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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
霊峰の槍と博麗の月
118/175

妖々夢:銀の月、数を競う

 異変の解決の乗り出した一行は、雪景色の幻想郷の空を飛んでいく。

 その寒々とした空に、異変を感じ取って暴れだした妖精達が多く屯している。

 妖精達は興奮状態であり、他の者の姿を認めると一斉に襲い掛かってくるので危険である。


「……退屈だぜ」


 しかし、一行の一員である魔法使いの少女は退屈そうである。

 魔理沙の周りには暴れる妖精はおろか、弾丸の一つも飛んできていない。

 彼女は欠伸をかみ殺しながら、進行方向を眺めた。


「はああああああああ!!」

「でやあああああああ!!」


 そこには、激しく動き回る二人の少年の姿があった。

 片方は黒髪に赤い執事服姿、もう片方は金髪に黒いジャケットとジーンズ姿である。

 その二人、銀月とギルバートは襲い掛かってくる妖精達を目に付いた者から手当たりしだいに撃ち落していた。


「元気ね、あの二人」

「そうね。おかげで楽でいいわ」


 その様子を見て、咲夜と霊夢がそう呟いた。

 咲夜はあとで息切れしないかどうかを心配しながら冷静に観察し、霊夢は極めて楽観的に眺めている。

 その二人の横から、魔理沙の大きなため息が聞こえてきた。


「でも、これじゃあ私達がついてきた意味がほとんど無いじゃないか。せっかく新しい魔法の実験が出来ると思ったのにな……」

「そんなことを言うのなら混ざってくれば? 私は止めないわよ?」

「あんな殺気立ったところに割り込んだらうっかり撃墜されかねないぜ。見ろよ、あの二人を」


 魔理沙はそう言いながら前を飛んでいる男二人を指差した。


「あ、それ俺が狙ってたのに!」


 銀月は銀と翠の弾幕で妖精達を撃ち落していく。

 自分の射線から外れたところに敵が出てくると、、自分の周りに浮かべている銀のタロットで追尾して撃ち落している。

 その戦い方は素早い動きで相手を翻弄して戦う、戦闘機のような戦い方であった。


「うるせえ、こういったのは早いもん勝ちだろうが!」


 一方のギルバートは金と青の弾幕を広い範囲に展開して妖精達を撃ち落す。

 銀月が射線を調節して制圧していくのに対し、こちらは弾幕と巨大な衝撃波を用いて面で制圧していく。

 その戦い方は相手を圧倒する物量で戦う、戦艦のような戦い方であった。


 どちらの攻撃もかなり苛烈で、うっかり近づくと巻き込まれかねない状況であった。

 そんな二人の様子を見て、咲夜は乾いた笑みを浮かべた。


「どっちが多く妖精を倒せるか勝負しているしね……あれ、途中で止めても絶対に止まらないと思うわよ。銀月って意外と頑固だし」

「それに関しては同感ね。うちに居ても仕事か修行しかしてないし、私の言うこともあまり聞いてくれないのよね……少しは休めって言うのに」

「それじゃあ、せめて家の中ぐらい仕事を代わってやれよ。霊夢が家事を少しでも受け持てば銀月が休めるじゃないか」


 霊夢の物言いに魔理沙は少し責める様にそう言った。

