忌からしてみれば、バーンズが片手で扱っているサーベルは細すぎて、簡単に折れてしまいそうに見える。

 バーンズからしてみれば、妖忌が両手で扱っている刀は軽い上に短く、彼が知っている両手剣よりも楽に攻め込めそうに見える。

 しかし、実際はそう簡単にはいかなさそうだと言うことを、二人はこのたった数合の斬りあいで悟ったのであった。


(さて、どうしたものかのう?)

(はて、どうしましょうかな?)


 二人は相手を油断無く見つめながら、相手にどう対処するかを考える。

 妖忌にとって脅威となるのは、バーンズの速度。

 軽やかに動き、短い動作で連続して片手突きを放ってくる相手の攻め方は、自分が斬り込む速度よりも明らかに速い。

 つまり、自分の攻撃が届く前に相手の攻撃が届いてしまう可能性があるのだ。

 一方、バーンズにとって脅威となるのは、妖忌の技。

 妖忌の言うとおり、自分の扱っている軽く細いサーベルは、妖忌の攻撃を下手に受けると折れてしまう可能性があった。

 更に、自らの太刀筋が体を開けば避けられる点であるのに対し、相手はかなり避けづらい線の攻撃。

 と言うことは、攻撃範囲と言う点において、バーンズは妖忌に大きく劣っているのだ。


「せやっ!」


 そんな中、先に動いたのはバーンズだった。バーンズは相手を押し切って、素早く相手に突きこむ。

 その一撃を、妖忌はとっさに刀で受けようとした。


「むっ!?」


 しかし、その途中で妖忌は危機感を感じ、体制を崩しながら大きく後ろに下がった。

 そんな彼の眼前を、鋭く光る切っ先が通り過ぎていく。

 妖忌は後ろに倒れこみながら地面に手をついて足を振り上げ、バック転をしながら刀を逆袈裟に斬りあげた。


「なんの!」

「まだまだぁ!」


 妖忌の返し技に、バーンズは追撃の手を止めて後ろに引く。

 そんな彼に対して、妖忌は八相の構えから一息で斬りかかる。

 その攻撃を、バーンズは受け流そうと身構えた。


「うっ!?」


 しかし、バーンズはその攻撃に寒気を覚えて、大きく距離をとった。

 その彼の首があった場所を、横一文字に銀色の線が走る。

 そして両者は間合いを取ると、小さく息を吐いた。


「器用なものじゃのう。その剣では、突きをそこまで曲げることが出来るんじゃな」


 妖忌はバーンズのサーベルを見ながらそう口にする。

 バーンズが先ほど放った突きは、妖忌の刀に当たる寸前で軌道を変え、横から妖忌の心臓を狙いに来ていたのだ。


「器用なのはお互い様です。まさか斬撃の最中に太刀筋を変えてくるとは思いませんでした」


 バーンズは妖忌の持つ刀を見ながらそう話す。

 妖忌は袈裟斬りの斜めの太刀筋から手首を返し、受け流そうとする相手の剣を折るべく真横に振りぬく軌道に変えたのであった。

 二人の技は長年にわたるたゆまぬ研鑽が可能にしたものであり、並大抵の努力ではたどり着けないレベルのものであった。

 二人はお互いの技を称え合うと、笑みを浮かべた。


「さて、準備体操はこれくらいで良いかのう?」

「ええ、お互いに体も暖まったことでしょうな」


 二人はそう言うと、静かに息を吐く。


「……では、本気で行くかのう」


 妖忌がそういった瞬間、妖忌の体が青いオーラを放ち始めた。

 その光は川の流れを思わせるような、穏やかでありながらどこか冷たい鋭さを持ったものであった。


「……ええ、望むところですぞ」


 バーンズがそういった瞬間、その体を赤いオーラが覆い尽くした。

 その光は燃え盛る炎を思わせるような、触れるものを壊してしまいそうな激しさを持ったものであった。

 二人の間に広がっていた闘志はもはや燃え滾っており、見るものを圧倒するような迫力があった。

 その中で、二人は相手を見据えて不敵に笑う。


「「……いざ!!」」


 二人はそう言うと、その場から掻き消える様な速度で動き出した。


「ぜやぁ!」

「なんの!」


 妖忌が刀を振るうと バーンズはその一撃をぶれて見えるほどの速度で回避する。

 妖忌の斬撃は刃となって飛んでいき、青白い太刀筋と共に地面が切り裂かれる。


「そりゃあ!」

「まだまだ!」


 バーンズが連続突きを繰り出すと、妖忌ゆらりと揺れるような素早い動きで躱す。

 バーンズの刺突は赤い弾丸のような衝撃波を生み、妖忌の背後にあった岩が蜂の巣になって砕け散る。


「でやああああああ!!」

「ぜやああああああ!!」


 凄まじい気迫と共に、二人の老兵が恐ろしいほどの速度でお互いに突っ込んでいく。

 そしてぶつかった瞬間、激しい音と共に大気を震わせるような衝撃があたりに走った。

 年老いたはずの二人は今や激しく闘志を燃やす修羅へと変貌しており、間に割ってはいる余地は見受けられなかった。


「あんなに激しい妖忌なんて初めて見るわね……」

「……レベルが高すぎて参考になりません……」


 今まで見たことのない妖忌の戦う姿に、幽々子と妖夢はそう口にした。

 その表情は少し呆けたものであり、戦いに心を奪われているようである。


「ふっ、昔を思い出すな。ああまで熱くなったバーンズを見るのは久しぶりだ」

「本当にね。貴方との一騎打ちの時以来かしら、アル?」


 一方のアルバートとジニは激しく戦うバーンズを見て、昔を懐かしむようにそう呟いた。

 そんな二人に、将志が話しかける。


「……しかし、バーンズは強いな。あれでまだ人狼への変身を残しているのだから恐れ入る」

「バーンズはもう人狼にはなれんよ。強く封じられているのだ」


 将志の言葉に、アルバートはそう言って答えた。

 それを聞いて、将志は怪訝な表情を浮かべた。


「……どういうことだ?」

「人狼は年老いると、理性が保てなくなるのだ。そして、仲間であるはずの人狼にまで襲い掛かるようになってしまうのだ。故に、人狼はある一定の年齢に達したら封印を施されるのだ。人間の状態では、普段どおりの生活が出来るからな」

