スキー合宿
土曜日。一泊二日のスキー合宿へ。
生憎の空模様。どんよりと曇っている。
雨でないだけマシだがこの季節の曇りは堪える。
もう真冬だからな。スキー場につけば気にしないんだけどそこまでが長い。
やはり深夜バスにするべきだったか?
一泊二日ならそれが一番なのにどうしても嫌がる者が一名。
大田原さんだ。スキー参加は寒がりもあって積極的ではなかった。
それでも光が勝手に申し込んだからな。
三人だけとは言え一人は女子。これくらいの気を利かせないといけない。
そう言う訳でゆっくり出発だったから午前が潰れてしまった。
今更焦っても欲張っても意味がない。ゆっくり過ごすとしよう。
「なあ光。お前体調でも悪いのか? 」
どうも隠しごとをしているようでおかしな言動が目立つ。
そうと言ったり違うと言ったり。聞いた時にコロコロ変わるから分かりやすい。
でも奴はそう言うの得意そうなんだけどな。罪悪感があるのか挙動がおかしい。
とりあえずスキーをレンタルする。
スノーボードでもよかったがよく考えたら扱いが難しいことに気が付いた。
それとボードをつけてのリフトの乗り方が分からない。難しい。怖いと来てる。
小さい頃に何度もスキーしてたので感覚はある。ただスノーボードは不慣れ。
「大丈夫かよ元気? 震えてるぞ? 」
寒がってと思ってるらしい。それはもちろんある。
滑ってる時以外はどうしても体が冷えるからな。
いくら着込んでも寒いものは寒い。真冬にスキーになどいくものじゃない。
寒いもあるけど痛いもある。寒くて痛いは最悪だ。
早く体を動かして汗を掻かないと寒くて寒くて。
そんなこと言ってたら碓氷さんに笑われる。その前に大田原さんか?
でも彼女も寒がりだからな。防寒対策はきちんとしてるよう。
ホッカイロも貼ってるみたいしだな。僕も用意しておけばよかったかな。
「きゃあ! 」
ついおかしな声を出す。もちろんわざとではない。ただ怖くて。
だから遠慮なく光に抱き着いた。
「おい何をやってるんだよ元気? 前が見えないだろう? それに危ないって」
文句を言うが満更でもない様子。あれ…… 逆に喜んでないか?
だったらもっと大胆に行ってもいい?
「もうちょとこうしていてくれないか? 頼むよ! 」
懇願する。だってここのリフト意外にも高いしバーを下げても怖さは変わらない。
下を見ないようにしても横を見れば同じ。ずっと揺れてる気がする。
「うわ! 」
光まで堪え切れずに大声を上げる。
いきなり止まったものだから驚いたのだろう。
まったく何やってるんだよ? 後ろを振り返るがここからでは見えないし危ない。
どうせ初心者だろう? 困ったな……
後ろがリフトを止めるもんだから揺れて仕方ない。どうしてすぐに再開しない?
もはや冷静さなどない。ただひたすら怯える。
恥ずかしい話だが降りるまでずっと光にしがみついていた。
もし碓氷さんがいれば嫉妬でどうなっていたことか?
でもいくらストーカー気質の彼女でもここまでは来れないさ。
きっと有意義な週末を過ごしてるに違いない。
でもいないとも言い切れないのが怖いところ。
何だかおかしな視線を感じるんだよね。気のせい。気のせいだと思いたい。
いやあり得ない。碓氷さんには伝えてない。知ったところで手も足も出ないさ。
「まったく落ち着けって元気! そんなに高いとこダメだったけ? 」
そう言って笑うデリカシーのない奴。
高所恐怖症の者にとってリフトがどれほどの存在か分からないんだ。
高いところで言えば観覧車に匹敵する。
ただあっちは景色はいいが開いてないので危なくない。
だがこのリフトに関して言えば安全バーがいくらあっても足は空中だからな。
やってられないレベル。そんな時にリフトを止めれば恐怖は何倍にも膨れ上がる。
これでもまだマシな方。パニックになったら収拾がつかなくなるぞ。
そう言う面では僕はまだ冷静。レベルマックスまで行ってない。
こんなことがあればスノーボードは無理だと諦めがつく。
あれは余計に乗り辛いからな。手に持つにしても滑って落ちそう。
想像するだけで吐き気がする。ゴンドラタイプで上に行くのが一番楽で怖くない。
しかしそれも上級者用でもっと山の頂へ行く場合に限られる。
とにかくゆっくりハの字で斜めに。
勢いをつけて直滑降は地獄の始まりさ。
スキー板を揃えて華麗に滑るのはもっと慣れてから。
きれいなターンを心掛けたらバランスを崩すに違いない。
そうなれば雪まみれで冷たくて風邪を引くだろう。
今はコツを掴んで感覚を取り戻すことに集中しよう。
久しぶりだから慎重に雪を撫でるような感じで優しく。
「お先に! 」
そう言って命知らずの光はスピードを上げる。
まったく奴だって久しぶりなのに格好だけはつけるからな。
誰も見てないって。ゴーグルに帽子にダボダボな服では見分けもつかないっての。
奴が二周してる間に一周する計算。ゆっくり無理をしないを心掛ける。
常に信頼の置ける者と二人で乗るのが正しい
絶対に一人ではリフトに乗りたくないし知らない人と乗るのも落ち着かない。
我がままかもしれないがそれが人間だもの。
後は迷惑を掛けたくないと言うのもある。
大田原さんが一緒に乗ってくれるならいいがどこ行ったのか? 完全に見失った。
こうして奴が十回下って僕は五回で我慢。
三時間近く滑り充実した一日となった。
「もう恥ずかしいから引っ付くのはよせ! 」
光からクレームが入る。でもこれは不可抗力。
明日だって思いっきり迷惑掛ける自信はある。
さあお風呂に入って疲れを癒そう。どうせリフトの恐怖の克服は簡単じゃないさ。
続く




