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銀の槍のつらぬく道  作者: F1チェイサー
霊峰の槍と博麗の月
106/175

銀の月、挑戦する

「……」


 ある朝、霊夢は台所に着いた瞬間絶句して立ち尽くした。


「ふんふふんふんふ~ん♪」


 台所から聞こえてくる、楽しそうな鼻歌。

 しかし、その声は涼やかな少年の声ではなく、透き通った少女の声である。

 その声の主に眼を向けると、そこには肩まで伸びた赤毛を緑色のリボンでサイドポニーに結わえた少女が立っていた。


「あ、霊夢ちゃん、おはよう! 朝ごはん出来てるから、一緒に食べよ♪」


 少女はにこやかに笑いながら霊夢にそう声をかける。

 彼女は掛けていたフリル付きのピンクのエプロンを取って、霊夢が普段座っている場所の対面に座った。


「……あんた、誰?」


 訳が分からず、霊夢は呆然とした表情でそう問いかける。

 すると少女は人懐っこい笑みを浮かべた。


「にゃはは、それは後で話すよ。それよりも、ご飯冷めちゃうから早く食べよ♪」

「質問に答えるのが先よ。あんたはどこの誰? それから銀月はどこ?」

「まま、いいからいいから♪ それも朝ごはんの後に全部話してあげるよ」


 憮然とした表情の霊夢に、少女は全く動じずに笑みを崩さない。

 霊夢はしばらく少女を眺めていたが、そのうち食卓に着いた。


「ちゃんと説明してもらうわよ」

「うん、分かってるよ。じゃあ、いただきます!」


 底抜けに明るい少女が号令を掛けると、二人は食事を始めた。

 霊夢は味噌汁に手を伸ばし、口をつける。


「……なるほど、そう言うことね」

「ほえ? どうかしたの、霊夢ちゃん?」


 何かを悟ったような霊夢のつぶやきに、少女はこてんと首をかしげる。

 それを見て、霊夢は盛大にため息をついた。


「どうかしたの、じゃないわよ。あんた何をやってるのよ、銀月?」

「ほえほえ?」


 霊夢は呆れ顔で目の前の赤毛の少女を眺める。

 少女は眼をぱちくりと瞬かせ、霊夢を見つめ返していた。


「とぼけても無駄よ。お味噌汁の味が普段と一緒。これを作れるのは銀月しかいないわ。さあ、観念して白状しなさい」

「……にゃはは、話す前にばれちゃったか……」


 霊夢の指摘に、少女はそう言って苦笑いを浮かべた。

 つまり、少女は銀月の変装だったのだ。

 現在の銀月の服装は、白いブラウスに黄緑色の長袖のカーディガンにラピスラズリのタイ、フリルの着いたひざ上位の長さの水色のスカートに黒いサイハイソックスといった格好である。

