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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
萃まる力と夢現
131/175

銀の槍、反転する

 注意書き。


 今回、以下の要素が含まれて降ります。


・一部キャラの性別反転


 以上のことが苦手な方はブラウザバックでお戻りください。

















 とある朝、将志は普段よりもぼんやりした頭で眼を覚ました。

 普段は寝起きもすっきりしたものなのだが、何故か今日はそうはならない。


「んにゅ……にーちゃん……」


 隣では、いつもの様にアグナが自分の体に抱きついて寝ている。

 将志が起こさないように手を引き抜こうとすると、アグナはすぐさまそれに反応を示した。


「ん……おあよ~、にーちゃん……」


 アグナは寝ぼけ眼をこすりながら体を起こす。

 それを見て、将志は小さく笑みを浮かべた。


「……ああ、おはようアグナ……?」


 将志はそう言った瞬間、異変に気が付いて首をかしげた。

 どうにも自分の声がおかしいような気がしたのだ。


「……あれ?」


 一方、アグナもその異変に気が付いて首をかしげた。


 しばらくして、将志は自分の身に起きた出来事に気づくのであった。





 時を同じくして、博麗神社。今日も銀月は朝早くに眼を覚ましていた。

 しかし彼も頭がまだ眠っているようで、うつらうつらとしている。


「……?」


 銀月は立ち上がると、何やら体に違和感を覚えた。

 どうにも普段とは全く違う感覚がするのだ。


「……ん?」


 下を見た瞬間、銀月は違和感の正体に気が付いた。

 しばし硬直。


「……まずは、お仕事しなきゃ」


 そして、何事も無かったかのように仕事を始めるのであった。






 それから数刻後、人里の外れにとある一団が集まっていた。


「……さて、話を始めようか。念のために名を名乗っておこう。俺は槍ヶ岳 将志だ」


 そう口にしたのは、銀の髪を後ろで結わえて蒔絵の櫛を刺し、黒地に白百合の花が描かれた着物を着た女性。

 人形のように整った顔立ちからは怜悧な雰囲気を漂わせており、背中にはけら首に銀の蔦に巻かれた黒耀石が埋め込まれた銀の槍を背負っていた。


「あはははは……どうしてこうなったんだろうね……あ、俺は銀月だよ」


 そう言って乾いた笑みを浮かべるのは、艶やかで美しい黒い髪で赤い首輪をつけ、白いワンピースとつばの広い帽子をかぶった少女。

 顔立ちはやや童顔で、穏やかな雰囲気の少女であった。


「笑っている場合じゃねえだろ……これ、明らかに異変だぜ? ちなみに俺はギルバートだ」


 次に口を開いたのは、金髪のショートヘアーでピンク色のキャミソールにデニムのジャケットとホットパンツを身につけた少女。

 全体的に動きやすい服装であり、活動的な雰囲気である。


「それはそうであろうが、まずは被害状況を確認せねばな。私はアルバートだ」


 冷静にそう話すのは、金のティアラをつけてその長い巻き髪と同じ銀色のスパンコールの豪奢なドレスを身にまとった女性。

 威風堂々とした態度で、その場に居るだけで風格が漂っていた。


「今この場に集まっておられるのは五名、これだけでは異変と思われない可能性がございますな。申し送れました、私めはバーンズ・ムーンレイズでございます」


 恭しく自己紹介をしたのは、丈の長い深い紫色のメイド服を着て銀縁のモノクルを着けた茶色い髪の女性。

 一歩引いた態度で、主君よりも目立たない様に佇んでいた。

 

