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第三章:最初の「マイクロ・インタラクション」2

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「……すぐには変われないかもしれない。でも、麻衣、僕は学びたいんだ。君とちゃんと『共有感覚』を持つ方法を。……まずは、君の話を聴かせてくれないか。今日、どんなことがあったか。何を感じていたか。スマホも見ない。途中でアドバイスもしない。ただ、君の言葉を聴きたいんだ」


健一は、ソファの少し離れた位置に腰を下ろし、静かに麻衣を見つめた。

資料にあった「非言語コミュニケーション」。相槌、アイコンタクト。

沈黙が流れる。


十秒、二十秒……。


やがて、麻衣の唇が小さく震え始めた。


「……今日ね、買い物に行ったら、ベビーカーを押してるお母さんを見たの。すごく幸せそうで。……でも、私は、健一さんと子供を作るのが、怖くなっちゃった」


健一の心に「いや、怖がる必要はない、データを見れば……」という「ロジックのカウンター」が浮かびかけた。彼はそれを全力で飲み込んだ。


「そうか……怖くなっちゃったんだね」


相手の感情を肯定し、寄り添う。


ただその一言を繰り返す。


麻衣の瞳に、大粒の涙が溜まり始めた。


「そうだよ。健一さんといると、私は『出産するための道具』みたいに思えて……。もし子供ができても、健一さんは私や子供をデータで管理するんじゃないかって。それが、怖くて、悲しくて……」


「……すまなかった。本当に、すまなかった」


健一は立ち上がり、麻衣の隣に移動した。そして、壊れ物を扱うように、彼女の肩を抱き寄せた。


麻衣の体は最初は硬直していたが、やがて健一のシャツの胸元を掴み、声を上げて泣き始めた。


それは、5:1の法則における、最初の「1」のポジティブな関わりだった。

まだまだ残高は赤字だ。マイナス数千、数万の負債があるかもしれない。


だが、健一はこのとき初めて、妻の「心の眼鏡」を通して、自分たちの関係を見ることができた気がした。


冷え切ったアイスクリームが、テーブルの上で少しずつ溶け始めていた。


しかし、二人の間にあった氷壁もまた、健一が絞り出した不器用な「技術」によって、わずかに溶け始めていたのである。

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