 そんな出で立ちの銀月に、霊夢は首をかしげた。


「何たってそんな格好をしてるのよ?」

「それがね、ちょっとした挑戦状みたいなものが届いてね……だから、私はそれに受けてたつことにしたの」

「挑戦状?」

「そ。愛梨お姉ちゃんから私宛の小包の中にね、衣装が入ってたの。お姉ちゃんは私が役者さんになりたいって知ってたから、きっと練習の機会をくれたんだわ♪」


 銀月は楽しそうに笑いながらそう話す。それはまるではしゃいでいる様であり、普段の冷静な銀月とはどこか違う。

 その様子に、霊夢は疲れた表情でため息をついた。


「……どうでも良いけど、私と話すときくらい普通にしててくれる? 正体を知っているとすごく違和感があるわ……」

「え~? でも、この格好で普段の話し方じゃもっと違和感あると思うよ~?」

「……なら、せめて別の服に着替えてきなさいよ。男物もあるんでしょ?」

「ん~ん。無かったよ?」


 霊夢の問いに銀月はのんきな声でそう言って首を横に振る。

 すると霊夢はがっくりと肩を落とした。


「……何でよ」

「分かんない……お姉ちゃんの趣味かなぁ?」

「それで、今日一日それで過ごす気?」

「えっと、もう一つ衣装があったから、そっちも今日着ちゃおうって思ってるの」

「…………」


 銀月が答えていると、霊夢が自分の顔をじっと眺めている事に気がついた。

 どことなくじとっとした視線を受けて、銀月は言葉を詰まらせた。


「ほ、ほえ? 霊夢ちゃん、私の顔に何かついてる?」

「……何気に可愛いのがあれよね……」


 霊夢はそう言いながら銀月の顔を眺める。

 元より中性的で整った顔立ちの銀月である。このような女装をしてもあまり違和感がない。

 更に銀月は自分の手で可愛らしい女性のように見える様に手を加えているため、なおの事そう感じるのであった。

 何やら複雑な表情を浮かべる霊夢に、銀月は困ったような笑みを浮かべた。


「にゃはは……それは女の子っぽく見えるお化粧してるからね……」

「どこで覚えたのよ、そんなこと……」

「愛梨お姉ちゃんが教えてくれたの。私なら男の子も女の子もどっちも行けるんじゃないかって言ってたからね」


 呆れ顔の霊夢に銀月は笑顔を崩さずそう言って答える。

 それを聞いて一つため息をつくと、霊夢は銀月に質問を重ねた。


「ところで、あんたの受け取った挑戦状はどうすればあんたの勝ちになるわけ?」

「一日その人物になりきれれば私の勝ちかな? 役者さんの修行にはちょうど良いと思うの」

「じゃあ、今どんなキャラなのよ?」

「明るくて人懐っこい女の子よ。でも、ただの女の子じゃないよ」


 霊夢の質問に、銀月は服装から想像した役を演じながら、明るく楽しげに答えていく。

 それはまるで最初からそう言うキャラクターであったかのようで、言われなければ元が別人だとは分かりそうになかった。

 そんな中、神社の境内に降り立つ人影が現れた。


「よお、霊夢! 遊びに来たぜ!」


 箒に乗って舞い降りた金色の髪の少女は霊夢にそう言って話しかけた。

 そんな彼女に、霊夢は面倒くさそうな表情を浮かべた。


「こんな朝っぱらから何しようってのよ。こっちは今少しややこしいことになってるのに……」

「ややこしいことって何だ?」

「あれよ、あれ」

「あれ?」


 霊夢が指した方向を、魔理沙は怪訝な表情で見た。


「おはよ~、魔理沙ちゃん! こんな早くにどうしたの?」


 すると、人懐っこい笑みを浮かべた元気な少女が挨拶をしてきた。

 その見覚えのない容姿に、魔理沙は思わず呆然と立ち尽くした。


「……いや、誰だよお前……」

「にゃはは、魔理沙ちゃんの友達だよ?」

