山田元気は一応存在してます
いつも彼女は輝いていた。僕のことなど気にもしてない。
いやもしかしたら僕の存在を無意識に消し去ってるのではないか。
そんなおかしな感覚に陥る。
挨拶だって毎日してる。大勢の中の一人とは言えしてるんだ。
それは否定することのできない事実。
それなのに僕を見てない。見てくれない。
なぜ見てくれないんだろう? 確かに僕は皆から大人しいと言われる。
でもそれは僕の存在があってこその話。
クラスに百人も二百人もいればクラスメイトの存在を忘れることもあるだろう。
自動的に消えることも彼方に消し去ることもできるだろう。
でも違う。たかだか四十人弱。それなのに僕を知らないと言う。
彼女の中では僕の存在などどうでもよくていなかったことになっている。
当然毎日挨拶だってしてるし遅刻早退無断欠席もなしの皆勤賞だ。
それだけが取り柄の情けない奴だと自分でだって多少思う部分がある。
あるにはあるけどそれだってどうなんだよなって。
もちろん僕にだって苗字だって名前だってある。
山田元気。
これが僕のフルネームだ。皆からは山田と呼ばれている。
当然だよな。元気君などと気軽に言われてもどう反応していいか迷う。
名前通り元気が取り柄だけどそれって明るいでも目立つでもない。
ただ怪我をしない。病気をしない。毎日学校に行く。その程度。
だから絶対に頭の隅に残ってるはずなのに存在しないことになっている。
「ねえ山田君って謎じゃない? 」
彼女の友だちの一人が笑いながら話題にあげてくれた。
本人は近くにいる。当然これは僕の反応を窺ってもいる。
「ごめん…… 山田君って誰? 」
悪気があるのでも冗談で言ってるのでもない。
多少の混乱があるにしろ心底どうでもいいと思ってるのだろう。
謎と誰はほぼ似たような意味でどちらも特定に至らないことを指す。
しかし決定的に違うのは謎はそこに存在してるが誰の方は存在しなくてもいい。
すべては僕の存在感のなさから来るもの。
「もう朱里ってば! 冗談きついよ」
そう言って笑うが彼女は一向に笑う気配がない。冗談ではないのだ。
もう二学期も半分過ぎて冬に近づいてるのに僕の存在は消えていた。
僕が目立たないのもその原因の一つだろう。でもよく先生からも注意される。
些細なことで叱られるように。だから一時的には目立ってるはずだ。
最近何だか集中力がないからか叱られることが増えた。
自覚してるからきちんと勉強に取り組んでいる。
その結果クラスでの評価は平均。高過ぎず低過ぎず。
これでは目立つはずないがそれにしても半年は一緒の空気を吸っていたはずだぞ。
それなのになぜ忘れる? いやこれでは存在さえしていないみたいじゃないか。
僕は存在してはいけませんか?
認めない。そんな悲しい現実は認めない。絶対に認めない。
だってそれを認めれば彼女の方が正しいことになる。
それだけは絶対にダメだ。プライドとかそんな話じゃない。
正しいのは僕のはずだ。クラスメイトぐらい覚えろよ。
実は一つだけ彼女のことで気になることがある。
物覚えが悪いこと。頭もよくなくクラスでは下位に沈んでいる。
女の子だから勝手に頭がいいと決めつけていた。でも違ったらしい。
恐らく彼女はクラスで一番か二番を争うおバカさんなのだ。
だから本当なら誰からも相手にされない存在。
しかしその美しさはどう表現していいのか。
凛としている。何者にも負けない強い意志を持っている。
人々を惹きつける力を持ってる。まるで引力のよう。それは当然素晴らしいこと。
しかし僕を認識できないのは素晴らしいとは言えない。
バカだと断定もできないしそのせいで僕を認識できないとも思えない。
おっと…… 言い過ぎたかな。つい僕を忘れるものだからから悪口になる。
それにしてもこんな惨めな思いをするなんて。ただの山田って一体……
バカだから覚えられないなら問題だがそうでもない。彼女はそこまで抜けてない。
だからこそ好きになった。でも好きになったんだぞ?
認識されてないってどう言うことだよ? 誰か教えてくれよ。
今すぐ暴れたい。怒りをぶつけたい。そんな衝動に駆られる。
でも抑えなければ嫌われる。いや嫌われたっていいのか。
存在を認識されないぐらいなら嫌われる方がよっぽどいい。
天と地の差がある。ああ嫌われたい。今すぐ嫌われて認識されたい。
屈折した考えに囚われてしまう。まだ人間ができてない証拠。
たかが教室でのこと。これがよその学校やよそのクラスなら納得もする。
でも毎日挨拶をするしクラスメイトだ。移動する時もあえて近くにいる。
そう僕は知らないうちにストーカーみたいな真似を。
ストーカーのようにしていても未だに彼女には認識されていない。
おかしい。おかし過ぎる。まさかそんなことあるのか?
あるんだろうな。だからこんな異常事態を引き起こしている。
好きな人にどう思われてるかアンケートを取ると特に何もないが多いんだと思う。
でも僕の場合は誰それだから。レベルが違う。もちろんこれは自慢ではない。
ただ情けないことだと。自分がだんだん分からなくなる。
認識されないだけの理由がもしかしたら気がつかないだけであるのかもしれない。
「なあ僕って見えてる? 」
怖くなって友だちに聞く。
もしこれで見えてない場合は見えてないと答えるんじゃない。
……うん? どこからか変な声がする。先生俺体調不良かも。
こんな感じだろう。だから見えてないと答えた場合実際は見えてるんだ。
続く




