誰なんだ?
放課後。僕たち以外にも数名の生徒が教室に。
ついに碓氷さんの秘密が明かされることに。
親友の一人である彼女が言うのだから間違いない。
適当に答えていた好きな男の名前が変わり固定された。
本当に好きな人ができたんだろう。感覚的にはこの二学期に入ってから。
僕が認識されたのも二学期だった。これはもしかしたらあり得るぞ。
手応えあり! 呼び出された屋上で確かに大好きだと告白を受けた。
まるで昨日のことのように鮮明に覚えている。
あれが冗談や悪ふざけやただのノリでなければ僕の可能性が高い。
「その好きな人ってのは山がつくとか? 」
「ううん。漢字でシンプルに一文字。名前から言ってもお似合い」
どうやら山田ではないらしい。残念だ。でも粘ればきっと変わるに違いない。
「へえ…… 例えば三番目だとか? 」
「何を言ってるの元気君? 一番目だって。人の話聞いてた? 」
そんな風に正論で来られたら反論の余地がないじゃないか。
碓氷さんの親友だけあってルックスは申し分ないからな。
つい見つめられると何も言えなくなる。
「ごめん…… 続けて。どうも予想とは違ったから悔しくて」
どうにかごまかす。自分かとはさすがに聞けない。
「うんうん。それでいいの。もっと楽しんでね」
どうやら僕の苦悩も知らずにただ楽しんでると思ってるらしい。
そんな奴誰だっていいしどうだっていいんだよ。
くそ! 最後の望みが絶たれた。僕だと思ったのに。
「不満そうね。言いたいことがあるならはっきりどうぞ」
「いや…… そんなことないよ。いつだってきれいで面白いし為になるから……」
持ち上げてどうにか続けさせる。まさか顔に出てるとは思いもしなかった。
「そう…… では発表します」
まずは碓氷さんの好きな人だ。それをゴシップ好きのクラスメイトから聞き出す。
何だかせこい気もするがこれも彼女のすべてを知るための第一歩。
相手を知らずしてライバルと戦えない。知っても勝てる自信はないが。
もう充分だ。思い切って聞くことに。葛藤がないとは言えないがそれでも……
「ほら耳を…… 」
まさかのご褒美。ありがたく受け取るとしよう。
でも彼女が情報屋じゃなかったらあざといなと思うんだろうな。
「お気に入りは! 」
隠しごとが苦手なのか大声で発表しようとする困った人。
他の奴に聞こえるし第一耳によくない。
「抑えて普通でお願いします」
「では改めて…… 朱里のお気に入りの彼は同級生で…… 」
そこで止める。ああふうふうして気持ちいい。
僕はどれだけ変態なんだ? でもそんな正直な感想言えない。
「ほらもったいぶるなって! 誰が好きだろうと構わないさ」
強がるもそれを見透かされこれ以上教えないと困ったことになる。
仕方ない。ここは機嫌を損ねないように慎重に。
「お願いだ! 聞かせてくれないか? どうしても君の口から聞きたいんだ! 」
ちょっと格好つけ過ぎたかな? まるで告白のシーンのよう。
「もう初めからそう言ってよね。朱里の好きな人はサークル所属の彼」
もったいぶった結果抽象的で分かり辛くなってしまう。
「まさか僕? 」
絶対の自信がある。前に一度僕が好きだと言ってくれた。
僕以外受け付けない。それ以外は聞く耳を持たないし目だって瞑る。
これで対策は万全だろう。
「惜しい! でもお前じゃない。彼女が好きなのはお前と同じサークルだって!」
あれ…… 言葉が悪い。どうしたんだろう?
どうも第三の山田だからか舐められることが多い。
今も訳の分からないことで下に見られている。それはさすがにない。
「まさかすると…… 会長? 」
でも二人の間には何の関りもないはず。するとやはり僕にならないか?
「誰だそいつは? 」
だったら誰? 一体誰なんだ? 碓氷さんの思い人は誰だ?
やはり僕だろう。どう考えてもそれしかない。
「僕…… 」
これは念のためだ。確認を怠ると酷い目に遭うからな。
「違う! でもここまで言えばもう分かったでしょう? 元気君」
「お願いだ! はっきり言ってくれ! 」
「もう分かったくせに…… 」
親友の彼女が言うのだからこれはもう事実なんだろうな。
でもそれなら僕だっていいじゃないか? 何がいけないんだ?
頭に来るよな。おっと…… 冷静に。ただの噂でゴシップでしかない。
そんなことで自分を見失ってどうする?
ここはひとまず深呼吸をして落ち着こう。
ああもう碓氷さん行っちゃったよ。
どうしてくれる? また今日も何も掴めず。
急がなければ僕たちの関係が破綻してしまう。
前回屋上ではっきり大好きだと告白された。
それなのに別に好きな奴がいるとは信じられない。
それが僕のよく知る人物。そう考えるだけで頭が痛くなる。
なぜだ? なぜ僕ではダメなんだ? 一体その男の何がいいと言うんだ?
常に僕の前に立ちはだかる眩しい存在。
薄い明かりに差すその輝き。確かにお似合いなのかもしれない。
仕方なく頷く。僕でないことがショック。
簡単に言ってくれるが僕でないのはおかしい。
「僕ではダメですか? 」
つい我慢できずに対抗意識を燃やす。
「ふざけるなって! どうしてお前なんだよ? 」
つい怒りから口調が荒くなるゴシップ好きの変わった男…… 男?
あれ…… 誰だこの男? 見たことはある。
基本的に目立つ奴以外の記憶が薄い。名前覚えが苦手。
この辺は碓氷さんレベルで決して褒められたことではない。
僕にしろ碓氷さんにしろ決して悪気があってではない。ただ覚えられないだけ。
僕たちは似た者同士。もうここまで来れば似た者夫婦と呼んでもいい。
僕が覚えられるのは山田軍団と碓氷さんぐらいなもの。
大げさだが決して的外れでもない。
続く




