番外:演劇・銀槍版三匹のこぶた
注意
この話は本編のキャラクターを使った作者のやりたい放題の話です。
以下の点にお気をつけください。
・著しいキャラ崩壊
・カオス空間
・超展開
・一部メタ発言
なお、この話は本編とは一切関係ありません。
以上の点をご了承しかねると言う方は、ブラウザバックを推奨いたします。
では、お楽しみください。
「キ、キキ、キキキキキキ! ツマラナイツマラナイ、人間ナンテツマラナイ! 自滅シロ自滅シロ、ツマラナイナラ自滅シロ!!」
「ちょっ、姫様!? いきなりどうしたんですか!?」
突然狂ったように叫びだした輝夜に、鈴仙は驚いてそう声をかけた。
その瞬間、輝夜はその場に崩れ落ちた。
「もういや……また演劇監督なんて……」
輝夜はめそめそと泣きながら鈴仙にそう訴える。
それを聞いて、鈴仙は苦笑いを浮かべた。以前演劇をしたとき、全員があまりにもフリーダム過ぎたためである。
「あー……あれ、またやるんですね……それで、今回の演目は?」
「『三匹のこぶた』だとさ。それから、今日から演出家が入るらしいぞ」
鈴仙の言葉に、横から助監督を務める妹紅が声をかけた。
すると輝夜はその言葉に首をかしげた。
「演出家?」
「ああ、私の知り合いの外来人だ」
妹紅はそう言うと、隣に立っている眼鏡をかけたワイシャツ姿の男に眼を向けた。
「遠江 善治だ。何でか知らないが、演出家をすることになった」
「喜べ、輝夜。こいつはな、“ツッコミ”属性だ」
それを聞いた瞬間、輝夜の表情が歓喜に変わった。
「きたぁ~!! きたきたきた、きたぁ~!!」
小躍りしながら新しいツッコミ役の登場を喜ぶ輝夜。
そんな彼女を見て、善治は微妙な表情を浮かべた。
「……なあ、この人どうしたんだ?」
「……察してやってくれ」
「……ああ、そういうことか……」
妹紅がそう言って肩を叩くと、善治はこれからどんなことが起こるのかを大体察して、疲れた表情を浮かべた。
するとそこに、演劇の主催者である愛梨がやってきた。
「キャハハ☆ 今回は同じ話を人を代えて何度もやるよ♪」
愛梨の説明によると、今回の話は分かりやすく省略した話で進めていくため、短い話を配役を代えて何度も行うようであった。
それを聞いて、演出家である善治が質問をする。
「それで、最初の配役は?」
「台本にはナレーターと狼の配役しか書いてないですね。こぶたの方は後で分かるみたいです」
「狼役の人は誰がこぶた役をしているか知らないよ♪」
善治の質問に鈴仙が答え、それに対して愛梨が情報を追加する。
それを聞いて、善治の眉がピクリと動いた。
「ちょっと待て。何だそのバラエティ番組のロケみたいな内容は?」
「いつものノリだ、諦めろ」
善治の言葉に、妹紅が何かを諦めた表情でそう声をかけるのであった。
「ああ……いいわ……私が言わなくても誰かが言ってくれるって……」
今回の企画に対する善治の反応に、輝夜は眼から滝のように涙を流してそう呟いた。
自分が言わなくても人が言ってくれる、自分の喉が擦り切れないで済むことに感動を思えているようであった。
そんな輝夜を尻目に、六花が脚本を持っている鈴仙に声をかけた。
「それでは、最初の狼の配役は誰ですの?」
「最初は霊夢さんってなっていますね」
「……それ、ミスキャストじゃない? 絶対にやる気がないと思うわよ?」
鈴仙の言葉を聞いて、輝夜がそう言って微妙な表情を浮かべる。
そこに、愛梨がにっこり笑って口を挟む。
「キャハハ☆ 配役は絶対だよ♪ それじゃあ、始まり始まり~♪」
かくして、第一幕が開演される。
* * * * *
『(ナレーター:愛梨)あるところに三匹のこぶたがいました。みんなはお母さんに言われて家を建てて独立しました。一番上はわらの家、真ん中は木の家、一番下はレンガの家を建てました。そんな三匹の家に、忍び寄る影が一つありました。それは、こぶたを食べようとする狼(演者:霊夢)でした』
「……なんで私が狼役なのよ」
『狼はぶつぶつ文句を言いながら、わらの家に向かいます』
「ドアを開けて入れなさい」
「嫌です! ドアを開けたら食べるつもりでしょう!」
「まあ、どうでもいいけど。それ!」
「きゃあ!?」
『狼はそう言うと、わらの家を一息で壊してしまいました。一番上(演者:妖夢)は尻尾を巻いて逃げていきました』
「一人目は妖夢? 二番目は誰かしら?」
『狼はやる気なく逃げていくこぶたを追っていきます。すると今度は木でできた家が見えてきました。中に逃げ込んだこぶたをみて、狼は声をかけます』
「ドアを開けて入れなさい」
「お断りします。ドアを開けたら食べるつもりでしょう?」
「その声、咲夜ね。でも、容赦しないわよ!」
「……あら」
『狼はそう言うと、木の家を一息で壊してしまいました。真ん中(演者:咲夜)も一番目と一緒に逃げて行きました』
「……妖夢と咲夜……ということは、最後は鈴仙ね。五ボス的な意味で」
