薄明り遭遇
ここはどこ? おかしな世界に迷い込んだ?
地理が苦手の第三の山田では打つ手なし。
それにいい加減で適当な光がいては解決するものも解決しない。
「なあ手を繋がないか? 」
奇妙な提案をしてみる。もちろんただの悪ふざけではない。
触れ合いたいなどの邪な心からでも当然ない。
この最悪の状況を打破するため。それには手を繋ぐのが手っ取り早い。
ただ強引だしちょっとだけ恥ずかしいかな。
しかしこれで問題が解決するなら安いもの。
ただふざけてると思われ説得にはどうしても時間が掛かってしまう。
「なあ光…… 頼むよ。どうしてもお前と手を繋ぎたいんだ! 」
大胆に迫る。中途半端だと気持ちを悟られるからなるべく大げさにがいい。
「いや…… 気持ちは嬉しいけどこれに意味あるのか? 」
おかしな断り方。きちんと断らないともっと迫るぞ。
おっと…… そうじゃない。ただの欲望とは違うんだ。
勘違いされては困る。僕にはそのような考えはない…… と思いたい。
「ねえってば光! 」
「もう何だか知らないが繋ぎたいなら好きにしろ! 」
ついに光が折れる。まあこっちとしても本気じゃない。
ただ光の驚くところが見たかっただけ。
さすがにそれは下手な言い訳か。
こうして手を繋ぐことに。
「なあこれでどうするつもりだよ? 」
「さあ…… もう少し様子見して変化がなければ別のを試す」
「はあ? 何を言ってるんだお前? 頭大丈夫か? 」
また心配してるんだかただ馬鹿にしてるんだか。
大丈夫に決まってる。でも時々自分が分からなくなる時がある。
何て言うか僕ってその場の雰囲気に流されてしまうから。
決して光に本気な訳じゃない。でもそれを言えば碓氷さんやミツキちゃんとも。
迫って来たら誰でもいいのかもしれない。
おっと…… いけない。今はこの迷宮から脱出することだけを考えよう。
迷い人に光を差す女神様よどうぞその姿をお見せください!
光と手を繋ぐことニ十分ようやく動きがあった。
何だか嫌な感じ。鋭い視線に晒される。そうこれでいい。
これこそが求めていたものだから。いつもは恐れていたこの視線を待っていた。
どうやら視線は後方から。するとまず間違いなく碓氷さんだ。
僕なんかのために見守ってくれていたのか? 本当に感謝しかない。
では手を繋ぎながら次の道を左に。そして真っすぐの道を駆け足で。
それを繰り返して追跡者を振り切る。
うん完璧。さあ姿をお見せください女神様。
そして今度は来た道を急いで戻る。
こうして謎の追跡者と鉢合わせ。正体を知ってるので笑いを堪えるが大変。
それでも偶然を装う。相手だってそれを望んでいるだろうから。
日曜日のどこだか分からない場所に碓氷さんがいてはおかしい訳で。
ご心配なく。ただ今回だけはその好意に甘えようかなと。
「済みません。最寄り駅にはどう行けば? 」
一応は初対面の対応。知らない振りをしたあげる。それが優しさ。
だけどこんなストーカーみたいな真似させないよう言うのが本当の優しさ。
「おい元気! さっきから何をしてるんだよ? 」
突然走って手を離したと思ったら突如引き返すものだからおかしく映るのだろう。
文句言いたくなるのも分かるな。迷ってイライラしてれば余計。
だが光と会わせる訳にはいかない。それは碓氷さんも同様らしく慌てた様子。
「それでしたらあちらに」
そう言って大雑把に教えてくれた。
誰かも知らないで深々と頭を下げる光。
こうしてストーカー紛いのことをしていた碓氷さんを発見。
帽子にマスクに手袋とは凝ってるな。
ただそれでは年齢不詳で不気味だぞ。これで声を出せば疑われるのは間違いない。
もう何をしてるんですか碓氷さん?
「名前だけでも…… 」
そんな風に格好つける光。しかしそれには当然答えられない。
言えば気づかれる恐れがあるからだ。だから碓氷さんはただ不気味に笑うだけ。
ああ何をやってるんだろう? 放っておけば憧れの碓氷さんが行ってしまう。
だがそのまま見送るのがいい。それから後ろに気配を感じることはなくなった。
これは僕たちの完全勝利と見ていい。何てね。
とにかく偶然通りがかりの女性に道を聞いてどうにか戻ることができた。
「ああもうどうしたんですか二人とも? 探したんですよ? 」
大田原さんの姿が。うんこれで全部丸く収まったかな。
「もう! 夕方じゃない! 」
ほぼ何もできなかったと嘆く。それはそうか。目的地に着く前に迷ったからな。
光がいてはこれもある意味仕方ないこと。
大田原さんに納得してもらったのは結局二日経ってだった。
迷ったことで僕たちは奇跡の出会いを果たせた。
これは光にとっても嬉しいことだろう。
碓氷さんだって思いがけない幸運だったに違いない。
今更ながら自分らしくないことをしたなと反省している。
火曜日。
奇跡が起きた。大田原さんが怒ってない…… ではない。まだ凄く怒ってる。
そうではなくて碓氷さんが明るい。笑顔を振りまく。
それは日曜日のことがあったからだろう。本当に単純だな。
そして光が歩いていたところに碓氷さんが。
日曜日にお世話になった人が実はこの学校の生徒でしかも隣のクラスと認識した。
その上で積極的に光から話しかけられた碓氷さんは喜びを隠せずにいる。
現場をたまたま目撃した僕は凍り付くしかない。
これでは二人は急接近してしまう。それだけはどうにか避けなければと。
ただ意外にも光はあっさり感謝の言葉を述べ行ってしまう。
後で聞いてみたが名前も聞かずだったそう。
それで僕に碓氷さんの名前を聞く訳だけど……
当然まともに答えないのが安全策。二人の急接近は僕には脅威でしかない。
しかしあそこまであっさりしてるところを見ると大丈夫そうではあるが。
光だって認識だけはしたろうがそれでも次の日にはきれいさっぱり忘れているさ。
薄情だがそれが奴だ。淡い期待など持ってはいけない。
最低最悪の男こそが光の正体。その称号に恥じない最低行為を繰り返す。
続く