 それぞれが自分の名前を名乗ると、将志の名を名乗った女性がため息をついた。


「……全く、朝起きたら性別が変わっていたなどとは悪い冗談だ。アグナはよく分かっていなかったようだがな」


 そう、彼女達は朝起きたら何故か性別が男性から女性に変わっており、一部は明らかに元の年齢より若返っていたのだ。

 そして異変を察知した将志達は、お互いに連絡を取り合って集まっていたのだ。

 なお、アグナは将志が女性になっていることが理解できていないようであった。


「本当にね。おかげでお弁当を届けに行ったお店の人からも変な顔をされたよ。霊夢には書置きだけして出てきたから会ってないけど」

「……お前、結構余裕あるんだな。バーンズでさえ取り乱したって言うのに。母さんに至っては俺達を見た瞬間にぶっ倒れたぞ?」


 苦笑いを浮かべる銀月に、ギルバートが微妙な表情でそう呟いた。

 自分の身に大変なことが起きているのに、普段どおりに業務を行っていた銀月に若干呆れているようであった。

 なお、ジニは現在ベッドの上で眼を回しているようである。

 そんな中、新たな人影がその場所に下りてきた。


「君達かい? この手紙を置いていったのは」


 そう口にしたのは、黒と青の着物に黒縁の眼鏡を掛け、銀の髪を銀縁の青いリボンで結わえた女性であった。

 腰にはかばんが付いており、その中から小銭の音が聞こえていた。

 手にした紙には、自分の身に異変が起きた際には人里の外れに来るようにと言う旨が書かれている。

 そんな彼女を見て、銀月が頬をかいた。


「あ~、君はひょっとして霖之助さんかな?」

「……正解だよ。どうしてこういうことになったのやら……」


 霖之助らしき女性はそう言って頭を抱えてため息をついた。

 どうやら彼の身にも異変が起きていたようである。


「それで、君達も全員元は男でいいのかな?」

「ああ。ここに居る者は皆今朝起きたら性別が変わっていた者達だ」

「それで、これからどのようにするかを話し合うところでございます」


 霖之助の問いかけに、アルバートがそう答えてバーンズが言葉を続ける。

 それを聞いて、霖之助は首をかしげた。


「どうするかって、こんなことが出来る犯人は決まってるんじゃないのかい?」

「言いたいことは分かるけどね。それではこの現状に説明が付かないんだ」

「どういうことだい?」

「仮に霖之助さんの想像通りの犯人だとすると、どうやって俺達の年齢や服装まで変えたのかが分からないのさ」


 霖之助の質問に、銀月はそう言って首を横に振った。

 それを聞くと、霖之助は納得してうなずいた。


「そういうことか……たしかにそれは分からないね」

「幾らなんでも、寝ている間に着せ替えをされれば流石にこの中の一人くらいは気づくはずだろうしな。いったい誰がこんなことをしたのか……」


 ギルバートが考え事をしていると、再び空から人影が降りてきた。

 一人がもう一人を担ぐ格好になっており、二人で来ているようである。


「おい、テメエらか? この手紙置いていった奴はよ?」


 霖之助が持っていたものと同じ内容の手紙を持っているのは、胸にさらしを巻いて青い特攻服を着て赤いサングラスを掛け、腰に白鞘の日本刀を挿した黒髪の少女。

 目つきが鋭く、勝気な印象である。


「……間違いないぞ、雷禍。こいつら全員、本来は男だ」


 その少女の肩に担がれていたのは、グレーの女性用のタイトなスーツに身を包んだ銀縁眼鏡の女性。

 こちらは平凡な顔立ちで、落ち着いた雰囲気である。

 そんな彼女達を見て、再び銀月が苦笑いを浮かべた。


「ああ、雷禍と善治か。君達も被害にあったんだな」

「よう、首輪付き。そん通りだ……ったく、なんたって俺が女になっちまってんだよ、ったく……」

「いまさら驚くようなことでもないだろ。いつもの非常識が別の方向に行っただけだろ?」


 いらだった様子で頭をかく雷禍に、善治は冷やかな態度でそう話した。

 それを聞いて、雷禍はジトッとした眼で善治の方を見やった。


「……テメエは何でそんなに冷静なんだ、あぁ?」

「……あんたら、俺にとってはどいつもこいつも日常的に非常識の塊だって分かってるか?」

「……そういやそうだな」


 善治の言葉に雷禍はうなずかざるを得なかった。

 もともと外の世界に居た善治にとって、幻想郷は魑魅魍魎が跋扈し超常現象が日常的に起こる魔境なのである。

 そんな中では、自分の性別が変わってしまう事象も数多の超常現象の一つに落ち着いてしまうのだ。

 要するに、善治の感覚が麻痺しているのである。


「将志たま~!」

「……む?」


 そんな中、幼く舌足らずな声が遠くから聞こえてきた。

 将志がその方を見ると、銀色の髪で緑色で膝上くらいの丈の着物を身にまとった二歳くらいの小さな幼子が飛んできていた。

 背中には小刀が背負われており、将志はそれを見て絶句した。


「……まさか、お前は……」

「はい。魂魄 妖忌でし。舌が上手く回らないので、言葉遣いには勘弁して欲しいでし」


 妖忌は精一杯言葉を紡ごうとするが、言うとおり舌が上手く回らず幼い口調になってしまう。

 そんな妖忌を見て、将志は頭を抱えた。


「……何と言うことだ……」

「魂魄ってことは、妖夢さんのご家族かな? よく父さんだって分かったね?」

「こんな体になっても、気配で将志たまが分かるんでし。威圧感があるのに気配が薄いでしから」


 妖忌は銀月に目の前の女性が将志だと分かった理由を簡潔に述べた。

 どうやら幼い体になっても、研ぎ澄まされた感覚は変わらないようである。


「おい、善治。そういやテメエの能力で誰にこんなことされたか分からねえのか?」

「……駄目だ。誰が俺達をこんな姿にしたのかだけがぼやけていて見えない。誰かが邪魔をしているみたいだ」


 雷禍の問いかけに、善治はそう言って首を横に振った。

 それを聞いて、霖之助が首をかしげた。


「む、君は何か能力を持っているのかい? えっと……」

「遠江 善治だ。俺の能力は『生物の正体が分かる程度の能力』で、相手が何者で過去に何があったかが分かる能力だ。香霖堂の半妖の店主、森近 霖之助さん」

「成程ね。僕の『未知のアイテムの名称と用途が分かる程度の能力』の生物版みたいなものか」

「まあ、そうだろうな。もっとも、相手が今何を考えていて何をしようとしているかは分からないけどな」

「そういう不完全なところまでもよく似ているよ」


 霖之助と善治はそう言うと、本題をそっちのけで話をし始めた。

 お互いに波長が合う部分があるのであろうか、かなり和気藹々とした雰囲気であった。

 そんな二人を放っておいて、話を続ける。


「銀月、お前が弁当を卸している店の店員に男は居たか?」

「はい。店主さんはちゃんと男でしたよ。いつもどおりです」


 アルバートの質問に、銀月は素直にそう答える。

 それを聞いて、バーンズが少し考えて口を開いた。


「つまり、ここに居る者だけがこうなっている訳ですな。皆様、お知り合いにこのようなことが出来そうな方にお心当たりは?」