『狼はメタなことをぶつぶつ言いながら、逃げていくこぶたを追いかけます。すると、レンガの家が見えてきました』
「ドアを開けて入れなさい!」
『狼はレンガの家に向かってそう叫びました。しかし、中から返事が返ってきません』
「……おかしいわね、確かにこの中に入っていったと思うのだけど……」
『不審に思った狼は、扉を開けてみることにしました』
「あら? 開いてるわね」
『すると、ドアはいとも簡単に開きました。狼は家の中に入ります』
「お帰りなさい、霊夢。お夕飯できてるし、お風呂も沸いてるよ。あ、それとも先にお茶を飲む?」
『すると中では、一番下のこぶた(演者:銀月)が晩ごはんを作って待っていました。一番上と真ん中は、机の上にお皿を並べて準備をしていました』
「それじゃあ、お茶を頼むわ」
「はいはい」
『狼が笑顔でお茶を頼むと、一番下はお茶を淹れ始めました。そして、みんな仲良く晩ごはんを食べましたとさ。めでたしめでたし♪』
* * * * *
「「ちょっとマテや」」
演劇が終わると、輝夜と善治は銀月のところへと向かった。
「あんた、三匹のこぶたの話を知ってるわよね? 何でほのぼの家族物語になってるの?」
「え、こんな話じゃないの?」
輝夜の質問に銀月はキョトンとした表情でそう答えた。
どうやら本気で三匹のこぶたの話を知らないようである。
それを聞いて、善治は唖然とした表情を浮かべた。
「は? あんた三匹のこぶたの話を知らないのか? 誰もが一回は絵本で読んだりする話だぞ?」
「うん。だって、銀の霊峰にはそんな絵本なかったし……はぅ」
銀月がそう言って答えていると、咲夜が銀月の頭を撫で始めた。
それと同時に銀月の体から力が抜け、その場にへたり込む。
咲夜はそんな銀月の頭を胸元に抱え込んだ。
「優しいわね、銀月……三匹のこぶたを、自分を食べに来た狼を食事に招待する話だと思うなんて……きっと、銀月は敵にも優しいんでしょうね」
「……みゃう……」
咲夜は座り込んで、胸元に抱え込んだ銀月の頭を優しく撫でる。
銀月はまさに骨抜きになっており、自らの体を完全に咲夜に預けている。
「それにしても、銀月さんって本当に理想のお嫁さんですね。男の子だけど」
「そうね。まさに大和撫子って感じね。男の子だけど」
「うに~……」
咲夜に撫でられて緩んだ表情を見せる銀月のやわらかい頬を、妖夢が手でむにむにと弄る。
銀月はそれに抵抗する気もないらしく、なすがままになっている。
銀月を弄る二人の会話を聞いて、霊夢が銀月の袖を掴んだ。
「あげないわよ。銀月はうちの食事係なんだから。紅魔館には貸しているだけよ」
「にゃうっ!?」
「「あ」」
霊夢はそう言いながら銀月の袖をぐいっと引っ張る。
すると銀月は霊夢の膝の上へと倒れこんで眼を白黒させ、咲夜と妖夢は銀月を弄っていた右手のやり場をなくしたのだった。
そんな霊夢の背後から、近づく影が一つ。
「……それ以前に、俺の息子だろう?」
「あ、はい……」
異様な威圧感を放つ将志に、霊夢はうなずかざるを得ないのであった。
そんな彼女達を尻目に、輝夜が次の配役を確認する。
「で、次の狼役は?」
「次はギルバートさんですね」
「俺が狼か。まあ、精一杯やらせてもらうさ」
鈴仙が脚本を確認してそう言うと、ギルバートは意気揚々と舞台の上へ上がっていく。
前回主役をほぼ問題なく演じたこともあってか、この舞台に関してかなり楽観的な考えを持っているようである。
それを聞いて、善治は小さくうなった。
「本職の狼か。けど、こぶたは本職というわけには行かないからな。いったいどうなるのやら」
善治はそう言いながら舞台に上ったギルバートを眺める。
先程の一件があるため、この先舞台がどうなるかが読めないでいるのだ。
そして全員がスタンバイすると、第二幕が始まった。
* * * * *
『あるところに三匹のこぶたがいました。みんなはお母さんに言われて家を建てて独立しました。一番上はわらの家、真ん中は木の家、一番下はレンガの家を建てました。そんな三匹の家に、忍び寄る影が一つありました。それは、こぶたを食べようとする狼(演者:ギルバート)でした』
「ドアを開けろ、入れてくれ!」
「ああ、いいぜ。鍵は開いているから入ってきな」
『狼が声をかけると、中からそんな声が聞こえてきました。狼は勢い良くドアを開けます』
「なっ!?」
「残念だったな。ぶっ飛べ狼!」
「ぐああああああっ!!」
『次の瞬間、待ち構えていた一番上(演者:魔理沙)の魔法で狼は吹き飛ばされてしまいました』
* * * * *
「「カットカット!!」」
輝夜と善治は同時にそう叫ぶと、ギルバートにゼロ距離マスタースパークを放った魔理沙の下へと走っていった。
「ちょっとあんた、何やってるのよ!?」
「あんたが逃げないと話が続かないだろうが!!」
輝夜と善治は怒鳴り散らすように魔理沙にそうまくし立てた。
しかし、魔理沙はそんな二人の言い分を気にする様子もなく、陽気に笑って答えた。
