最悪のタイミング
まさか本気? ここまで来て本気じゃないはずないがそれでも決心がつかない。
瞳を閉じた。もう応じない訳にはいかない。意気地なしと罵られる。
罵られるのは基本的に嫌いではない。碓氷さんからは特に。
何と言っても認識されてることが手っ取り早く分かるから。
でもミツキちゃんにまでは罵られたいかと言うと違う。
僕に対する理想像が崩壊し失望されてしまう。だからすぐにでも。
それなのにまるで金縛りにあったかのように体が動かない。
どうしてしまったんだろう? ああこれは嫌われるな。
「もう元気の馬鹿! 」
そう言って無理やり唇を奪っていった。
うん? どう言うこと? もはや意味不明。
ショックのあまり気絶しかねない。
だがここで気絶しても大して変わらない。彼女に覆いかぶさるだけ。
最低な酔っ払いみたいでそんなことできるはずがない。
落ち着け。相手はなぜか知らないがその手のことに慣れている。
自分だけが情けない真似を晒したら本当に失望されてしまう。
しかしそれでもどうしたらいいか分からない。
そもそも今日だってただ暇だったから散歩しようとしていただけ。
ミツキちゃんがやってきて状況が一変。だから何一つ考えて来なかった。
女の子の扱いなんて僕は知らない。光に相談するか?
いや…… その光の妹だからな。もうどうすればいいんだ?
ラッキーのはずなのに僕が情けないものだから彼女を傷つけることに。
「元気? 大丈夫? 」
「もう一度頼む。凄く気持ちよくて…… 」
こんなバカなことを頼むのは僕ぐらいなものだろう。
相手は中学生で親友の妹。なぜ欲情する?
いや欲情するならまだいい方。これはただキスが忘れられないだけ。
欲でも何でもない。ただの情けなく流されてるだけの最低人間。
自分でもまさかこんな奴になってるとは思いもしなかった。
情けない本性を見せてしまう。チャンスが一気にピンチへと。
「ちょっと元気…… 」
完全に引かれてしまった。そうだよな。こんなおかしな奴はいない。
「済まない…… 忘れてくれ。ただ突然のことだからつい…… 」
二人が恋人なら何の問題もない。むしろ恋愛が発展していい。
でもミツキちゃんは違う。彼女と僕はそんな関係になってはいけないんだ。
それは彼女を信じて送り出した奴にも悪い訳で。
「いいの。元気だもんね」
そう言うと優しく唇を重ねる。今回は突然ではないので驚かない。
それにしても長いな。息ができないほど。ノックの音さえ気にならないぐらい。
それはもう苦しいと表現していいだろう。
苦しい? いやそれはまだ続いてる訳で…… 冷静になれるはずもなく。
いやいやそうじゃない。その前だ。ノックの音? 気にならない?
きちんと認識していながらつい見逃してしまった。その結果世界が凍り付く。
何だこの嫌な感じは? 一体僕は何をしたんだ?
キスを終え後ろを振り返るとそこには母さんが。
ノックぐらいしろよ。いやしたのか。しかし返事があるまで待つのが常識では?
いや今そんなこと言ってる時じゃない。このとんでもない空気をどうにかすべき。
驚かせたろうな。帰って来たら息子が女の子と抱き合ってキスしてる訳だから。
でもそれならコーヒーのカップを盛大に落として割ってるはず?
しかしコーヒーもケーキも無事。これは意外にも驚いてないことが窺える。
もしかしたらそんな展開もあり得ると本気で考えていたか?
自分でさえ想像してなかったことを予想していた?
どうする? どうすればいい? 今日は晩飯抜き?
いやそんなことじゃないよな。知られてしまったのは想定外。
しかもキスを否定したところでベッドに二人っきり。
その上彼女はベットに潜り込んでる訳で。
しかも惜しげもなく生足を晒し付属の下着まで丸見え。もはや無警戒。
そんな場面を目撃されては言い訳などしようがない。
どうする? どうすればいいんだ?
あまりの緊張で汗が止まらない。そして体が火照る。
「お邪魔してます」
「いらっしゃい。ご飯は食べて行くんでしょう? 」
「はい」
晩飯まで時間もないしまあこれは予定通りか。
ははは…… 何これ? もう耐えられない。なぜ二人は冷静にいられるんだ?
これが見えないのか? 発覚してないとでも思ってるのか?
鉄板の展開とは言えショックは計り知れない。
「あんたは? 」
「ああ…… そこに置いといて」
もう僕もそのままで行くことに決めた。
酷くおかしいが誰も指摘しない。できないのだ。
こうして母さんは戻る。
「元気…… 」
「ごめん! すべて僕のせいだ! 忘れてくれ」
懇願するが彼女は首を振る。
「ううん。謝らないで! とっても嬉しかった」
素直な彼女。しかし素直であればあるほど彼女の気持ちが痛いほど伝わって来る。
ついに恐れていた事態に。まさかミツキちゃんがこれほど僕を求めていたとは。
まったく気づかなかった。気づきようがないよな。
光と遊んでるとよく彼女がいて…… 妙に気が合うなと感じていたんだよな。
でもまさか僕みたいな奴を好きになってくれるなんて思いもしなかった。
反省するとすれば彼女が遊びに来ると言った時にしっかり止めなかったこと。
何の心配もせずにどうぞどうぞだもんな。無警戒過ぎた。
今更後悔しても遅いけどこれって悲しいことか?
いや違うよな? 僕は彼女の愛に応えてしまったがそれは居たたまれなくって。
あれは誰だってそうするさ。何だかそうしないと彼女が可哀想。
と言うよりもあのまま大人しく諦める彼女を見たくなかった。だからつい。
自分でもなぜそうしたか分からない。あれが愛から来るものかそうでないのか?
続く




