【第8話 崩れる連携】
「……で、どうやって儲けさせる」
低い声だった。
小さな店の奥。
灯りは暗く、空気は重い。
目の前にいるのは、あの小商人。
警戒は解けていない。
当然だ。
坂井新之助は、静かに座ったまま答える。
「まず、聞く」
「何をだ」
「今、どれだけ儲かっている」
沈黙。
男はしばらく黙っていたが、やがて吐き捨てるように言った。
「……大したことはねえ」
予想通りだ。
「理由は分かるか」
「元締めに持っていかれるからだ」
即答だった。
新之助は頷く。
「どれくらいだ」
「三割……いや、もっとだ」
空気が重くなる。
「それでも従うのは?」
「逆らえば、仕入れが止まる」
静かな現実。
(典型的な支配構造だ)
新之助は、少しだけ前に身を乗り出した。
「なら、変える」
「……どうやってだ」
「仕入れを変える」
男の眉が動く。
「直接、農民から仕入れる」
沈黙。
「そんなこと——」
「できる」
言い切る。
「すでにルートはある」
男の目が細くなる。
「……お前のところか」
新之助は頷く。
「品質は保証する」
「そして——」
一呼吸置く。
「中抜きはしない」
空気が変わる。
「……つまり」
「利益が増える」
短く答える。
男は黙る。
頭の中で計算している。
(迷っているな)
新之助は、静かに言った。
「もう一つある」
「何だ」
「情報だ」
男が顔を上げる。
「どこで、何が売れているか」
「それを共有する」
沈黙。
「……そんなこと、できるのか」
「やっている」
新之助は答える。
「だから売れ残りが減った」
男の表情が変わる。
「……」
「無駄が減れば、利益は増える」
静かに言う。
「お前も、その中に入れ」
沈黙。
長い沈黙。
やがて——
「……条件がある」
男が口を開いた。
「何だ」
「裏切らねえことだ」
まっすぐな目だった。
新之助は、即答した。
「裏切らない」
「仕組みで守る」
男は、少しだけ笑った。
「面白え」
ゆっくりと立ち上がる。
「乗った」
———
数日後。
変化は、すぐに現れた。
「あそこの店、最近安いぞ」
「なのに質がいい」
噂が広がる。
客が流れる。
「……来てるな」
商人の男が呟く。
新之助は頷いた。
(一つ、崩れた)
———
その頃。
別の場所。
「……おかしい」
外部商人の一人が、顔をしかめていた。
「売上が落ちている」
「一部の店だけだ」
別の男が答える。
「どこだ」
紙を広げる。
名前が並ぶ。
その中に——
「あいつか」
小商人の名前。
空気が変わる。
「……裏切ったな」
低い声。
「潰すか」
短い言葉。
だが——
「待て」
別の男が止めた。
「一つじゃない」
沈黙。
「他にも動きがある」
ざわめき。
「……どういうことだ」
「複数、だ」
空気が凍る。
「連携してやがる」
———
夕暮れ。
新之助は、町を見ていた。
(流れが変わった)
一つを崩す。
すると、連鎖する。
(組織は、弱いところから壊れる)
小さく息を吐く。
「……次だ」
まだ終わりではない。
敵は、動き始めている。
(正面から来るか——)
それとも。
「来るなら、受けて立つ」
静かに呟く。
その目には、確かな自信があった。
——戦いは、加速する。
――続く




