碓氷さんを知る者
どうやら母さんは僕たちの関係を認めてくれたらしい。
一時は幼気な中学生に手を出した最低息子として捉えていたはずだ。
でも誠実な対応とミツキちゃんのお陰で誤解が解けた。
実際はミツキちゃんが滅茶苦茶に引っ掻き回してるだけ。
これは一歩前進? そんなはずないよな。絶対に落とし穴がある。
それが第三の山田の直感。
大喜びのミツキちゃん。でも僕は納得できない。
まあ子供だから。その内格好いい男にでも出会えばコロッと変わるだろう。
それまでは恋愛ごっこに付き合ってやるか。元々彼女とは相性がいいしな。
そんな風に格好つけて余裕を見せる。当然思ってるだけで言葉には出さない。
ミツキちゃんが本気なら仕方ない。でもそうならきちんと告白しないとな。
このままズルズル行くのは絶対にダメだ。彼女の為にもけじめをつけないと。
ただ僕は第三の山田だからいざ告白するとなると緊張して後回しにしそう。
「おいまだかよ! そろそろ支度しろ! 行くぞ! 」
父さんが痺れを切らし叫ぶ。
こうしてミツキちゃんを含め四人で楽しく昼食へ。
それにしてもこの後どうなるんだろう?
碓氷さんの件もあるし光だって…… もう自分ではどうしていいのか分からない。
「ねえ元気。どうして最近遊びに来てくれないの? 」
食事を終えなぜか僕が駅まで送ることに。一人で帰れるだろう?
まだ暗くないのに朝だってきちんと来た訳で。不満を隠し笑う。
「ははは…… ほら光がどうしても気になって…… 」
「まさか元気もそっちなの? 」
「おいおいそれはミツキちゃんが指摘したんだろう? 」
「あれは冗談…… ううん。私の嫉妬かな」
「はあ? 嫉妬で嘘を言う必要があるのかよ? 」
「あなたには好きな人がいるでしょう? 」
はいはい。直球で来ました。いないと言うのがこの場合正しいのだろう。
でも好きな人の一人や二人いるのが当たり前。それを否定するのはただの嘘つき。
最低な人間。だから正直に言う。彼女にどう思われようとそれは譲れない。
「ははは…… もちろんいるよ。ミツキちゃんに決まってる! 」
そうやってキスをする。これでいいのかな?
「ありがとう。でもそんなんで騙されない」
しっかり目を見るミツキちゃんについ視線を落としたくなる。
だが我慢だ。ここで逸らせば確定してしまう。最低男にはなりたくない。
第三の山田は果たしてこの中学生を騙せるのか?
基本的に男女は騙し合いな訳でただ経験値がないからすぐにボロが出る。
でも相手は女の子と言ってもまだ中学生だからどうにかなるさ。
もちろんそんな舐めたこと言ったらぶっ飛ばされそうなので思うだけ。
「いるんでしょう元気? 」
「はい。たぶん…… 」
気持ちとは裏腹にあやふやに答えてしまう。
「たぶん? はっきりしてよ! 」
「います。申し訳ありあませんでした! 」
ダメだ。本気のミツキちゃんにはとても適わない。
ここは煩悩退散してミツキちゃんだけを考えよう。今はミツキちゃんだけ。
「やっぱり…… でも知ってた。お名前は? 」
自然に踏み込んで来た。でも僕が誰を好きだっていいじゃないか?
そもそも名前を言ったところで分かるはずがない。
「さあ…… 」
「碓氷さんでしょう? 碓氷朱里さん。あなたのクラスの人気者」
何と僕のことを調べていたと言うのか? 恐ろしい。そんなことして意味あるの?
まさか第三の山田の存在も知っているのか? それは恥ずかしいぞ。
「碓氷さんってあの…… よく犬を散歩させる…… 」
「それはあなたがでっちあげた偽りの碓氷さん。
ミニスカートを履いた男や素敵なお姉さんだったりとコロコロ変わるんだから。
あなたはごまかせたと思ったでしょうけど私はそこまでバカじゃないの元気! 」
うわ…… ミツキちゃん怖いな。どうしてそんな顔をするのかな?
「ははは! 何を言ってるんだ? そうか光がそう言ってるんだな? 」
「今はお兄ちゃんのことは忘れよう。何度言えばいいのかな? 」
これはマジだ。しかもキレてる。まずい。どこでこうなった?
「うん。そんな奴のことは忘れた。それでミツキちゃんはどうするつもり? 」
「聞きたい? 」
「うん聞きたいな」
実際は一言だって聞きたくない。何だかかわいさと優しさが消えた。
今にも食い殺されそうなそんな目つきと雰囲気。
両方とも僕の感覚なだけだから実際はどうか分からない。
きっと勘違い。そうだといいな。
「別に何もしない。ただお兄ちゃんに接触したらただじゃおかない! 」
光は忘れるんじゃなかったのか? これって宣戦布告。
要するに僕は碓氷さんに近づくなと伝えればいいのか。それは僕だって……
「分かったよ! その辺は任せておいて。全力で止めるから」
こっちとしても碓氷さんを光には近づけないようにしてる。
ただよく後ろにいるからな。いつ遭遇してもおかしくない。
そんな時の為に秘策だってきちんと用意してある。
きっと驚くぞ。ミツキちゃんもそうだが光は聞き返すほどショックを受けるはず。
「ありがとう元気! 」
そう言って抱き着いてキス。サービス旺盛だなミツキちゃんも。
僕たちは同じ考えの下で協力関係を結んだ。
ミツキちゃんは光の周りをウロチョロする碓氷さんを敵対視している。
僕は僕でその碓氷さんを絶対に光に会わせない。二度と接触させない。
その任務を全うしようと思う。これは僕たちの為になる。
「じゃあこれで」
「また会いたいな…… 」
そんな風に我がままを言う。どうやら次回は三日後ぐらいになりそうだ。
こうしてミツキちゃんと正式に付き合うことになった。
いやそれも違うか。両親から許しが出ただけか。
続く