 バーンズがそう問いかけると、全員顔を見合わせた。


「そりゃあねぇ……まず間違いなくあの人だと思うけどね、僕は」

「まあ、こんな訳の分からねえことしそうなのは奴ぐれぇだろうよ」


 霖之助はそう言いながらため息をつき、雷禍は不機嫌そうにそう口にした。

 そして、全員一斉にその名前を口にした。


「「「「「「「「「八雲 紫」」」」」」」」」


 全員一斉に揃ったそれを聞いて、銀月が頬をかいた。


「あー……やっぱり、みんな最初に思いつくのは紫さんなんだね」

「しかし、紫様が犯人であるならば服装に説明が付かないのではございませんでしたか?」

「……それなのだが……実は俺に一つだけ心当たりがある。俺達の誰にも気づかせずに全員の服装を変えられる人物にな」


 バーンズの指摘に対して、将志がそう言って手を上げる。

 それを聞いて、アルバートが将志に眼を向けた。


「む? 誰なのだ、将志?」

「……喜嶋 愛梨。俺の一番の相棒だ」






「あら、もう感づかれちゃったわよ、愛梨」


 とある薄暗い部屋の一室で、紫色のドレスを着た金髪の女性が目の前に浮いているモニターを眺めていた。

 モニターには話し合いを続けている将志達の様子が映し出されていた。

 そのモニターは、紫の隣で一緒に眺めているピエロの少女の力で作られたものであった。


「一番の相棒かぁ……えへへ……そう思ってくれてるんだぁ……」


 愛梨は頬をうっすら赤く染め、嬉しそうににやけた頬に手を当てている。

 そんな幸せそうな彼女に、紫の式である九尾を持つ女性がため息をつく。


「全く、羨ましい限りだ。だが、一番肝心な部分は譲らないからな」

「望むところだよ、藍ちゃん♪」


 藍と愛梨はそう言って笑いあう。

 そんな二人を見て、紫は苦笑いを浮かべながら手をたたいた。


「二人とも、まずは目の前のことに集中してちょうだいな。愛梨、貴女の存在がばれたわよ?」

「う~ん、やっぱり将志くんを巻き込むとばれるのが早いね♪ お互いにどんなことが出来るか知り尽くしてるからね♪」

「しかし、私達が見つからなければ問題は無いでしょう。いずれは知られることですし、問題はありません」


 三人はそう言いながら、目の前に移るモニターを見続ける。

 そんな中、愛梨はふとした疑問を紫にぶつけてみた。


「でもゆかりん、何で突然こんなことをしたのかな?」


 今回の事件について、愛梨がそう尋ねる。

 どうやら今回の主犯は紫のようであり、愛梨や藍はその協力者となっているようである。

 愛梨の質問に対して、紫は意味ありげに微笑んだ。


「いやね、ちょっと善治の困った顔を見たかったのよ」

「善治? えっと、この外来人だよね? でも、何で?」


 突然挙げられた名前に、愛梨は訳が分からず首をかしげた。

 紫が何故善治を名指しにしたのかも分からない上に、そもそも善治と紫の接点が見当たらないのだ。

 すると、紫は浮かべた笑みを消して俯いた。


「……将棋で負けたのよ」

「え、将棋?」

「ええ。実は……」


 紫はそう言うと、事の次第を話し始めた。





「こんにちは。遠江 善治という人間は居るかしら?」


 ある日、紫は人里にある長屋の一室を訪れていた。理由は、最近流れ着いた外来人に会うためであった。

 紫が長屋の中に入り込むと、そこには青い着流しを着て眼鏡を掛けた青年が本を読んでいた。


「遠江 善治は俺のことだが……妖怪の賢者にして幻想郷の管理者が何の様だ?」


 善治は自身の能力で紫の正体を知ると、怪訝な表情で彼女を見やった。

 すると彼女は胡散臭い笑みを浮かべて口を開いた。


「貴方と将棋を指しに来たのよ」


 それを聴いた瞬間、善治は訳が分からず呆けた表情を浮かべた。


「……はあ?」

「天狗を相手に連戦連勝している貴方の腕前が気になってね。どれほどの強さか確かめに来たのよ」


 紫は善治に訪問の理由をそう告げた。

 善治は普段人里の住人と碁を打ったり将棋を指したりしているのだが、あまりの強さに相手が居なくなってしまったのだ。

 そんな彼のことを風の噂で聞いたのか、暇をもてあました天狗達が善治に勝負を挑むようになったのだ。

 しかし、そんな天狗達すらも善治はことごとく打ち負かし、凄まじい強さの人間が居ると評判になったのであった。

 それに興味を持った紫は、直接会って対局しようと思ったのであった。

 それを聞いて、善治は小さくため息をついた。


「……またこの手の手合いか。勝負してもいいが……がっかりさせてくれるなよ?」

「ええ、それに関しては保障するわ。むしろ、貴方が私に期待外れと思わせる事を心配したらどうかしら?」


 二人はそう言いあうと、対局を開始した。

 しばらくの間二人は黙々と指していたが、段々と長考の時間がお互いに増え始めていた。


「……噂どおり強いわね。人間では久々に歯ごたえのある相手だわ」

「そちらこそ、こちらの用意している二手三手先まで読んでるな。こちらもやりがいがあると言うもんだ」


 対局をしながら、二人は互いの強さを認め合う。

 戦況は一進一退で、お互いに決定的な一手を見出せない状況が続いていた。

 しかし、そんな状況で紫は自信に満ちた笑みを浮かべた。

 そして善治の手が駒の上を通って隠れた瞬間、善治の陣に置かれていた飛車にスキマを使って手を伸ばした。

 善治は自分の手の影から伸びる紫の手が見えず、易々と駒を渡してしまった。


「でも、これで終わりよ」


 紫はそう言うと、善治の陣から取った駒を将棋盤に指した。

 それは善治にとって致命的な一手で、投了せざるを得ない急所であった。

 それを見て、善治は大きくため息をついた。


「ああ……迂闊だったな。たしかにそれで終わりだ」

「ええ。これで貴方の連勝記録もストップよ」


 俯く善治に、紫は薄く笑みを浮かべてそう言った。

 すると、善治の肩が小刻みに震え始めた。


「ククク、本当に迂闊だ…………それで俺の勝ちなんだからな」

「え?」

「よく見てみろよ。二歩だぜ、賢者さんよ」


 静かに笑う善治にそう言われて、紫は将棋盤の上を見た。

 すると、最後に指した駒が歩兵になっており、その後方にもう一つ歩兵がある二歩の状態になっていた。

 これによって、紫は反則負けを喫することになっていたのであった。

 それを見て、紫の眼が驚愕に見開かれた。


「あら、本当……え? 今、確かに飛車を……」

「あんたの探している駒はこれか?」


 善治はそう言うと、自分の持ち駒置き場を指差した。

 するとそこには飛車があった。場には紫の飛車が存在するため、それはたしかに紫が掠め取ったはずの飛車であった。


「あ、あら? どうしてそこにあるのかしら?」

「あんたが過去にこの手のイカサマを使うことがあったのは能力で分かったからな。だから、あんたがこのイカサマを使うような状態まで誘導させてもらったんだ。で、あんたが実行するタイミングで飛車を歩にすり替えたのさ。こうやってな」