「……つまり、今のバーンズは人間とほぼ変わらんと言うことか」

「見かけ上はな。しかし、人狼の生命力はそのままであるから、人間よりはずっと長く生きられるぞ」


 アルバートは将志にそう言って、年老いた人狼について説明をした。

 その言葉を聞いて、ジニは小さくため息を吐いた。


「でも、この二人の闘いを見る限り、二人とも人間を超越した何かの戦いになってるわね」


 ジニはそう言いながら、激しく戦う二人のほうを見た。


「そりゃああああ!!」


 妖忌は楼鳴剣と銀楼剣で十字に青白い斬撃を飛ばすと、それを上回る速度で走り出した。

 そして、斬撃が地面を切り裂きながら届くと同時にバーンズに斬りかかる。


「でりゃああああ!!」


 一方のバーンズは、腕が何本にも分かれて見えるほどの速度で突きを繰り出した。

 それは相手の斬撃をかき消すのには十分であり、そのまま妖忌へと鋭く突きを放つ。


「ぐっ!」

「ぬっ!」


 両者は火花を散らすほど激しくぶつかり合うと、即座に離れて再び仕切りなおす。

 その戦いぶりは人間が到底たどり着けないレベルのものになっていた。


「しっ!」

「ふっ!」


 二刀を駆使して舞い踊るように戦う妖忌と、一本のサーベルでひたすらに速さを追求するバーンズ。

 そのぶつかり合いは、二人の今までの人生の大半を費やしたもののぶつかり合いであった。

 それ故に、二人はお互いに絶対に負けられないのだ。

 何故ならば、ここで相手に負けると言うことは、自分の人生が相手よりも劣っていると言うことのように感じられるからである。


「ぬおおおおおおおおおお!!」

「でやあああああああああ!!」


 その死闘の余波で、地は裂かれ、岩は砕け、草木は薙ぎ払われる。

 二人にはもう周囲に気を配る余裕は残されておらず、相手のことしか見えていない。


「危ない!」

「きゃっ!?」


 突如として、アルバートがジニを抱えて横に飛ぶ。

 するとそこをバーンズが放った赤い衝撃波が飛んでいった。


「な、なんなのよぉ……」

「むう……バーンズめ、少々熱くなりすぎだな」


 眼に涙をためて泣きそうになっているジニを抱きながら、アルバートはそう呟いた。

 その横で、将志が妖忌の放つ青い斬撃を切り払う。


「……全く、まさか妖忌とバーンズがここまで熱くなる性質だとは思わなかったな」

「ここはもう危険だ。ジニ、ここを離れるぞ」

「ひっく……うん……」

「……幽々子、妖夢。いったん退くぞ。ここに居ては巻き込まれる」

「そうね。行くわよ、妖夢」

「は、はい!」


 将志とアルバートに守られながら、観戦していた面々は安全なところまで避難する。

 二人の激戦は遠くから見るとあちらこちらに青と赤の閃光が飛び交っており、とても近づけそうにない。

 そんな二人の闘いを見て、妖夢が静かに口を開いた。


「将志様……師匠って、あんなに強かったんですね……」

「……仮にも、俺の指導を受けた者だからな。だが、やはり悟りを開いてから剣の冴えが増している。やはり、引退はまだ早かったか?」

「いずれにしても、ここからじゃよく見えないわよ。決着がつくまで、離れてみていましょう」


 幽々子がそう口にすると、一行は離れて待つことにした。

 一方、二人の修羅の戦いは相も変わらず続いていた。

 流水のように相手の攻撃を受け流しながら刀を振るう妖忌に、炎のような激しさで攻め込んでいくバーンズ。