「良いじゃないか、いつもこんなノリなんだし。さあ、続きをやろうぜ!」
「続きをやろうにも、狼役がぶっ飛ばされて行方不明だぞ」
妹紅は舞台袖に空いた大穴を眺めながら魔理沙にそう言葉を返した。
現在、将志や銀月をはじめとした捜索隊がギルバートを捜しに行っているのであった。
それを見て、魔理沙は困った表情で頭をかいた。
「ありゃりゃ、ちょっとやりすぎたかな?」
「やりすぎもへったくれもないわよ!」
「そもそも、こぶたが狼に反撃するんじゃない!」
魔理沙のつぶやきに、ツッコミ役二人はそういうのであった。
しばらくして捜索隊がボロ切れのようになったギルバートを連れて戻ってくると、舞台が再開される。
* * * * *
「……にゃろう、今に見てろよ……」
『狼は松葉杖をつきながら逃げた一番上を追いかけます。すると今度は木でできた家が見えてきました。中に逃げ込んだこぶたをみて、狼は声をかけます』
「ドアを開けろ、入れてくれ!」
「ええ、いいわよ。鍵は開いているから入ってきて」
『狼が声をかけると、中からそんな声が聞こえてきました』
「今度は騙されねえぞ!」
『狼は勢い良くドアを開けると、一気に中に飛び込みました』
「ん?」
『狼が家の中に入ると、ひとりでに家のドアが閉まりました。狼は突然の事態に慌ててドアを開けようとしますが、びくともしません』
「ど、どうなって……」
「ふふふ……いらっしゃい、狼さん。貴方もお人形にしてあげるわ」
「うっ……」
『隠れていた真ん中のこぶた(演者:アリス)に注射を打たれて、狼はその場に倒れてしまいました』
* * * * *
「「カット、カットカット!!」」
輝夜と善治は脚本を投げ捨てると、大急ぎでギルバートの下へと駆け寄った。
「おい、瞳孔が開いてるぞ! メディーーーック!」
「ここにいるわよ」
ギルバートの容態を確認すると、善治は大きな声で叫んだ。
すると、永琳が医療セットを持ってギルバートの元へと走ってきた。
永琳はギルバートをなるべく動かさないようにして、容態を調べる。
「……この症状、神経毒ね。注射器一本分も注入されたら、人間なら死ぬところよ。血清はあるから、安心しなさい」
永琳はそう言うと、ギルバートの体に血清を注入した。
すると段々とギルバートの症状が治まってきて、息も戻ってきた。
それを確認すると、輝夜は脚本を握り締めながらアリスを問い詰めた。
「……あんた、何やってんの?」
「何って、前に習って狼に逆襲しただけよ?」
「習うなぁ! 話どおりに進めなさいよ!」
アリスの物言いに、輝夜は手にした脚本を床にたたきつけた。
「というか神経毒をあれだけ集めるなんて、本気でギルバートを殺すつもりだったのか?」
その隣で、善治がにらむような目つきでアリスを見ていた。
どうやら本気で怒っているようであり、その手は強く握り締められていた。
それを見て、アリスは首を横に振った。
「そんな訳ないじゃない。ちゃんとギルバートが死なないように計算はしてあるわ。それに血清があるのも確認したわよ」
「……それ、どうやって計算したのかしら?」
永琳はアリスが使った注射器を手にとって、アリスにそう問いかけた。
「人狼の薬殺刑の資料で致死量が分かっているから、そこから計算したのよ」
アリスはそう言うと、資料を取り出して永琳に手渡した。
それを見て、永琳は注射器の容量と資料に書かれている値を見比べてうなずいた。
「……成程ね、確かにこれくらいじゃ死にはしないわ。症状は強く出るけどね」
「だからって、それを平然とやれるあんたが怖いわ……」
永琳の言葉を聞いて、輝夜は恐ろしいものを見るような眼でアリスを見るのだった。
ギルバートが意識を取り戻すと、再び演劇の幕が上がった。
* * * * *
「ちっきしょう……こうなったら絶対に食ってやる……」
『狼はしびれる体を引きずりながら、這うようにして二匹のこぶたが逃げていった方向へと向かいます。するとその先には、レンガの家がありました』
「ドアを開けろ、入れやがれ!」
『狼はそう言いながらレンガの家のドアを蹴り飛ばします。しかし、扉はびくともしません』
「こうなりゃ、煙突からでも入り込んでやる!」
『狼はそう言うと、煙突から勢い良く飛び込みました。すると下には鍋があり、狼はその中に落ちました』
「ん? 熱くない? というか、何だこりゃ?」
「今よ、こあ」
「ごめんなさい!」
「ぐあっ!?」
『狼が中に入っていた紫色の液体に気をとられていると、上から重たい鍋の蓋で閉じ込められてしまいました。頭を打った狼は、気を失ってしまいます』
「エコエコアザラク……ふふふ、魔の狼の肉なんて滅多に手に入らないものね……どんな薬が出来るかしら?」
『こうして狼は一番下(演者:パチュリー)に退治され、こぶた達は幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし♪』
