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第5話 ルールを作る者

「この町で商売するなら——筋を通せ」


商人の言葉が、静かに響いた。


坂井新之助は、その視線を真正面から受け止める。


(来たな)


避けられない衝突だ。


「その“筋”とは何だ」


問い返す。


商人は、わずかに笑った。


「簡単な話だ」


指を一本立てる。


「場所代」


「……」


「そして、仲介」


続けて指を立てる。


「俺たちを通して売れ」


空気が張り詰める。


「つまり——」


新之助が言う。


「また、同じ構造に戻れと?」


商人は肩をすくめた。


「それがこの町のやり方だ」


当然のように言う。


「守らねえなら——」


一歩、近づく。


「売れなくなるだけだ」


脅しではない。


事実だ。


(流通を握っている)


それが商人だ。


「……なるほど」


新之助は、ゆっくり頷いた。


「理解した」


商人が満足げに笑う。


「分かればいい」


だが——


「だが、断る」


空気が凍った。


「……何?」


商人の声が低くなる。


「自分たちで売る」


新之助は言い切る。


「利益も、自分たちで取る」


沈黙。


次の瞬間——


商人が笑い出した。


「はは……」


笑いはすぐに消えた。


「できると思ってるのか?」


「できる」


即答だった。


「理由は?」


新之助は、少しだけ口元を緩めた。


「客は“安くて良いもの”を求める」


「……」


「俺たちは、それを出せる」


商人は黙る。


図星だ。


「なら——」


新之助は一歩前に出る。


「勝負しよう」


空気が変わる。


「……勝負?」


「同じ場所で売る」


静かに言う。


「どちらが売れるか」


商人の目が細くなる。


「負けた方は?」


「従う」


短く言い切る。


ざわめきが広がる。


「本気か」


「本気だ」


沈黙。


やがて——


商人が笑った。


「面白え」


その目に、興味が宿る。


「いいだろう」


一歩下がる。


「受けてやる」


———


翌日。


市は、異様な空気に包まれていた。


「勝負らしいぞ」


人が集まる。


視線が集まる。


新之助たちの屋台。


そして、商人の店。


「始めろ」


誰かが言った。


——勝負が始まった。


最初に動いたのは、商人だった。


「安いぞ!」


声を張る。


普段より値を下げている。


(当然だ)


新之助は冷静に見る。


(価格勝負に来たか)


ならば——


「試食できます」


静かに言う。


小さく切った米を差し出す。


「……うまいな」


客が呟く。


「今年の新米です」


次々と手が伸びる。


「じゃあ、これをくれ」


銭が置かれる。


流れができる。


だが——


商人も負けていない。


「こっちはさらに安い!」


人が揺れる。


(分散する)


新之助は考える。


(このままじゃ拮抗だ)


勝ちきれない。


そのとき——


「……もう一つだ」


小さく呟く。


「何をする」


村人が聞く。


新之助は答えた。


「理由を作る」


そして、声を張る。


「この米は——丹波の水で育てました」


ざわめきが起こる。


「水?」


「今年は水を管理し、品質を上げています」


説明する。


「だから、この味です」


客が頷く。


「なるほどな……」


ただ安いだけではない。


“理由”がある。


「こっちの方がいいな」


流れが、変わった。


人が、新之助の店に集まる。


「売れてる……」


村人が呟く。


止まらない。


銭が積み上がる。


——勝負は決まった。


夕方。


商人が、静かに近づいてきた。


「……負けだ」


短く言った。


新之助は頷く。


「約束だ」


商人は、少しだけ笑った。


「面白えな、お前」


その目に、敵意はなかった。


「名前は?」


「坂井新之助」


「覚えた」


男は振り返る。


「これからは——」


少しだけ間を置いて。


「一緒にやるかもしれねえな」


そう言って去っていった。


———


村に戻る道。


袋に入った銭が、重い。


「こんなに……」


誰かが呟く。


新之助は、空を見上げた。


(これが、流通だ)


作るだけでは足りない。


売って初めて、価値になる。


そして——


(ルールを作る者が、勝つ)


小さく息を吐く。


「……次だ」


視線の先には、町がある。


(もっと大きくできる)


「市場を広げる」


その言葉とともに——


新しい段階に進む。


――続く

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