 善治はそう言うと、飛車の上に手をかざした。そしてその手が取り払われると、飛車は歩兵に様変わりしていた。

 善治は手をかざしたその瞬間、駒をすり替えていたのであった。

 その技を見て、紫は口元に扇子を当てて悔しげに口を一文字に結んだ。


「……あの時ね。油断したわ」

「勝利が目の前にあるときこそ、油断や隙が生じる。それが必勝手ならなおさらだ。だからこそ俺はそこにつけ込む。次からは気をつけるんだな。まあ、楽しかったよ」


 善治は紫にそう言うと、再び本を読み始めるのであった。





「……それで私に向かって「それから……妖怪の賢者だろうと誰であろうと、イカサマで俺に勝てると思うなよ」って言ったのよ! きーっ、思い出しただけで腹が立つわ!」


 紫は事の次第を説明し終えると、悔しげにそう言うのであった。

 それを聞いて、愛梨は乾いた笑みを浮かべた。


「きゃはは……それは先にイカサマしたゆかりんが悪いと思うな~♪」


 愛梨の言うとおり、紫はイカサマをしたがために善治の策にはまって負けたのである。

 もし紫がイカサマをしなければ、善治の方が負けていた可能性があるのであった。

 つまり、紫の敗北は完全なる自業自得であり、これはただの八つ当たりに過ぎないのである。


「……おまけにその外来人が一番冷静ですね、皮肉なことに」

「……ぐぬぬ……」


 藍の指摘に、紫は苛立ちを隠すことなくモニターの中の善治をにらみつけた。

 そんな紫に一つため息をつくと、藍は再び紫に質問をした。


「それで、あの外来人が本来の標的であることは分かりました。将志や銀月、それから人狼の里の面々は愛梨の興味だと言うことも分かる。しかし、香霖堂の店主と白玉楼の元庭師、それからあの雷獣は何故標的になったんです?」

「ああ、彼らはついでよ。私が気になったから一緒に弄ったわけ。それから、年齢と服装を弄ったのは愛梨よ」

「うん♪ みんな可愛くなったね♪」

「確かに。将志は女になると六花によく似た美人になるんだな。面白い」

「さあ、彼らの反応を見ましょう。こんな光景、滅多に見られないわよ」


 三人は話を切ると、再びモニターを注視した。






「それにしても、君達は女になるとそんな感じになるんだな」


 霖之助は辺りを見回してそう呟く。

 その眼は興味の眼であり、この現象をとりあえずは受け入れることにしたようである。

 普段より周囲に振り回され続けている彼は、このあたりの切り替えも早いようだ。

 そんな彼の言葉に、同じく余裕のある銀月がうなずいた。


「本当にね。父さんは六花姉さんにそっくりだし」

「……兄妹だからな」


 将志は銀月の言葉にそう言ってうなずいた。

 女になった将志の顔立ちは六花とよく似ており、違いといえば眼つきがやや鋭いくらいのものである。

 しかし纏う雰囲気は違っており、どこか柔らかさのある六花に対し、将志は鋭く冷たい雰囲気を漂わせていた。

 そんな将志を見て、雷禍は首を横に振った。


「けどよぉ、ある一点だけは確実に違うぜ?」

「ある一点?」


 雷禍の呟きに、ギルバートが首をかしげる。

 それを聞いて雷禍は大きくうなずいた。


「ああ……姉御に比べて、将志は胸が薄い!!」


 雷禍がそう力強く断言すると、一行は将志を見やった。

 確かに、六花は和服の上からでもよく分かるほど胸が大きいのに対し、将志は和服向けのスレンダーな体系をしているのであった。

 その違いに、アルバートがうなずいた。


「……確かに、兄妹でも体形的にはかなり差があるな。ついでに、息子ともな」

「ちなみに、妖忌は年齢的に省くとして、アルバート、ギルバート、銀月、雷禍、バーンズ、俺、霖之助、将志の順で、九十五、九十一、九十、八十五、八十三、八十、七十七、七十三だな。何がとは言わないが」