* * * * *
「「メディーーーーーック!!」」
輝夜と善治はそう叫びながら、大慌てでギルバートのところに駆け寄った。
そして大急ぎでギルバートを救出すると、パチュリーの元へと詰め寄った。
「ちょっと、そこのあんた! 何やってんのよ!?」
「何って、私は原作どおりに狼を退治しただけよ。途中がないけど」
「……確かに、原作ではこぶたが狼を食べてしまう話になっているな」
「リアルにやる話じゃないだろうが! あと少しで再起不能になるところだぞ!?」
三匹のこぶたの話を思い返してうなずく将志に、善治は横からそう口を挟んだ。
ギルバートはコールタールのようにねばねばした紫色の液体に閉じ込められており、幸いにして息はあるようだが、ピクリとも動く様子がない。
「それで、この謎の液体は何かしら?」
「どうせだから、彼から薬を作ろうと思ったのよ。本当は毛を数本で足りるのだけど、配役的に全身を煮込めるから大量に作ろうと思ったのよ。人狼と魔人の混血なんて彼ぐらいのものだしね」
パチュリーはそう言いながら、ギルバートを覆っている紫色の液体を掬い取っては瓶に詰めていく。
その液体を見て、永琳がギルバートに処置を施しながらパチュリーに声をかけた。
「これ、何の薬かしら?」
「少なくとも、貴女が作るような医療用ではないわ。端的に言えば、これは彼の魔力や性質を閉じ込めるための薬ね。銀月によれば、ギルバートは『あらゆるものを溜める程度の能力』だそうだから、その能力が一時的に使えるようになるでしょうね」
「そう……つまり銀月の毛髪を使えば、一時的に自分の限界を超えられるようになるわけね」
「そういうこと……なのだけど、残念ながらこれは動物の毛しか使えないわ。人間や妖怪の毛は無理なのよ。彼は狼の因子があったから出来ただけよ」
「成程ね……動物の毛か」
永琳はそう言うと、少し考え込んだ。
「……っっっ!?」
「どうかしたのかしら、藍?」
「い、いえ、今何か寒気が……」
その一方で、藍は自らを襲う悪寒に危機感を感じるのであった。
「で、次の配役は?」
「次の狼は将志だな」
輝夜の一言を受けて、妹紅が配役を確認する。
それを聞いて、将志は顔を上げた。
「……俺か?」
「ええ、そうなっていますね」
「……そうか。では、精々上手く演じて見せよう」
将志はそう言うと、舞台に上がっていく。
「……彼は戦闘能力は高いし、危機察知に適した能力もある。これならまだ安心か?」
そんな将志を見ながら、善治はそうつぶやくのであった。
そしてギルバートの無事が確認されると、第三幕が始まった。
* * * * *
『あるところに三匹のこぶたがいました。みんなはお母さんに言われて家を建てて独立しました。一番上はわらの家、真ん中は木の家、一番下はレンガの家を建てました。そんな三匹の家に、忍び寄る影が一つありました。それは、こぶたを食べようとする狼(演者:将志)でした』
「…………」
『狼は音もなくわらの家に忍びより、小さくドアを叩きました』
「……ドアを開けろ」
『狼はそう言いますが、中からの返事がありません。何度も声を掛けましたが、それでも返事はありませんでした』
「……?」
『不審に思った狼は、ためしにドアを開けてみることにしました。すると、ドアは鍵が掛かってなくて、いとも簡単に開きました。』
「す~……す~……」
『狼がドアを開けると、中で一番上のこぶた(演者:美鈴)が立ったまま眠りこけていました』
* * * * *
「「先生方、お願いします」」
輝夜と善治がそう言うと、舞台の上で眠っている美鈴に向かって何かが音もなく飛んでいった。
そして、それは美鈴の額に見事に突き刺さった。
「いったあああああああああい!?」
突然の痛みに、美鈴はそう叫んで飛び上がった。
彼女の額には、銀のナイフと銀のタロットが突き刺さっていた。
「全く、こんなところでまで何で眠れるのかしら?」
「舞台に上がってから三分も経ってないのに……」
舞台上での美鈴の失態に、咲夜と銀月が揃ってため息をついた。
二人とも呆れ顔で、二投目の準備を整えていた。
そんな二人を見て、美鈴は眼から涙を流す。
「ふぇぇぇぇん……最近、銀月さんも容赦ないです……」
「あれだけ居眠りされてたら、職務怠慢で解雇されていてもおかしくないもの。むしろその程度で済むことに感謝して欲しいよ」
「えーん、最初の頃の優しかった銀月さん、カムバーック……」
冷たく突き放すような銀月の言葉に、美鈴はそう言って膝を抱えていじけてしまった。
「……まあ、その、何だ。これに関してはフォローできないが、次から気をつけろよ?」
そんな美鈴に、ギルバートは何とか慰めようと声をかける。
「……優しくしてくれるのは貴方だけですよ、ギルバートさん……」
すると美鈴はそう言ってほろりと涙をこぼすのであった。
美鈴が立ち直ると、舞台は再開された。
* * * * *
「…………」