「な、何言ってんだよ、私はお前のことなんて知らないぜ?」

「むぐぅ……魔理沙ちゃんが冷たい……」


 混乱している魔理沙の言葉に、銀月は不満げに頬をぷくっと膨らませた。

 そんな銀月に、霊夢が呆れ顔で声をかけた。


「馬鹿な事言ってないでさっさと……」

「ダメだよ♪ そう言う話は私が満足してからね♪」


 霊夢の言葉に、銀月はそう言って笑いながら唇に人差し指を当てた。

 そんな銀月に魔理沙は苛立たしげにがしがしと頭をかいた。


「だぁ~! 満足とかじゃなくて、お前は誰なんだよ!?」

「……さっきから騒がしいが、どうしたんだよ、魔理沙?」


 魔理沙が叫ぶと同時に、その隣に金色の髪にジーンズと白いシャツに黒いジャケットと言った出で立ちの少年が降り立った。

 すると銀月はその少年に満面の笑みを浮かべて挨拶をした。


「あ、ギル君、おはよ~! やっぱり魔理沙ちゃんと一緒に来てたんだね!」

「あぁ? 誰だ、テメ……」


 ギルバートはそこまで言うと、目の前の赤毛の少女を呆然と眺めた。

 そして一気に近づいてその肩を抱き、一団から少し離れた。


「どうしたの?」

「……どうしたの、じゃねえだろおい。何やってんだよ、銀月……」


 ギルバートは呆れ顔で、相手にしか聞こえない声で銀月にそう話しかける。

 すると銀月は困ったような表情で可愛らしく舌を出した。


「あれ、もう分かっちゃった?」

「当たり前だ、人狼の嗅覚舐めんな。匂いを嗅げば一発で分かる」


 ギルバートのその言葉を聴いて、銀月は両手で胸を押さえるようにして後ろに引いた。


「……女の子の匂いを嗅ぐなんて、やだ、エッチ……あいたぁ!?」

「何ふざけた事抜かしてんだ、こら! それ以前にお前は男だろ!」


 恥らうような銀月の言葉に、ギルバートはそう言いながら頭に拳を振り下ろした。

 すると今度は、銀月は凍りついた表情で先程よりも強く引いた。


「……まさか、そっちの趣味?」

「……死にたいか?」


 ギルバートはそう言いながら握りこぶしに黄金の魔力を溜める。

 それを見て、銀月は乾いた笑みを浮かべた。


「にゃはは……ごめんね、ちょっとふざけすぎちゃった。それで、今日はどうしたの?」

「その前に、お前がどうした。何なんだよ、その格好は?」

「まあ、ちょっとした事情があるんだよ。霊夢にはもう話したけどね」

「……それで、魔理沙にはまだ黙ってるつもりか?」

「……そうさせるつもりでこうしたくせに……」

「流石だ、兄弟。よく分かってるな」


 銀月とギルバートはそう言って、肩を抱き合ったままにやりと笑う。

 そんな二人に、後ろから待ちくたびれたような少し苛立った声が聞こえてきた。


「おい、いつまで話してんだよ、ギル!」

「おっと、悪いな。ちっとこいつと二人で話がしたかったからな」


 ギルバートはそう言いながら、自分より少し背の低い銀月の頭に手を置いた。

 それを見て、魔理沙は怪訝な表情を浮かべた。


「何だよ、ギルの知り合いか?」

「まあ、そんなところだ。な、アーシェ?」

「そうだね、ギル君♪」


 とっさにギルバートがつけた名前にも銀月は即座に対応する。

 それを見て、魔理沙は首をかしげた。


「それで私の友達ねぇ……アーシェなんて奴いたっけかなぁ?」

「いたよ~……随分昔に会ったじゃない」


 困り顔の魔理沙に、銀月は拗ねた様な表情を見せた。

 どうやら、魔理沙は目の前の少女の正体に気がついていない様子である。


「そうだっけ? まあいいや、忘れてたらまた仲良くなれば良いんだよな!」

「うん、そうだね♪」


 開き直る魔理沙に、銀月は再び人懐っこい笑みを浮かべた。


「それで、アーシェは何でここに居るんだ?」

