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遭遇

放課後。

無駄話につき合わされて見失ったと思った彼女が目の前に。

どうやらあっちも気づいたらしい。

それにしても最近ついてる? あまりのツキに驚いている。

だって姿を消した彼女に再び会えたんだぜ。


今こそ積極的に話しかけたい。でも話題がない。適当に話せない。

ただ嫌な沈黙が流れるだけ。それが嫌で焦るが焦っては余計に何も思いつかない。

残念だ。本当に残念だよ。でも今更諦められない。積極的に。

うーんでも何を話したらいい? 誰か教えて欲しい。

このまま静かに時間が過ぎて行くのか? 

それはいつものことだけどあまりにもったいない。

千載一遇のチャンスを逃せない。いや逃して堪るか。


どうしても彼女のことが知りたくて放課後にストーカーのようなことをした。

でもそれも相手が嫌がるならと自粛していた。彼女を怯えさせてどうする?

もっと楽しく幸福な時間を過ごしたい。だからって彼女を追いかけてどうする?

彼女に好意はあるが精神的に近づきたいとは一度も思ってない。

この距離感がいいと常に自分を思い込ませていた。

でも違うだろう? 後ろの席からただ見守ってるだけでいいと本気で思ってない。

もっと近づきたいと言う願望はもちろんある。あるに決まってる。

でも拒絶されたらどうすればいいか分からない。

だから何ら近づくことをせずに今日まで過ごしてきた。


毎朝のようにハイタッチの儀式。肉体的接触を繰り返す。ただそれだけでいいと。

禁欲的な生活を送るのが自分に相応しいと思っていた。でも違った。

心のどこかで彼女と結ばれる夢を見ていた。そしてその夢が今叶おうとしている。

もう充分するぐらい彼女と肩を並べて歩いている。

この幸運を得る為にどれだけの徳を積もうとしたか。


突然の再会で緊張して言葉が出ない。

今逃せばこれ以上の機会は訪れないかもしれないのにまだウジウジしてる。

それが僕と言う男の本質。嫌われたくはないんだ。嫌われたくは……


「ねえ私ってどう映ってる? 」

突然の告白…… のはずないか。でも僕なんかの評価を聞くのはそう言うことだ。

これはもう僕好みの女になりたいと思ってるに違いない。

「そうですね…… きれいかと」

無難な誉め言葉に留める。これで勘違いしてくれたいいがそう甘くない。

攻略には時間も金も掛かる。覚悟の上。でもつい焦っておかしな行動に出る。


「薄明りさん…… 」

碓氷朱里。それが彼女の名前だ。

これを短縮して薄明りさんと呼んでいる。もちろん陰ながら聞こえない範囲で。

しかしどうしても抑えきれずに口から洩れる。

「はあ? 誰それ? 」

彼女は聞き流す能力はない。そう彼女は決して頭がいい訳ではない。

あまりの頭の悪さから何も考えられずにただの悪口だと思っているらしい。

でもきれいだともきちんと伝えたのに。どう言う思考回路してるんだこいつ?

おっといけない。彼女を侮辱してどうする? 浮かれてるのかな?


これが高校での彼女との直接対決。恋愛を男と女の戦いと捉えた場合だが。

実際戦ったとして完敗するのは目に見えている。

幼い頃は何度か。勘違いでなければだが。あの時は僕の勝ちだった気がする。

二人っきりでしかも話したことなどない。沈黙の中雨に濡れてはあった。

降水確率など気にせずにただいつものように振る舞うものだから。

そう言うところはどうも男っぽい。がさつで人任せなところがあった。


笑いながら入れてと。いきなり言われて急接近。

誰もが妄想するシチュエーションに勝手に入ってきた。

神の思し召しだとどれほど喜んだか。でもその時間もほんの五分で終わった。

結局仲のいいお友だちの傘に落ち着く。初めからそうしろよとどれだけ思ったか。

でも事実どう言う訳か僕の傘へと吸い込まれた。それが沈黙の五分間だ。


凄く長く感じたものだ。五分の間一言も喋れなかった。

とんでもない緊張状態で声が出ないんだ。どうにか愛想笑いぐらい。

最後には恒例のハイタッチで締めてくれたからどうにか形になったが。

振り返れば悲惨なことこの上ない。ああ思い出すだけでも恥ずかしい。

いい思い出として昇華したがそれでも彼女は僕を認識できなかった。

ただのクラスメイトとして接した。第一の山田でも第二の山田でもない。

第三の山田ですと言ったところで意味がない気がした。

つまらないことは覚えてないだろうし。

それ以来リベンジに燃えている。だから傘だって予備をロッカーに。


「ふふふ…… もしかして私のこと? 薄明りって初めて言われた」

満更でもない様子。これは次のステップに進んでも良い感じ?

「済みません。皆が言うものだから僕も…… 」

人のせいにするがもちろん誰もそんな呼び方した者はいない。

すぐにばれる嘘を吐いて自爆するのが僕の習性。これはもう治らない。


「いいよ。それで山田君だっけ」

昨日のこともあってようやく彼女の記憶に定着した。

それまではクラスメイトの名もなき奴隷の一人だった。

言われるまま彼女に従ってきた自覚がある。

彼女にもその自覚があるかと言うとそれはないだろう。

「はい。碓氷さん」

あれだけ言われたら普通に呼ぶのがいい。いつ機嫌を損ねるか分からない。

爆弾を抱えてるようなもの。破裂したらシャレにならない。


「私ね山田君を誤解してた」

おっと…… 逆告白の予兆。どうも意識してるらしい。僕は当然で彼女も恐らく。

「はい。これからも仲良く…… 」

「私あなたのこと嫌い! 大っ嫌い! 」

「はあ? もう一度? 」

突拍子もないことを言うものだからつい聞き返してしまう。

これはせめてもの抵抗。でもどうせ変わらないんだろうな。


               続く

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