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揺れる心

ミツキちゃんのお世話になっている。

別に飯ぐらい食えるし着替えだってできる。当然トイレだって一人でできる。

そもそも風邪でも何でもなくただあの日のことが忘れられずぼうっとしてたから。

ミツキちゃんに会えたんだしもう快方に向かっていいはず。

すると僕は彼女にいろいろしてもらおうと仮病と言うか無自覚に期待している?

どうやら心の奥ではとんでもないことを考えてるようで言動の不一致が見られる。

おっと…… 何を冷静に分析してるんだ? どうであれ危険なのに変わりはない。


「ほら口を開けて 開けてってば元気! 」

お見舞いのケーキか…… 確かに魅力的だけどこれはちょっとまずいって。

「おいおいガキじゃないんだけど…… 」

拒絶はしないが分かってもらいたくてつい格好をつけてしまう。

「いいから言うことを聞きなさい! 」

そう言って強引にケーキを突っ込んで行く。強引なんだから。

甘いな。チョコがほろ苦いのでショートケーキの甘さでマイルドになる。

結局のところ甘いものに目がない。

ミツキちゃんが気を使ってチョコレートケーキまでも。


一つだけでは物足りないので二つを同時に食べ比べる。

こんな風にできたら僕も立派なクズなんだけどな。さすがに無理。

一人でも手に余るのに二人ならもう毎日が苦痛。ヘトヘトになるだろうさ。

だからって碓氷さんを捨ててミツキちゃんに本気で乗り越えることなどできない。


「うん。美味いよ。へへへ…… 」

こうしてミツキちゃんのケーキを半分近く頂いてしまう。

ああ情けない。性欲で狂うならまだ仕方ないがケーキで狂うんだからよ。

まあこれでミツキちゃんも僕に失望して帰って行くだろう。

多少もったいないがこれでいい。決して嫌われたくはないがこれも懸命な判断さ。

「もう頬っぺたにまでくっ付いて。子供じゃないんだから」

ティッシュを手にしたので拭いてくれるかと思いきや自分でやれと厳しい。

「ううん。もう早く! だらしないな」

頬っぺたにくっついたクリームを舐める暴挙に出る。

「うわ…… 何をする? 」

「子供みたいクリームをつけてる方が悪いんでしょう? 」

確かにそれは認めるところ。でも舐めなくたっていい。

ティッシュを取ったんだからそれを使えば丸く収まるのに随分勝手なことをする。

時代が時代なら敬遠されてるところだぞ。もうマスクはないけど。

まあその当時はお見舞いなど許されないし当然イチャイチャもできないけどね。

僕は今のこの時もあの日も忘れない。


それにしても苦労する。試してるつもりか?

だがほっぺを舐められたぐらいでどうにかなる訳ないだろう?

よく考えてくれ。ただの知り合いの妹でしかない。そんな誘惑に乗るはずない。 

「元気好き! 」

いきなり戯言を抜かす。これはお返しをしなくてはいけない。

「僕もだよ。ミツキちゃんは面白くてかわいい。理想の女の子」

嘘ではない。ただそう言う子がいるとしたらだ。

現実にいる子ではそのような感情は生まれない。生まれにくい。

「ありがとう。元気にそう言われてお見舞いに来た甲斐があった」

笑顔が堪らなく素敵だ。どうしてこうもそそられのだろう?

ケーキを食べ終えおかしな雰囲気になる。今受け入れれば自然だ。


「ねえ誰も見てないよ」

中学生のガキが言うことじゃない。どうも意識しているよう。

分かっちゃいるけどこれ以上どうしろと言うんだ?

もう二度と繰り返さないと…… 二度と相手にしないと誓ったはずなのに。

このままではすべてを乗り越えてゴールインしそうな勢い。

ああ情けない。どうしてこう誘惑に弱いのだろう?

どうやら自分の感情に嘘は吐けないらしい。


「あのさ…… 」

「ごめんそろそろ帰らないと…… 」

らしくない。こんな中途半端な終わり方でいいのか?

いくら用があると言っても…… でも何の用があるのだろう?

「ミツキちゃん…… 」

このまま戻ってくれるならどれ程ありがたいか。どっちへ? 帰る? 引き返す?

体調を崩して体が言うことを利かない。もう充分。お構いもせずにって奴だ。


「元気…… それじゃね」

どうも待ってる感じがする。ここで引き留めてもらいたい。そうに違いない。

真意を確かめようとずっと見つめるが恥ずかしそうに俯く。

「うん。お見舞いありがとう」

らしくないことばかり。礼を言わないとかじゃないんだ。

そこまで非常識じゃない。僕にしろ彼女にしろ。

あえて無難に終わらせようとしてる。合わせようとしてる。

これでいい。これでいいはずなのになぜか納得が行かない。

用事があるんだろう? もうこの辺で立ち去れよ。

でもいくらそう願っても重い腰を上げない。そう絶対に何かを待っている。

僕が止めるの待ってる。自身は気づいてないのかもしれないな。

きっとここで終わって欲しくないと考えてるに違いない。

だからこそ僕はあえてスルーを選択する。


「じゃあね元気。ゆっくり…… 」

どうしたんだろう? ここまで行くと不憫に思えてくるから人間とは勝手だな。

スラリとした後ろ姿に決してムラっと来たのではない。

何と言うか勢いみたいなのがある。

「いいよ元気はそのままで」

立ち上がろうとしたところを制する。ありがたいがもはや中途半端。

見送りぐらいするさ。遠慮はいらない。自分の意志で動いている。

そこまで気遣いできないのが僕であり君じゃないか。

僕たちはそのような器用な人間か? 違うだろう? 不器用さ。酷く不器用だ。

気持ちに反して器用に動くのはもはや己を偽ってるだけ演じてるに過ぎない。

だがそうだと分かっても何もできない。してやれない。

ただ大人しく見送ることしかできないのだろう。これが限界。


寂しく去って行こうとするその背中に悲しみを感じる。

もういいだろう? 哀し過ぎるよ。彼女は僕の為にお見舞いにまで来てくれた。

応えてやるのが優しさ。でもそう考えてる内には行動に移せない。

情けない。どれだけ情けないんだ?


ドンとドアの開く音に反応。

勢いよく背中を抱きしめる。別にこれがしたかったとかじゃない。

決断できずに勢いに任せた。今なら彼女を抱きしめられるんだ。


                続く

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