 魔理沙は霊夢が銀月に家事を全て任せている現状を、かなり憂慮しているようである。

 しかし、霊夢はそれに対して首を横に振った。


「ダメ、そんなことしても修行量が増えるだけよ。それなら家事をしていたほうがずっと疲れないわ。銀月ってば、よっぽど強く釘を刺さないと仕事か修行しかしないんだから」

「そうね。こっちでも仕事の休み時間は修行してるかメイド妖精達にお菓子を作っているかで、ちっとも休んでくれないもの。おかげでメイド妖精には懐かれてるけど」


 ため息交じりの霊夢の言葉に咲夜は共感する。

 銀月は家では家事に弁当屋の仕事に修行、紅魔館では通常業務に同僚へのサービスに修行と、忙しい日々を送っている。

 しかもその間に休憩を取っている様子は見られない。

 そこで霊夢も咲夜も休憩を取るように促すのだが、銀月は一向に休もうとしないのである。

 もっとも、銀月は自分の能力のおかげで普段の仕事疲れ程度であれば一分程度で全快してしまうので、その必要は無いと考えているようであるが。


「……でもそんなこと言って、銀月に家事を全部してもらえてラッキーとか思ってないか?」

「あーあー、きこえない」


 魔理沙の追及に、霊夢はそう言いながら耳を塞いだ。

 やはり何だかんだ言っても、霊夢が日々の生活を銀月にかなり依存しているのは否めないのである。

 すると、ふと思いついたように霊夢が話を切り返した。


「そう言えば、あんたとギルバートはどんな関係なのよ? 二人でつるんでるのを良く見かけるけど?」

「ギルか? まあ、色々だぜ」

「色々って何よ?」

「一緒に魔法を研究したり、遊んだりしてるぜ。ひっくるめて言えば仲間だな」


 魔理沙とギルバートは一緒に居ることが比較的多い。

 人里では魔理沙がギルバートを引き回しているのがよく見受けられ、魔理沙の家に二人でいることも多い。

 逆に人狼の里にギルバートが魔理沙を招待したり、城の図書館で研究をすることもある。

 そんなこんなで、魔理沙とギルバートの仲が良いのは周知の事実なのである。


「仲間ねえ。そんなこと言って色々とこき使ってるんじゃないの?」

「お前と一緒にされちゃ困るぜ。食事は一緒に作ってるし、魔法の材料だって集めるときは一緒だぜ。まあ、掃除だけはあいつが手伝わせてくれないけどな……」

「ぐぬぬ……」


 ささやかな反撃をあっさりと躱され、霊夢は悔しげに魔理沙を睨む。

 実際には魔理沙が率先して動くのをギルバートがアドバイザーとして、もしくはその逆の立場で支えあっているのだ。

 霊夢と銀月の関係に比べれば、間違いなく良好な関係であると言えるだろう。

 そんな霊夢と魔理沙の話を聞いて、咲夜が口を挟んだ。


「ねえ、貴女ギルバートと一緒に住んでいるの?」

「はぁ? 何でそうなるんだ?」

「だって、一緒に料理を作るってことはかなり長い時間一緒に居るんでしょ? だから同居してるのかなって」

「まあ遅くなったときは泊めたりしてるけど、一緒に住んでるわけじゃないぜ。あいつも何だかんだでお偉いさんのお坊ちゃまだし、色々と忙しいみたいだからな」

「忙しいねえ……その割には、よくうちに来て美鈴と手合わせするのを見るわよ? 三日前も銀月が美鈴とギルバートが門の横で仲良く寄り添って寝ていたのを見たって言ってたし」


