彼女の好きな女性のタイプ
翌日。
誤解が解け晴れて僕たちは仲間に。まだただのお友だちでクラスメイトで仲間。
基本的なところは前と変わっていない。ただ認識されて随分と変化があった。
ずっと存在を認識されずに苦しんでいたら今度は大嫌いっと正面から。
どれだけついてないのか。愛する者を失う苦しみと悲しみ。大げさか。
もう二度と同じ過ちを繰り返したくない。
それでも二人にとってより良い未来になるならそう悪くないか。
その時は消極的になってはダメだ。もっと積極的でなければ。
「おいどうしたんだよ? ご機嫌だな」
絶交されて苦しんでいた時には気分が落ち込んでどうしても光に会えなかった。
何でか自分でもよく分からないがそう言うものだと勝手に思い込んでいた。
光にも本当に迷惑を掛けた気がする。きちんと謝らないとな。
でも気にしてる様子はない。今ならもう普通に接せられる。
持つべきは心の広い親友だな。
「ははは…… いい時も悪い時もあるさ。さあ今日も頑張って行こう! 」
つい調子に乗ってらしくない騒ぎ方をしてしまう。
気をつけないとまた彼女に嫌われる。それだけは絶対に嫌だ。
「落ち込んでたのはお前だろうが! 」
「へへへ…… そうだっけ? 」
「お前まさか…… 」
光は勘違いしてるらしい。いやこれは決して勘違いでもないか。
「はあ? お前には関係ないって」
ついおかしな発想の光を制しようと厳しい態度。
「やっぱり妹が来るのを楽しみにしてるんだろう? 」
「妹? 楽しみ? 何のこと? 」
まずい。その話はすっかり忘れていた。そう言えばしてたっけ。
確か来週…… もう今週か。
「まさか忘れたのか? 」
「いやいや。ミツキちゃんが来るのは楽しみだよ。特に母さんが喜んでた」
「まさか狙ってないよなミツキのこと? 」
光はマジなのかふざけてるのか分からない真剣な表情。
いやいや騙されてはダメだ。奴お得意の悪ふざけ。
どうせあたふたする僕を笑うつもりだ。
うん…… でも全然絡んでこない。黙ってしまったぞ。まさか本気?
前回ミツキちゃんが僕にべったりだったのを心配…… でなく嫉妬してるらしい。
大事な妹だからな。その気持ち僕にだって分かるぜ。でもやり過ぎだよ。
前まではそうでもなかったのにどんな心境の変化?
兄としての自覚でも芽生えたか? それは素晴らしいことだけどさ。
でも僕は奴の妹に手を出すはずないだろう。信じてくれよな。
ミツキちゃんから積極的にアプローチされたらどうか知らないが。
「狙う? いや楽しみにしてる。心配ならお前も一緒に来ればいいだろう?
母さんだって大歓迎だからよ。それとも予定でもあるのか? 」
面倒な妹思いの光。いつからそんな心配性になったんだ? ちょっと怖いぐらい。
そんなこと言えばこっちだって意識しちまうだろ? でも僕には彼女しかいない。
ミツキちゃんはそれはかわいいけれど僕が本気になる訳ないだろう?
冗談も休み休みに言えっての。それでは僕は何もできなくなる。
キスだって抱擁だってそれ以上のことだって。
「悪い。その日はどうしても抜けられないんだ」
妹よりも大事な用。これはデッサンだろうな。
「そう言えばお前って妹をモデルに描いたことはないのか? 」
「お前何を…… 」
どうしたんだ? 一度ぐらい妹をモデルにするのは普通では?
それともタブーだとでも?
悩んでモジモジしてる光に付き合っていたら遅刻しそう。
せっかく仲直りしハイタッチまでお許し頂いたのにそれが台無しになって堪るか。
「悪い急ぐから! 」
こうしておかしな光を放置して教室へ。
さあ落ち着け。ハイタッチの輪に入るぞ。
もう誰にも気兼ねすることなく全力でハイタッチしてやる。
苦しくてもいい。辛くてもいい。彼女と会えるなら多少の犠牲は払うべき。
「はーい皆! 今日も元気に行こう! 」
そう言ってノリノリでハイタッチを始める。
やっぱりちょっと…… あれだけ自信満々だとこっちが恥ずかしい。
「ハイタッチ! 」
「イエイ! 」
こうして満たされていく。願望が叶った。今すぐにでも抱き合いたい。
それが許されるならな。でも二人の道のりは険しく遠い。
「ほらもう一度ハイタッチ! 」
「イエイ! 」
無視されることも嫌われることもなくハイタッチは無事に終了。
「あの…… 碓氷さん」
つい調子に乗って彼女に話し掛けてしまう。
「どうしたの山田君? 」
うん。覚えてくれてるじゃないか。もう絶対に忘れさせない。
僕たちは付き合うんだ。その一歩を踏み出したところ。
「その…… 碓氷さんはどのようなタイプの女性が好きですか? 」
まずい。つい緊張してとんでもないことを聞いてしまった。
でもこれは冗談で受け止められるよな。
「タイプ? 女性? それは君に聞きたいな」
またしてもチャンス。でも他の生徒がいる手前やり過ぎてはいけない。
好きだと言って驚かせたら再起不能になることもあり得る。
ここはもっと慎重に。彼女の動きをきちんと観察するのがいい。
「授業始まるよ」
「はあ…… 」
「元気ないよ山田二号」
そう言って本気で心配してる。もう僕が山田だと言うのは理解したらしい。
「違いますよ二号じゃありません! 僕は第三の山田です! 」
きちんと訂正する。そうすればきっと分かってくれる。
でもそれはちょっと違うらしい。
「二号。元気ないね」
馬鹿だからか心配してるようだ。全部あなたのせいなのにこれどう言うこと?
「違いますよ。僕は山田です! 山田元気です! 」
訂正するもその知能では三人の山田を認識できない。一難去ってまた一難。
「まさか僕のことはどうでもいい? 」
「ふふふ…… 実際どっちでもいいでしょう? 」
気にする素振りを見せない。彼女にとって僕はただの山田だ。
第三の山田まであるが正直どの山田でも関係ないそう。
嫌われることもなくただ存在する。
他二人の山田は決して疎まれるような存在ではない。
でも奴らのせいで僕の存在感がドンドン薄れていくのは困る。
続く