 そんな中、バーンズの眼が光った。


「そこだぁ!」

「ぬぅ!?」


 バーンズの突きは、妖忌の持つ銀楼剣の鍔を鋭く正確に捉える。

 妖忌はその衝撃を逃がしきれず、短刀を後方へと弾き飛ばされた。


「甘いわぁ!」

「ぐっ!?」


 一方の妖忌も、バーンズの持つサーベルの根元を狙って残された楼鳴剣を振るう。

 避けきれないと悟ったバーンズは刀身を守るために鍔で受け、剣を手放した。


「くっ、まだ!」

「しまった!?」


 無手になったバーンズは、楼鳴剣を持つ妖忌の手を強く蹴り上げた。

 楼鳴剣は高々と宙を舞い、地面に落ちて突き刺さった。

 それを受けて、妖忌は肩を振るわせ始めた。


「おのれ……よくも儂の、将志様から頂いた刀を蹴りおったな!」

「ぐぅ!!」


 妖忌は激昂し、そう言ってバーンズに殴りかかった。

 剣士にとって、刀と言うものは自分の分身のようなものである。

 さらに、妖忌の楼鳴剣は自分が師と仰ぐ戦神からもらった、大変に思い入れのある刀である。

 それを足蹴にされたのでは、怒り出すのも無理はないだろう。


「抜けぬけと……貴様も私の剣を何度も折りに来ただろうが!」

「がっ!!」


 一方、バーンズもいつもの礼儀正しい口調を投げ捨てて妖忌に蹴りを入れる。

 騎士であるバーンズにとっても、剣は自分の相棒と言えるものなのだ。

 それを折ろうとしてきた妖忌がそんなことを言うのだから、バーンズが頭に来るのも仕方がないことである。

 両者の戦いは剣技による戦いから、感情に身を任せた、子供の喧嘩の様な殴り合いへと発展していった。

 違いがあるとすれば、喧嘩をしているのは老人であり、なおかつ二人の戦闘能力が非常に高いということである。


「どりゃあ!」

「ぐはっ!」


 妖忌は相手の攻撃を受け流しながら、そうして作り出した隙に反撃を叩き込んでいく。

 その技は正確で、確実にバーンズにダメージを与えていく。


「せいやぁ!」

「あぐっ!」


 バーンズは素早い動きと動作の先読みで妖忌の死角に入り、攻撃を加えていく。

 反撃を返されはするものの、そのスピードで繰り出される攻撃は妖忌の体力をどんどん奪い去っていく。

 ここでも二人の実力は拮抗しており、そう簡単には勝負は付きそうもなかった。


「喰らえ、このロートルジジイ!」

「貴様もジジイだろうが、この耄碌ジジイ!」


 妖忌とバーンズはお互いに罵り合いながら派手に喧嘩を続ける。

 二人とも相手を殴ることしか考えていないために乱打戦になり、どんどん青あざが増えていく。


「……アルバート。バーンズは元々あのような性格だったのか?」

「……いや、そんなはずはないのだが……相手の侍こそああなのか、幽々子嬢?」

「……少なくとも、妖忌があんな暴言を吐いたところは見たことないわよ」

「ししょー……私の中のイメージが木っ端微塵ですよぉ……」

「ひっく……ぐずっ……」


 そんな二人の様子を、観客は唖然とした様子で眺めていた。

 妖忌もバーンズも、普段は礼儀正しく穏やかな性格である。

 その二人がまるで人が変わってしまったかのように喧嘩して罵り合っていることが信じられないのだ。

 特に、妖夢にとって妖忌は将志と共にずっと背中を追いかけ続けている相手であるため、なおのことショックが大きいようである。

 なお、ジニは恐怖から立ち直れておらず、アルバートにしがみついている。


「……同属嫌悪だろうか? 妖忌もバーンズも共に従者で剣士であるし……」

