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なぜここに?

白っぽい服を着た明らかに雪女風の格好で迫る謎の女性。

その正体は伝説の雪女に違いない。もうそれしか考えられない。

一度そう考えればもう他には何も考えられなくなるのが人間。

第三の山田とは言えこの極限状態で思考が停止するほど情けなくない。

大丈夫。きっとこの絶望的な状況でも乗り切れるさ。

それに雪女は意外と情に厚い。懇願すれば許してくれる。たぶん……

でもそうなる前に逃げ切るのがいい。それが安全策。

ただ声も出なければ体も動かない。まるですべてを支配されてしまったかのよう。


逃げるに逃げれない最悪の状況。やはり個室はダメだった。

無理にでも光のところに居座ってれば…… 最悪大田原さんのところだっていい。

こっちがよくてもあっちがダメなんだけどね。

ビンタの十発や百発我慢してでも無理にでも一緒に寝ればよかったんだ。

随分と冷静に物事を捉えられるようになってる。

もうきっと大丈夫。雪女に連れていかれないさ。


雪女との生活を想像する。

きっと寒いんだろうな。雪の中をずっと凍死するまで一緒に歩く。

素足で雪の中を目的もなくさまようのは辛いんだろうな。

少しはこっちのことも考えてくれよ。

雪女に言っても通じないって分かってるけどそれでも文句の一つも言いたい。


「元気! 元気! 大丈夫? 」

雪女は僕の名前さえ知っている。これは驚いた。自己紹介はまだしてないぞ。

ははは…… 第三の山田も有名になったもの。

それこそ山田なら分かる。適当に佐藤や鈴木と呼べばいつか当たるんだから。

初めに山田君と呼べば座布団一枚ぐらいは余裕で。

でも元気では説明がつかない。事前に知っていたとしか思えない。

それとも何もかも知る伝説の占い師なのか?

ただ今となってはどうでもいいこと。さあそろそろ諦める頃合いだ。

でもその前に見苦しく抵抗してみるか。

「いえ…… そのような名前ではなく僕は光で…… 」

危ないよな。もし認めて返事をすれば雪女に連れ去られる。

どこかで聞いたことのある設定。だからってそう簡単に連れ去られて堪るか。

僕はここにいるけどいないんだ。最後まで抵抗してやる。

適当に名前を使って雪女を翻弄する。これで雪女だって迷うはずだ。

その隙をついて逃げ出せばいい。


「どうしたの元気? 」

「雪女! 君は部屋を間違えている。二つ隣に目当ての者がいるはずだ。

僕はただの第三の山田であって元気などと言う人物ではない。決してない。

光だ。僕は光…… 」

恐怖と後悔が入り混じる。

相手は得体のしれない雪女。そんな奴に第三の山田が立ち向かわなけばならない。

力だってないし閃きもしない。どこにでもいるごく普通の男。

そんな奴が下手に主役になったものだから恐ろしいことに巻き込まれた。

ああ雪女様どうぞ連れ去らないで下さい。自分は雪女様の忠実な僕なのですから。

尻尾を振ってついて行くし背中だって流す。望むなら全身を舐め回してもいい。

もう何でもするつもり。覚悟を決めたよ。


「はあ元気でしょう? お兄ちゃんを生贄にして酷いな元気も」

呆れた様子の雪女風女子。ついに正体を現す。それはミツキちゃんだった。

嘘だろう? 四度目かよ? 冗談じゃない……

違った…… なぜミツキちゃんが? あり得ない。あり得ないんだ!

「やはり君は雪女なんだろう? 変身するのはお手のもの。そうに違いない。

僕は信じないぞ。君がミツキちゃんだなんてあり得ないんだ! 」

もう現実なのか妄想なのかさえ区別がつかない。

こう言う場合夢が一般的だがまだ覚めないところをみると違うよう。

「ミツキに決まってるでしょう? 」

そうやって白の上下を着た女性。絶対に雪女だ。

なぜそこまで寒そうな雪女カラーなのか?

中学生の間ではその手の服が流行ってるのか? 

「決まってない! 雪女め。正体を現せ! 」

覚悟を決めた。相手が何と言おうと否定してやる。


「へへへ…… そうです。実は雪女だったの」

甘えた声で告白する。

かわいらしく言っても無駄。今更認めても信用できるか。

ここは雪女には悪いが厳しく対応させてもらおうか。

「やっぱりそうじゃねえか! 連れ去る気か? 」

もう甘い顔はしない。相手はただの女じゃない。雪女なんだから。

微笑んでいれば魂を抜かれるだろう。絶対に隙を与えてはダメだ。


「どうしたの元気? 寝起きで機嫌悪いの? お兄ちゃんから何も聞いてない?」

「元気? お兄ちゃん? まるで本物のミツキちゃんみたいに言うな! 」

「酷い…… どう見ても私はミツキでしょう? 」

そんな風に信じ込ませようとする。変身が可能なら簡単なこと。

でもどうやってミツキちゃんに変身したんだ? その存在は僕の頭の中だけ。

まさか僕の脳に侵入したのか? 回りくどい真似。そこまですることか?

「確かに見えるよ。でもお前はミツキちゃんなんかじゃない! 嘘を吐くな! 」

つい怒りに任せて大声をあげてしまう。情けないな。

隣はもうとっくに寝ているだろうにこれ以上騒げば追い出されかねない。

でも実際はそれでいい。無事にここを出れるならそれぐらいどうってことない。


「そんな…… 仲間でしょう? 」

そう言われては違うと言わざるを得ない。

もしそうだと言えば本当に連れて行かれる恐れがある。

どうしてもそれだけは避けなければならない。

「ねえってば! 仲間でしょう? 」

「お前は仲間なんかじゃない! 」

「どうしたの元気? だったら恋人は? 」

真剣なミツキちゃん。恋人だなんて冗談じゃない。

仮に彼女が雪女ではなくても恋人などいない。いるとしたら碓氷さんぐらい。

「お前は恋人なんかじゃない! 」

「酷い! また言った? どうしてそんなこと言うの? 」

あれ…… 雪女が堪えてるぞ。だからってここで気を緩めては連れて行かれる。

何の根拠もないが感覚で分かるもの。

ここは心を鬼にして否定し続ける。それが僕の生き残る道。


                 続く

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