『狼は一番上のこぶたを追いかけていき、音もなく木の家に忍びよって小さくドアを叩きました』
「……ドアを開けろ」
「……分かった……」
『狼が声をかけると、中から声が聞こえてドアが開きました』
「……いらっしゃい……」
「……邪魔するぞ」
『すると、真ん中のこぶた(演者:静葉)が出てきて狼を招き入れました。二人はソファーに座って、のんびりとすごします』
* * * * *
「「カーット!! カットカットカットォ!!」」
輝夜と善治は脚本を握りつぶしながらソファーでくつろぐ二人組みに近寄っていった。
「あんたら、俺の名前を言ってみろ……じゃなかった、自分の役柄を言ってみろ」
「……狼だな」
「……真ん中のこぶた……」
「じゃあ、狼なら狼らしくこぶたを襲えよ! あんたも、何でこぶたが狼を招き入れてくつろいでんだよ!?」
「……無理だ……静葉に手を上げるなど俺には出来ん!」
「……拒絶したくない……」
善治に問い詰められて、将志は力強く断言し、静葉は泣きそうな顔で将志に抱きついた。
その様子を見て、輝夜は盛大にため息をついた。
「……良く分かったわ、これは盛大なミスキャストね」
「でもでも、お話は続くよ♪ さあ、続きを始めよう♪」
愛梨が陽気にそう言うと、舞台が再開される。
* * * * *
「……最後は誰だろうか」
『狼は小さく何か呟きながら、前に見えるレンガの家へと歩いていきます。そして家の前に着くと、軽くドアを叩きました』
「……ドアを開けろ」
『狼がそう言うと、音もなくゆっくりとドアが開きました』
「……(にっこり)」
「なっ……」
『そうして、一番下のこぶた(演者:伊里耶)は狼を家の中に強引に引きずり込みました……ってちょっと待ったぁ!』
* * * * *
愛梨達の目の前で、レンガの家のドアが閉められる。
それを見て、永琳と愛梨と藍と静葉は大急ぎでレンガの家のドアを開け放った。
「ちょっと、伊里耶ちゃん!? 将志くんをどうするつもり!?」
「原作の最後と同じように食べるんですよ。まあ、私は性的な意味でですが」
愛梨の問いかけに、伊里耶はにこやかに笑いながらそう答えた。
伊里耶は将志を押し倒した格好になっており、その手は将志の服に掛かっていた。
それを見て、永琳は将志の上から伊里耶の手を払いのけた。
「……私の将志に何をするのかしら?」
「あらあら、貴女も将志さん狙いなんですね。何だったら、一緒に混ざりましょう? 皆さんもいかがですか?」
威圧をしてくる永琳の言葉をさらりと聞き流し、伊里耶は四人に誘いをかけた。
それを聞いて、藍は鼻で笑った。
「中々に魅力的な提案だが、断らせてもらう。弄ることまでなら遊びですむが、相手の望まぬ本番行為などこちらから願い下げだ」
「……私もそういうのは嫌……」
「言うまでもないわ」
「ぁ、ぅ……ぼ、僕も嫌……かな……」
藍に続くようにして、全員拒絶の意を示す。
ただ、愛梨は将志との行為を想像してしまったのか、耳まで真っ赤に染まってしまっている。
そんな愛梨を見て、伊里耶は彼女に詰め寄った。
「ふふふ、愛梨さん。貴女は興味あるみたいですね。興味があるならそれに従いましょう?」
「ひゃう!?」
伊里耶は愛梨に近づき、愛梨の胸を軽く揉んだ。
その感触に、愛梨は思わず上ずった声を上げた。
「さあ、素直になりましょう?」
「ひゃぅ……んっ……あぁ……」
伊里耶は優しく微笑みながら愛梨の服に手を突っ込んで体をまさぐる。
愛梨は伊里耶の力が強くて逃げられず、初めのうちは抵抗していたが段々とその力を弱めていく。
その吐息には段々と熱が篭りだし、切ない表情を浮かべ始めていた。
弱い刺激をじわじわと与えられているため、愛梨は時折もどかしそうに体を動かしている。
「……させないぞ、鬼神」
「あら?」
しかしそんな伊里耶の行為を藍が中断させ、それと同時に永琳が愛梨を奪還し、静葉が速やかに避難させる。
そんな三人のチームプレーを見て、伊里耶は楽しそうに笑った。
「そうまでして望まぬ行為をさせたくないんですね。ふふふ……本当に愛されてるんですね、将志さんは。いいでしょう、今回は諦めてあげますよ」
「出来ればこの先も諦めていて欲しいのだけど?」
「そればっかりは約束できませんよ。私から見ても、将志さんは魅力的ですから」
永琳の言葉に、伊里耶は涼しい表情でそう言って笑うのであった。
両者のにらみ合いは続き、緊張状態が続く。
「……舞台の上が修羅場で怖い件について」
「……少なくとも、俺たちがどうにかできる面子じゃないな」
そんな舞台の上を見て、輝夜と善治は隅っこで小さくなりながらそう呟いた。
人間である善治はもとより、輝夜や妹紅でさえ永琳や伊里耶一人に敵う力は持っていないのだ。
その状況に、妹紅が苛立たしげに口を開いた。
「というか、渦中の将志は何をやっているんだ? あいつが一言言えば一発じゃないか」
「……父さんなら、押し倒されたショックで気を失ってると思うよ」