 アルバートの言葉の後で、善治がぽつりとそう呟いた。

 それを聞いて、妖忌が白い視線を善治に向けた。


「……善治たん、貴方はいつも女子をそんな眼で見てるんでしか?」

「っ!? 違う、誤解だ!! 能力を使って解決策を探そうとしたら見えちまっただけだ!!」


 妖忌の一言に、善治は自分の発言を思い返して大慌てでそうまくし立てた。


「ま~たまたぁ、善治ちゃんったらむっつりなんだから~……男ならもっとオープンに行こうぜ?」

「黙れこの馬鹿!」

「おおっと」


 ニヤニヤ笑って肩を叩く雷禍に善治は殴りかかり、雷禍はそれを易々と躱していく。

 しばらくすると、善治の体力が持たなくなってその場にへたり込んだ。

 それを確認すると、雷禍は銀月とギルバートに眼を向けた。


「しっかしまあ、テメエらマジで胸でけえな。それ肩こるって本当か?」

「まあ、確かに少し重くはあるかな。演技のときに参考になりそうだよ」

「正直、こんな鬱陶しいものつけてよく我慢できると思うぜ」


 銀月は軽く体を動かしながら答え、ギルバートはうんざりした表情で胸を持ち上げながらそう言った。

 二人とも男の時には無かったものが気になって仕方が無い様子であった。


「ま、男には元々ねえもんだし、確かに俺もちっときついしな」


 雷禍はそう言いながら、ギルバートの背中を手のひらで軽く叩いた。

 すると突然ギルバートは胸を下から抱え込むように押さえた。


「なっ!? おいテメエ、何しやがった!?」

「ん~? 何って、単にブラのホックを外しただけだぜ?」


 雷禍はニヤニヤ笑いながらギルバートの問いかけに答える。

 雷禍は背中を叩くと同時に、ギルバートが着けていたブラジャーのホックを器用に外していたのであった。

 それを見て、善治が深々とため息をついた。


「おい雷禍。何であんたはそんな無駄に洗練された無駄な技術を持ってるんだ?」

「そりゃオメェ、男のロマンを追及したからに決まってんだろうがよ」

「ああくそ、押さえてねえと揺れて気持ち悪い!!」


 ギルバートが動くたびにピンク色のキャミソールの下で二つの山が跳ね回る。

 それが嫌なようで、ギルバートは何とかして外されたホックを直そうとするが、慣れない作業に苦戦してなかなか直らない。


「さて、次は銀月の番だな……そこを動くんじゃねえぞ!」

「それで大人しくするわけないでしょう!」


 再び悪戯を仕掛けようとする雷禍に、銀月はそう言うと逃げ始めた。





「……ギリッ……」


 そんな彼女達の様子を、愛梨はモニターの前で強く奥歯をかみ締めながら眺めていた。

 彼女はステッキを両手で横に持ち、へし折らんばかりに力を籠めている。

 それを見て、藍がギョッとした表情を浮かべた。


「あ、愛梨!? ステッキから破滅の音が聞こえているぞ!?」

「……きゃはははは……そっか……銀月くんもギルくんも敵かぁ……八十以上はみんな敵だなぁ……」


 愛梨は低い声で、昏く笑う。

 その眼は虚ろで笑っておらず、見るものに強い恐怖心を植えつけるような表情を浮かべていた。


「お、落ち着きなさい!! 貴女今ピエロがしちゃいけない顔してるわよ!!」

「その笑い方じゃホラーだ!! 子供が見たら泣くぞ!!」


 必死になだめる紫と藍。その顔は蒼く、かなりの恐怖感を覚えているようである。

 そんな彼女達の胸元に、愛梨は眼を向ける。そこには女性特有のふくよかな凹凸が存在した。

 それを確認すると、自分の胸元をぺたぺたと触る。


「持つ者に持たざる者の気持ちは分からないんだ、ちっくしょー!!」


 そして現実を直視すると、愛梨は涙眼になりながらそう叫ぶのであった。





「お、そうだ。こうすりゃいいじゃねえか!」


 逃げる銀月を追いかけていた雷禍はそう言うと、右手で空に向かって円を描いた。

 すると穏やかな晴天だった空が荒れ始め、強い風と雨が降り始めた。

 豪雨と突風によって、あたりは瞬く間に水浸しになる。

 突然の雷禍の暴挙に、善治が風に飛ばされないように地面に伏せながら叫び声を上げた。


「雷禍ぁ!! あんたいきなり嵐を起こして何考えてんだ!?」

「ん? いやぁ、ちっとばかし眼の保養をしようと思ってな」

「眼の保養? どういうことだい?」


 雷禍の一言で、霖之助は首をかしげた。

 すると、バーンズが何かに気づいて慌てた声をあげた。


「……っ!? 銀月さん、お召し物が!」

「え……きゃあ!?」


 銀月が自分の服に眼を落とすと、純白のワンピースが雨にぬれたことで透け、その中が丸見えになってしまっていた。

 おまけに服が体にぴったりと張り付き、綺麗にくびれた色香のあるボディーラインがはっきりと見えてしまっていた。

 慌ててそれを隠す銀月を見て、雷禍はニヤニヤと笑っていた。


「黒のレースか……また随分とエロいもん着けてんなぁ? つーか、体つきとか声とか仕草とか全体的にエロいな、銀月?」

「ていうか、きゃあってお前……」

「う、うるさいなぁ! いつもの癖で演技しちゃったんだよ!」


 信じられないものを見るような眼を向けるギルバートに、銀月は顔を真っ赤にしてそう抗議した。

 しかし抗議が必死すぎて、素であの悲鳴を上げたというのがかえってよく分かるようになってしまっているのであった。

 おまけにごく自然に胸と股上の部分を隠しており、どう見ても最初から女性だった様にしか見えない。


「……俺にはごく自然に口から飛び出したようにしか聞こえなかったぞ……」

「と、父さんまで……」


 父親にまでとどめを刺され、がっくりと地面に膝を付く銀月。

 誰も異論を唱えないことが更に追い討ちをかけ、銀月は雨で濡れた地面に涙のしずくを落とすのであった。


「皆様、まずは濡れた体をお拭きになってください。体調を崩されてしまっては大変ですぞ」


 雨に濡れた一同を見て、バーンズが全員にタオルを配って回る。

 そのタオルを受け取ると、全員濡れた体を拭き始めた。


「足を踏ん張り、腰を張れい!」

「いってぇ!?」


 そんな中、雷禍は手にした濡れタオルを鞭のようにしならせて善治の背中を引っぱたいた。 

 その痛みに、善治は思わず大きな叫び声を上げた。


「雷禍、いきなり何しやがる!」

「ふはははは! 未熟、未熟、未熟千万!」


 善治は報復すべくタオルを振り回すが、雷禍はそれを易々と回避していく。


「上手く拭けないでし……」

「……拭いてやるからこっちへ来い」

「あ、ありがとうございましゅ……」


 若返りすぎて体が思うように動かせない妖忌の前にしゃがんで、将志はその体を拭いてやる。

 その姿は二人の髪の色や服装もあいまって、親子のように見える。


「おい、銀月。お前よりもあっちの方が親子っぽいぜ」

「確かにね。けど、俺だって拾われたんだもの。似てなくても仕方ないさ」


 ギルバートの指摘に、銀月は苦笑いを浮かべながらそう答えた。

 魂はそっくりでも、見た目にはかなり差がある二人である。傍目から見れば、親子には見えないのだ。


「それでも、僕は銀月は将志の子だと思うよ。二人とも律儀で世話好きだしね。店に来るたびにお茶を淹れてくれるところとかは完全に親子だよ」


 そんな銀月に、霖之助がそう声をかけた。

 将志と銀月は香霖堂に来ると、必ず台所に入ってお茶を淹れたり軽食を作ったりしているのであった。

 この二人、見た目はそれほど似ていなくても内面は完全に親子であった。

 それを聞いて、銀月は嬉しそうに笑った。


「そうなんだ。父さんも俺と同じ事するんだね」

「……けど、君は少し世話を焼きすぎじゃないかい? わざわざ君が霊夢のツケを払う必要もないだろうに」


 霖之助は渋い表情で銀月にそう苦言を呈する。

 実は銀月は香霖堂に来るたびに、霊夢が店から持ってきた品物の代金を代理で払ってきていたのであった。

 霖之助の苦言を聞いて、銀月は再び苦笑いを浮かべた。


「霊夢は放っておいても絶対にお金を払わないと思うよ。霖之助さんこそ、このままツケを認めていたら首が回らなくなるよ?」

「……君は霊夢に甘すぎるよ、本当に。助かるけどね」


 銀月の言葉を聞いて、霖之助は力なく首を横に振った。

 

