25話
第25話 ドロシー、屋敷を救う
朝の公爵邸、メイドのドロシーは嫌な予感を感じていた。
朝の公爵邸は、いつも通り騒がしかった。
いや、正確にはいつも以上に騒がしかった。
ドロシーは、食堂でパンをかじりながらため息をついた。
「なんか、今日も面倒なことが起きそうね」
エリンが震えながら言う。
「ドロシーさん、なんでそんなこと言うんですか!」
「長年の勘よ。屋敷が騒がしい日は、必ず何か起きるの」
「昨日も何か起きましたよね」
「昨日は何かどころじゃなかったわよ。刺客が迷子になってたじゃない」
「そうでした」
ドロシーはパンを飲み込み、立ち上がった。
「さて、今日もレティの護衛でもするかね。あの子、放っておくとすぐ狙われるし」
「ドロシーさん、頼もしすぎます」
「任せなさい。刺客だろうが王宮だろうが、モップ一本で追い返してやるわ」
その瞬間、廊下から爆音が響いた。
「レティーーーーー!!」
ドロシーはパンを落とした。
「ほらね。面倒なことが起きたわ」
公爵が朝から暴走しているのだった。
廊下では、ヴィクトールがレティシアを抱えて走っていた。
「レティ、今日は私の執務室で過ごせ! 危険だ!」
「閣下、歩けません」
「歩かなくていい! 私が運ぶ!!」
「みんな見てます」
「閣下、レティを抱えて走るのやめなさい。見てるこっちが恥ずかしいわよ」
ドロシーは腕を組んで言った。
「恥ずかしくない」
「恥ずかしいわよ」
「恥ずかしくない」
「恥ずかしいわよ」
「やめてください!!」
レティシアが叫んだ。
ドロシーはため息をついた。
「閣下、レティが嫌がってるでしょ。離しなさい」
「嫌だ!」
「子どもか!!」
この光景を見ていた視察官アレクシア、胃痛が悪化するのだった。
アレクシアは、廊下の端でその光景を見ていた。
「この屋敷、本当に大丈夫なの?」
彼女は額を押さえた。
「視察官殿、どうされました?」
ハンスが心配そうに声をかける。
「胃が痛いのです」
「ですよね」
「あなたも痛いのですか?」
「ええ、閣下のせいで」
「私もです」
二人は静かに頷き合った。
◆
第三勢力の刺客、再び迷子になる。
屋敷の外では、昨日の刺客が、木の上で地図を広げていた。
「また構造が変わっている?」
彼は真剣に悩んでいた。
「昨日は廊下が三本だったのに、今日は四本?」
理由はメイドたちが、
「こっちの方が掃除しやすい」
と言って壁を動かしたからである。
「罠か?」
刺客は真剣に悩んだ。ただのメイドの掃除癖であるのにまだ気づいていない。
ドロシーが廊下を歩いていると、角から黒外套の刺客が現れた。
「レティシア・アレンはどこだ」
「またあんたかい」
刺客は固まった。
「昨日のメイドだな」
「そうよ。昨日はよくもモップを折ってくれたわね」
「折ったのはそっちだ!!」
「細かいことはいいのよ」
「よくない!!」
ドロシーはモップを構えた。
「で、今日は何しに来たの?」
「レティシアを連れ帰る」
「帰らないわよ」
「帰る」
「帰らない」
「帰る!!」
「帰らないって言ってるでしょ!!」
刺客は剣を抜いた。
「邪魔をするなら、容赦はしない」
「容赦しないのはこっちよ」
ドロシーはモップを構えた。
「さあ、かかってきなさい。掃除の邪魔する奴は許さないわよ」
「掃除の邪魔?」
「そうよ!!」
刺客 VS ドロシーは、まさかの互角だった。
刺客が飛びかかる。ドロシーはモップで受け止める。
金属音が響く。
「なぜメイドがこんなに強い」
「毎日閣下の暴走を止めてるからよ」
「意味がわからん!!」
「わからなくていいのよ!!」
刺客が剣を振るう。
ドロシーはモップで弾く。
「くっ!」
「ほらほら、どうしたの? 刺客さんよぉ!」
「なぜメイドに、あおられなければならない」
「あおられてるんじゃないわよ。励ましてるのよ」
「嘘をつけ!!」
そこへ、レティシアが駆け込んできた。
「ドロシーさん、大丈夫ですか。なんでそんなに強いの」
「レティ、来ちゃダメ!!」
「レティシア・アレン!」
刺客がレティシアに向き直る。
「迎えに来た」
「嫌です」
「来い」
「嫌です!!」
「来い!!」
「嫌です!!」
ドロシーが割って入った。
「レティにしつこい男は嫌われるわよ」
「私は男ではない」
「じゃあ何なのよ」
「刺客だ!!」
「知らないわよ!!」
さらに公爵も乱入する。
「レティーーーー!!」
ヴィクトールが飛び込んできた。
「レティに触れるな!!」
「また来たのか鉄血公爵!!」
「また来たのかじゃない。お前こそ来るな」
アレクシアも駆け込んでくる。
「閣下、下がってください」
「下がらない」
「下がってください」
「下がらない!!」
「下がってください!!」
「はい」
「言い合ってどうするの!!」
レティシアが叫んだ。
そして刺客はドロシーに敗北してしまう。
刺客は剣を構えたが、ドロシーがモップを振り下ろした。
「帰れ」
「ぐはっ」
刺客は吹っ飛び、壁に激突した。
「覚えていろ!」
「覚えておくわよ!!」
刺客は窓から飛び出し、夜の闇に消えた。
ドロシーは屋敷の英雄になるのだった。
メイドたちが駆け寄ってきた。
「ドロシーさん、すごい!!」
「刺客を倒した!!」
「最強!!」
「惚れる!!」
ドロシーは胸を張った。
「まあね。刺客の一人や二人、どうってことないわよ」
「ドロシーありがとう。レティを守ってくれて」
ヴィクトールが言う。
「閣下、情けない姿も面白いからOKよ」
「面白い?」
「面白いわよ」
「はい」
レティシアは笑った。