銀月はそう言うと、ベッドの上に寝ている将志を見やった。
将志はベッドの上にぐったりと横たわっており、ピクリとも動かない。どうやら完全に気を失っているようである。
そんな将志に、善治は唖然とした表情を浮かべた。
「そんな虚弱体質でよく今まで生きてこられたな……」
「そこが父さんの一番異常なところさ。とにかく、父さんが起きて愛梨姉さんが立ち直るまでは何も出来ないと思うよ」
善治の言葉に、銀月はそう言って首を横に振った。
「ところで、次の狼役は誰?」
「次は雷禍の出番みたいだな」
「お、俺の番か。うっしゃ、嵐で全部ぶっ飛ばしてやるぜ!」
雷禍はそう言うと、準備体操をして出番を待つ。
狼という主役をすることに張り切っているようである。
「……まあ、絶対に碌な目に遭わんとおもうがな」
そんな彼を見て、善治は深々とため息をついた。
将志が目を覚まして仲裁に入り、愛梨が立ち直ると第四幕が始まった。
* * * * *
『あるところに三匹のこぶたがいました。みんなはお母さんに言われて家を建てて独立しました。一番上はわらの家、真ん中は木の家、一番下はレンガの家を建てました。そんな三匹の家に、忍び寄る影が一つありました。それは、こぶたを食べようとする狼(演者:雷禍)でした』
「おら、ドアを開けやがれ!」
「嫌よ! 貴方私を食べるつもりでしょう!」
「そうかよ、そんじゃ一息でぶっ飛ばしてやらぁ!」
「きゃああああああ!?」
『狼はそう言うと、嵐を起こしてわらの家を吹き飛ばしてしまいました。一番上のこぶた(演者:鈴仙)は尻尾を巻いて逃げていきます』
「一番最初が鈴仙っつーことは……永遠亭の連中か?」
『狼が一番上のこぶたを追いかけていくと、今度は木の家が見えてきました』
「おらぁ! ドアを開けやがれ!」
「嫌よ! 貴方私を食べるつもりでしょ!」
「ふん、ならぶっ飛ばしてやらぁ!」
「うわぁ!?」
『狼はそう言うと、嵐を起こして木の家を吹き飛ばしてしまいました。真ん中のこぶた(演者:フランドール)は尻尾を巻いて逃げていきます』
「二番目が吸血鬼の妹? ……繋がりが全然ねえな。最後は誰だ?」
『狼が追いかけていくと、レンガの家が見えてきました。狼は玄関のドアに手を掛けます』
「ん? 開いてやがるな」
『狼が家の中に入ると、中は真っ暗で、何も見えません』
「……明かりは、こいつか」
『狼は手探りでスイッチを探し、部屋の明かりをつけました』
♪BGM ゴッドフ○ーザー 愛のテーマ
『すると中では、沢山の黒服の男たちが狼にトミーガンを向けて立っていました。一番奥には、高そうな革張の椅子に座った一番下のこぶた(演者:アルバート)が座っていました』
「……は……?」
「Do it.(やれ)」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
『一番下がそう言って指を鳴らすと、哀れな狼は蜂の巣になってしまいましたとさ。めでたしめでたし♪』
* * * * *
「「な……何じゃこりゃああああああああ!!!!」」
輝夜と善治はその結末にしばらくの間唖然とした後、状況を理解すると大声でそう叫んだ。
そして脚本を投げ捨てると、まっすぐにアルバートのところに向かった。
「ちょっとあんた!! これはいったいどうなってるのよ!!」
「例え演劇における仮初のものとはいえ、家族に襲い掛かったのだ。ならば、それ相応の報いを受けなければならないだろう」
「それじゃあ何なんだよ、この黒服共は!?」
「彼らも私の家族であり、男は皆が真の男だ。真の男は家族を大切にする。だからこそ、家族を守るためにここにいるのだ」
「それは家族って書いてファミリーって読む奴だろうが!! というか、誰がどう見てもこぶたの三男坊じゃなくて、どっかのマフィアのドンにしか見えねえよ!!」
「三男であろうとなんであろうと、家族を守ることには全力を尽くす。それが真の男というものだろう?」
善治の怒鳴り散らすような抗議にも、アルバートは泰然とした態度で堂々と豪華な椅子に座って受け答えをする。
その有様はまさしく一組織の絶対的な力を持つ主といったものであった。
「まさか、舞台で実銃を撃つことになるとは思いませんでした……」
「ね~♪ あ~、面白かった♪」
苦笑いを浮かべる鈴仙に、楽しそうに笑うフランドール。
実はこの二人、先程黒服たちに混じって狼にトミーガンを撃っていたのであった。
二人とも反応は違えど、ストレス解消になったのかすっきりした表情を浮かべていた。
「……それで、次の狼は誰だ?」
「次はレミリアだな」
将志が配役を確認すると、妹紅が脚本の配役を読み上げる。
「ふふふ、やっと私の出番ね。最後にやられるのは癪だけど、吸血鬼にはふさわしい役ね」
レミリアは楽しそうにそう言うと、舞台の上へと上っていった。
「……何だろう、そこはかとなく嫌な予感しかしないな……」