「霊夢ちゃんと一緒に住んでるんだよ」

「マジでか? おい霊夢、本当か?」

「ええ、本当よ。つい最近引っ越してきたばかりだけどね」


 魔理沙の質問に霊夢は頷く。中身は銀月なので、特に嘘は言っていない。

 それを聞いて魔理沙は羨ましそうにアーシェこと銀月を見た。


「へぇ……良いなあ、ここ執事付きだろ? 銀月って奴」

「あ、銀月君と知り合いなの? 私ね、いつも銀月君と一緒にご飯作ってるんだ♪」


 銀月はあたかも自分が銀月とは別人物であるようにそう言った。

 それを聞いて、魔理沙は霊夢にジト眼を送った。


「おい霊夢。お前も少しは見習ったらどうだ? 銀月に任せっぱなしじゃなくてさ」

「大きなお世話よ。出来る人がやった方が効率が良いじゃない」

「にゃはは……教えてあげたくても、本人にやる気が無いんじゃあねえ……」


 霊夢の発言に、銀月は困ったような笑みを浮かべて頬をかいた。

 するとその発言に合わせるように、魔理沙がため息をついた。


「というか、銀月も銀月だぜ。ちっとばかし霊夢を甘やかし過ぎんだよな。あいつもの凄い世話好きだしな」

「良いじゃない、本人が満足してるんだから。私も満足してるんだし、変える必要なんて無いわ」

「にしたって、紅魔館に行ってまでそれをやるのはやりすぎだろ。この前パチュリーがその事でレミリアに愚痴られたってぼやいてたぜ?」

「まーまー、落ち着いてよ二人とも。そう言ったことは銀月君に直接言わなきゃ、ね?」


 白熱し始める議論に、銀月はそう言いながら割って入った。


「ぶっ、お前がそれを言うのか?」


 すると、耐え切れなくなったギルバートが軽く噴出した。

 それを聞いて、魔理沙が怪訝な表情でそちらを見る。


「……ん? どういう事だ、ギル?」

「にゃはは……ギル君、もういいの?」

「ん? 何の事だよ、アーシェ?」


 二人で目配せをしながら笑う銀月とギルバートに、魔理沙は首をかしげる。

 そして、ギルバートは魔理沙にネタ晴らしをする事にした。


「魔理沙、そいつ銀月だぞ」

「……は?」


 魔理沙はキョトンとした表情で銀月を見た。


「にゃはは、銀月だよー♪」


 銀月はそう言いながら、底抜けに明るい笑顔で魔理沙に手を振る。

 それを見て、魔理沙の表情が信じられないと言ったものに変わった。


「……おいおい、銀月がこんなに可愛い女の子に化けてるって言うのか?」

「ああ。証拠を見せてやれよ、銀月」

「いいよ♪ ……これでどうかな、魔理沙?」


 銀月の声が透き通った少女の声から、普段の涼やかな少年の声へと変わる。

 それを聞いて、魔理沙は眼を見開いて驚いた。


「うわっ、マジで銀月だ……お前なんでそんな格好をしてんだよ?」

「それはね……」


 銀月は自分が何故この格好をしているかを説明した。

 それを聞くと、魔理沙とギルバートは一応は納得したようである。


「役者になるための演技の練習ね……はっきり言って、私をあれだけ見事に騙せたんだから要らないんじゃないのか?」

「そんな事ないよ。霊夢ちゃんにはお味噌汁たった一口でばれちゃったし、ギル君には匂いで一発だったもん」


 銀月は少し悔しそうにそう呟く。

 それを聞いて、ギルバートはやりづらそうに顔をゆがめた。


「どうでもいいけどよ、お前いつまでその格好で女口調なんだよ。さっさと戻せ」

「もう、さっきも説明したじゃないの。愛梨お姉ちゃんの挑戦状は一日役を演じきることなんだよ? だから今戻しちゃダメなんだよ」

「……ああ、そうですかい」


 ギルバートはそう言うと、大きくため息をつきながら顔を背けた。


「それよりもさ、あがってお茶飲んでいってよ。今から私が淹れてあげるからさ♪」

