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7/11

変態なの記念日

彼女は僕を誘ったのではなかった。

それなのに僕と来たら勝手に盛り上がってバカみたい。

堪え切れずに声を上げてしまう間抜けぶり。でもこれでいい。

「その…… 雨降りますよ」

どうにかそれっぽい情報を伝える。

ただこの日に限って降水確率はゼロパーセントなんだよな。

空を見ても雲一つない絶好の行楽日和だった。

今はもう午後だから。そろそろ日も落ちて来る頃。

とは言え紅葉も見頃だし間もなく冬になるので雨は降りにくくなってる。

それが現実で雨など降りようがないのに適当に嘘を吐く。


「もう何それ? 山田君おかしい」

「ははは…… 」

いつものように僕の存在を認識できない彼女はただ興味なさそうに下を向く。

いや少しはこっちを見てくださいよ。僕ですよ。第三の山田ですよ。

確かに学校では目立たないかもしれないが一応はクラスメイトでしょう?


「山田君? 」

ついに彼女が僕の名を呼んだ。若干疑問形なのは気になるところではあるけれど。

これはもうあれだ…… 記念日にしよう。

認識されないと悩み続けた日々からの解放。祝日にしたって構わない。

それほどの出来事。まさか彼女から僕の名前を聞く日が来るなんて感動したな。

待ち望んだ今日と言う日に乾杯。感動の涙が降るでしょう。


おいおい相当浮かれてるな。まるで僕が僕でないような。そんな気分。

高揚感が半端ない。しかしそれでも彼女は当てにならない。

明日にはコロッと忘れるのが彼女。実に清々しいほどの忘れっぷりを披露。

誰の一言で片づけられショックで寝込むことになる。立ち直れる気がしない。

それだけはやめてくれよな。精神が保てなくなる。


「どうしたの? 山田君がどうしたの? 」

サポートに回る仲良しの一人。確か横田さんだったっけ?

毎日話してるけど名前は当然のこと苗字は記憶の奥深くに眠っている。

いつも名前など呼んでないし気にもしてない。ただ世間話をするだけ。

たまに彼女について何気なく話してくれるので助かっている。

忘れやすい彼女ではないが苗字は気にしてない。隣人Aとしか認識してない。

基準はすべて彼女。彼女が中心にこの小さな世界が形成されている。

そう彼女も酷いけれど僕だって人のことが言えない。

でも皆大体そんなものだよね。個人差あれど大差ないさ。


「ごめん。山田君だっけ? 」

「そうそう。気象予報士の夢を持つ山田君だって」

適当な冗談で場を盛り上げようとする横田さん。あくまで横田さんの勝手な妄想。

僕は一度だってそんな夢を語っていない。

「違いますよ。僕の夢はもっと単純で…… ハーレムを築きたいなと」

訳の分からない告白をしてしまう。

しかも周りには人が残っていて冗談にも聞こえない。

「山田君って変態なの? 」

真顔で質問する彼女。どうかしてるぜ。それは男は例外なく皆変態だろう。

ただ残念ながら僕はそれに当たらない。ご期待に応えられない。

そう言う点では稀だけどほぼストーカーだから帳消しになってしまう。


これで完全に認識されただろう。しかしそれでもまだ当てにならないのが彼女。

次の日には都合よくきれいさっぱり忘れてしまう特殊能力の持ち主。

どうやったら忘れるのか不思議なくらい。やはりバカの二文字が相応しい。

忘れるか…… それでもいい。だったらいっそのことこのまま告白してしまえ。

 

「いえ…… 僕はその…… 」

ナヨナヨしてるとじゃあと言って教室を出て行ってしまった。

興味がないからってじゃあはないだろう? まさか警戒された?

このままではハーレム大好き変態の山田君になってしまう。

それはそれで悪くないと思ってるが僕の市民権が剥奪されてしまいかねない。

明日からそのように思われてしまう。うーん悩ましい問題。

こうして偶然にも彼女に強烈な印象を残した。

第三の山田から完全に脱却した。もう誰とは言わせないぞ。


へへへ…… いい気分だ。今日はサークルもないしゆっくり下校するとしよう。

「おーい元気! 」

光が追いかけて来た。一緒に帰ろうと友だち思いのいい奴。

でも今日ぐらいは放っておいて欲しい。

この最高の気分を分かち合おうとは思わない。

「何だよ光。人がいい気分に浸ってる時に」

つい調子に乗る。もちろん光は気にするような人間じゃない。

と言うかそもそも話を聞いてない節もある。


「なあどこかに寄って行こうぜ」

いつも唐突に誘う光。僕はただついて行くことになるのだが。

「それで? 」

「お前に頼みがあるんだ。どんな絵にすればいいか聞きたくてさ」

光の面倒臭い頼みごと。実力も感性も鋭いのに自信がないのか僕に聞いてくる。


光の夢は小さな個展を開くこと。それを二十歳までに果たしたいと必死だ。

僕が無理だと諭しても聞く耳を持たない。

いい奴だけど人のアドバイスは適当に聞き流すのになぜか僕の意見を聞きたいと。

モデルが決まるとすぐにアプローチをかける。

そこで許諾を得れば一気に書き上げる。それが光の凄いところ。


今ようやくモデルが見つかったらしい。

後の細かい調整をして構図を気にしつつ取り掛かるのだが。

そんな専門的なこと当然僕にはアドバイスできないから光の反応を見て決める。

要するに初めから何をするか決まっててただワンクッション入れたいだけ。

これって意味ある? おかしな儀式に付き合わされる僕の身にもなってくれよな。

面倒臭いことこの上ない。


                続く

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