「この、いい加減に喰らえ!」

「おおっと!」


 その横で、走り回っていた善治が雷禍に向けてタオルを振りぬいた。

 雷禍はそのタオルをしゃがむことで回避する。


「はあっ!?」


 すると、タオルは霖之助と話していた銀月の背中を直撃した。

 銀月は背中を押さえて、その場にうずくまった。

 そんな彼女に、善治は駆け寄った。


「っと、悪い、大丈夫か?」

「ううっ、大丈夫だよ。痛いけど、そんなに大事にはなってないから……」


 銀月はうずくまったまま、少し荒い息でそう答えた。

 それを見て、雷禍が首をかしげた。


「じゃあ、何でうずくまってんだよ?」

「っ、それが何だかよく分かんないけど、叩かれたときにおへその下がキュッとなって……」


 銀月がそういた瞬間、雷禍と善治の時は凍りついた。


「「……なん……だと……?」」


 二人は揃って呆然とした表情を浮かべ、若干引き気味に揃って声を上げた。

 銀月には少々アブノーマルなところがあるのかもしれない、そう思った二人は珍獣を見るような眼で彼女を見やった。


「銀月……テメエ、タオルで打たれて反応するたぁ、とんだドMだな。その首輪もお前の趣味なんだろ?」

「ち、ちがっ……」


 銀月は雷禍の言葉に抗議するために、立ち上がろうとする。


「…………」

「きゃあぅ!?」


 その時、立ち上がろうとしている銀月に、ギルバートが無言で手にした濡れタオルを振り下ろした。

 その一撃を受けて、銀月は再びその場にうずくまる。


「…………」

「いたっ! あっ! あうんっ!」


 ギルバートは黙々と銀月に向かって鞭のように濡れタオルを振り下ろす。

 それが背中に叩きつけられる度に音が鳴り響き、銀月は短く叫び声を上げる。

 ギルバートの口元は僅かに吊り上っており、薄く笑みを浮かべていた。


「やめな、ギルバート。いったいどうしたっつーんだ?」


 そんな彼女の手を、雷禍が掴んで止めた。

 それと同時に、ギルバートはハッとした表情を浮かべた。


「いや……あの銀月を見てると無性に叩きたくなってな……何というか、あの声とか表情とか見てると背中がぞくぞくしてな……」


 それを聞いた瞬間、再び雷禍と善治の時が凍りついた。


「「な、なんだってーーー!?」」


 今度は二人とも、驚愕の表情とともにそう叫んだ。

 一気に後ずさり、まるで犯罪者を見る主婦のような眼でギルバートを見ている。


「なんてこった……ドMの次はドSかよ……おお、やだやだ! テメエら、俺にそんな趣味はねえぞ!」

「ち、違う!! 誤解だ、俺はそんなつもりは!!」

「そんだけやっておいて誤解もへったくれもねえだろうが!!」


 ギルバートは必死で雷禍に詰め寄って訴えるが、雷禍はその分だけ後ずさって逃げていく。

 雷禍は完全にギルバートに引いており、聞く耳を持とうとしない。


「はぁ……はあぁ……んっ、あぁ……」


 一方で、銀月は未だに地面にうずくまっていた。

 雨に濡れた白いワンピース越しに透けて見える背中は、濡れタオルで叩かれたことによってその部分が赤く腫れている。

 その口からこぼれる吐息は荒く、漏れ出す声はどことなく色香を感じさせるものであった。

 それを聞いて、善治と霖之助は複雑な表情を浮かべた。


「……銀月の声がやたらと甘くて色っぽいんだが」

「……本当に男だったのか疑問に思えてくるよ」

「……俺も、女の方が自然だって気がしてきたよ」


 二人はそう言いながら、目の前にうずくまって立てなくなっている黒髪の少女を眺めるのであった。




「何だか、知ってはいけないことを知ってしまった気分ね……」

「あの二人、なかなかに濃い趣味をしているな……」

「きゃはは……な、なんて言うか、ね?」


 一方、モニターの向こうでも想定外の出来事に困惑していた。

 三人とも乾いた笑みを浮かべており、お互いに顔を見合わせた。


「……忘れましょう。この先普通に接していけるように」

「……そうですね」

「……うん、それが良いね♪」


 三人はそう言うと深くうなずきあった。


「……で、ここで何をしているの?」

「「「え?」」」 


 突如後ろから掛けられた声に、三人は後ろを振り向いた。


「あんたら、うちの蔵の中で何をしているのよ?」


 そこには、御幣を持った紅白の巫女が立っていた。

 そう、三人が集まっていたのは博麗神社の蔵だったのだ。

 それを見て、紫はにっこり笑って挨拶をした。


「あら、おはようございます。ちょっと使わせてもらっていたわよ」

「……銀月になんて事してくれてるのよ。おかげで銀月にお茶淹れてもらえなかったじゃない」


 にこやかに笑う紫に対して、低い声で言葉を返す霊夢。

 彼女の表情は能面のようなものであり、明らかに不機嫌な表情をしていた。


「……待ち合わせ場所に来ないと思っていたら、本当にギルまで弄られてたのか」