「そうか、そんじゃありがたく頂くぜ」

「……やっぱ調子狂うな……」


 明るい少女の声で可愛らしく紡がれる銀月の言葉に、ギルバートは思わずそう呟いた。

 すると、銀月はにやにやと笑いながらギルバートにからかうような声をかけた。


「あれあれ、いつも話してる男の子がこんな女の子になっちゃって困ってるのかにゃ~?」

「当たり前だろうが。行きつけの店が休業日だったのと同じくらい困るな」

「にゃはは、でも今日一日は我慢してね。それじゃあ、お茶準備してくるから待っててね」


 銀月はそう言うと、ぱたぱたと駆け足で台所へと向かっていった。

 その後姿を、魔理沙がじっと眺めていた。


「……何ていうか、本当に銀月可愛くなってるぜ……役者ってあんなに変われるもんなんだな」

「……だが男だ。俺は同じ男としてあれは認めねえ」


 魔理沙の言葉に、ギルバートは憮然とした表情でそう返す。

 それを聞いて、魔理沙は首をかしげた。


「何でだよ。女の私から見たって可愛い部類に入ると思うぜ?」

「あのなあ……男が男を可愛いと言うとか、想像してみてどうだよ?」

「……ああ~……そう言うことか……」


 魔理沙は少し考えて、危険な思考に行きかけて即座に考えるのをやめた。

 それから、ギルバートの事をじっと眺める。

 その視線に、ギルバートは嫌な予感を感じて冷や汗を流す。


「……おい、何で俺の顔をじっと見てんだよ」

「いや~、ギルもやったらどうなるんだろうな、とか思ってないぜ」

「……俺は絶対やらねえからな……」


 魔理沙の発言に、ギルバートは額に手を当てて天を仰ぎながらそう言う。


「ちぇっ、つまらないぜ」


 そんなギルバートに、魔理沙は心底詰まらなさそうにそう呟いた。




「お茶入ったよ♪ はいっ、どうぞ♪」

「ありがとう」

「お、サンキュ」

「……どうも」


 しばらくして、四人は全員縁側に座ってお茶を飲む事にした。

 霊夢、魔理沙、銀月、ギルバートの順に座っているところから、ギルバートがまだ霊夢に仲間意識を持っていない事が分かる。


「ねえ、銀月……本気で今日一日その格好で過ごすの?」

「ううん、衣装はもう一着あるからそれも着るよ」

「もう一着の衣装? どんな奴だ?」

「それは見てのお楽しみだよ♪」


 霊夢と魔理沙の質問に、銀月は楽しそうに答えた。

 役に没頭しているようで、とても自然に会話をしている。


「ところで銀月、さっきお前ここに住んでるって言ってたけど、あれは演技か?」

「違うよ? 私が今ここに住んでいるのは本当の事だよ」


 ギルバートの質問に銀月が答えると、魔理沙は霊夢の方に手を回してジト眼を向けた。


「……おい、霊夢。お前どうやって銀月を拉致したんだ? んで、どんな弱みを握ってるんだ?」

「どういう意味よ」

「そのまんまの意味だぜ」

「で、実際のところは?」

「食費が増えるけど家賃が無いからね。台所も広いし、物件としては優良だもん」


 ギルバートの質問に、銀月はそう言って答えた。

 すると、それを聞いた霊夢の眉が吊り上った。


「『物件としては』ねえ……まるでそれ以外の条件が拙いみたいな言い方じゃない」

「現に拙いじゃないか」

「お黙り」


 横から茶化してくる魔理沙を、霊夢はその一言で黙らせる。

 そんな二人を余所に、再びギルバートが疑問を投げかける。


「ところでよ、何で銀の霊峰から出ようと思ったんだ? あそこ修行の環境としては最高じゃねえか」

「それはね、私の意地なの。あのお社はね、本当はお父さんが認めた人しか住めないことになってるの。だから、私はちゃんと自分の力でお父さんに認められてから、あのお社に戻りたいなって思うの」