 咲夜は口元に人差し指を当てて思い出すような仕草をしながらそう言った。

 紅霧異変の後、ギルバートは頻繁に紅魔館を訪れ、美鈴に手合わせを申し込んでいた。

 今のところ経験豊富な美鈴がギルバートを押さえ込んでいるようで、大概ボロボロになったギルバートが疲れ果てて門の壁に寄りかかるのだ。

 そしてサボり癖のある美鈴がその横に座ってお互いに寄りかかっている間に眠ってしまい、美鈴は咲夜や銀月に怒られることになるのであった。

 それを聞いて、魔理沙は唖然とした表情を浮かべた。


「はぁ!? 何だ、外せない用事ってそれのことかよ!? てっきりもっと大事なことかと思ってたのに!」

「何かする予定だったの?」

「あ、いや、ただ一緒に遊ぼうかなって思っただけなんだけどな?」


 咲夜の問いかけに、魔理沙は少し居心地が悪そうにそう答えた。

 それを聞いて、霊夢がニヤリと笑った。


「や~い、ふられんぼ」

「しょっちゅう銀月にふられまくってる霊夢には言われたくないぜ」


 霊夢の冷やかしに、魔理沙は不機嫌そうに答えるのだった。




 女子三人が平和に話している一方、前方では未だに銀月とギルバートが妖精の撃墜数を競っていた。

 金銀青翠の弾幕が入り混じり、周囲の妖精達を一方的に蹂躙していく。

 そのあまりの入り乱れぶりは、もはや争っている二人がきちんと撃墜数を数えられているかどうかすらも怪しいものだった。


「こらテメェ、俺の邪魔するんじゃねえ! 撃ち落されたいのか!?」


 突然前にやってきた銀月に、ギルバートはそう怒鳴った。

 ギルバートの放つ弾幕に銀月が突っ込んできたのだ。


「狙っても無いのに君の弾幕に当たるほど俺は鈍くないさ。そんなことより良いのかい? 俺のことを気にしてると、君の分まで取ってしまうぞ?」


 そんなギルバートに対して、銀月はギルバートの弾幕をするすると掻い潜りながら獲物を横取りしていく。

 その声色には余裕すら感じられ、ギルバートを挑発するには十分な威力を持っていた。


「良い度胸だ……撃ち落されて泣いても知らねえぞ!」


 ギルバートはそう言うと弾幕を厚くし、衝撃波の数を増やした。

 その中には明らかに銀月を狙ったと思われるものもあった。


「うわっ!?」


 銀月は自分に向かって迫り来る巨大な金の衝撃波を紙一重で躱す。

 衝撃波は銀月の髪を掠め、遠くへと飛んでいった。

 それを確認すると、銀月はギルバートを睨んだ。


「おい、ギルバート! 今俺のことを狙っただろ!」

「ああ、すまないな。うっかり妖精と勘違いして撃っちまったぜ」

「……この……」


 怒鳴りつける銀月に、ギルバートはニヤニヤと笑いながらそう答えた。

 銀月はそれを見て、肩を震わせながら札を取り出した。

 するとその瞬間、銀月の目先を氷の弾丸が通り過ぎていった。


「……っ!?」

「見つけたよ、銀月!」


 横から少々幼い子供の声が聞こえてくる。

 銀月がその方を見ると、そこには水色の髪に青い服を着た小さな妖精がいた。

 その氷の翅をもつ妖精は、銀月のことをじっと見つめていた。

 それを見つめ返す銀月に、ギルバートが話しかけた。


「他の妖精よりは強そうだが、知り合いか?」

「ああ。どうやら俺に用があるみたいだ。他は任せるぞ、兄弟」

「ああ。行って来い、兄弟」


 銀月はギルバートとそう言い合うと氷の妖精、チルノの前にやってきた。