自信満々に舞台に立つレミリアを見て、善治はそう言ってため息をつくのだった。
「……なぁ……誰も俺の心配はしてくれねえのかよぉ……」
蜂の巣にされた雷禍を誰も気にかけることなく、第五幕が始まった。
* * * * *
『あるところに三匹のこぶたがいました。みんなはお母さんに言われて家を建てて独立しました。一番上はわらの家、真ん中は木の家、一番下はレンガの家を建てました。そんな三匹の家に、忍び寄る影が一つありました。それは、こぶたを食べようとするモケーレムベンベ(演者:レミリア)でした』
「も、もけ!? ちょっと、モケーレムベンベって何よ!? 狼じゃないの!?」
『モケーレムベンベはそんなつまらないことを言いながらわらの家に向かいます』
「あんた私に何か恨みでもあるの!?」
『……さっさとして』
「あ、はい……」
『モケーレムベンベはいそいそとわらの家へと向かいます』
「ドアを開けて入れなさい!」
「嫌よ! あんた私を食べるつもりでしょ!」
「そう……なら、この家を壊すまでよ!」
『モケーレムベンベはあっという間にわらの家を壊してしまいました。一番上のこぶた(演者:てゐ)は尻尾を巻いて逃げていきました』
「一人目が永遠亭の兎ね……てっきり罠でも仕掛けてあるのかと思ったけど、そうでもないのね」
『モケーレムベンベが一番上のこぶたを追いかけていくと、今度は木の家が見えてきました』
「ドアを開けて入れなさい!」
「断る。ドアを開けたら食べるつもりだろう?」
「あら、なら家を壊してでも頂くわ!」
『モケーレムベンベはそう言うと、あっという間に木の家を壊してしまいました。真ん中のこぶた(演者:慧音)は尻尾を巻いて逃げていきます』
「ふふふ、何だか楽しくなってきたわ」
『モケーレムベンベは意気揚々と逃げる子豚を追いかけます。すると、今度はレンガの家が見えてきました。その入り口は、少しだけ空いています』
「あらあら、鍵をかけてない何て無用心ね」
『モケーレムベンベはそう言って笑うと、勢い良く家の中へ飛び込みました』
「ぎゃおー! たーべちゃーうぞー!」
♪BGM ゴジ○のテーマ
「ギャオオオオオオオオオン!」
『モケーレムベンベがドアを開けると、そこには某怪獣王が待ち構えていました』
「な、何よこれ!?」
「ギャオオオオオオオオオオオオン!」
「いやああああああああああ!!」
『某怪獣王のスパイラル放射火炎によって、モケーレムベンベは消し炭になってしまいましたとさ。めでたしめでたし♪』
* * * * *
「「いい加減にしろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」
輝夜と善治は二人揃って喉が切れんばかりに叫ぶと、辺りをじろじろと見回した。
「誰よ、あんなもの用意したのは! というか、あれ何なのよ!?」
輝夜は目の前にいる怪獣王を指差して周囲に怒鳴り散らす。
すると善治は怪獣王を見て、一気にその元へと駆け寄った。
「あんたらそんなもの着て何やってんだぁ!!」
「いてぇ!?」
「うわぁ!?」
善治がハリセンで怪獣王を引っぱたくと、中から二人分の声が聞こえてきた。
よく見ると背中にはファスナーが付いていて、それが着ぐるみらしいことが分かった。
そして中を開けてみると、燃えるような紅い髪の小さな少女を肩車している白装束の少年が出てきた。
どうやら鳴き声を銀月が、放射火炎をアグナが担当していたようであった。
「銀月……あんたそんなもの着て何やってるわけ?」
「いや、その……こういうのも演劇の練習になるかなぁ、と思って……」
襟首を掴んでにらみつける輝夜の質問に、銀月は眼を泳がせながらそう答えた。
「まあ、大目に見てやってはくれないか? 銀月は自分の将来の夢を叶えるための勉強をしているのだし」
そんな銀月と輝夜の間に、慧音がそう言いながら割り込んできた。
それを聞いて、輝夜は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「……分かったわよ。正直、他の連中の理由に比べたら何倍もマシだもの。戻るわよ、善治」
「はいよ」
輝夜はそう言うと、善治と一緒に監督席へと戻っていった。
それを見送ると、銀月は慧音に頭を下げた。
「ありがとうございます。かばってもらえるとは思いませんでした」
「夢を叶えようとしている子供の手助けをするのが教員の仕事だ。特に気にすることはないよ」
銀月の言葉に、慧音はそう言うと静かに舞台袖に降りて行った。
それを見届けると、アグナが銀月のところへとやってきた。
「よお、さっきの奴どうだった!?」
「最高だよ、アグナ姉さん。あれならきっと観客も驚いてくれるよ」
「へへっ、まあ俺に掛かればこんなもんよ!」
銀月の評価を聞いて、アグナは得意げにそういうのであった。
「それで、次は誰が狼なの?」
「……紫だな。そして、次が最後のようだ」
輝夜の質問に、将志が脚本を読みながら答える。