 銀月はギルバートに対してはっきりとそう言いきった。

 それを聞いて、霊夢が何かを考える動作を始めた。


「ふ~ん……そういうこと……」

「霊夢、銀月の修行を妨害して帰れないようにしようとか考えるなよ?」

「そんなことしないわよ。というか魔理沙、さっきからどんな目で私の事見てるのよ」

「いや、だってなあ?」


 魔理沙はそう言いながらギルバートに対して眼を配った。

 それに対して、ギルバートは額に手を当ててため息をついた。


「……俺を見るな、俺を。しかし、そういうことか……よし。銀月、勝負しようぜ」

「勝負?」

「どっちが先にお前の親父さんに認められるか勝負だ。こうすりゃ、お互いに張り合いが出るだろうよ」


 ギルバートはそう言って銀月に笑いかける。

 すると銀月もそれに嬉しそうに笑い返した。


「うん、そうだね♪ そうだ、せっかくだし、ここで一勝負しようよ」

「ああ、良いぜ。けど、そんな格好で戦えるのか?」

「大丈夫だよ、ちゃんと動きやすい服装に着替えるから。それっ!」


 銀月はそう言うと、突然体からまばゆい光を放った。


「おわっ!?」

「きゃっ!?」

「うわっ!?」


 それを見て、ギルバート達は思わず眼を覆った。

 そして光が収まって、目の前を見ると、



「心の闇は夜の闇……その闇照らすは月明かり……闇に迷うその心、私の月が照らしましょう……魔法少女シルバームーン、ただいま参上!!」



 などとノリノリで叫んでポーズを決める銀月の姿があった。


「「「……はあぁ?」」」


 三人は思わず間の抜けた声を上げる。

 銀月の格好は白と青を基調としたフリフリのコスチュームに変わっており、手には三日月の飾りが付いた長い杖が握られていた。髪の色も先程の赤髪から青みを帯びた銀髪に変わっている。