 チルノは腕組をしながら銀月が目の前に来るのを待つ。


「やあ、久しぶりだね、チルノ。俺に何か用かな?」

「ここであったが百年目、あたいと勝負しろ!」


 チルノは銀月を指差して力強く言い切った。

 それを聞いて、銀月は苦笑いを浮かべた。


「えっと……今じゃなきゃダメ?」

「ダメだよ。夏のあたいに勝ったからっていい気になってんでしょ! あたいは冬の方が強いんだから!」

「う~ん、今仕事中なんだけどな……」

「あ、そうだ。そういえば手紙を預かってたんだっけ。はいこれ」


 困った表情で頬をかく銀月に、チルノはポケットから折りたたんだ紙を取り出した。


「手紙? いったい誰が……」


 銀月はそれを受け取ると、開いて中を見た。

 紙はノートの切れ端のようで、そこには子供っぽい鉛筆書きの文字が書かれていた。


『銀月へ


    逃げたりしたら根性鍛え直しに行くから覚悟しな


                          アグナ』


 その短い手紙の内容に、銀月の顔はどんどん蒼褪めていく。

 何故なら、銀月の家族の一人であるアグナがこれを言っていることに問題があるからである。

 アグナはとても熱い性格であり、負けたりすることが大嫌いである。

 特に逃げるという行為は殊更嫌っており、余程の事が無ければ逃げることは許さないのだ。

 そしてあまりにも根性が曲がっていたり足りない等と判断されると、アグナはそれを自ら叩き直しに来るのだ。

 銀月は一度アグナの逆鱗に触れた妖怪がそれを受けるのを見たが、そのあまりの苛烈さに直視できなかったのを思い出した。


「あれ? 顔真っ青だけど大丈夫?」

「……ごめん、チルノ。どうやら俺は君と戦わなきゃいけないみたいだ」


 心配そうに顔を覗き込むチルノに、銀月は力の篭った視線を向ける。

 それを見て、チルノは満足そうに頷いた。


「そうこなくっちゃ! 銀月倒して最強になってやるんだから!」

「悪いけど、ここで負けてあげるわけには行かない!」


 そう言うと同時に、チルノと銀月は激しい弾幕合戦になった。

 チルノは青白い氷の弾丸を放ち、銀月は銀と翠の弾丸を浴びせる。

 その弾幕を縫うように飛びながら、二人は攻撃のチャンスをうかがう。


「まずはこっちから行くよ!」


 チルノはそう言うと、スペルカードを取り出した。



 氷晶「フローズンクリスタル」



 チルノがスペルを宣言すると、チルノの周りから再び青白い氷の弾丸が飛び出し、銀月の周囲に散弾のように飛んでいった。

 その密度は以前のものよりも薄くなっており、銀月はそれを見て首をかしげた。


「……随分とまばらな弾幕だな……と言うことは二段目が来るっ!?」


 銀月は冷静に分析をしていたが、突然表情が驚いたものに変わった。

 銀月は自分の頬に手をやる。

 すると、そこは氷が触れた後のように冷たかった。

 頬を掠めた弾丸を知覚出来なかった。

 その事実は、銀月の頭を軽く混乱させていく。


「……何だ? 今、被弾しかけたのか?」


 銀月は眼を見開いたままチルノを見やる。

 すると、チルノは銀月の顔を見て得意げに胸を張った。


「どうだ! これがアグナとの特訓の成果だ!」


 チルノはそう言いながらも次々と弾幕を展開していく。

 再び青白い弾幕が銀月をめがけて飛んでくる。

 銀月はその弾幕をじっと見つめ、攻撃の正体を見破ろうとする。


「……っ!?」