「あら、私がトリなのね。それじゃあ、早く始めましょう」
紫はそう言うと、スキマを使って一瞬で舞台に上がった。
そして、最終幕が始まった。
* * * * *
『あるところに三匹のこぶたがいました。みんなはお母さんに言われて家を建てて独立しました。一番上はわらの家、真ん中は木の家、一番下はレンガの家を建てました。そんな三匹の家に、忍び寄る影が一つありました。それは、こぶたを食べようとする狼(演者:紫)でした』
「ドアを開けて入れてちょうだいな」
「嫌です。ドアを開けたら私を食べてしまうのでしょう?」
「その言葉は正しくないわね。だって、開けなくても食べられるもの」
「うわっ!?」
『狼はそう言うと、墓石を落としてわらの家を壊してしまいました。一番上のこぶた(演者:藍)は尻尾を巻いて逃げていきました』
「一人目は藍ね……次は橙かしら?」
『狼は胡散臭い笑みを浮かべながら逃げるこぶたを追いかけます。すると、今度は木の家が見えてきました』
「ドアを開けて入れてちょうだいな」
「嫌だ。ドアを開けたら私を食べるんだろう?」
「当たり。でもはずれよ」
「わわわっ!?」
『狼はそう言うと、電車を突っ込ませて木の家を壊してしまいました。真ん中のこぶた(演者:妹紅)は尻尾を巻いて逃げていきます』
「二人目は蓬莱人? どんな組み合わせかしら?」
『狼が追いかけていくと、レンガの家が見えてきました。狼は玄関のドアに手を掛けます。ドアは鍵が掛かっていないようで簡単に開きました』
「待ってたぜ、狼さん」
『すると、中では麻雀卓に座った一番下のこぶた(演者:善治)が待っていました。彼の隣には一番上と真ん中のこぶたが座っています』
「これは……麻雀かしら?」
「ああ……だが、払うのは点棒じゃない。負けた分は血で払ってもらう。覚悟はいいな?」
「……貴方、正気? 狂っているとしか思えないわ」
「ククク……狂って結構……! 狂気の沙汰ほど面白い……! さあ、命を懸けた麻雀を始めようか……!」
『一番下のこぶたはそう言うと、麻雀牌を手に取りました。そして、ここから長い長い戦いが始まるのでした』
* * * * *
「開幕直後より鮮血乱舞、烏合迎合の果てに名優の奮戦は荼毘に付す! 鼠よ廻せ、秒針を逆しまに感情を逆しまに世界を逆しまに! 廻せ廻せ廻せ廻せ廻せ廻せ廻せぇぇ!」
輝夜は狂ったようにそう叫ぶと、麻雀卓に座っている善治の胸倉を掴んだ。
「善治ぅ!! あんたは、あんただけは信じてたのに!!」
「い、いや、さっき突然脚本を渡されて、そのとおりに演じたんだが……」
がくがくと揺さぶる輝夜に、善治は手に持っていた脚本を輝夜に見せた。
そこには、確かに善治があのような演技をするように書かれていた。
それを見て、輝夜はとあることに気がついた。
「……そういえば、今回の脚本家を聞いていなかったわね。今日は誰かしら?」
「私達だ」
「私達ですわ」
輝夜の質問に、妹紅と六花がそう名乗りをあげた。
その表情はしてやったりといったもので、ニヤニヤと輝夜の事を見ていた。
それを見て、輝夜は何をされたのかを悟った。
「あんたら……最初からこれが狙いだったわね!!」
「ああ。上げて落とすのは基本だろ?」
「最後の貴女の発狂っぷり、中々に面白かったですわよ」
「こ、の……ぶっ飛ばしてやるわ!!」
輝夜は震える声でそう言うと、妹紅と六花に向かって駆け出した。
「うわっ、輝夜が怒った!」
「逃げますわよ、妹紅さん!」
それに対して、二人は面白おかしく笑いながら逃げるのであった。
「キャハハ☆ 今回の舞台も成功だね♪ 何事も無くて良かった♪」
追いかけっこをする三人を見て、愛梨は楽しそうに笑みを浮かべた。
そんな愛梨に、藍が小さくため息をついた。
「何事も無いことはないだろう……あと少しでお前は鬼神に……」
「あわわわわ!? そ、それを言っちゃダメだよぉ~!!」
藍の指摘に、愛梨は顔から火が出して大慌てをした。
どうやら余程恥ずかしかったらしく、わたわたと手足を動かしている。
そんな愛梨に、疲れた表情の善治が話しかけた。
「……で、これのどこが成功なんだ?」
「ふぇ!? ああっと、話がちゃんと終われば成功だよ♪」
善治の質問に、愛梨はそう言って答える。
「……帰ったら胃薬だな」
その返答に、善治は帰ってから一番にすることを決めるのだった。
あとがき
はい、今回もめいっぱい遊ばせてもらいました。
今回の一番の被害者は誰なんでしょうね~?
ぶっちゃけ、我ながらカオス過ぎて何から書きゃいいのか分からんのです。
という訳で、今回はここまでです。
ちなみに、アルバートの真の男のくだりは、ゴッドファーザーのドン・ヴィト・コルレオーネの「家族を大切にしない奴は男ではない」というお言葉が元になったものです。
初めて映画で見たときに、この言葉が異様に心に残っていたのを覚えています。
また次回でお会いしましょう。
ご意見ご感想お待ちしております。