「私達に言われても分からないわよ。けど、ちょうどいいんじゃないかしら? 二人にはちょうどいいガス抜きになりそうだし」

「……成程、銀月とギルバートの関係の様なものか」

「……あの二人ほど、微笑ましい仲にはなりそうもないがな」


 将志達はそう言って頷きあうと、二人の従者の方を見やった。


「この……いい加減に倒れんか!!」

「それは……こっちの台詞だ!!」


 二人はそう言いながら殴りあう。

 二人ともかなりのダメージを負っていて足元がおぼついておらず、相手を殴る腕も先程までの元気さはなくなっている。


「ぐあっ!?」

「がふっ!?」


 そして、それぞれの顎に相手の右ストレートが炸裂した。

 お互いにカウンターが決まる形となり、お互いにそれが決定打となって地面に崩れ落ちる。

 それを見て、将志は小さくため息を吐いた。


「……相打ちだな」

「そのようだな」


 将志とアルバートはそう言いながら、それぞれ妖忌とバーンズを肩に担いだ。

 その二人のあとに、女性三人が付いてくる。


「それじゃあ、私達はこれで失礼するわ。帰るわよ、妖夢」

「え、あ、はい!」


 幽々子が声をかけると、妖夢は少し送れて返事をした。

 どうやら未だに先程までの妖忌の姿を認めたくないようである。

 そんな妖夢の横に、妖忌を担いだ将志が立つ。


「……アルバート、バーンズが起きたら伝えておいてくれ。勝負は引き分けで終わったと」

「了解だ。ジニ、私達も帰るぞ」

「……うん……」


 アルバートは方にバーンズを担いだ状態で、自分の着ているグレーのスーツの裾を握っているジニに声をかけ、空へと飛び立った。

 それを確認すると、将志は幽々子達の後を追って白玉楼へと飛び立っていった。



 そして後日。


「ぜやああああ!!」


 迷いの竹林の一角で、妖忌は刀を振るう。

 その度に近くに生えている竹が切り倒され、次々と広場が大きくなっていく。


「今に見ておれよ、バーンズ……今度あったときは、格の違いを見せ付けてやるわい!」


 妖忌はそう気合を入れると、近くに生えていた竹を一瞬で細切れにした。



 一方、人狼の里の近くの草原では。


「でやああああ!!」


 バーンズは掛け声と共に素早くサーベルを振るう。

 その度に風切り音が聞こえ、近くの草木を薙ぎ倒していく。


「首を洗っておけよ、妖忌……次の勝負、貴様に引導を渡してくれる!」


 バーンズはそう誓うと、近くにあった岩を粉々に砕いた。




 それからと言うものの、二人は事あるたびに決闘をするようになるのであった。



 ジジイ共大暴走するの巻。

 いやあ、東方不敗とかマスター・ヨーダとかの影響で、この手の爺さん=滅茶苦茶強い、という構図が出来上がっているので、一回書いてみたかったんですよね。

 でもって、自分のプライドとか信念とかもあるものだから、一旦それが傷つけられると途端にぶちキレる。

 その結果、今回のようなことに。


 妖忌とバーンズの関係は、初期の銀月とギルバートの関係によく似ていますね。

 ただ、彼らがあの二人ほど仲良くなることはないでしょうが。


 なお、最後の殴り合いは書いていてMGS4の最後の戦いを思い出しました。



 では、ご意見ご感想お待ちしております。


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