 銀月はとあるものに気がつき、素早く身を躱す。

 すると、目の前を色の無い何かが通り過ぎていった。

 それを見て、銀月の額に軽く冷や汗が浮かんできた。


「……透明度の高い、見えづらい氷の弾丸か……なかなかに厄介だな」


 銀月は透明な弾丸の正体に気づき、そう口にした。

 眼に見えないチルノの弾丸は、普段の氷を恐ろしく透明度の高いものにしたものであった。

 チルノはアグナとの厳しい特訓によって、力の制御を巧みなものにしていたのだ。

 そしてその結果、見えづらく避けにくい透明な弾丸を撃つことを覚えたのであった。

 銀月は青白い弾幕の中を、水晶の様な見えない弾丸に気をつけながらすり抜けていく。

 気を抜くと見過ごした透明な弾丸を受けてしまうため、銀月は攻撃を中止して細心の注意を払う。


「そらそら! 避けてばかりじゃあたいには勝てないよ!」


 チルノは避けることに専念している銀月を挑発する。

 銀月はそれを聞きながらも、段々と冷静さを取り戻していった。


「ああ、その通りだ。けど、君は随分と強くなったらしい。おかげで少し混乱したよ」

「ふふん、そうでしょ! 降参する?」

「いいや。そんなことしたらアグナ姉さんに怒られる。それにね」


 銀月はそう言うと、スペルカードを取り出した。



 魔術師「マジシャンズタロット」



 銀月がスペルを発動させると、銀のタロットが銀月の周りを取り囲んだ。

 それを見てチルノが身構えると同時に、銀月は強い意志を持った眼をチルノに向けた。


「執事たるもの、常に主君を背負うものと知れ。この執事服を着ている以上、みっともない真似は出来ないのさ!」


 そう言うと、銀月はチルノに攻撃を仕掛けていった。




「お、銀月がスペルカードを使ったな。それなりに強いのが出てきたみたいだぜ」


 スペルカードを使う銀月の様子を見て、魔理沙が興味深そうにその様子を見ていた。

 その横で、霊夢と咲夜が首をかしげている。


「あれ、銀月ってあんなスペルカード持ってたっけ? いつもはもっと違うやつだった気がするんだけど?」

「そう言えばそうね。たしか前に見たときはもっと和風な名前だったし……」

「そうなのか? じゃあ、後で銀月に聞いてみようぜ」


 魔理沙がそう言うと、二人は頷いた。

 そして再び前を見る。


「おらおらおらおら!!」


 ギルバートは、前方からやってくる妖精達を一人も漏らさんと言わんばかりに弾幕を敷く。

 弾丸の嵐は妖精達を確実に捕らえ、纏まっている妖精達は巨大な衝撃波でまとめて一回休みにさせられていく。

 妖精達は、ギルバートと言う壁にぶつかって誰一人としてその向こう側に行けなかった。


「これならどうだぁ!」

「おっと、まだまだ!」


 銀月はチルノの攻撃を避けながら、発動させたスペルで攻撃していく。

 銀のタロットがチルノに向かって飛んでいくと、タロットはその数を増やしながら緩やかに追尾していく。

 これによって、チルノは追いかけてくる銀のタロットを振り切るために動き回らなければならなくなった。

 それに負けじとチルノも青白い弾丸と透明な弾丸を複雑に組み合わせて攻撃を仕掛けていく。

 二人の戦いは激しさを増していく一方であり、第三者が入り込む余地は無い。


 そう言うわけで、相も変わらず女子三人は暇なのであった。


「……それにしても、本当にやることがないな」

「楽できるのは良いけど、体が冷えるのは問題ね」