 その後ろから、モノトーンの服を着た魔法使いが顔を出した。

 魔理沙はギルバートと遊ぶために待ち合わせをしていたのだが、いつまでも来ないので捜していたのだ。

 二人は予定を狂わせた面々に、身構えることで攻撃の意思を見せる。

 彼女達を見て、藍は小さくため息をついた。


「……ここまでか。紫様、撤退しましょう」

「そうね。それでは、御機嫌よう」


 紫はそう言うと、スキマをくぐって三人で逃げようとする。

 しかしそれに入る前にスキマに銀色の線が走り、虚空に千切れて消えてしまった。

 それを見て、紫はキョトンとした表情を浮かべた。


「……あら?」

「……逃がしませんわ。少し悪ふざけが過ぎましてよ、三人とも?」


 そう話すアルトの女性の声の方に眼をやると、桔梗の花が描かれた赤い着物を着た銀色の髪の女性が、手に包丁を持って立っていた。

 六花の能力によって、スキマは切り刻まれていたのであった。


「……俺は悲しいぜ、姉ちゃん達……せっかく兄ちゃんと遊べると思ってたのによ」


 その反対側から、幼い少女の声とともに燃えるような紅い髪の小さな少女が現れた。

 アグナの周囲には炎が渦巻いており、攻撃準備が整っている。

 六花とアグナの姿を見て、愛梨は冷や汗を流した。


「え、えっと……なんでここが分かったのかな♪」

「俺達が兄ちゃんを捜していたら、霊夢からここの事を聞いたんだよ」

「全く、愛梨まで加わって何をしているかと思えば……お兄様や銀月達を女にしていたんですってね?」

「幾らなんでもこんなところから妖力を感じたら誰だって不審に思うわよ。覗いてみたら、あんた達が銀月達で遊んでいるのが分かったって訳」

「おかげで私達の予定は全部パーだぜ。どうしてくれるんだ?」


 六花とアグナ、霊夢と魔理沙はそう言いながらジリジリと今回の騒動の犯人達に近づいていく。

 四方を取り囲むように迫ってくる四人を見て、犯人三人はだらだらと冷や汗を流す。


「さあ、貴女達の罪を数えてくださいまし」

「さあ、テメエらの罪を数えやがれ」

「さあ、あんた達の罪を数えなさい」

「さあ、お前達の罪を数えろ」


 次の瞬間、犯人の粛清が始まった。





「……どうやら収まったようだな」


 銀髪の青年が、自らの体を見てそう呟く。

 服装は小豆色の胴衣と紺色の袴に戻っていた。


「そうだね。誰かが止めてくれたみたいだ」


 黒髪白装束の少年が、背中をさすりながらそう言葉を返す。


「ったく、人騒がせなもんだ」


 黒いジャケットにジーンズ姿の金髪の少年が、そう言いながらため息をつく。


「早くジニのところに行って安心させてやらねばな」


 グレーのスーツに身を包んだ壮年の男が、衣服を直しながらそう口にする。


「そうですね。奥方様もお待ちしていらっしゃることでしょう」


 深い紫色の執事服を来た老紳士が、主人の服装をチェックしている。


「さてと、帰ったら準備しないとな」


 青と黒の着物を着て眼鏡をかけた銀髪の青年が、雨に濡れた髪を拭きながらそう言った。


「かっはっは、なかなかに楽しかったな」


 赤いシャツに青い特攻服を着て赤いサングラスをかけた男がそう言って笑う。


「……あんただけだろうよ、愉快だったのは」


 青いズボンに白いワイシャツ姿の青年が、隣で笑う男をジト眼で眺める。


「やれやれ、ようやく元通りじゃな」


 白と緑の羽織袴に刀を二本挿し、立派な髭を生やしたた老人が、そう言ってため息をついた。


 全員元に戻っており、異変が解決したことを示していた。


「時にそこの方、少しいいかの?」


 妖忌はそう言って、バーンズに声をかけた。

 タオルを回収していたバーンズは、妖忌の元へとやってきた。


「はい、いかがいたしましたか? 妖忌様」

「貴殿のその身のこなし、何か武術をこなして居る者と見受けられるのじゃが、どうじゃろうか?」


 妖忌がそう言うと、バーンズは穏やかに微笑んだ。


「はい、私めも剣術を少々嗜んでおります」

「ほう、西洋剣術とは気になるのう。して、得物は持っておるかの?」

「ございます。こちらです」


 バーンズはそう言うと、銀月の作った収納札から一本の剣を取り出した。

 それはフェンシングに使うような細長いサーベルであった。よく見てみるとそれはとても使い込まれていて、グリップの部分が何度も革を貼りなおしてあるのが見て取れた。

 それを見て、妖忌は楽しげに笑った。


「やはり相当に鍛錬を積んでおるようじゃのう。ふむ、どうじゃ、今度儂と手合わせをしてくれんかの?」

「手合わせ、でございますか?」

「左様、見たところ貴殿も儂も似たような歳じゃろう。一つ他流試合をしてみたくてのう」


 妖忌の申し出を聞くと、バーンズは少し考えた後に笑顔でうなずいた。


「……かしこまりました。私めもこのような他流試合には興味がございます故、喜んでお受け致しましょう」

