表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

声を持たない叫び

無色の少女は、自分が“静か”だということを知っていた。


騒がない。

泣かない。

叫ばない。


それが正しい振る舞いだと、

誰かに教えられたわけではない。


ただ、そうしていれば、

世界は自分を放っておいてくれる。


白い部屋は、今日も変わらない。

同じ温度、同じ光量、同じ匂い。


時間だけが、正確に進んでいる。


少女は、壁に背を預けたまま、

自分の胸に手を当てる。


――どく、どく。


心臓は、ちゃんと動いている。


それなのに。


「……」


何かが、足りない。


その“何か”が何なのか、

言葉を知らないから、わからない。


ただ、苦しい。


息が詰まるような、

胸の奥が擦れるような感覚。


それが強くなると、

視界が少し滲む。


けれど、涙は出ない。


泣き方を、知らないから。


「……いたい」


声に出してみる。


自分の声が、部屋に吸い込まれて消える。


誰にも届かない。


「……いたい、です」


言葉を丁寧にしてみても、

何も変わらない。


研究員たちは、

少女の数値を確認する。


「感情反応、依然として低値」

「自己主張なし」

「安定していますね」


“安定”。


その言葉が、

少女を包む檻の名前だった。


ルミナは、観測室でその数値を見つめていた。


心拍数。

呼吸。

脳波。


すべて、正常。


なのに。


「……本当に?」


彼女は、小さく呟く。


“安定”とは、

苦しんでいない、という意味なのか。


それとも、

苦しみを外に出せない、という意味なのか。


ルミナは、思わず立ち上がる。


ガラス越しに、

少女の姿を探す。


少女は、壁に背を預け、

膝を抱えたまま、動かない。


その口が、

何度も、何度も、開いている。


声は聞こえない。

マイクは拾っていない。


それでも、

確かに“何か”を叫んでいる。


「……」


ルミナの喉が、締めつけられる。


――声を、持たない叫び。


それは、数値には出ない。

報告書にも書けない。


けれど、

確実に存在している。


その夜、

カイルは巡回中に、

また白い部屋の前に立ってしまった。


少女は、床に座ったまま、

こちらを見ている。


「……どうした」


返事は、ない。


ただ、

彼女の目が、揺れている。


「……だいじょうぶ?」


問いかけは、拙い。

でも、確かに向けられている。


カイルは、一瞬迷ってから、

短く答えた。


「……大丈夫だ」


少女は、少しだけ、安心したように息を吐いた。


その瞬間。


少女の胸の奥で、

押し込められていた何かが、

わずかに揺れた。


声にならないまま、

消えていく叫び。


それを、

誰かが“見てしまった”ことだけが、

救いだったのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