「そのためには、まずは黒幕を探さないといけないわね」


 三人がそう話していると、何処からとも無く人影がやってきた。


「くろまく~」


 その気の抜ける声と同時にやってきた人影は、白い髪に白い帽子、青と白を基調とした服の女性であった。

 冬の妖怪、レティ・ホワイトロックっである。

 その人影を見て、三人は一斉に構えた。


「出たな黒幕」

「それでは早速」

「さっさと退治されなさい」

「ちょ、ちょっと待って! 私は黒幕だけど、悪くない黒幕よ!!」


 早速退治しようとする三人に、黒幕を名乗ったレティは慌ててそう言った。

 それに対して、霊夢が冷たい眼を向ける。


「あんた冬の妖怪でしょ? あんたが居なくなってくれれば少しは春が近づくんじゃないの?」

「それは少し乱暴すぎるわよ。私は冬の寒さが好きなだけ。自然に逆らって寒くするのは趣味じゃないわ」


 霊夢の言葉に弁明するレティ。

 すると今度は魔理沙が怪訝な表情を浮かべる。


「そうなのか? けど、お前が居るといつもより余計に寒くなる気がするんだけどな?」

「私は寒いところが好きなの。だから自分の周りを寒くするのは当然じゃないの」

「つまり、やっぱり貴女が黒幕ってことでいいのね」


 咲夜はそう言いながらナイフを取り出す。

 それを見て、レティは再び慌てだした。


「だからちょっと待ってよ! 私は寒い冬をもっと寒くしてるだけで、春が来ないようにしてるわけじゃないんだってば!」


 レティは必死に弁明をする。

 軽くちょっかいを出すだけのつもりだったのに、気がつけば何か物騒な方向に話が転がってしまってかなり涙眼になっている。

 そんなレティの必死さが伝わったのか、三人は少し考え出した。


「そうね、それが本当なら貴女を退治しても春は来ないわよね」


 咲夜はレティの言葉を聞いて、そう解釈する。


「って言うか、第一本当にこの異変の黒幕なら自分から出てこない気がするぜ……」


 魔理沙はレティが目の前に現れたという事象から、そう判断する。


「まあ、二人が言うことも一理あるわね。あんたを退治しても春が戻るって言う確証は無いわけだし」


 霊夢は魔理沙と咲夜の言い分を聞いて、そう口にした。

 三人の言葉を聞いて、レティはホッと胸を撫で下ろした。

 が、何故か自分が取り囲まれていることに気がついて顔を引きつらせた。


「あ、あの……どうしたの?」


 レティは恐る恐る三人に声をかけた。

 すると、三人は軽く目配せをすると口を開いた。


「だって、貴女の言うことが本当かどうかは分からないし……」


 咲夜はそう言いながら、再びナイフを構える。


「自分からのこのこ出てくるような馬鹿な黒幕が居るかも知れないしな」


 魔理沙はそう言いながら、ミニ八卦炉を取り出した。


「確証は無いけど、あんたを退治すれば春が戻るかもしれないじゃない。それに何より……」


 霊夢は札を取り出しながらそう言う。

 そして、三人揃って口を開いた。


「貴女を退治すれば少しは暖かくなるかもしれないわ」

「お前を退治すれば少しは暖かくなるかもしれないぜ」

「あんたを退治すれば少しは暖かくなるかもしれないじゃない」


「いやああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 その後、レティが壮絶ないじめを受けたのは言うまでもない。






