碓氷さんの好きな人
「まあ山田君は興味ないか」
意味深なことを言い引きつけようとする。しかしどうせ大した話じゃないだろう?
この子は大のゴシップ好きで誰が付き合ってるとか告白したとかにやたら詳しい。
その彼女から聞いた噂では碓氷さんが告白されてもずっと断っているのだとか。
僕の気持ちなど知らずにそのゴシップを垂れ流す。
今だって人に言いたくて言いたくて仕方ないって顔をしている。
この子だって確か年上の彼氏がいるって話だったよな。
あのお節介なモテないコンビが目撃したと。
仲がいいのは誰よりも信じて話を真剣に聞くからだったりもする。
初めのうちはそのゴシップは新鮮で人気もあったが精度が低いことが致命的。
相手も関係者も認めない段階でだから誤報も多い。
聞いてる分には面白いのだが誰も相手にしなくなった。
まあ面白いのは間違いないが飽きられるよな。
今度は安村さんだと…… そんな人うちのクラスにいたっけ?
いや隣のクラスにはいたな。確か光の隣の席。
奴が来なくてもこっちから出向く場合がある。
そんな時に笑顔を振りまくのがいつも明るいと評判の安村さん。
一時ノーパンだと噂を流していたのも確かこの情報屋だ。
その時ばかりは男どもがわんさか集まっていた記憶がある。
光に聞いた話では嘘だと分かっても一か月は引かなかったんだとか。
それにしてもこの学校にはロクな奴がいないな。
そしてすべては光に繋がっている。とても嫌な感じ。
今もきっと何の根拠もないゴシップを垂れ流すに違いない。
「誰のネタ? どうせ僕今日は暇だから聞いてあげるよ。でも急いでね」
忙しいのは碓氷さんを尾行する為。
今第二の山田を通り過ぎて第一の山田の近くまで来ている。
感覚的な話。間もなく碓氷さんのところまでたどり着くだろう。
「だから朱里だって。二人はお似合いだよね。名前もそんな感じがするし」
いきなり飛び出した碓氷さんのネタ。これはとんでもないスクープ。
また告白された? 見た目はかわいくて喋らなければ憧れの人に見えなくもない。
実際僕だって彼女の美しさやかわいさに魅了されてる一人。
ただ前にも指摘したように馬鹿っぷりがすべてを台無しにする。
もちろん僕はそれを受け入れている。この愛は本物だと。
でも一つも伝わらない。それが辛いところ。空しい限り。
どうしてかな? やっぱり彼女の問題な気がする。
こうしてまた碓氷さんのせいにする。他責思考でどうにか自分を保つしかない。
そう僕は情けない人間なのさ。でもこうでもしないと生きて行けない。
「名前? まさか碓氷さんの本命? 」
食いついて大喜びの情報屋。さあ持ってるすべてを吐け。
「うん。朱里が好きなのは…… 」
「碓氷さんの好きなのは? 」
「好きなのは…… ごめんやっぱりなしで」
ここまで来てなしはないだろう? もう止められない。
「何で? 最後まで聞かせてよ」
「悪い。何だか本気にしてるっぽいから言い辛いの」
はっきり言う。どうせいい加減なゴシップのくせにその辺はきちんとしてるな。
本気にしなかったらそっちはただの嫌がらせでしかない。真実なんだろう?
「それで噂って? 」
もう絶対に逃さない。碓氷さんの思い人を聞くまで食い下がる。
情報屋とはさすがに言い過ぎだよね。でも絶対に重要な手掛かりを手にしている。
それは間違いない。それにしてもどこから仕入れてるのやら。
きっとその辺の男子からの話を真に受けてだろう。でも今回は本当っぽいんだよ。
と言ってもいつも最初はそう感じる。でもだんだんと嘘くさくなっていく。
それが彼女の喋り方。伝え方。食いつくやり方で相手を喜ばせ最後に呆れさせる。
でも僕が求めてるのはそう言うのじゃなくて事実かどうか?
まったくのでたらめは勘弁。そう思わせる何かがあるなら検証する価値がある。
「これは内緒…… 」
何でも話によると碓氷さんの見せかけの美しさに騙され告白した者がいたらしい。
ははは! 笑えると言ったらさすがにどっちにも失礼だよな。
このタイプは時間をかけずにすぐに成し遂げようとする。直情型だ。
一時間も話してれば想像していたのと違い理想とかけ離れていることに気がつく。
そして距離を詰めようとしたところで我に返るが早過ぎるあまり見失ってしまう。
そうして碓氷さんに幻想を抱きながら愛の告白をしてしまう愚か者。
撃沈して終わるのが運命。可哀想な部分もある。でもその兆候はあったはず。
気づかずに間抜けにも愛の告白しても決して満たされることはない。
それでも告白を止めらない。情けない。だが面白がってられない。
僕にとっては大問題。成功したらどうする?
すべてを知った上でそれでも僕は碓氷さんを選んだ。
奴らに比べて冷静で可能性だってあるのは僕。
そんな告白者への言い訳の定番が好きな人がいるだ。
こうすれば相手は諦めてくれると碓氷さんはよく使っていた。
僕の名前を使っても全然構わないんですよ?
目の前で恥ずかしげもなく告白する自意識過剰気味の男は場所を選ばない。
碓氷さんだって隠してない。
先週だって謎の自信家が玉砕して意味不明に喚いていた。
まさか告白して受け入れられると思っていたのか? あり得ないだろう?
まあその辺はこの際どでもいい。ただその断り方に嘘がなくなった。
と言うことは本当に好きな人ができたんだろう。感覚的には二学期に入ってから。
僕が認識されたのも二学期だった。おっと過去を振り返ってどうする?
続く