「バーンズ、そろそろ戻るぞ。ジニを早く安心させてやりたいからな」


 妖忌と話すバーンズの後ろで、アルバートが懐中時計を見ながらそう口にした。

 かなり焦れている様子で、一刻も早く帰りたいようである。

 そんな主人の姿に、バーンズは深々と礼をした。


「かしこまりました。……では、妖忌様。詳しい日程を調整いたしますので、お時間がございましたら人狼の里へお越しください」

「うむ。では将志様に話があるゆえ、それを終わらせ次第そちらに向かうとしようかの」

「かしこまりました。それではお待ちしております」


 バーンズはそう言うと、アルバートと共に人狼の里へと帰っていった。

 それを見送る妖忌に、将志が話しかける。


「……久しぶりだな、妖忌。調子はどうだ?」

「再び剣を握れるようになってから生活に張りが出てきました。貴方様からもらったこの楼鳴剣と天楼剣も良い剣で、感謝をしても仕切れないくらいですぞ」


 そう言うと、妖忌は腰に挿した二本の刀を指差した。

 その二振りは将志が刀を妖夢に譲った妖忌のために送ったもので、長いものを楼鳴剣、短いほうを天楼剣と言った。

 それは銀の霊峰の刀匠がそれぞれ楼観剣と白楼剣を真似て作らせたもので、元となった剣に勝るとも劣らない刀に仕上がっているのであった。

 その妖忌の剣に対する評価を聞いて、将志は笑みを浮かべた。


「……そう言ってもらえればこちらも送った甲斐がある。大事が無いならそれで良い。バーンズに用があるのだろう。早く行ってやれ」

「そのようにさせていただきます。では、また」


 妖忌は将志にそう言って礼をすると、バーンズの後を追って飛んでいった。


 その一方で、善治に霖之助が話しかけていた。


「善治、君は外来人だったね?」

「ああ。そうだが?」

「うちの店には外の世界から流れ着いた物品が並んでるんだけど、使い方が分からないものが多いんだ。分かる範囲でいいから、教えてくれないかい?」

「別にいいぞ。ただ、俺一人じゃあんたの店に行けないぞ。あんたの店に行くまでに、妖怪に襲われちまうからな」

「そうか……それは残念だな。店を空けるわけには行かないから、こっちから迎えにいけないんだ」


 霖之助は善治の返答を聞いて、残念そうにそう話した。

 それに対して、善治は何かを思いついたように手を叩いた。


「ああ、雷禍と一緒に行けばいいか。雷禍なら俺が知っている奴より旧式の奴も分かるし、役に立つと思うぞ?」

「あ? 俺の名前を出してどうしたっつーんだ?」


 善治の口から出た自分の名前に、雷禍がその方へとやってきた。

 それを聞いて善治は雷禍のほうを向いた。


「香霖堂の品物の使い方を教えて欲しいんだとさ。雷禍、一緒に行ってみるか?」

「あ~……そうだな、暇なときに行ってみっか」


 善治の提案に、雷禍は少し考えてそう言った。

 それを聞いて、霖之助は軽く頭を下げた。


「ありがとう。店までの道は分かるかい?」

「能力使えば店への道のりはたどれる。場所は覚えたから大丈夫だ」

「そうかい。それじゃあ、暇なときにでも顔を出してくれ。待ってるよ」


 霖之助はそう言うと、香霖堂のあるほうへと飛んでいった。

 それを見送ると、善治は大きく伸びをした。


「さてと、俺達も午後からバイトだな」

「だな。早く昼飯食って準備すっぜ。食い扶持は幾らあっても多すぎることはねえからよ」


 雷禍達はそう言いながら人里へと入っていく。

 その後ろで、ギルバートが銀月に話しかけていた。


「銀月、お前この後予定あるか?」

「俺かい? そうだね、今日は休みだったから特に予定は無いけど?」

「実は、今日魔理沙と約束をしてたんだが、この有様だろ? 多分もう待ち合わせ場所にはいないだろうから、魔理沙を捜して欲しいんだが……」

「そういう事か。別にいいよ。それじゃあ、早く行こうか」


 二人は軽くそう言いあうと、魔理沙を捜しに飛んでいった。

 ……先ほどのことはなかったことになっているようであり、ギクシャクした様子はなかった。


「……さてと、早く戻らなければアグナを待たせてしまうな。戻るとしよう」


 そして最後に、将志が銀の霊峰に向かって飛び立っていった。

あとがき


 以前ご意見をいただいた、男達を全員女にするというお話でした。

 ……雷禍さん、今回大暴れですね、変な方向に。


 けど、一番ぶっ壊れたのは銀月とギルバート……何でか知らんがこうなった。

 でもまあ、こいつらは今更という感じなので、今更属性が増えようが大したこっちゃないです。


 また、原因を作った善治さん。

 書いていくうちにこの人のキャラがどんどん福本漫画のキャラになって行っている気がする。


 あとは、今後のつながりを少し作ってみました。

 ……強い爺同士の戦いって、好きなんです。



 では、また会いましょ~

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