 レティが散々な目に遭っている頃。


「っと、ここら辺の妖精はこれで仕舞いか? 案外楽だったな」


 ギルバートは辺りを見回すと、大きく伸びをしながらそう言った。

 大暴れしてすっきりしたのか、その表情はとてもすっきりしたものである。


「きゃっ!?」

「そこまでだ。少しでも抵抗すると君は一回休みになるぞ」


 氷の剣を握っているチルノの首に、銀月は銀のタロットを突きつける。

 二人の周りには銀のタロットが多数浮かんでおり、チルノは完全に銀月の手中に落ちているようであった。

 自分の置かれている状況を理解して、チルノは悔しげな表情を浮かべた。


「うぐぐぐぐ……あーもう! また負けた!」

「悪いね。けど、随分と強くなったな。何度か危なかったよ」

「でも銀月には負けたし、ルーミアにも勝てなくなった! 何で勝てないのよ!!」

「そりゃあ、俺もアグナ姉さんや父さん達に何年も鍛えられたからなぁ。と言うか、今のルーミア姉さんに勝てたらすごいって。俺でも勝てないし」


 癇癪を起こすチルノに、銀月はそう語る。

 ルーミアの封印が緩められて以来、チルノも銀月もルーミアに勝てなくなってしまっている。

 その事実を知って、チルノは意外そうに首をかしげた。


「え、そうなの?」

「そうさ。元々ルーミア姉さんはすごく強い妖怪だったって話だし」

「……あんな馬鹿っぽいのに?」


 チルノは信じられないといった表情で銀月にそう問いかけた。

 それを聞いて銀月は少し固まった後、苦笑いでそれに答えた。

 ぶっちゃけたところ、フォローする言葉が見つからなかったのだ。


「あはははは……そうだ、どっちが先にルーミア姉さんに勝てるようになるか勝負しよう。ルーミア姉さんに先に三回勝った方が勝ち。どうかな?」

「いいわよ、やってやろうじゃない! よーし、今度こそあたいが最強だってこと証明してやるんだから!」

「そうだね。俺も負けないように修行しないと」

「あたいも負けないよ! アグナに修行つけてもらってくる!」


 チルノは銀月の言葉に意気込むと、銀の霊峰に向かって一直線に帰っていった。


「ああ、頑張ってな」


 銀月はその後姿に、笑顔で声をかけるのだった。





「向こうも終わったみたいだな」


 男二人を見て、魔理沙が少しすっきりした表情でそう言った。

 ちなみにその犠牲となったレティは、地面に積もった雪の中に埋もれている。


「そうね。あれだけ暴れまわって体力持つのかしら?」


 男二人を見ながら、咲夜が先のことを考えてそう疑問を投げかけた。

 まだ出発してから一時間も経っていないのだから、心配にもなるだろう。


「銀月なら大丈夫よ。無駄に体力があるんだもの」

「ギルもあの様子じゃ当分は平気だと思うぜ?」


 しかし心配する咲夜とは対照的に、霊夢と魔理沙は楽観的な答えを返した。

 それを聞いて、咲夜は首をかしげた。


「……男の子ってそんなに元気なものなの?」


「だって、銀月だし」

「だって、ギルだぜ」


 咲夜の問いかけに、霊夢と魔理沙はそれぞれ断言するようにそう言った。

 そこにはそれなりに長い間付き合ってきて生まれた、ある種の信頼の様なものが存在した。


「何でこれで納得できるのかしら……」


 二人の言葉を聞いて、納得できてしまった咲夜は乾いた笑みを浮かべながらそう言うのだった。

 ちょうどその時、ギルバートが銀月に話しかけていた。


「勝負は俺の勝ちだな! お前があの氷の妖精に手間取ってる間にしこたま稼いだからな!」

「何を言ってるのさ! チルノはどう見たってそこいらの妖精二~三百人分はあるぞ! 勝負は俺の勝ちさ!」

「うるせえ、元々数で勝負してんだ、数で言うんならどう見たって俺の勝ちじゃねえか!」

「君ねえ、恥ずかしくないのか!? ただの妖精とチルノ、力の差が歴然なのは君にも分かるでしょ!? それにああいうボスキャラは得点が高いんだから、点数で見れば俺の勝ちだ!」


 相手に負けたくないと言う一心で、激しく言い合う銀月とギルバート。

 お互いに一歩も引かず、話は平行線をたどる。

 しばらくすると、お互いに急に静かになった。


「ちっ、意地でも負けを認めねえか……」

「君こそ負けを認めたらどうだい?」


 無言でお互いに相手を見つめ続ける二人。

 そしてしばらくすると、お互いにニヤリと笑った。


「……良いぜ、こうなったら直接対決だ!」

「ああ、やってやろうじゃないか!」


 二人はそう言い合うと、激しい戦闘を始めた。

 先程まで妖精に向けられていたものが、今度は仲間であるはずの相手に向かって飛んでいく。

 しかもヒト一人分と言う狭い範囲に集中しているため、先程とは比べ物にならないほど激しく弾幕が降り注ぐ。

 その上、先ほど妖精達には使っていなかった近接格闘まで用いているのだからもう滅茶苦茶である。

 結果として、先程競争していたとき以上の大喧嘩が始まったのであった。


「……また始まったよ……」

「……ちょっと元気すぎるわね」

「……さっさと止めるわよ」


 女子三人はため息をつきながらそう言うと、スペルカードを取り出した。



 霊符「夢想封印 散」

 恋符「マスタースパーク」

 幻符「殺人ドール」



「あわびゅ!!」

「ちにゃ!!」


 女子達の怒りの一撃を受けて、雪原に二体のスケキヨが誕生した。

 そう言うわけで、まずは1面のレティさん……どうしてこうなった。

 原作主人公勢にフルボッコと言う可哀想な結果に……すまぬ。

 ……どこかでフォローできたらいいな。


 チルノは原作に比べて大幅に強化されています。

 と言うか、原作で無色透明の弾丸とか出されたら発狂するわ。

 それでも、銀月にはまだ届いていませんが。

 ちなみに大ちゃんは今回はアグナと特訓中でした。


 そして野郎2人が全く自重しやがりませんでした。

 原作勢をほっぽって大ハッスル。おかげで暇人を作ることに。

 おまけについやりすぎて、制裁を受けてるし。


 さて、今回はここまで。

 また次回でお会いしましょう。

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