公園のベンチで肩を寄せ合う
視線を感じないかとの光の指摘はきっと勘違い。ただの思い込みであり心の不安。
それらがおかしな現象を引き起こしてると勝手にそう思っていた。
しかし真実はどうやら違っていたらしい。奴の言う通り存在していた。
それはおかしな存在などではなくよく知る身近な人物。
碓氷さんに違いない。
ここで指摘すべきか黙るべきか?
奴の苦しみを解放する為にもその正体をきちんと伝えるべきとの結論に達する。
だが素直に教えれば奴が碓氷さんを認識してしまう。
なぜ碓氷さんがここまで光に執着するのか謎だが二人を会わせては危険だ。
気軽に紹介すれば二人が急接近しないとも限らない。
だから奴にはどうしても伝えられない。伝えてはいけないんだ。
これも一種の優しさ。友情に決定的なひびが入らないようにする。
見たいものだけを見る。あえて知らせずに放っておくことが奴の為にもなる。
これは決して嫉妬ではない。知らなくていいものまで見せる必要はない。
まず間違いなくその視線の正体は碓氷さん。
彼女の憧れの人が奴である以上それはある意味当然のこと。
真相を解き明かせばこんなもの。
ふふふ…… つまらない話さ。
光であって欲しくないと願う放課後の虚しさと同じこと。
今回は碓氷さんでなければいいなと。
しかしあれだけストーカーのような真似するのは少なからず光に好意を持ってる。
ミツキちゃんも考えられたが学校で部室にいる時も感じた訳だから。
無いとは言わないが限りなく低い。そうすると残されるのはもう彼女しかいない。
そう碓氷さんだ。碓氷さんがずっと見ていたり後をつけていたなら説明もつく。
光は無意識の間に格好をつけたか絵のモデルにでも誘ったかして仲よくなった。
例によってその辺は無頓着で相手の名前さえ覚えてないのが最低男光だ。
さすがに会えばその時のことが蘇るはずだ。それが画家ってものだろう?
前回家に行った時に最近の絵は見せてもらってる。
奴からしてみればどうぞご自由にだから隠すこともない。
当然そこには碓氷さんの絵は見当たらなかった。
あえて別にしてたとも考えにくい。だからモデルの件はあり得ない。
と言うことはモデルを断った時に恋してしまった。あるいはまったく別の機会?
隣のクラスだからな。接点はそれなりにあるさ。
こんな奴など選ばずに僕でよかったと思うんだけど。そうはいかないんだろうな。
とにかくどう言う接点があったにしろこの視線の正体は碓氷さんだ。
なぜかストーカー紛いのことをして僕たちを見ていた。
それが帰りもだとなるとこれはもう碓氷さんがつけていたことになる。
しかしそのことを馬鹿正直に話せばどうなる?
きっと興味を示すに違いない。だから自ら墓穴を掘るようなことはしない。
その代わりではないがくっ付いてみることにする。
「なあ光! 手を繋いでくれないか? 」
「はあ? 大丈夫かお前? どこか具合でも悪いのか? 」
さすがの光も訝しがる。と言うか嫌がっている。それはそうだよな。
ある意味実験なんだけど決して協力的ではない。
「ちょっとの間だけだって。その公園に寄って対策を考えようぜ」
北風が吹く中で寒がりの光の手を握る。
「どうしたんだよ元気? 妹が遊びに行ってからおかしくなってるぞお前! 」
冷静に分析し指摘されるとさすがに堪える。
確かにミツキちゃんの説だ。でも何となく自分でもそんな気がしていた……
ただそれ以上に今は碓氷さんの反応を見てみたい。
結局僕は欲張りなのさ。
「なあ寒いんだよ光…… 」
手袋をする陽気でもないので手が寒くなっている。
このままでは凍傷してしまう…… はいくら何でも大げさか。
「おい元気ってば! 」
「なあこのまま温まるまで繋いでいてくれないか? お願いだよ! 」
嫌がる光に無理やり頼み込む。
「本当におかしな奴だな。分かったよ。ちょっとだけだからな」
こうして許可を得てイチャイチャすることができた。
別にそこまで望んでない。勘違いしないで欲しい。
碓氷さんを誘き出す為に行っている。ここまですれば冷静ではいられないさ。
しかし時間が時間だけに寒くて仕方ない。
まだ姿を見せない? 相当用意周到なんだろうな?
僕なんか真似できないよ。
殺気? とんでもなく鋭い視線が突き刺さる。
寒気がするほどの殺気。これは逃れられない。
「おい元気もっと寄りかかっていいぞ。疲れてるんだろうお前? 」
どうも凄く勘違いされてる気が。まあこんな提案するならそう思うか。
何だか悪い気がする。光ってばいい奴だから。
奴の男気に惚れ直したかな。いや。元々惚れてないし……
それから三十分はイチャイチャして見えないストーカーもどきを挑発する。
危ないよな。でもこれで明日碓氷さんの態度が変わったらほぼ確定だ。
絶対にあり得ないことだけど結論を述べよう。
ずっとつけていたのはまさかの碓氷さん。
一種のストーカー行為。すぐにでもどうにかしないとならない。
「ねえ…… 実はさこれ秘密なんだけど…… 」
そうやってどんどん光との距離を縮める。別にどうってことない。
ただ見ていたとしたら嫌だろうなと思う。
でも多少は相手を誘き出そうとしてるのだから仕方ない。
「また明日な」
暗くなったのでさすがにもうお終いにしよう。
「おい元気! いきなり変だぜ? 」
どうやら光は最近僕が変だと言うのことに凝ってるらしい。
全然らしくない。本当に困った奴だな。
続く