 それを見て、ギルバートは愕然とした表情で銀月に話しかけた。


「……おい、銀月。お前幾らなんでもそれは……」

「甘い甘い、砂糖より甘いよ! 役者が演技を恥ずかしがってちゃお話にならないの!!」

「そう言う問題じゃねえよ! 何なんだそのキャラはよ!?」


 あまりにあんまりな銀月に、ギルバートは思わずそう叫んだ。

 すると、銀月は不敵に笑って答えた。


「通りすがりの正義の魔法少女よ! さあ、世の中にはびこる悪の手先よ、月の光に懺悔なさい!!」


 銀月はそう言うと、手にした杖をギルバートにビシッと向けた。


「誰が悪の手先だ、誰が!? おわっ!?」


 ギルバートが銀月に抗議しようとすると、突如として銀の弾丸が襲い掛かってきた。

 ギルバートは即座に体を横に倒して避け、素早く立ち上がって境内へと出てきた。


「とぼけても無駄よ! さあ、正体を現しなさい、蒼魔狼ギルティヴォルフ!!」

「だあああああああ! ツッコミが追いつかねえええええええ!!」


 超ハイテンションで台詞を言う銀月に、ギルバートは頭を抱えて叫んだ。

 そんなギルバートを余所に、銀月は銀色の光の玉を作り出して宙に浮かべた。


「行って、ルナビット!」

「ちくしょう、やらなきゃやられるのかよ!」


 銀月が光の玉を飛ばすと同時にギルバートが魔狼に化け、戦闘が始まった。


 そんな二人の戦闘を、霊夢と魔理沙は縁側に座ったまま眺めていた。


「……霊夢、銀月の奴止められるか?」

「あんた、あの空間に巻き込まれて耐えられる自信ある?」


 霊夢がそう言うと、魔理沙は銀月達を見た。


「くっ、負けられない……私が負けたら、ギル君が!」

「その本人を悪の手先呼ばわりしておいて何言ってやがんだバカヤロー!」

「待っててギル君、今助けてあげるから!」

「だああああ! 助けるのかぶっ倒すのかどっちなんだよ、もう!」


 訳の分からない台詞を叫びながら戦う銀月に対して、ギルバートが喉が切れそうなほどに叫びながらツッコミを入れる。

 その間にも戦いは苛烈さを増しており、どんどん派手な戦いになっていた。


「……あー……うん、やっぱ巻き込まれたくないよな……うん」


 そんな混沌とした戦いを前に、魔理沙はそう言って乾いた笑みを浮かべて視線を切った。


「……お茶がおいしいわ……」

「……お、この羊羹美味いな。どこで売ってんだ?」

「あ、それ銀月の手作りなのよ」

「へぇ、本当に料理上手だな、あいつ……」


 霊夢と魔理沙は、目の前の現実から逃げるように話をするのであった。






「捕まえて! フェンリルリボン!!」


 銀月がそう言うと光のリボンが宙に現れ、ギルバートの体を一気に縛り上げて空中に縫い付けた。


「しまった!?」


 ギルバートは抜け出そうともがくが、抜け出せない。

 そんな彼に向けて、銀月は手にした長い杖を向けた。


「とっておきを見せてあげる……シルバームーン・エクスプロージョン!!」


 銀月がそう叫ぶと同時に、構えた杖の先から巨大な銀の光の玉が打ち出された。

 光の玉は空に居るギルバートに吸い込まれるように向かっていく。


「ぎゃあああああああああ!?」


 ギルバートがそれを避けきれずにぶつかると、光の玉はすさまじい大爆発を起こした。

 その光は、まるで空に巨大な銀の月が現れたかのような光であった。


「夜空に銀の月が輝く限り、悪が栄えることはない!!」


 そして銀月はその光を背景に背負いながら、びしっとポーズを決めて決め台詞を言い放った。


「な、納得いかねえ……こんなふざけた勝負に負けるって……」


 その一方では、ボロボロになったギルバートがこの理不尽な結末を嘆いていた。

 そんなギルバートに、再び光を放って元に戻りながら銀月が近づく。


「ふう……終わったよ、ギル君」

「……テメェ、俺に何か言う事は?」

「付き合ってくれてありがと♪」


 恨みがましい眼で見つめてくるギルバートに、銀月は可愛らしい笑みを浮かべて礼を言った。

 それを受けて、ギルバートは憮然とした表情でそっぽを向いた。


「……お前、男に戻ったら殴る」

「ふ~ん……そっか♪」


 ギルバートの反応を見て、銀月は彼がどんな心境なのか理解して楽しそうに笑った。

 要するに、見た目が可愛らしい少女の姿なので男としては殴ったりする事に非常に抵抗感を覚えるのであった。

 その表情から自分が手玉に取られているのを理解して、とうとうギルバートは爆発した。


「ああああああ! ちっきしょお、やりづれえ! やっぱお前さっさと戻れ! 今すぐ着替えろ! ぶん殴る!!」

「うわっと、だからそういう訳には行かないんだってば!!」


 掴み掛かってくるギルバートを躱しながら、銀月はそう言った。

 しかし、ギルバートはくるりと反転して再びつかみかかる。


「いいや、もう我慢できねえ! 着替えろ! 今すぐ着替えろ!」

「わわわわわ、乱暴しちゃダメだよ~!」


 こうして、銀月とギルバートの盛大な追いかけっこが始まるのであった。 





 そして翌朝。


「……はあぁぁぁぁ……」


 銀月はちゃぶ台に突っ伏して重いため息を吐く。

 その姿を見て、霊夢は首をかしげた。


「どうしたのよ。挑戦には成功したって言うのに何でそんな凹んでるのよ?」

「……魔法少女って……シルバームーンって……」


 銀月の口から呪詛のようにそんな言葉が流れてくる。

 それを聞いて、霊夢は呆れた表情で銀月を見た。


「……あんたひょっとして、自分でやっておいて今更後悔してるわけ?」

「……俺だって……やりたくない役ぐらいある……いや、やれって言われたらやるけどさ……」

「……やらなくて良いわ」

「……うん……」


 銀月が立ち直るまで、あと二時間。








 一方その頃、銀の霊峰。


「え? 中身が違った?」

「ああ。宴会芸用に見繕った服ではなく、別の服が入っていたぞ?」


 愛梨の言葉に、天魔がそう言って答えた。

 それを聞いて、愛梨は苦い表情を浮かべて頭をかいた。


「あっちゃ~……んじゃ銀月くんのところに送っちゃったかなぁ?」

「……ああ、だからあのような事になっていたのか」

「あのような事って?」

「こういう事だ」


 天魔はそう言うと、愛梨に一枚の紙を差し出した。

 なにやら色々とかかれているそれは、新聞のようである。 


「……あ、あはははは……」


 それを見て、愛梨は乾いた笑みを浮かべた。




 その新聞記事には、『博麗神社に魔法少女あらわる!?』と言う見出しが載っていた。


 銀月の痛さ増し増し。

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