立場逆転
別れを惜しみつつも振り返ることのない彼女。
さらばミツキ! もう会うこともないさ。
「ほら浸ってないで送って行きな! 」
そう母さんに急かされ駅まで送って行くことに。
「元気…… 」
「いや夜は寒いし危ないから駅まで送って行くよ」
本来その予定はないがこのままでは酷い人間に映る。それはどうにか避けたい。
「ありがとう元気! 」
そう言うと抱き着いて来たのでかわす。
「ああごめん。つい…… でも今は勘違いされるとまずいだろう? 」
どうにか彼女を説得して従わせる。納得したのか? それともただ好意からか?
もうこの際どちらでもいいけど。
「気にしないで! さあ手を繋ごう! 」
ミツキちゃんは子供っぽいのかただ大胆なのか強引だ。もはやついて行けない。
でも彼女がいいと言うなら…… 求めると言うなら手ぐらい繋ぐさ。
これほど簡単に手を握れるなんて思ってもみなかった。
あまりにもあっさり。意外過ぎる。自分としてはもう少し順を踏んで。
やはり冬で寒いから? それなら手袋しようよ。防寒対策は大事だよ。
こんなに冷たくなって。これではたちまち風邪を引いてしまうぞ。
「ほらもっと近づけって! 冷えるぞ」
「でも元気…… 」
「何を遠慮してる? 寒いだろう? 風邪を引いても知らないぞ! 」
「もう元気ったら大げさ! 」
そう言って笑う。でも何だかあまり元気がない。疲れたのかな?
「いいからいいから。遠慮するなって! 」
いつの間にか彼女を引き寄せる。そのままの勢いでキスへ。
自然に移行。別にそんなつもりはなかったんだが動くとおかしな方向へ。
これはもう事故とかそう言うのでもなくてただ意識的にやっている。
駅に到着。ここから光の家までは電車で二駅ほど。
歩けば家からでも四十分。さすがにこの真冬の寒い時期には無謀。
電車を使うのがいい。タクシーも捕まらないしな。
「ありがとう」
「うん…… 」
言葉少なめに交わし別れる。
これが最後かもしれないがそれも仕方ないこと。
後悔しつつも手を振るだけに留める。
翌日。
もうミツキちゃんのことで頭いっぱい。誰が何を言おうとも感じない。
ただの腑抜けのような状態になっている。
キスはするわ抱き合うわ。おまけに手を繋ぐだからな。
順番が逆な気もするがそれはそれでいい。ただなぜこうなったんだろう?
誤算だ。嬉しい誤算だ。ただこれでいいのか本気で悩む。
うーん。冷静になればやっぱりよくないよな。でもどうすればいいんだ?
考えれば考えるほどよくないと言う結論になる。
ミツキちゃんはきっとこんなおかしな状態になってないんだろうな。
元々気が合っていてふざけ合っていた仲。これからだってそれ変わらない。
いやそれはもう無理か。僕たちはもう決して戻れないところまで来てしまった。
そんな気がする。決定的な出来事が昨日起きた。
ただの親友の妹でしかなかったのに一日で劇的に変化。
きちんと今後のことを考えないといけないのに何一つ整理できてない。
もし昨日邪魔が入らなかったらどこまで行っていたのだろう?
それこそ最後まで行っていたに違いない。
そう言う意味では昨日はギリギリセーフ。
僕は中学生に何てことをしようとしていたんだ?
「はいタッチ! 」
相変わらず碓氷さんのハイタッチに加わるが今日は何も感じない。
ただ面倒だとかうっとうしいなと思うぐらい。
もはや彼女とは言えない。今は少なくても彼女はミツキちゃんだ。
気持ちの整理がまだついてない。昨日の今日だからな。
こういう時に限って碓氷さんが構ってくれる。
しかも満面の笑みで。まるですべてを見通しているかのよう。
「ええ…… 」
「どうしたの山田君? ノリが悪いよ? もしかして悩みごと? 」
能天気な碓氷さん。
でも今は碓氷さんのことは考えられない。どうしてもミツキちゃんのことばかり。
僕って酷い男だよな。はっきりしないし自分でも良く分からないんだから。
「イエイ! 」
朝のルーティーンであるハイタッチ。碓氷さんはいつもと変わらない。
しかし僕はと言うと……
呼び方だって違う。今までは碓氷さんを彼女彼女と言っていたが今は逆転。
ミツキちゃんの方を彼女彼女と呼んでる始末。すぐに変わる僕って単純なのか?
それでもいいさ。もうどうでもいい。
ミツキちゃん以外のことはこの際どうでもよくなっている。
学校では僕の微妙な変化に違和感を覚える者はいない。
「ほら山田! ぼうっとしてないでこの問いに答えてみろ! 」
先生は容赦ない。どうせ僕が幸せ気分に浸ってるのを妬ましく思ってるのだろう。
僕は女の子にモテない学校でもクラスでも底辺の存在。
そんな僕を気に掛けるだけでなく真っすぐ見つめるミツキちゃん。
ああダメだ。昨日から頭の中はミツキちゃんのことばかり。
もう逃れられない。運命から逃れられない。
二人は昨日を境にして劇的に変化する。それが僕たちの運命なのだろう。
いいんだ。僕はもう高みを目指さない。ただ受け入れるだけ。
碓氷さんを追いかけ回さずにただミツキちゃんのために生きる。
おっと…… 何を格好いいこと言ってるんだ?
そんな柄じゃないと言うのに。調子に乗って狂ったっか?
「おい元気大丈夫か? 」
あれ…… いつの間に授業が終わって放課後になったのだろう?
しかも隣には光の姿があった。相変わらずだな。
「ああ…… 問題ない」
ここに来て一番厄介なのに当たった。逃げ切れない。
ミツキちゃんのお兄さん。
続く




