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【第4話 市場を壊す】

「……安すぎる」


坂井新之助は、思わず呟いた。


町の市。


並べられた米や野菜に、人が群がっている。


だが——値が異常に低い。


「こんなもんだろ」


隣にいた商人が肩をすくめる。


「今年はどこも出回ってる。値は下がるさ」


「……違う」


新之助は首を振った。


(おかしい)


村での手応えはあった。


収穫は確実に増えている。


質も悪くない。


それなのに——


(なぜ儲からない?)


答えは、一つしかない。


(間に、何かある)


———


「全部、買い叩かれてるんだよ」


低い声だった。


振り向くと、年配の商人が立っていた。


「……どういう意味だ」


新之助が問う。


男は鼻で笑う。


「お前、どこの者だ」


「丹波だ」


「なるほどな」


男は頷いた。


「いいか、よく聞け」


一歩近づく。


「農民はな、自分で売れねえ」


「……」


「売るには、商人を通すしかない」


新之助は黙って聞く。


「商人はまとめて買う。安くな」


「そして——」


男は指で空をなぞる。


「町で高く売る」


「……差額か」


「そういうことだ」


静かに息を吐く。


(中抜き構造……)


現代と同じだ。


いや、もっと単純で露骨だ。


「じゃあ、農民は」


「儲からねえ」


即答だった。


「だから皆、貧しいままなんだよ」


———


その夜。


新之助は、一人で考えていた。


(構造は分かった)


生産しても、利益は取られる。


原因は明確だ。


(売る手段がない)


ならば——


「作ればいい」


ぽつりと呟く。


(自分たちで売る)


それができれば、すべて変わる。


———


翌日。


村人たちを集めた。


「話がある」


ざわつく。


「次は、市場を変える」


一瞬、沈黙。


「……は?」


誰かが言う。


「どういうことだ」


新之助は、はっきりと言った。


「商人を通さず、直接売る」


空気が固まる。


「無理だ」


即座に否定が飛ぶ。


「そんなことできるわけねえ」


「町で場所を借りる」


新之助は続ける。


「自分たちで店を出す」


ざわめきが広がる。


「そんな金はない」


「ある」


新之助は言い切った。


「出資する」


「……は?」


全員が固まる。


「利益が出たら分ける」


静まり返る。


「失敗したら?」


「俺が負う」


即答だった。


「そんな——」


「本気だ」


新之助の声は、揺れなかった。


沈黙が落ちる。


やがて——


「……やるか」


あの老人が、また立ち上がる。


「ここまで来たんだ」


「最後までやるしかねえ」


一人、また一人と頷く。


流れが決まった。


———


数日後。


町の端に、小さな店ができた。


粗末な屋台だ。


だが——


「いらっしゃい!」


声を張る。


最初の客が、足を止めた。


「……丹波の米か」


「今年は出来がいい」


新之助が言う。


客は少し迷い、やがて頷いた。


「……じゃあ、少しだけ」


銭が置かれる。


——売れた。


その瞬間。


村人たちの顔が変わった。


「……売れたぞ」


小さな声が、やがて歓声に変わる。


「売れた!」


次々と客が集まる。


「安いし、うまいな」


「どこだ、これ」


人が増える。


流れができる。


——成功だ。


だが、その時。


「……面白いことをやってるな」


低い声がした。


振り向く。


そこには——


先日見た商人たちが立っていた。


目は笑っていない。


「商売の邪魔は、困るな」


空気が、一瞬で冷えた。


新之助は、ゆっくりと前に出る。


(来たか)


これは——


避けられない。


「これは、俺たちの商いだ」


静かに言う。


商人が笑う。


「ルールを知らねえようだな」


一歩、近づく。


「この町で商売するなら——筋を通せ」


圧がかかる。


だが、新之助は引かない。


(ここが分岐点だ)


ここで折れれば、すべて終わる。


「……なら、聞く」


新之助は言った。


「その“筋”とやらは、誰のためにある?」


沈黙。


商人の目が、細くなる。


「面白え」


口元が歪む。


「なら教えてやる」


その言葉に、空気がさらに張り詰めた。


——次の戦いは、“商人”だ。


――続く



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